2019/10/17 11:08

本日の活動報告は、靴作り対談。女子靴を製作してくださった浅草の靴メーカーさん、トーキョーカケン商品企画部の恒次弘幸さんと布施田祥子が、靴作りの壁について語ります。

靴作りにはどんな壁があるのか、そしてトーキョーカケンさんはなぜMana'olanaと一緒に一歩を踏み出してくれたのか。ご覧ください。

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靴作り、最初の壁は「メーカーさんがいない」こと

【布施田(以下布)】最初に靴メーカーさんを探した時は、十何軒回ったんだけど全滅でした。どの会社も、障がい者も履ける靴=絶対安全で、怪我しないやつじゃないとダメなんじゃないかというイメージがあったようで、自分のやりたいことを説明するためにお会いする機会すらもてなかった。これが最初の大きな壁でした。その中で、恒次さんだけが「話を聞きたい」と言ってくれて、うれしかったです。

【恒次さん(以下恒)】僕の弟が小さい頃に下肢装具をつけていたんですよ。それで僕の母が下肢装具というものを知っていたというのが、大きかったと思います。母からは弟の靴探しは困ったという話も聞いていたので、障がいをもっている人たちに自分たちもできることがあるかもしれない、とりあえず会ってみようってことになりました。

【布】そこもありがたかったです。ご家族に当事者がいると、実際のこともご存知で話しやすい気がしました。

【恒】そうですね。布施田さんが入ってきた時は、見た目元気すぎるくらい元気で(笑)、片側動かないってのにしばらく気がつかなかったんです。はいてきたのも介護用の靴とかでなくて普通のスニーカーで、イメージと全然違いました(笑)。
お話を伺ったところ、「装具をつけてもはける、あくまで普通の靴が欲しい」とのことだったので、これは自分のところでできるかもしれないと思いはじめました。


さらに大きな壁、お金のお話

【布】最初は靴作りに関してまったく素人だったので、お話を伺っていろいろびっくりしました。恒次さんもこの人お金なさそうなのに大丈夫かな?とか(笑)思ったんじゃないですか。

【恒】いや、そんなに貧乏そうってわけでも無かったですけど、正直、「さあ、ありあまるお金で私の思い通りの靴を!」って感じでもなかった(笑)。
そこが少し心配でした。靴作りって、普通の人が考えるより、ずっと初期費用がかかるんです。

【布】そうですね。工程もたくさんあるし、費用のことも考えると、これはあきらめる人も多いだろうとも感じました。

【恒】知らないと「え?そんなにかかるの?」となりますよね。
まずデザインの費用。木型(靴の元になる土台の「型」)の制作費とプラ型の制作費。アッパー(足の甲部分)のデザインが決まったら革を抜くための抜き型。あとは靴底。本底と中底に分かれますが、その抜き型。もちろん革の費用もかかりますし、職人さんの手間賃もあわせると、1つのデザインの靴の型をつくるだけで、だいたい30万ぐらい必要です。
さらにそこから、今度はお客様に販売するための用意をしなくてはならない。サイズ違いの試着用の靴は必ず揃えなくてはならないし、デザインに応じた色見本用の靴もなくてはならない。量産するなら、量産用のプラ型を各サイズ製作する必要があります。実際にお客様に履いてもらうまでには、トータルで最低でも100万ぐらいを見込んでおいた方がいいと説明しました。
そのくらいの費用をかけても、やってみますかとお伺いしましたね。


チャレンジと失敗と失敗。それでもあきらめない心

【布】やるって言いましたね。やるしかないな、と思っていましたから。

【恒】はっきり答えてくれたんで、ああ、これは本気でチャレンジするんだなと。それなら、費用で削れそうなところはこちらでもできるだけ協力して、本気に応えたいと思いました。まずはうちの靴で履けそうなやつがあればと思って、いろいろはいてもらいましたね。

【布】装具があるから、全然はけなかったですね。無理に入れようとすると靴がこわれちゃう感じになりました。

【恒】それで、じゃあ靴製作の基本、木型からつくってみよう、と初期型のエナメルの紐靴を作り始めたんです。デザインを布施田さんから伺って、僕が自分でパソコンでデザイン画におこしました。

【布】装具をつけても見た目がすっきりはけるように、あと片手ではけるように、いろいろ工夫してくださったんですよね。

【恒】僕は「主婦が考えた超便利なアイテム!」とかが好きなんです(笑)。普通のものに、ちょっとした工夫を加えることで、みんなの生活が豊かになった的なもの。それと同じく普通の靴に「ちょっとした工夫」を盛り込むことで、装具をつけてもはける靴にできたら、と思いました。

それで実際にはく時の動きを確認しながら、あーでもないこうでもないと試しました。けど動作を優先させたらテクニカルになりすぎて、可愛くないものができたりして(笑)、また振り出しに戻ったりしましたね。

【布】半年以上作り続けて、4、5足作りましたが、うまくいきませんでしたね。健足と装具側の足とのギャップがどうしても埋められなくて、紐靴の製作はいったんストップしました。

作った靴の数々です。

【恒】どうなるかと思いましたが、そこでも布施田さんはあきらめなかったですね。前の靴での工夫したところを頭にいれつつ、靴の形を今のストラップシューズ型に変えてから、靴製作は一気に進みました。
2018年10月、5色のストラップシューズをデビューさせました。そこからもモニターさんのご意見を入れてマイナーバージョンアップしたのが、今回のクラウドファウンディングにリターンとして登場したわけですね。よくここまできたなと思います。


さらに前に進むために、求む!フィードバック!

【布】ありがとうございました。それでは最後に、これまで2年近く一緒にやってきた、恒次さんの今の率直な想いを聞かせてください。

【恒】この靴をとにかくお客様のお手元に届けたい、はいてもらって感想をたくさん聞きたいと思っています
世界でも下肢装具をつけてもはけるように作られた靴はなさそうでしたので、きっとこれが最初の靴だと思います。まだ改善の余地がある。どこが気に入って、どこがイマイチか。実際のユーザーがいっぱいフィードバックをくれたら、また一歩前にすすめると思います。というわけで今回のクラウドファウンディング、とても楽しみにしています。

【布】ちなみにこの次の企画は、足元あったかブーツを狙ってます。

【恒】ブーツだと皮の面積も多くなるんで、費用も1.5倍から2倍になると思います。がんばって、早く売りましょう!(笑)。

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恒次さん、ありがとうございました! これからもどうぞよろしくお願いします。