はじめまして

富山県南砺市井波で木彫刻師をしております三代目南部白雲(なんぶ はくうん)と申します。
創業1898(明治31)年。今年で120年目。富山の地で国指定伝統工芸「井波彫刻」を生業として参りました南部白雲木彫刻工房の三代目でございます。
創業以来、依頼主の方の想いや、そのものに込められた物語を最も大切にものづくりをおこなっております。

110余年の歴史の中でデザイン決定後に描く原寸図案は1つとして同じものはございません。約2,000枚にわたり、工房のギャラリー「槌蔵」に大切に保管しております。

 
写真:私


写真:清光寺(千葉県)に納品した彫刻


写真:個人宅蔵した彫刻

近年では彫刻という枠を超え、日本全国で古くからある伝統技術を全国・世界へ、そして後世へつなぐための活動を仲間と共に行っております。

南部白雲について
http://nanbuhakuun.com/?page_id=20


写真:奥之院で毎日2回行われる生身供の様子

高野山奥之院は、樹齢800年を数える杉木立の間に20万を超える墓石が立ち並ぶ聖域。

その一番奥に、弘法大師の御廟があり、大師は今なお現し身のまま深い瞑想に入って高野山を守ってくださっていると信じられています。そのため毎日6時と10時半の2回、維那(ゆいな)と呼ばれる仕侍僧が先導し、行法師が唐櫃(からびつ)を担いで、生身のままでいらっしゃる弘法大師に食事を運びお供えするのが習いとなっています。これは「生身供(しょうじんぐ)」と言って、1000年以上の長きに渡って続いている高野山の大切な宗教儀礼です。

今回私たちは、日本にとって歴史的にも極めて重要な唐櫃をつくるべく、日本の津々浦々から素晴らしい職人たちを結集しました!

目指すは、100年後の国宝、次の1000年を見据えた壮大な創作。

そんな一大プロジェクトをみなさまと共に成功させるべく、クラウドファンディングを通じてぜひ一緒にこの夢を実現したいと思います。

ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします! 

 

クラウドファンディングがすごい!

ここまで威勢のいいことばかりを書きましたが、じつはクラウドファンディングをついさっきまで知りませんでした。

私は今年で66歳。彫り歴は48年になります。
ずっと木彫刻師に命を捧げてやってきたので、インターネットの世界でどうだとか、新しい創作のあり方やお金の集め方をまったく知らなかったのです。

必ず実現したい夢があって、仲間もいて、技術もある。
でもどうやってお金を集めたらいいのか、できるだけ多くの方々と一緒にこの夢を実現できるのかはわかりませんでした。

そんな時に、高野山三宝院の副住職・飛鷹全法さんに出会い、クラウドファンディングというものを知りました。

飛鷹さんが言うには、”クラウドファンディングならインターネット上でお金を集めて、たくさんの人とこの夢を実現できる” と。

そこで、自分なりに聞いたり調べながら理解を深め、クラウドファンディングをやると決心すると、若い人たちがどんどん集まってきて、このプロジェクトもたくさんの仲間からのアドバイスを受けてようやく開始することができました!

弘法大師空海は、クラウドファンディングによって高野山を開いた!

私は必ず仕事をする前に、事前の研究を欠かさず行います。

今回でいえば、高野山や空海についての本を読んだり、実際に足を運んだりしました。
ある折に空海のことを勉強している時、空海もクラウドファンディングを理想としていたことを知ったのです。

 ”伏して乞う、有縁の道俗おのおの涓塵(けんじん)を添えてこの願を相済(あいすく)え”

「縁のある全ての方々よ、ほんの少しずつの浄財をお供えください。それらを結集して、高野山を開くというこの事業を実現したいのです」

遥か昔、弘法大師空海は、ひとりひとりの小さな助けが合わされば、大きなことをも成し遂げられる、との考えのもと、寄付を募るときは、誰か1人や少ない人数から大きな額をもらうのではなく、小さな額を多くの人々から募ったそうです。これはまさに、「クラウドファンディング」。

そんな共通点を知り、ご縁を感じながら、このプロジェクトを進めてまいりたいと思います。 
そして、日本の職人仕事を通して、伝統とは、今までの技術を守り続けること。
守り続けること、それだけではなく ”新しい挑戦の連続”であるという証を1人でも多くの方々に見て、感じて頂けたらと思います。

想い「100 年、1000年後も誇れる唐櫃を目指して」

今回一緒にプロジェクトを進める仲間である日本伝統職人技術文化研究会は、「古くから受け継ぐ伝統の技を持ち、また新たな挑戦をし続ける」そんな職人魂に誇りを持つ者が集まった職人集団です。 職種は多岐にわたりますが、多くは社寺仏閣など日本の伝統文化に関わっています。


写真:職人の会のメンバーたち(一部)    

高野山と私たちのご縁。それは「全国伝統職人サミット」です。
2016年10月、職人たちの技を多くの方に知ってもらいたい。職人たちと交流して頂きたい。という想いで「全国伝統職人サミット」を高野町の高野山真言宗・総本山金剛峯寺別殿で開かせて頂きました。彫刻や石仏、建具などの約40人の仲間たちの 技術・想い・人 を知ってもらうとても有意義な機会でした。

 
写真:職人サミット in 高野山の様子

 
写真:職人サミット in 高野山の様子

そして、そのご縁を期に、イベントという一過性のものでなく、形に残るものを作れないか、という想いが沸々と湧いて来ました。職人にとって、仕事が全てです。私たちの仕事ぶりを空海さんに見ていただき、それを通じて私たちが継承して来た技を、次代に引き継ぎたい。それには、空海さんにお食事を運ぶための唐櫃を制作させていただけないだろうか? 私のこんな想いを他の職人たちに話すと、それはいい、ぜひやろう!、と皆が諸手を挙げて賛成してくれたのです。高野山金剛峯寺も、私たちの想いをご理解くださり、制作した唐櫃を奉納させていただけることになりました。職人にとって、こんな名誉なことはありません。受け継いだ全ての技術と情熱を注いで、唐櫃制作にあたる所存です。

過去1000年以上の長きに渡って営々と繰り返されてきた生身供。
今後も高野山奥之院で大切に行われていくものと思っております。 
今回ご協力いただいた皆様のお名前を全て唐櫃に記載し、お気持ちも一緒に、後世に伝えて参ります。

 日本を代表する職人たちで「ドリームチーム」を結成!


上野幸夫(設計)            ・・・唐櫃の全体の図案を作成します。
望月義伸(設計)      ・・・具体的な数値などを割り出し、設計図を作成します。
池田聡寿(製材技術)    ・・・唐櫃に必要な材料の目立てを行います。
田中健太郎(宮大工)    ・・・唐櫃の本体の製作・組み立を行います。
長津勝一(鋸目立て)    ・・・製作に必要な特殊のこぎりを製作します。
南部白雲(木彫刻)     ・・・四面の密教法具を彫ります。
横田栄一(建具)      ・・・側面の格狭間と花狭間を製作します。
森本靖三・章大(錺金具)・・・脚や担ぎ棒の飾り金物を製作します。
塚本守利(金箔)      ・・・装飾部分に使う金箔を製作します。
児島研輔(屋根)    ・・・唐櫃の屋根部分を製作します。
楠木俊治(木彫刻)   ・・・鬼板を彫ります。
坂田憲男(房紐)    ・・・持ち手部分に取り付ける房紐を製作します。
中嶋正起(彩色)    ・・・破風板に文様を施します。
武蔵川義則(螺鈿)   ・・・脚部分に螺鈿を施します。
柳田芳和(漆)     ・・・担ぎ棒、脚部分に漆を施します。

【設計】日本中の歴史的建造物を熟知する上野幸夫

本プロジェクトの唐櫃のデザインは、職人の会の理事長でもあります上野幸夫が担当します。

上野はこれまで43年間にわたって、国宝である瑞龍寺(富山県高岡市)を始め、全国数多くの文化財修復の監修をして来ました。

また、文化財の歴史的価値や伝統的な職人技術に精通し、現代の職人たちにも広い人脈を持ち、その技量を知り尽くしていることから、今回の唐櫃の意匠(デザイン)を担当者として彼以外に適任はいない、と確信しています。

△監修を務めた国宝・瑞龍寺

唐櫃の意匠(デザイン)は、過去さまざまな国宝や重要文化財からヒントを得ています。高野山に奉納されるため、高野山ならではの密教宝具のモチーフも多く取り入れました。1200年の歴史を有する高野山に奉納するに値するものを、ということとともに、先人たちの職人文化に対する畏敬の念も含まれています。 

しかし、参考にした国宝などをそのまま写しただけでは、それは先人のマネをするに留まります。現代の職人たちの技を引き出すため、あえて少し難しい課題となる意匠(デザイン)を、それぞれの担当する職人に注文しました。職人たちはそれに応えるように、「だったらこういう方法もある」「こういったデザインにすればよりよくなる」と多くの意見が出てくるのです。

△意匠の話し合い

今回は16種の職種の職人たちがひとつの唐櫃に集います。そのため、下手をすると華美になりすぎて、品のないものに仕上がりかねません。それぞれの職人たちの意見を集約し、それぞれの技がいかんなく発揮され、かつ、美しいものへと仕上がるようにデザインを描き上げました。

ただ職人の仕事は使っていただいてこそ意味のあるもの。デザイン案を、高野山金剛峯寺にお見せしたところ、「せっかくの唐櫃ですから、特別なハレの日に使用したい」とのご要望をいただきました。職人仕事は、アートのような自己表現ではありません。それを使う側の意見もとても大切なのです。話し合いを重ねに重ね、それらをすべて集約したものとなりました。

日本の職人たちはこうやってものづくりを行ってきました。そこから、何百年も先まで残されるような、すばらしい「もの」が生まれてくるのだと信じています。

【木材】伊勢神宮をはじめとする全国の寺社仏閣に御用材の見立てのプロ 池田聡寿
 

昨年の8月28日。まだまだ日差しが照り付ける中、長野県木曽郡上松町にある、池田木材にて打ち合わせを行いました。

 

1000以上年続いてきた高野山の生身供で使用されるも唐櫃ですから、次の1000年を見据えたものづくりをしなければなりません。それならば、それだけの長い年数に耐えうる良質の木材を使おう、ということになったのです。

池田木材では、20年に一度の伊勢神宮の御遷宮の神宝材を納めている製材所で、池田聡寿は木の目立てを30年以上行ってきた職人です。2033年に行われる予定の御遷宮のために特別な神宝材をすでに保管も行なっております。

打ち合わせの中で、伊勢神宮の御遷宮の際にも唐櫃が新調されるという話も出てきました。
その図録を見ながら、この神宝材(御遷宮の際に用いる材料のこと)と同等レベルの質の木曽檜を使おう、ということになりました。

良い木材を選ぶ、ということは具体的に何に繋がるかご存知でしょうか。それは、良い木材であれば、何百年もの月日が経っても、狂わない、おごらない、安定しているということです。木は生き物です。例え、伐採した後であっても、少しずつ形が変わってきます。当然、その木材を製品に変えた後であってもです。

その狂いをなくさせるためには、良い木が必要となってくるわけです。もちろん、狂いがなくなること以外にも、見た目の良さ、加工のしやすさ等々の利点があります。

良い木材とされる項目をいくつか言うなら、目が細かく、均等でまっすぐ。ヤニなどが混ざっていない、といったことが挙げられますし、さらにそこから柾目で加工する、といった職人による加工技術も必要となってきます。

今回はそんな材料を木曽檜で担うこととなりました。岐阜県木曽地方からとれる木曽檜は、全国でも有数な銘木の産地です。良い木が採れるのには、この土地の環境が大きく関わっています。

木曽地方は豪雪地方。冬になると真っ白な雪に覆われます。寒さも厳しく、山に生息している木々はゆっくりとしか成長できません。雪に埋もれて、暖かくなると少し育つ。そしてまた雪に埋もれる。それを繰り返すことで、目の細かく詰まった檜へと成長します。

 

△池田木材は木曽檜の生息する山々に囲まれている

 

△岩の上からも根が張るほど、生命力ある木々たち。豪雪にも耐えうるちからがある

木の目立てのプロである池田は、そんな自然からの恩恵を大切にする、熱い職人です。高野山の名に恥じない材料を用意すると約束し、この日の打ち合わせは終えました。


△材料について語る池田

11月17日、再び池田木材に集まり、唐櫃に用いる木材の検品を行いました。

今回、唐櫃に使用する木材はこちらです。

 

 推定樹齢350年ほど。木曽檜の中でもさらに質の高い材料を選定しました。この材料は、10本の木曽檜があればそのうち2本ほどしかなく、さらに、その2本の中でも2割程度しかない部分の木材です。

同じ木からとれる材料でも、ヤニがあったりするため、その程度しか使えないのです。その部分が出ないように製材するのは至難の技。これは、長年、製材の仕事をしてきた職人の経験と技術により、出来ることです。

また、今回は四面すべてが柾目になっている四方柾、というものになるよう、加工しました。この四方柾にするように製材するには、通常の方法で行うよりも、倍以上の大きさが必要となります。使えない部分が多いためです。

 

△四方柾に加工された木曽檜

人々の目に触れる時には完成品となっている工芸品や建築も、こういった材料を生み出す職人もいるからこそ、よりよいものが生まれてくるのです。

この良質な木曽檜を使い、今回の唐櫃は作られていきます。

 

写真:今回の唐櫃作りの木曽檜を確認している様子

「匠」×「証」×「心」
このプロジェクトを立ち上げた目的は3つあります。

1、「匠」

日本の職人技術。その心・技・歴史を知ってもらいたい。


写真:職人の工具

2、 「証」

ものづくりにおいて最も大切なこと。それは ご依頼者の想いと物語。
想いと物語によって、その強さと美しさによって我々職人たちははじめて唯一無二のものを作りあげることが出来るということを証明したい。

 
写真:職人の手

3、 「心」

ひとつのものを作るためには、多くの”人”が必要です。
そのために私たちは信頼しあい、対話し、助け合う。
ものづくりにおける職人文化。しいては、人が人として生きる上で
忘れてはいけないものは何か ということを伝えたい。


写真:職人による「作品」

この 3 つです。 日本の先人たちより引き継がれた技に誇りを持って制作し、この唐櫃を通してみなさまにもその伝統技術のすばらしさと、私たち職人の「挑戦」を知ってもらいたいと考えております。

感謝「1000年残る恩返しを」
今回、ご協力頂いた方々へのまず何よりのリターンは、ご支援頂いた方のすべてのお名前を、弘法大師空海にお伝えすること。人間国宝の岩野市兵衛が漉いた和紙に墨で書いた巻紙を芳名帳とし、油紙に包むことで1000年残るものにしたいと考えております。


その和紙について、もう少し詳しくお伝えします。越前生漉奉書(えちぜんきずきぼうしょ)と呼ばれる最高級の和紙です。原料として楮(こうぞ/クワ科の植物)だけを用い、古来より伝わる手漉きの技法で作られています。
ほぼ薬品を使わず、気の遠くなるような緻密な工程を経て漉かれた紙は、美術品を痛めないだけでなく、驚異的な耐久性と保存性を誇っており、パブロ・ピカソも愛用していたものです。また、この和紙はルーヴル美術館の膨大な収蔵品の修復に用いられています。

参考:ルーヴル美術館にも和紙を納める人間国宝・岩野市兵衛の尽きせぬ情熱
https://sunchi.jp/sunchilist/sabae/31849

参考:岩野市兵衛が漉いた越前生漉奉書について
http://www.mitsurouwax.com/iwano/

唐櫃は、あなたのお名前と供に。

 

最後に
”もしその能に当たるときは、事、通すること快し ” 「性霊集」より

自分が好きなことに夢中になっていると、気が付いたら夕方になっている。という経験は誰にでもあると思います。

「才能にふさわしい仕事にあたると、万事が快調に進行する」。

弘法大師空海の言葉の一つです。

今回の唐櫃制作を初めて、私たちは、職人の生き様を見てもらおう!とびきり良いものを作ろう!と、どこか童心のように楽しんでいる自分たちに気づきました。言うなれば、このプロジェクトは私たちの 「浪漫(ロマン)」。 

私が、初代より一貫して変わらない事は、依頼主の想いや物語性を軸としたオーダーメイドである事。
そして100年、200年と大切にされ残していけるものを、喜んでいただけるものを作る事。
そんな想いで伝統を育んでおります。

今回の依頼主、それは私たち自身です。私たちの想いそして今までの職人人生の物語を
このプロジェクトを通じて描き上げたい、創り上げたいと思っています。

この私たちの物語に、どうぞ皆様もご参加ください。

 

 2016年に実施した職人サミットの記念として 金剛峰寺入り口で撮影

 日本伝統職人技術文化研究会
 http://www.dentousyokunin.com/index.html

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<高野山や空海についてもっと知りたい方へ>

高野山真言宗 総本山 金剛峰寺
https://www.koyasan.or.jp/  

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      携わらせて頂いているクラウドファンディングの終了まであと7日になりました。 目標金額まではなかなか険しい道です。ただ、先日も投稿しましたが今回のおかげでたくさんのご縁と現在36名の素敵な方のご支援を頂いています。クラウドファンディング が終わったら、直接会って お礼巡礼 時間をかけてし...

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