2019/10/31 17:54

今回は、谷中のおかってのメンバーでもあり、アーティストとして活動している大西さんにお話を聞きました!

毎年バラエティロードを盛り上げてくださる大西さんは、どんな思いでバラエティロードに関わっているのでしょうか?


◆自己紹介をお願いします

普段はダンスやパフォーマンスを、アーティストの活動としてやっています。ダンスと言っても、特定のテクニックを訓練してきているわけではなくて、「踊りというものが、どうやって生まれるのか」ということに興味を持っています。例えば今やっている活動には、子供創作教室や福祉施設との共同の活動がありますが、それぞれの相手との関わり合いの中で生まれてくる出来事を引き出してくるということを大事にしています。

 今年のバラエティロードでは、『詩の朗読茶席「スパンキングキャンディー」』という文化出見世を考えました。


◆バラエティロードとの関係

 バラエティロードには、立ち上げの2015年から毎年関わっています。最初の年は、じんじんさんの野点が中心でした。次の年からは、まちの人や山友会の人たちと関わる中で感じた「路上でこんなことが起こったら面白そうだな」という予感を、野点の裾野に広げていく取り組みが、”バラエティロード”という呼び方で、始まりました。

そのとき自分には、”路上カラオケ”というアイデアがありました。そこには、電気が通っていないマイクと、歌に合わせて即興で演奏ができる人がいて、あとはビール瓶の空き箱の上に板を乗せただけのステージを用意しました。


◆何故、路上でカラオケを...?

 山谷のまちと僕の最初の出会いは、山友会の油井さんにまちを案内してもらったときでした。油井さんが道ゆく先々で声をかけられていました。「今日どうしたの」とか、「いつもありがとう」とか。油井さんも僕に、「変わった人でしょ」とか、「面白い人なんだよ、ああ見えて」とか、道にいる人を紹介してくれました。でも、その人が何者であるかとか、名前がなんだとかとは言われなかったし、気にもならなかったんです。それがすごく面白いなと思いました。

自分が、まちで見る人たちからの目線で「私が何者であるか」が問われずに声をかけられるというところに、人懐っこさや愉快な気分を感じました。思わずそっちの方へふらっと寄っていきたくなる”甘み”みたいなものがあることを感じました。同時に、何者であるか問われないということは、「お前何しに来たんだ」っていう、自分の立ち振る舞いや「人のなり」を見られている”厳しさ”・”渋さ”もありました。だから、自分が道に立とうとした時に、「嬉しいとか面白いとか、心が動いているってことでしか、道に立っちゃいけないな」と思いました。

「バラエティロードは面白いんだ、ちょっと寄ってってよ」という姿勢で道に立ちたいからこそ、路上でカラオケしてみたいな、と思いました。道でカラオケしたらあのおじさんたち来るかな、なんて考えたりもして。名付けずに自分がどう道に立つか、妄想をしたときに僕の頭の中で膨らんでいった風景が、”路上カラオケ”という形になりました。


◆人の視線から感じる”渋さ”や”甘み”、という言葉から、文化出見世のフレーバーティーを連想したのですが、何か関係しているんですか。

 関係大有りです。(笑) 

 何度かバラエティロードをやりながら、僕が山友会の人たちに、より踏み込んで、お話しながら感じたことなんですけれど。おじさんたちと喋ってると、その人の人生がギュッと詰まった格言みたいなのを、ボソっと言ったりするんです。例えば、「人生70年、自由行動で生きてきたから」、とかね。そういう、頭だけじゃ追いつけない重みのある言葉を、向こうが投げかけてきているな、ということにすごく興味を持ちました。

渋みや苦味、甘みが両立する味わいを持っていて、言葉の世界にしかない魅力がじわっと時間をかけて身体に浸み込む感じでした。「うっ、重っ」とか、「何?このザワザワ感」とか、言葉にはできないけれど心では感じること、身体の中に湧き起こってしまったことは、  「踊り」としか捉えられないような事柄だと思っています。そういうことが、この人たちとの間にきっとある、というところに、すごく心惹かれました。

おじさんたちの言葉の背景や周りに広がる風景を、身体の中の出来事として味わうものにしたいなと考えて、この出見世をやることにしました。おじさんたちが言葉につけた味をフレーバーティーにして飲みながら、おじさんたちが言葉を口ずさんだ時の、身体からの言葉の出方を”フリ”としてお客さんに写していくものです。味とフリの両方が合わさったとき、自分と山友会ではない第三者の身体の間で、おじさんたちの言葉が見てみたかった踊りの風景になるかもしれない、という予感がありました。


◆文化出見世やリターンの品のフレーバーティーは、どんな味わいですか? 

意外と、シンプルな味です。...って言ったら魅力がないかもしれませんが... おじさんの中に、差し歯の人がいたんです。差し歯の粘着剤の味が混ざっちゃうから、あんまり複雑な味って分かんないんだよね、って言われたこともありました。

でも、それはすごく重要だと思っています。ある意味、その人の身体に刻まれた履歴が味覚を通して現れているのだから、よっぽど複雑で、色んな味が織り込まれてた方がいいんじゃないかと思っていた。でも、おじさんたちと作業をしたら、シンプルで鋭くて、重みがあり、四の五の言わせない味わいの中に、爽やかさもある…そんな、お茶ができました。自分が最初道端で声をかけられた時に感じた、風通しの良さみたいなものに似ている気がします。それだけじゃなくて、名言と共に醸し出させるものだから、フレーバーティーの方をぐちゃぐちゃいじらないで、名言の持っているフレーバーとさらにブレンドすることに、情熱を注ぎました。


◆バラエティロードの名付け親は大西さんだということですが、何故バラエティロードと名付けたのですか?

 名付けたつもりはないんだけどね。「バラエティロード」というのは、企画が始まる前におかってのメンバーそれぞれが持っていた、バラエティロードに対する予感が折り重なる部分で、出てきた言葉に過ぎなくて。たまたまタイトルの素材になっただけで、”名付け”じゃないんです。これは、バラエティロードにとってはすごい大事だと思っています。

 最初の山谷の話に戻るけど、「あなた何者?どこから来たの?何してる人?」って、おじさんたちは絶対聞かない。そこに、お互いに踏み込んじゃいけないという敬意みたいなものがあると思う。例えば、あるときこんなことも言ってて。「ひとりひとり、しょってる荷物が違うからさ」って。


距離感みたいなものを、お互いに意識しているし、そこがキモだと思う。何者かって決めた瞬間にそこの文脈が決まって、バラエティじゃなくなっちゃう。何者かわかんないもの同士が、それぞれの言いたいこと言ってるからこそ様々な声かけが突発的に起こるんですよね。

 普通は、「自分が何者か」っていう看板を建てたら、社会に対してそこが正面になります。でも、山谷では看板が無いから、おじさんが思いもよらないところから、「うっ」とか言ってつついてくる。そういうスリルや、何者でもないままでいられるような風通しのよさや、つつかれるってこともあるし、励まされることもあるし、ちょっと戒められることもある。でも、一定の距離もあって、 そこは優しさなんだと思います。向こうにそういうつもりがあるかは分からないけど、こっちはそういう気持ちになれる。叩かれるけど、甘みがあるっていうことです。今改めて、道で何が起こったらいいか言葉にすると、『スパンキングキャンディー』になるんです。


◆今年のバラエティロードに特に期待していることはなんですか?

今年は、色んな文化出見世が出るといいなと思ってます。道で何が行われているかっていうのが、一つの視界に入りきらないほど。色んな「スパンキングキャンディー」が行われているっていうことも含まれると思うし、その場その場での偶然みたいなこともあるかもしれない。

そういう偶然とかスパンキングとかを引き起こすには、何か仕掛けなきゃいけないし、そこに何か魅力がなきゃいけないと思う。今回こちらからの仕掛けは、今までの倍くらい多くて、ちいさなものから大きなものまでいろいろあるけど、それはすごくいいなと思っています。それが楽しみにしてることです。

去年色々やってみたけど、「もっとだな」って思った。だから今回、小さなものも、雑多にやるっていう。細かいものも含めて、『雑多にやる』っていうことができたらいいんじゃないかなと思っています。


◆クラウドファンディングで支援してくださっている方、もしくは、これから支援しようかどうか迷っている方に対してのメッセージをお願いします。

 支援していただいたお金は、野点だったり、文化出見世だったりという、名付けられない魅力の予感みたいなものや、社会的にこれがいいと価値づけられていないことに使われるから、支援してくださる方にとって分かりやすい意味での「見返り」は、ないかもと思うんです。僕はね(笑) 。ただそのお金によって、雑多な魅力の予感が、文化出見世という形やある仕掛けとして現れて、スパンキングキャンディーみたいな出来事が起こる風景をつくることには、責任を持ちます。

立派なモニュメントが建つわけではないので、この日が終わったら瞬く間に消えてしまうものかもしれないけど、その日一瞬路上に立ち上がるかもしれないスパンキングキャンディーを... むしろ、支援者のほうがスパンキングしていくつもりで、支援してほしいなぁと思います。


◆支援する方がスパンキングキャンディーを受けることはないのですか?

それがリターンです。それはもちろん、楽しみにしてもらっていいです。