2017/11/14 09:17

ただハンドブックを作るだけで、すぐに性暴力がゼロになるだとか、そんなことはありえません。

ハンドブックは、性暴力を撲滅する銀の弾丸などでは決してありません(そうあるべき、とも思いません) 

けれど、ハンドブックを読んでくださることで、自らがもつ性暴力に関する誤解や偏見に気づき、周囲の人にそのことを伝えたり身の回りで実際に行動したりして、性暴力をなくすための長い道のりを一緒に歩んでくださる方が一人でも増えれば、とてもとても勇気づけられる、そう思いながら、今回のプロジェクトに携わっています。 

僕自身、ワークショップに参加して、そこから「同意」を広める活動の運営側に回って、自分自身、一歩踏み出せたと感じる出来事がありました。

とても個人的かつ長々しい話で恐縮ですが、よろしければ、お読みください。
(*性暴力についての記述があります。閲覧の際はご注意ください)

 

ある夜のことでした。

たいがいパソコンをひらくと、メールチェックして、ツイッター開いて、というのがルーティンの僕。いつものように、ツイッターの画面をスクロールしてると、あるツイートが目にとまりました。

もう夜も更けつつある時間帯です。身の毛もよだつような恐怖が、赤裸々と綴られた投稿でした。

そのツイートをつぶやいていたのは、昔からの友達でした。責任感が強く、誰に対しても優しく、感受性の豊かな、そんな素敵な子です。

何の理由もなく、何の同意もなく、わけもわからないまま、加害者の自分勝手な行為によって、いきなり被害にあった友人のことがとてもとても心配になりました。

十年来の仲ですし、一年に一度くらいは何かにつけて会う友達ですから、連絡すること自体は難しくありません。

でも、その子に「大丈夫??」と連絡しようかどうか、一瞬迷ってしまった自分がいました。

遅い時間帯というのもあったし、何より余計なお節介じゃないかな?何様だよ?って思われないかな、と不安になった自分がいました。

でも、少し考えて、「余計なお節介は焼くなよ」とは言われたくない、自分の行動を否定されたくない、そんな、ちっぽけな自分を守りたいがための「不安」なんかよりも、

いわれのない暴力に直面してその子が感じた「不安」の方が、よっぽどキツかっただろうし、大変だったろうなって、思い直しました。連絡しようって。

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問題は、どうやって声を掛ければよいか、です。

ツイッターにはリプライ(ある人がつぶやいたツイートに対して、返信をすること)という機能があります。その子がつぶやいたツイートにリプライすることも考えました。

でも、それはできないと判断しました。

その子のアカウントは公開されていないのに、アカウントを公開している僕がリプライを送ると、そのリプライの内容は不特定多数に見られてしまいます。

僕のリプライの内容次第では、その子が性暴力被害にあったことが、図らずも露見してしまいます。

その子が非公開のアカウントでツイートしている以上、僕がその非公開のツイートの内容を示唆するような返信をしてはいけないだろう、と思い直したのです。

結局、今となっては最初からこうするしかなったと思いますが、LINEでその子に直接連絡しました。

余計なお世話を焼いてごめんね、と断りつつ、とても心配しているということ。

自分の気持ちや状態が落ち着くのをまず一番大切にしてほしいこと。

そんでもって、もし気持ちと体力と時間に余裕があれば、警察に連絡してみる(*1)こと。

そんなことを伝えました。

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この声がけが百点満点だったかどうかはわかりません。

でも、及第点ではあったと思います。

被害を軽くみたり、被害にあった子の落ち度を追及したりするセカンドレイプに加担しないように、伝えたい内容と、伝え方を慎重に慎重に選び抜いたつもりです。

被害にあった人を心配する仕方に、模範解答などありません。その人との関係の深さや長さによっても声のかけ方は変わってくるだろうし、内容も違ってくると思います。

でもそれは、心配さえすれば何でもあり、ということでは決してありません。

これだけは言ってはいけない、そんな言葉がいくつかあります(*2)。たとえ良かれと思っても、被害にあった方をさらに傷つけてしまう言葉です。

文末に詳述しましたが、どれも、咄嗟にかけてしまいそうな言葉です。でも、絶対にかけてはならない言葉です。

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真夜中の突然の連絡にもかかわらず、不安で仕方がなかったであろうにもかかわらず、その子は丁寧な返信をくれました。

しかも、自分のことで精一杯なはずなのに、わざわざ感謝の言葉まで添えてくれました。

そうやって返事が来たことで、幸い、その子が安全な状況にいることが確かめられました。

加害者に対する怒りは収まりませんでしたが、何より、その子が無事でいることにホッとして、その日は眠りにつきました。

 

その夜の出来事を思い返して、あることに気づきました。

「1年前の自分は、同じように誰かに声をかけることができただろうか」

できなかったと思います。

できたとしても、セカンドレイプに加担していたかもしれない。ピントのずれた心配の仕方をしていたかもしれない。

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では、どうしてその日はできたのか。

それはやはり、同意ワークショップに参加して、「同意のない性的言動はすべて性暴力である」ことを知って、強かん(*3)だけでなく、たとえ夫婦、パートナー間であってもさまざまなかたちで起こりうるし、何よりちかん(*3)も、メールやSNSでの性的な嫌がらせも、盗撮やのぞきも、法律上の罪の軽重を問わず、すべて「同意のない性的言動」であることに変わりはないことを知っていたからです。

そして、「加害者でも被害者でもない第三者が、性暴力に発展しうる / 性暴力を助長する状況に介入することで、性暴力を予防・阻止すること」を指す「第三者介入」に関するワークショップ(*4)を準備するなかで、介入には未然にする方法である3つのD(*5)だけでなく、事後のフォローアップ(*6)もあるということを知っていたからです。

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僕のように、一年前には何も知らずに過ごしていたとしても、

本当に行動すべきなのだろうか、声かけをすべきなのだろうかと迷っても、

それでも最低限の知識をふまえて、それぞれができる方法で、誰かを思いやり、行動できる人が一人でも増えればいいな、という願いをこのプロジェクトに込めています。

誰も傷つけない、誰も傷つかない社会へ。誰もが安心して過ごせる社会へ。

ご支援のほど、何卒よろしくお願いいたします。

 

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(*1)警視庁のHP(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sodan/shien/w_crime.html)には、「性暴力被害にあったら!」というページで「被害から時間がたってしまった・・・」場合について、「少し落ち着いてからでも構いません。ひとりで悩まず、最寄りの警察署又は電話:#9110番に相談してください」というアドバイスが掲載されています。このURLをその子にも送りました。

(*2)「性暴力の被害者・サバイバーに言ってはいけないこと」を山本潤さんの『13歳、「私」をなくした私』(朝日出版社、2017年)の150-151頁からまとめます。
・「まさか、信じられない!」
→「あなたは嘘つきだ」と言われているように感じることがあります。

・「どうして、あの人があなたにそんなことをしたの?あなたが何かしたんじゃないの?」
→性暴力の責任はあなたにあると言われているように感じられます・

・「もう忘れなよ。先に進まなきゃ」
→人は性暴力からすぐに立ち直って、先に進むことなんてできません。

・「あなたの気持ちはわかるよ」
→性被害を受けたことがないのなら、本当にはわからないはず。

・「かわいそうに」
→同情されることを一番嫌がる人もいます。

・「あなたにそんなことをしたやつは許せない」
→被害者は自分を責めています。ほかの人が加害者を責めると、「悪いのは私」と被害者が加害者をかばおうとしたり、怒りをなだめなくてはいけなくなります。加害者が家族だった場合、被害者は自分も責められているように感じることがあります。

・「誤解しているんじゃないの?」
→被害者は起こったことを誤解しているんじゃないかと悩んだあげく、あなたに打ち明けています。

(*3)「強かん」については「強姦」、「痴かん」については「痴漢」という表記が一般的ですが、前者については「女」という字によって「被害者=女性だけ」という不正確な印象(全体からしてみれば少数ですが男性の被害者もいます。ただしこの女性/男性というのは統計上の分類であって、被害にあった方の性自認が、女性/男性という単純な二分法に収まりきるわけではないはずです)が与えられること、後者については「漢」という字によって「加害者=男性だけ」というこれまた不正確な印象(同じく加害者の性自認が男性/女性という二分法に収まりきるわけではないでしょう)が与えられることから、ジェンダー・ニュートラルな表記として、それぞれをひらがなで書く方法があります。僕は、一見価値中立的な装いをまとった「分類」自体が実際にはバイアスを含んでいることを批判するこの立場に賛同し、それぞれひらがなで表記しています。なお、「痴漢」の「痴」という字もまた、電車で女性の身体を触る男=バカな男(マイノリティ)/ そんなことはしないバカでない男(マジョリティ)という巧妙な二分法を作り出し、する側を周縁化することでマジョリティを守る構造になっていると指摘する方もいます(信田さよ子「〈性〉なる家族 3 加害者は語れるか」『春秋』2017年11月号、pp. 14-15、春秋社)。(*4)ワークショップの具体的な内容については、ライターの三浦ゆえさんが取材してくださった記事(http://wezz-y.com/archives/50231)が、大変わかりやすく簡潔にまとめてくださっています。

(*5)①DIRECT:直接介入する=加害者/被害者になろうとしている者に対して直接干渉し、事態の悪化を止める。②DELEGATE:委譲する=別の人に助けてもらうようお願いする。③DISTRACT:気を紛らわす=注意をひくような“邪魔”を意図的に作り出し、問題となりうる状況を和らげる。

(*6)DELAY:事後介入する:声をかけたりフォローアップしたりして、サポートする。

 

 

▼佐々木 弘一(東京大学大学院 人文社会系研究科 修士1年)プロフィール
他人事だと思っていた性暴力が実際に身の回りで起きたことをきっかけに、まずは自らが所属する東大で、性暴力について正しい理解を広め、性暴力を防ぐための活動に取り組み始めました。活動する中で自分自身が性暴力神話(性暴力に対する誤解や偏見)に囚われていた/いることに気づき、誰かを傷つけないために正しい知識を得る大切さを日々痛感しています。誰もが安心して過ごせるキャンパスを「性」という視座からつくっていくことが最終目標です。