はじめまして。両角達平(もろずみ・たつへい)と申します。東京都内の大学で研究員や講師をやりながら、若者の社会参画や北欧社会について研究しています。

この度、「Prata Politik!(政治について話そう!)」翻訳プロジェクトにて、クラウドファンディングを実施することになりましたので、この場を借りて挨拶をさせてください。


グレタだけじゃない?政治に参加するスウェーデンの若者

2017年の参議院議員選挙の投票率は53.7%でした。年代別でみると投票率は、十代で40.5%、二十代が33.9%、三十代が44.8%でした。一方、スウェーデンは選挙の投票率が高いことで有名です。2018年の総選挙の投票率は、約87%を記録しました。多くの先進国では、若い世代ほど投票率が低くなる傾向にありますが、スウェーデンの場合、若い世代の投票率は約85% であり全世代の投票率とほとんど差がありません。

選挙年は異なりますが、日本とスウェーデンの世代別の投票率を比較すると以下のようになります。

日本で最も投票をする60代後半の投票率よりも、スウェーデンの若者のほうが選挙で投票をするのです。

なぜスウェーデンの若者は選挙で投票するのでしょうか?

さらに、スウェーデンの若者は、社会への意識や関心が高いことも様々な統計から明らかになっています。内閣府の子ども・若者白書(平成26年)では、7カ国の13~29歳の若者に「社会をよりよくするため、私は社会における問題に関与したい」かどうかを質問しています。「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した若者は、ドイツで76.2%、スウェーデンは52.9%、そして日本は最低で、44.3%でした。「社会現象が変えられるかもしれない」と答えた若者も同様の傾向にありました。
内閣府の子ども・若者白書(平成26年)

スウェーデンでは、環境活動家のグレタ・トゥンベリのみならず、多くの若者がこのように社会への高い参画意識を持っています。さらに若い政治家も多く、現政権においては22歳の国会議員が2名もいて、全国会議員の約10%が30歳以下です。(スウェーデンの選挙権・被選挙権年齢どちらも18歳)

スウェーデンはなぜ若者が政治に参加する社会なのでしょうか?
またなぜ、日本の若者は社会を変えられると思わない若者が多く、選挙でも投票をしないのでしょうか?

スウェーデンの若者が政治参加する理由は様々にあります。その中で大きな役割を果たしていることの一つが「教育」です。

スウェーデンの学校では模擬選挙や、地域の政治家を招いた討論会が実施されます。

スウェーデンの高校での模擬選挙の様子

また選挙期間中は、近くの広場に「選挙小屋」が設置され、候補者や党員が選挙キャンペーンを実施します。学校は生徒にここへ足を運んでもらって、主義主張をインタビューする宿題を課すなどして、未成年であってもできるだけ実際の政治に触れてもらっています。

選挙小屋の様子

このような機会を通じて、選挙や政治にかんする情報提供をし、政治や民主主義について知り、学校を越えた社会への若者の影響力を高めるようにしています。

とはいえ、政治や民主主義について教えることは容易ではありません。政治について教えることになったとき、こんな疑問が浮かんでくるでしょう。

・どのような方法で教えればよいのか。どんな準備が必要で、評価やフォローをすればよいのか。

・どのようにすれば生徒に政治に関心を持ってもらえるか。授業でどうすれば発言がしやすくなるか。

・特定の政党に偏ることなく中立を保ちながら、どのようにして政治を教えれば良いのか。

・そもそも中立とはどのような学校教育や民主主義の理念に基づけば判断できることなのか。

・政治家を招いた討論会をするにあたって、どんな質問をしたらいいか。

・そもそも学校が教える「政治」や「民主主義」とは何か。

スウェーデンの主権者教育の教材「政治について話そう!」が作られた理由

そのような疑問に答えてくれるのが、私たちが翻訳に取り組んだ「Prata Politik” (政治について話そう!)」 というスウェーデン若者市民社会庁(MUCF)が出版した教材です。

2018年視察時にスウェーデン若者市民・社会庁で撮影した
「Prata Politik 政治について話そう!」

スウェーデンの学校には「民主主義を教えるミッション(使命)」があり、教員はその役割を果たす義務があります。しかし昨今では、ソーシャルメディアの利用が若い世代で加速し、フェイクニュースが飛び交い、政治にかんする報道や情報が錯綜しています。また、スウェーデンも多分に洩れず過激な主義主張を掲げる政党が躍進しています。そのような政党が模擬選挙の討論会のために来校した際に、生徒が来校を阻止するというような事件も実際に起きています。

学校としては、そのような政党を学校に招かないという判断をしていいのか?その様な騒動が起きないようにするには、どうしたらよいのか?起きた場合にはどの様な対応をすれば良いのか?過激な「民主主義」ではない、熟議を基盤とした民主主義を教えるにはどうしたらよいのか?

スウェーデン若者市民社会庁は、「政治について話そう!」をこの様な疑問に答えるために作成しました。

このプロジェクトで実現したいこと

私たち、「Prata Politik!(政治について話そう!)」翻訳プロジェクトは、スウェーデンに在住中/在住経験があり、教育や社会に関心をもつメンバーです。

「Prata Politik!(政治について話そう!)」翻訳プロジェクトのメンバー

両角達平
(研究員・講師)

佐藤リンデル良子
(翻訳・通訳、コーディネート業)

轡田いずみ
(プランナー)

この教材を発見し、多くの人に知ってもらいたいと想い、一年ほどかけて和訳に取り組みました。そして、2020年3月に翻訳したファイルをスライド形式にして、ブログで無料公開しました。以下のブログ記事からダウンロードが可能です。

https://tatsumarutimes.com/archives/24117

記事からPDF版とパワーポイント版がダウンロードできるようになっています。表紙はこのとおりです。

「政治について話そう!」の中身は、以下のようになっています。

まずはじめに、学校で民主主義を教えることの意義、そもそもスウェーデンの学校において民主主義を教えるとはどのようなことなのか、その際に根拠となる規則などを明確に示しています。次の章からは実践編です。実施前の準備段階、実践方法、実施後の評価やフォローアップ、それぞれ具体的に何をしたら良いかを、アクティビティやチェックリストで紹介。

そして最後に、紹介した活動の導入事例をインタビュー形式で紹介しています。全体のページ数は80ページほどで、イラストも多いのでさくっと読めます。

無料版公開後の世の反響

ブログ記事は、広く拡散され以下のように大きな反響をいただきました。

・記事のFacebook シェア数:472

・記事のFacebook いいね数:9226

Facebookで大きな反響がありました

・翻訳ファイルのダウンロード数合計:2489

Twitterでも大きな反響がありました

翻訳プロジェクトとしては「できるだけ多くの方に届けたい!」という想いから、ファイルを無料でダウンロード可能にしました。しかし、「紙媒体の冊子で手元におけたら良い」という声もいただいておりました。

そこで無料版公開時には、(紙媒体の)冊子版を希望する方がどれだけいるかを把握するためのアンケート調査も実施しました。その結果、冊子希望数が400冊を超えました。ここまでの反響があったことにメンバー一同驚いております。十分なニーズが確認できたのでこの度、冊子化のためにクラウドファンディングをする運びとなりました。

新型コロナウィルス禍におけるクラウドファンディングの実施について

そうこうしているうちに新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、経済・社会的な影響が様々に出てくる状況となってしまいました。そのような状況下で、私たちは、クラウドファインディングをこの時期に実施すべしなのか、躊躇し延期などを検討しました。

しかし、終息が長期化することでクラウドファンディングの実施のタイミングがつかめずに、そのまま翻訳プロジェクトが実現しないことを危惧しました。また、このような状況下だからこそ世の政治や社会についての関心は高まっており、「政治について話そう!」は、だかこそ一助になるのではないかと議論を重ね、今回改めてクラウドファンディングを実施する決意を固めました。

クラウドファンディングの内容

今回のクラウドファンディングは以下のように実施していきます。

・最低目標額 85万円(それ以上を超えたら発行部数も増やします)
・形式はAll or nothingで、最低目標額に達さないと成立しないクラウドファンディングです。
・スウェーデン若者市民・社会庁(MUCF)からは、翻訳の許可はいただいていますが、出版にあたっては商業目的にならないように、とお達しをいただいているので、費用はすべて実費と手数料に充てます。(それでも万が一、余るようなことがあったら寄付などを検討します。)


資金の使い道

・制作費(編集・校正・デザインの外注費用):約47万円
・印刷製本・発送手数料:約26万円
・手数料:約12万円 (Good Morningへの手数料14%+税)

スケジュール(予定)
・クラウドファンディング実施期間: 5月11日〜7月17日
・7月中旬 〜 9月 : 発注 → 編集・校正・製本
・10月  発送

編集・製本・印刷・配送は、アルパカ出版さん(https://alpaca.style/)にお願いすることを予定しています。新型コロナウィルスの影響で、工程に多少の前後が起きる可能性がございますこと、ご留意ください。


リターンについて

リターンは1冊からお選びいただくことができます。支援額が高くなるほど、1冊あたりの価格も安くなるようにしました。また、紙媒体の冊子は不要だけれども「プロジェクトは支援したい」という方のために【リターンなし・応援プラン】も用意しました。詳しくは、[リターン]をご覧ください。


私たちの想い

冊子が多くの方の手元に届き、民主主義や社会について考える主権者教育や、政治についての対話の場づくりのヒントになればと思っています。もちろんスウェーデンと日本では、文化的にも社会的にも異なる点は多いですが、どちらの国も民主主義を基盤にした社会です。

スウェーデンのやり方を通じて、民主主義とは何なのか、それを教えるとはどういうことなのか、社会とは、政治とは何かを考える機会の足しにしていただき、教育現場に役立てていただけたらと思います。


翻訳をした私たちについて

「Prata Politik!(政治について話そう!)」翻訳プロジェクトのメンバーのプロフィール

・両角達平(もろずみ・たつへい)
1988年生まれ。独立行政法人国立青少年教育振興機構 青少年教育研究センター 研究員。若者の社会参画について、ヨーロッパ(特にスウェーデン)の若者政策、ユースワークの視点から研究。ストックホルム大学教育学研究科(国際比較教育)修士。ブログ Tatsumaru Times https://tatsumarutimes.com/

・リンデル佐藤良子(りんでる・さとう・りょうこ)

ストックホルム在住。現地の高校や保育園で働くほか、日本人補習校にも勤務。子育てや自らの学校通いや視察コーディネートを通じ、保育園から大学院までスウェーデンの学校やその他の教育機関を体験、見聞。とくにスウェーデンの民主主義教育やシティズンシップ教育に関心がある。日本では公立高校で社会科を教えていた。北海道大学大学院およびストックホルム大学院卒業、教育学修士。

・轡田いずみ(くつわだ・いずみ)
大手精密機器メーカー、教育サービス企業を経て、現在は、北欧企業/ブランドの日本展開を支援する(株)ノルディック・インスピレーション代表。大学時代のスウェーデン留学や、現在の仕事を通して、一人一人の声を生かして社会を作っていくスウェーデンの民主主義に関心を持つ。 北欧の教育・学び リラ・トゥーレン主宰。「ぼくが小さなプライド・パレード 北欧スウェーデンのLGBT+」訳者。

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