2022/06/24 12:00

2021年にスタートしたTIMESIBLEプロジェクト。今年も、個性あふれる5人の学生デザイナーがポップアップにて作品を発表します。Designer interviewの第2回は、ファッション高度専門士科2年の安藤琉さんにお話を伺っていきます。


現在の自分を構成するさまざまな経験


___安藤さんは、文化服装学院に入るまでの経験が面白いというのを聞いています。まずは、これまでの人生について聞かせて下さい。


安藤:幼稚園へ通っていた頃から高校までは、ずっとサッカー少年でした。小学生の頃には、マンチェスターユナイテッドサッカースクールに参加し、1人でマンチェスターへ短期留学した経験もあります。


また、サッカーだけでなくバイオリンを習ったり、中学受験を経験したりとさまざまな挑戦をさせてもらいました。


___安藤さんの多彩な人物像が伺えます。マンチェスターへのサッカー留学は羨ましい。

ファッションが好きになったのにきっかけはありましたか?


安藤:ファッションが好きになったきっかけも、もともとはサッカー用品のデザインに惹かれたからです。プレーすることと同じくらい、スパイクを履くのが楽しみだった。そこからスニーカーをチェックするようになり、高校生の頃にはファッションを将来仕事にしたいと決意するほどのめり込んでいきました。


高校に入っても挑戦志向は変わらず。1年生の頃から独学でジュエリーを制作し、自身でポップアップを開いて販売するなど、普通の高校生にはできない経験をしてきました。


また、高校の頃はヨウジヤマモトばかり着ていました。山本耀司さんのインタビュー記事などを読み漁り、今までの常識を打ち破るデザイナーの考え方に衝撃を受けた。実際にパリでヨウジヤマモトのショーを見て、山本耀司さんに会った時の興奮はいつまでも忘れられません。


文化服装学院に入学しようと決めたのも、山本耀司さんが文化を卒業されているからです。山本耀司さんは私に「文化に行ってデザイナーを目指そう」と決意させてくれた、最も影響を受けた人物です。


キレイハキタナイ、キタナイはキレイ


___安藤さんの作品には、どんなバックグランドがあるのでしょうか?


安藤:服と向き合う時、意識しているのは「キレイハキタナイ、キタナイハキレイ」というシェイクスピアの「マクベス」という作品に登場する言葉です。この言葉、なぜか頭の中にずっと残っていて、、、というのも、現代においても「キレイハキタナイ、キタナイハキレイ」という言葉に納得する瞬間が多々あるんですよね。


例えば、都心の整備された街並みは人々にとって「キレイ」ですが、動物や植物にとっては住みにくく、「キタナイ」場所であると言えます。

逆に、動物達にとって「キレイ」で自然的である場所は人間にとっては「キタナイ」場所であると思います。

人間にとっての「キレイ」とは本来の姿とは異なり、不自然であることなのです。


ファッションの世界でも、同じことが言えると思います。そう遠くない昔、一般市民の着る服はハンドメイドであったり、1着の服を何度もリペアして長く使ったりと人の手が加えられたものが主流でした。しかし、既製服の流通が確立された現代では不自然な「キレイ」さをもつ服がほとんどで、人の手の痕跡をイメージできるような洋服は少なくなっています。服を作るという行為は想像以上に手間がかかります。効率化され、大量生産される洋服にも必ず人の手が関わっています。機械にパーツをセットすれば自動的に完成する。ということは洋服の世界ではありえないのです。しかしながら、そういった制作者の苦労や、手作業の痕跡のようなものが見えなくなっている現在の不自然な製品は、服として本当に「キレイ」なのか?と、よく考えさせられます。特に作り手としては、人の手の痕跡が感じられるものに愛着が湧き、「キレイ」だと思うわけです。


___安藤さん自身には、ファッションシーンに対してそういった思いがあるのですね。作品のキーワードである「キレイハキタナイ、キタナイハキレイ」という言葉は作品にどう表れていますか?


安藤:細かい部分、ディテールによく表れていると思います。文化服装学院に入学して初めて制作したスカートは、手縫いで完成させたところや自分で手間をかけて染色したところに表れています。敢えて人の手が加えられたことが分かるディテールを取り入れ、自然な手作業の痕跡、「キレイ」さを表現しています。


ブラウスについて


安藤:ヨーロッパの服は昔からシンメトリーなデザインのものが主流なのに対し、中国や日本などアジアの服はアシンメトリーのものが多くみられます。スカートの次に作ったブラウスはアシンメトリーで、アジアの美意識を取り入れたデザインになっています。


ブラウスも、こだわった点はディテールです。実はこのブラウス、ボタンホールを全て手縫いで作っています。ミシンで開ければ数秒で済むような箇所ですが、それは私にとっては不自然でキタナイものなので、あえて手作業の痕跡を残すように手かがりでボタンホールを開けています。


また、汚しのようにも見える墨汁染も自然な洋服のあり方を表しています。毎日キレイな洋服に着替え、整った状態を保つことは、本当の意味で自然でキレイなことなのでしょうか?


ジャケットについて


安藤:パッと見で生地のインパクトが強いジャケット。もちろん全体のデザインにもこだわったポイントは沢山あるのですが、注目して欲しいのはやはりディテールです。


このジャケットで最も労力のかかった部分が、銅板から一つづつ手作業で削り出して作ったボタンです。ジャケット本体を縫い上げるのと同じくらい時間をかけたかな。


「侘び寂び」という美意識をずっと大事にしていて、それを今回は自作のボタンに取り入れました。錆びた色のボタンを美しいと感じる「侘び寂び」の感性は、大変な作業になったとしても大切にしたいですね。


デザイナーとしての理想像


___ディテールへここまでこだわりを持つのは、何か思いがあるのでしょうか?単に「キレイハキタナイ、キタナイハキレイ」というコンセプトを形にする為のツールでは収まらないほど、熱意を感じます。


安藤:制作しているときは思いやコンセプトを考えるよりも、ただ単にその時の自分がかっこいいなと思うものを追求するようにしています。「「見る側の判断は、完成したものが美しいかどうか。それだけですから。」」そうした姿勢が、結果的にディテールへのこだわりにつながっているんだと思います。服を作る際は自分の直感に対して素直になるようにしています。


ディテールに面白さを詰め込むのは自分の強みだと思っているので、将来自分のブランドを持つことができれば、ディテールを通じて興味や疑問を持ってもらえるような服を作り続けたい。


___自身のブランドを立ち上げるという目標を持っているのですね。興味や疑問を持ってもらえる服というのはどんな服なのでしょうか?


安藤:服に興味のない人にも何らかの気付きを持ってもらえるような服を作りたいです。ボタンホールが他製品と違うだとか、ポケットの付き方が変だとか、些細なことでも何か印象を持ってもらうこと。そういった印象、疑問、気付きが結果的に興味に繋がり、自分の服を入り口に服を好きになってくれる人がいれば理想です。


反対に何も思われないような服は作りたくない。何の印象も持たれないなら、批判されたり笑われた方がマシだと考えています。ディテールに何かしらの要素を隠し、服を楽しめるきっかけを作っていきたいですね。