2020/07/04 19:30

 40年以上にわたり、日本で生活するインドシナ難民や条約難民、中国帰国者、日系定住者とその子弟の定住と自立に向けた支援を行う「社会福祉法人さぽうと21」。

 そのコーディネーターとして、日本に住む難民支援の最前線に立つ矢崎理恵(やざき りえ)さんに、日本語支援における課題や展望を伺いました。

矢崎理恵さんへの取材はリモートで行われた


■オンライン型の個別支援で、難民の子どもの家庭での様子が垣間見えた

―まずは、あらためて、さぽうと21の活動内容について教えてください。

 日本に住む難民の方々の自立を、教育面から支援する活動を続けています。大きく分けると、3つの事業があります。

 1つ目は、難民の方々が学業を全うすることを目的とした「経済的支援」です。高校生から大学院生までに、奨学金(就学・生活支援金)の提供を行っています。

 2つ目は、小学生から60代の方々までを対象とした「学習支援室事業」です。日本語や学校で習う教科を教えたり、パソコンの学習をサポートしたりと、様々な学びの場を提供しています。

 3つ目は、主に生活支援金を支給している学生やその家族からの相談にお応えする「相談事業」です。行政への手続きのサポートなど、公的な支援につなげる役割を担っております。


―受講者のニーズに合わせた支援を続けているのですね。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の最中では、どのような対策をされましたか? 

 子どもたちが学校に行けなくなったので、ボランティアの方々のお力をいつも以上にお借りして、オンライン型の個別学習支援を始めました。4月17日に第一回目をスタートさせて今に至るまで、1日も休まずに個別学習支援を継続しています。 これからは、次の3つの学習支援の形を子どもの状況にあわせてうまく統合していきたいと考えています。

 ①目黒と錦糸町で従来より展開している「教室型」

 ②今回始めた「オンライン型」

 ③今年度スタートさせようと思っている「アウトリーチ型」


―実際にオンライン型の支援を開始されてみて、何か大きな変化はありましたか?

 従来の教室型では週末のみでしたが、オンラインにしたことで、子どもたちは望めば毎日支援を受けられるようになりました。子どもたちの日常の学習状況がわかるようになり学習計画が立てやすくなったという点で、オンライン型の支援は私たちにとってもプラスに働きました。

 また、難民の各家庭は意外にもiPad等のデバイスを持っていたんです。なので、思っていたほどは、子どもたちの学習環境が整わないといったことはなかったです。とはいえ、ない子はないので、そこは次の課題かと思っています。


―オンラインにしたことによるプラス面は多かったのですね。

 今のところはそのように感じています。私たちは家庭訪問的な支援はしないというのを決めごととしています。オンラインによって、詮索はしないけれど子どもたちの生活圏が少し見えるようになり、ちょうどいい距離感を構築できたように感じました。

 子どもたちが家にどの程度の学習リソースを持っているのかがわかるようになりましたし、家族全員でwi-fiを繋げるために試行錯誤している様子などを見ると、支援者(日本語や学習支援のボランティア)はもっと難民の家族を応援したい!という気持ちになったと聞いています。


■日本語の日常会話はできるのに、大学で壁にぶつかる難民の子どもたち


―日本語学習における、子どもたちのモチベーションはいかがでしょうか。

 ネット社会になって、子どもたちにとって「遠い祖国も遠くなくなった」というのが、実は支援するうえで難しいところです。というのは、インターネットを通じて祖国の人とすぐに繋がれて母語でコミュニケーションができると、日本語を学ばなければならないという気持ちを持ちにくくなることもあるからです。

 また、日本を本拠地と感じていないのか、日本語の勉強に100%打ち込めていないように見える子どももいます。「自分にはもっと違う場所がある」という思いで、日々生きているような印象を受けるんです。言語の習得には5~7年かかりますが、それは子どもにとっては非常に長い時間です。遠くのゴールを目指すことにピンときてないことが、理由のひとつだと思います。



―高校までは問題なく学校生活を送っていても、大学になると勉強についていけず、中退する難民の子どもが少なくないと聞きました。その原因は何だとお考えですか? 

 日本語をツールとして、論理的に考える能力が不足していることが原因のひとつではないかと考えています。大学では、高校までの受動的な学びと異なり、能動的な学習活動、つまり日本語で論理的に考えて自分でアウトプットしていく力が求められます。様々な背景により、日本語レベルがそこまで達していない子どもは大学でつまずいてしまいます。これには、おそらく読書をあまりしていないことも影響していると思います。読書をしてなければ文書を書いたりできないですよね。

 日常会話では全く日本人と遜色なく話せる子どもにとって、大学で直面するそのつまずきは非常にショックなことです。

 こうした状況を受けて、今「対話型アセスメント:Dialogic Language Assessment (DLA)」*1の勉強会をしています。DLAとは、日常会話はできるが、教科学習に困難を感じている児童生徒対象とした日本語能力の測定方法です。子どもたちの言語能力を把握するだけでなく、どのような学習支援が必要であるか、教科学習支援のあり方を検討するための手段として有効だと感じています。

 *1参考:文部科学省初頭中等教育局国際教育課(2014)「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメント」


―DLAを通して、新たな発見や気づきはありましたか?

 DLA勉強会の先生が、母語の重要性を説明してくださったのが印象に残っています。

 非常に知的で、母語だったらもっと多様な表現ができるだろうなという難民の方が、簡単な日本語の単語を並べて子どもと接することがあるのですが、そういうケースでは子どもの言語能力が伸び悩むことが多いように思います。そのような場合に「親御さんも日本語頑張りましょう!」と声掛けしてしまうことで、親に相当のプレッシャーがかかってしまう。もちろん親は子どもの将来を考えて必死に日本語を使っているのですが、親は親で凛として自分の言葉を愛し、それを子どもに継承していくくらいの強い姿勢をもつことも大切なんです。日本語の習得に加えて、母語で思考する力を身に着け、そしてきちんと読書もするというのが、大学に入っても困らない言語能力を身につけるには必要なことではないかと思います。

 DLAでの学びも踏まえ、今後も難民の子どもたち、そして大人たちが自分らしく本領を発揮できるような支援をしていきたいですね。

 

―日本語学習支援を40年以上も継続されている中で、我々のオンライン日本語学習支援(LIP-Learning)に期待することを最後に伺えますでしょうか。

 これからオンライン学習が増えて質が問われるなかで、既存のプロフェッショナルのコンテンツを上手く利用して提供するというのは、日本語教師の私からすると望ましい形です。今まであまりなかった支援の形なので、非常に興味深いですし貴重だと思います。


―オンラインでありながら書き取りの授業ができたり、日本語能力試験の学習に特化したプログラムを提供できないか現在模索しています。

 内容が充実してくると、いろいろな方のニーズにあってくると思います。期待しています!


―ありがとうございます。ぜひ今後ともお力添えいただけると嬉しいです。今日はありがとうございました!

 こちらこそありがとうございました。


―――お知らせ―――

 最後までお読みいただきありがとうございました! Living in Peace 難民プロジェクトは、難民の方々に日本語を学ぶ機会を提供するためのクラウドファンディングに挑戦中です。


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