2021/03/01 00:24
花粉舞う季節

だいぶ暖かい日が続くようになり、花粉のシーズンになってきました。ここ和歌山研究林も他地域と同様、スギ・ヒノキがせっせと飛ばしています。下の写真は道端にあったスギの枝を振った写真です。見事なまでに花粉が飛び出してきました。幸い、僕はそれほど花粉症が酷くないのですが、症状が重い人にとってはつらい季節かもしれません。

スギ花粉 左の枝を振ったところ右のように白い花粉が飛び出てきました。

 毎年、去年の~倍、…倍と留まるところを知らない花粉ですが、対策として無花粉または少花粉になるスギ・ヒノキの品種がいくつか開発されています。林野庁によると、全体のスギ苗生産量に対する少花粉スギの割合は、2007年時点で 2.2%だったのが、2018年には51.8%となっています。目標では2032年までに、この割合を70%にするようです。急激な数字の上昇を見ると、もはや国民病ともいえる花粉症に注目が集まっていることが伺えます。

 しかし、苗木生産と植林面積は別なので、現在の人工林を無/少花粉スギ・ヒノキに植え替えるためにも、伐期に達した人工林の利用促進が必要です。また、一遍に山全体を植え替えることは、保全の観点から様々な問題が発生するので、まだ暫くは花粉症とつきあっていくことになるでしょう。折角の春なので、気持ちよく森を散策できる日が来ると良いですね!

官舎横の梅



国内林業への影響は?

 さて前回、南洋材の動向についてご紹介しました。では、日本がかつて依存していた南洋材が入手困難になった現在、その変化は国内林業にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

以前ご紹介したように、国内の林業は木材価格の低下から、長らく低迷期を迎えていました。その結果、国内では拡大造林期に植栽された針葉樹が利用されずに伐期を迎え、かつてないほど森林資源が蓄積しています。そこにきて外材の一部である南洋材がストップしたことは、むしろ外材が幅を利かせていた市場に国産材を売り込むチャンスかもしれません。ホームセンターでよく見る北米産のホワイトパイン(右下)

 また、人工林の利用が進むことは、パリ協定における温室効果ガスの削減目標達成に貢献することも考えられます。パリ協定では温室効果ガスの削減目標に対し、森林のCO₂固定機能を計上することができます。そこで日本政府は、パリ協定における温室効果ガスの削減目標(2030年までに2013年比26%減)のうち、2%を森林吸収量で確保することを計画しています。しかしそのためには今年から2030年にかけ、年間45万haの間伐と、地域材利用による伐採木材製品の蓄積が必要とされており、需要の創出が不可欠でした。このコンテキストでは、南洋材の供給停止は必ずしも悲観的なニュースではないでしょう。平井集落周辺でも、伐期を迎えた人工林の皆伐が進んでいる

 実際に需要の創出として林野庁の中部森林管理局が昨年、新しい取り組みを始めています。そこでは、従来の大量生産を目的とした規格通りの材生産に対し、オーダーメイドの材生産を行うことで新規の需要を生み出しているそうです。良くも悪くも、「個」が尊重される現代においては、大衆受けよりも個人の嗜好性に沿ったサービスが求められる傾向があります。その流れからすると、林業においてもオーダーメードの材生産を行うことは潜在的需要を掘り起こすことになるかもしれませんね。さらに、大量生産を目的としない場合、海外林業に比べ経営規模の大きくない国内林業はむしろ小回りが利くという点で有利に働く可能性もあります。個人的には様々な木材が提供され、自由な発想の建築が可能になった街並みを是非とも見てみたいものです。縁側を支える柱に枝付きの柱が利用されていたりしたら面白そうですね。

研究林産の種・形ともに個性豊かな材たち

需要の創出は国内だけに留まらない

 前回は、南洋材の動向をご紹介しましたが、南だけではなく北の材にも変化が起きています。ロシアが2022年に丸太輸出を禁止することを受け、中国からの需要が高まると予想されているのです。日本国内では人口減少が進み、住宅着工数が減ることを考えると、海外での需要獲得は安心材料になります。しかし、ここで注意したいのは、適切な森林管理を行ったうえでの材生産が必要であるということです。すべての需要に応えたために、国内の森林が過剰伐採状態となっては元も子もありません。木材に付加価値を!

 また、丸太での輸出ではなく、加工品を輸出することで付加価値を付け、国内産業を発展させる取り組みも必要となります。例えば有名な林業会社の東京チェンソーズは「儲かる林業」を目指していることで有名ですが、付加価値をつけることにこだわるそうです。丸太で売ってしまうと数千円にしかならない材が、輪切りして磨けば一枚500円でも売れる。そのような努力が補助金だよりにならない林業を支えるといいます。この姿勢を見習って、海外からの需要が増加したとしても、ただ丸太を売るのではなく何らかの加工品を売ることで、林業のビジネス性の発展も進められると良いですね。


参考文献

・林野庁:林野庁における花粉発生源対策 閲覧日2021年2月28日
・ロシア丸太、22年から輸出禁止か 中国、日本から代替調達も 日経
・木の匂い残る机が身近に 若者とデジタルが変える林業 日経
・デジタルが変える林業 日経
・林業で食べていく!木材の未来を切り出す東京チェンソーズ mugendai
・特殊な大きさの木材、注文で伐採 長野の国有林活用 信越トピックス 日経
・東南アジアの木材産出地域における 森林開発と木材輸出規制政策. 立花 敏. 2000.『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会) 第3巻 第1号 2000年7月 49頁~71頁