2020/10/09 17:00


 気候変動は今や途上国の貧困問題を考える上で、切り離せない問題となっています。近年では気候変動による環境の変化が農業や漁業へ被害をもたらす事例や、異常気象によって貯蓄が十分ではない貧困層の生活が脅かされる事例が増えています。

 本稿から複数回に分けて気候変動問題について紹介します。

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気候変動問題とは

 気候変動問題とは、大気の状態が一定期間に大きく変化していくことに起因する自然環境の変化と、それにより人間などの生物が被る様々な問題のことを言います。


 大気が変化する要因には、エルニーニョ/ラニーニャ現象や太陽エネルギーに代表される自然要因と、温室効果ガスに代表される人為的要因の二つがあります。太陽から大気が受け取ったエネルギーは大気と接する宇宙空間へ放出されることで均衡が保たれますが、近年は温室効果ガスの影響で大気からの放出が減り、大気の温度が上昇する傾向が指摘されています。


気候変動が及ぼす影響

 では気候変動によってどのような影響があるのでしょうか。実際に世界で起こっている事例としては、北極海の海氷の減少や、海面水位上昇、サンゴの白化現象、降雨パターンの変動 ・水害、森林火災、ハリケーン、熱波の発生頻度の増加などが挙げられます。


 これらの問題に対する対策の必要性は、国際的に高まっています。1992年には、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標とする「国連気候変動枠組条約」が採択され、世界は地球温暖化対策に世界全体で取り組んでいくことに合意しました。


 1995年以降、同条約に加盟する国々によって気候変動枠組条約締約国会議(COP)が毎年開催されています。2015年のCOPで採択され、2016年に発効されたパリ協定では、温室効果ガスの削減目標等が定められ、196ヶ国が参加しています。


 2018年には国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から「1.5℃目標」レポートが発表されました。同レポートによると、2018年時点の世界平均気温は産業化以前と比較して約1.0℃上昇しており、このペースが続けば2030年~2050年頃には1.5℃、さらに2100年には約3~4℃上昇すると推測されています。


 また同レポートでは、平均的な気温上昇が1.5℃の場合と2℃の場合によって、生態系や地球環境が受ける影響を比較しています。たったの0.5℃の違いですが、その影響は大きく異なります。


 例えば1.5℃上昇した場合、日本国内での猛暑日(35℃以上の日)の年間発生回数は12日~24日ですが、2℃上昇した場合では24日から30日になると言われています。


 農業や食料安全保障の観点で見ると、2℃上昇した場合、最大約4億人が影響を受けますが、1.5℃に抑えられた場合には最大3600万人まで抑えられます。


 海の生態系を支えているサンゴ礁は、2℃上昇した場合、2100年には絶滅または99%が消滅する可能性があります。一方、1.5℃の上昇では90%以下に抑えることができます。


影響

1.5℃

2℃

水不足

現状+約5億人が水ストレス

(2000年時点で38億人)

現状+約6億人が水ストレス


生態系

地表の7%で生態系が変化

(70~90%のサンゴ礁が消滅の危機)

地表の13%で生態系が変化

(99%のサンゴ礁が消滅の危機)

沿岸地域

3100~6900万人に洪水のリスク

3200~7900万人に洪水のリスク

食料

3200~3600万人に作物減産の影響

3.3~4億人に作物減産の影響

健康

35~45億人に熱波の影響

54~67億人に熱波の影響

熱病の罹患率が上昇

(IPCC 1.5℃特別報告書を参考にLiving in Peaceが作成)

 

 このような気候変動現象を最小限に抑えるため、「1.5℃度目標」レポートでは2030年までの気温上昇を産業化以前と比較して1.5°C未満、あるいはそれ以上に抑制することを目標に掲げています。

 また、その目標実現のためには「2030年の温室効果ガスの排出量を、2010年と比較して約45%削減することが必須条件である」と結論付けています。


(出典)

1. IPCC, 2018: IPCC1.5℃特別報告書. pg 20,26,213,247,453

2. 環境省, 2018: 気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~. pg41

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次回は、気候変動問題の原因や被害について掲載したいと思います。