2021/12/05 19:14

支援者のみなさま、お久しぶりです。みなとメディアミュージアム共同代表の小川です。先日、無事にMMM2020→2021の会期が終了しました。予想以上に多くの方に足を運んでいただき、手応えのある芸術祭となったように思います。ひとえに皆様のご支援、ご協力のおかげです。ありがとうございます!

今回の活動報告では、いくつかの作品の写真と現地の住民との会話を掲載し、会期の様子を少しでもお伝えできればと思っております。

なお、エコツミさんの作品をご購入いただきました皆様には、作品の発送が大変遅くなりましたことをこの場をお借りしてお詫びいたします。また、MMMツアーご購入者や、記録動画購入者の皆様へのご案内も遅くなっておりますが、ようやくMMMの会期が終了しましたので、順次対応をさせていただきます。引き続きよろしくお願いいたします。

エコツミさんパフォーマンス「神話行列降臨道中」に集まってくださった観客の皆さん

今年はコロナウイルスの流行により、例年と大幅に異なる対応に見舞われましたが、同時に今までにない新たな試みが可能になったことも事実です。

まず、本クラウドファンディングをはじめとした新たな資金調達方法の模索。空き家プロジェクト「みなへそ」の発足。オンライン作品紹介に地域を巻き込んだパフォーマンスの実施、これまで以上に「フィールドワーク(現地滞在、現地調査)」を重要視したキュレーション…。

(オンライン作品紹介は以下のリンクにてご覧いただけます。ぜひご覧ください)

https://minato-media-museum.com/2021/09/オンライン作品紹介/


そして先日、MMM大賞や審査員賞の審査が終了し、以下のように決定しました。なお、審査員は小國陽佑さんに務めていただきました。


審査講評

コロナ禍によってさまざまな活動が制限されるなか、元町みろくをはじめとした地域住民を主体的に巻き込み、しばらく忘れかけていた興奮とともにアートが持つ力の可能性を見ることができたという点において「語りうる可能性」が拡げられていたものであると評価し、MMM2020→2021の大賞受賞作品に選出しました。

日本神話というモチーフを現実離れさせることなく、日常的な物語行為に落とし込むための、地域住民との綿密な練習は、単に技術的な向上だけでなく新たな繋がりをも構築するものでした。パフォーマンス終了後に参加した皆さんが物語った言葉たちは・エコツミ・さんのパフォーマンスによって生まれた繋がりの現れといえるでしょう。

「・エコツミ・さんが歌い始めたときに、自然と、涙がスーッと出てきたんです。」「レッドカーペットの上を歩いているような気持ちで歩きました。」「この場にいられて本当に嬉しかったです。」

この土地に住まう人たちの口や身体や声を通して、神々たちが顕現するという身体知的アプローチはまさに、地域住民・彼ら・彼女ら・そして私たちにとっての「語りうる可能性」を拡大させていくことでもあり、アーティストたる・エコツミ・さんの「語りうる可能性」をこの場でしか表現し得ない、ただ一度きりのハレの顕在化として確立させることに役立っています。

私たちは日々どこかで祈り、期待し、落ち込んで、ケである日常の紡ぎの中に生きています。ケである日常に堆積していく断片たちをアートというメディウムが緩やかに繋ぎ合わせ、日常では響きにくい声と言葉をパフォーマンスを通した神話作用によって外在化させたことは、我々みなとメディアミュージアムが目指すものと強く響き合います。

「アートにふれることなくしては出会うことのできなかったヒト・モノとのつながりによって、新たな地域の資産を、あるいは形としては残らずとも価値のある経験や体験を生み出すことを目指します。」

・エコツミ・さんのパフォーマンスによって、「あのときこんなことがあったよね」「あのときのこと、覚えてる?」と、那珂湊に住まう人たちや私たちがいつか思い出し語りうる可能性の大きな種を、豊かな響きとともに撒いていただいたことを、みなとメディアミュージアム実行委員会一同は誇らしく感じています。



審査員講評

日常の風景に優しく作品が浸透し、乗車した多様な人たちへ語りかけるコミュニケーションの可能性を提示する作品だと感じました。誰かと誰かの言葉のリレーの末にバトンを鑑賞者に譲渡し、もし(if)自分ならと心の扉を開き、「もしもし」とまた誰かに言葉を紡いでいく…作品の構成要素はシンプルでありながらも、その受け取り方や感じ方は多様で、また鑑賞する状態や状況によっても様々に変化する非常に豊かな鑑賞体験を得ることができると感じました。

また、公共空間であることを前提とし、誰のことも脅かさない(作品の視認性やフォントのバランス等も配慮した)絶妙な空間の設計にも優れた目配りと気遣いを感じます。また、一時的閉鎖空間に不特定多数の様々な人が場所を共有する車両という特質上、如何に乗車する隣人への配慮や気遣いを間接的に生み出すかという点においても、ある種緊急性を持った昨今の社会問題への応答と捉えることもでき、そのオリジナリティあるアイデアの汎用性や拡張性に期待が膨らみます。また、エコツミさんの街に伝わる古来の伝承を受け継いだ表現と比較し、個人の物語(それは無意識的・感覚的・断片的であったりする)をつむぎながら、ある種誤訳と誤解を重ねながらも信頼をおいて対話を続けている様が、人間の営為の縮図のように思います。またそれは出発点として不完全性を受容し語り手を包摂する意味としても捉えます。

意図せずとも作品が様々な人の目に留まり心の琴線に触れ、語りうる可能性を匿名ではない各個人へと委ね、射程を広げ創造性の豊かさに貢献している点に高く評価します。




童心に帰るような作者のまなざしと身体感覚から那珂湊を捉えた作品。
来訪者を迎えるカラス、白鳥との会話、石蹴り遊び……てらいのない瑞々しい感性が、多種多様なメディア(ポスター、Map、本、液晶ディスプレイ、プロジェクター、石ころ)と空間構成によって、技巧的に表現されている点も興味深い。スピーカーのサイズ感と床面への設置が的確だったためか、石ころを蹴飛ばす音も妙にリアルに感じられた。
そういった意味では、那珂湊という地域を、「メディア」「モダリティ」「自らの足」異なる3つの視座から横断して構築した作品とも言える。



(講評はなし)

〈作品の様子と会話〉

廣野鮎美さん「転がる杖の先、ここにいるよとカラスは鳴いた」映像作品


小川:ちなみに今日は何人ぐらい来られましたか?

会場のおばあさま:今日はねえ。結構。30人かな、31人。31人来ましたよ。作品を見ずに帰っちゃった方は2、3人かな。家族連れの方とかもいらっしゃってて。でもなんだか、意外と……。若い人もいるんだけど、年配の方が結構。

小川:そうですね、湊線関係の方でしょうか。

おばあさま:ああ、なるほど、そういうね。

小川:もともとこの団体は、ひたちなか海浜鉄道とのコラボといいますか、そういう繋がりもありますので、鉄道関係のかたも見に来ていただけているのかなと。

おばあさま:そう。わたしら全然わかんないの。こういうイベントがあるって全然。地元なのにねえ。それで今日こうやって見てて、お客さんがいらしてはじめて、へえ〜と思ったんだけど。東京都内とかなのかな……と思ったら阿字ヶ浦とか。そういうところからも来てるらしくて。ねえ。

小川:阿字ヶ浦でもMMMがイベントやっておりますし。そういう繋がりもあるかなと。

おばあさま:そうなのね、わたしら全然わかんなくて。今日こういうのがあるって知って、それで友達に電話したんだけど。あのほら、天満宮からね。

小川:パフォーマンスですね。

おばあさま:なんだかそのほうで練り歩くっていうのは新聞で見たんだけど。友達と話してて。祭りなんかできないし、へえ? こんな時期にねえ?と思ってたんだけど。これに書いてありました。ねえ。全然わかんなくて。それでまた電話して、「そうなのけ!」って言ってたんだけど。やっぱりちゃんとねえ。A4一枚でいいから、私らにもわかるようにね。ここにも書いたんだけど(当番の方へ、MMMのスタッフが鍵はやっていただけます。右奥の展示の場所がわかりずらいので声掛けをしてあげてください。というメモ)、紙に書いてね。

小川:やっぱり回覧板がいちばん良いですかね?

おばあさま:そうだね。回覧板はわたしらしっかり見るから。みなとのほうはみんな見るんじゃないかな。そこにね、そんなしっかりじゃなくていいから。A4とかね、紙一枚あるだけで違うと思うんだけどね。

おばあさま:わかりました、ありがとうございます。来年からそういうふうにできるように。ありがとうございます。

三本木歓「船窪トポリサイタル」インスタレーション風景

住人:この作品では船窪だけなの?

スタッフ:そうですね、三本木さんがリサーチされた経緯が、マップ上で船窪という地名を見かけて、それに興味を持って作品に落とし込んだというものがありますので、この作品では船窪がメインの対象になっています。

住人:その隣とかの場所はないんだ。

スタッフ:そうですね。

住人:ここに行ったの?(実行委員は)

スタッフ:スタッフも何名か現地に行ってはいます。

住人:あなたは行ったの?

スタッフ:いえ、私はいけておらず…アーティストさんの資料と作品を見て理解しているという感じですね。

住人:それはどうなの? その、そちらの団体として。作品を見て、それから現地に行くというのは。

スタッフ:すみません、どういった…

住人:だから、あなたはここに行ってないわけだね(船窪という地名を指差しながら)。スタッフがこの場所に行っていなくて、作品ではじめてこの場所のことを知るというのは、MMMとしてどうなのかなって。

スタッフ:そうですね、基本的にアーティストの皆さんには、現地に赴くことを義務付けておりますし、我々スタッフもその場所に行くべきではあるのですが、やはりコロナのなかで、現地に行くスタッフの人数を制限せざるを得なくて… スタッフとアーティスト含めて、3、4人までということにして、現地のフィールドワークをやったのですが、そういうことで私はそこに行けておらず…という感じです。

住人:うーん。(考え込む) そうだね。それはあるか。でもさ、昨日とか今日とか。行けばいいんじゃないの? ここに(船窪に)。

スタッフ:そう…ですね。確かに。行けていなかったです。

住人:MMMのさ。スタッフも作品を見る前に、行くってことだよね。

スタッフ:そうですね。そうするようにします。ありがとうございます。

(しばらく時間をおいて、出ようとされる時に)

スタッフ:すみません、あの。どういったかたなのかお伺いできておらず…

住人:あっ、僕ですか。大洗の住人です。

スタッフ:あっ、大洗の。何かこう芸術関係とか…

住人:(手を振りながら)こういうのが好きで。前にもやってたなと思い出して、ここ(百華蔵)来たんです。

スタッフ:なるほど、毎年ここには展示ありますもんね。来ていただいてありがとうございます。

Elliott Haigh + Nana Sawada 「Time Line」展示風景

〈お知らせ〉

先日のクラウドファンディングでは78万円の支援をいただきましたが、うち45万円が作家還元、31万円がMMM運営費用として使用されました。MMMの運営費用としては、作家のコロナ対策費用、アートマップやポスターの印刷費用、スタッフの感染対策費用といった内訳になっています。

なお、当初の文面と重複いたしますが、エコツミさんの作品をご購入いただきました皆様には、作品の発送が大変遅くなりましたことをこの場をお借りしてお詫びいたします。また、MMMツアーご購入者や、記録動画購入者の皆様へのご案内も遅くなっておりますが、ようやくMMMの会期が終了しましたので、順次対応をさせていただきます。引き続きよろしくお願いいたします。

〈最後に(これからも)〉

MMM2020→2021の会期は終了いたしましたが、クラウドファンディングを通してご支援いただいた皆様との繋がりは決して消えることはございません。本団体みなとメディアミュージアムのビジョンとして、次のようなものがあります。

今年度の芸術祭はまさにこのビジョンに沿った運営を行うことができたのではないかと思います。このクラウドファンディングもその一助となったのではないでしょうか。みなさんの個別具体的な記憶が深く重なり合い、一度きりの、そしてずっと続いていくかけがえのない経験を作り出していく。そんな過程に、我々みなとメディアミュージアムが関われたことを、これ以上なく喜ばしく感じています。

冬の寒さもいよいよ厳しくなってまいりますが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。ではまた、次の活動報告にて!

(文責:小川)