2021/11/10 09:05

開発者の声 

全身ソープなのに100%自然の中で分解され、環境にやさしい。それだけでなく、濃縮だから持ち運びがラクで、輸送時のCO2も削減できる。そんな全身ソープの開発を手がけたのは、プロジェクトの R&D(研究開発)担当の佐野二郎。「生分解性原料100%」と「コンパクトな濃縮性」の条件を満たしながら、気持ちよく全身を洗える全身ソープを開発する――この難題に、ユニリーバの R&D一筋20年以上の佐野はどう挑んだのか?

ユニリーバ・ジャパン・サービス株式会社 R&D スキンケア開発マネジャー 
佐野二郎
仕事内容:R&Dで開発業務に携わる。これまで携わってきたブランド:Lux、Dove、mod's、Clear、Axe、Pond's、Vaseline など
趣味:スキー、キャンプ、料理


まず、このプロジェクトの話が佐野さんのところに来たとき、どういう印象を持ちましたか?

世界中で25億人もの人が製品を使用しているユニリーバでは、ひとつの製品が世の中に与えるインパクトが非常に大きく、開発者としてのやりがいを日々感じています。が、一方で世界中の多くのお客様向けに製品開発を進めていくと、ともするとお客様一人ひとりが抱えている、小さく、かつユニークな要望には応えづらかったりもします。そういった小さくても大事なニーズをとらえた製品開発をプロジェクトの形で実践できる機会は貴重ですし、率直に「おもしろそう!」と思ったのが第一印象ですね。

今回の「生分解性濃縮全身ソープ」の開発で苦労した点は……?

まだ開発途中で、現在進行形で苦労は続いているのですが(笑)、形にするまでに苦労したことは大きく二つあります。ひとつは「生分解性原料100%」という条件を満たしながら、お客様に満足してもらえるような使い心地の処方を実現すること。この両立にまずは苦労しました。

もうひとつは「濃縮」。濃縮しすぎるとグミみたいに硬くなってしまうし、濃縮しきれないとコンパクトにならずにかさばったままになってしまう。お客様に好まれる使い心地と、持ち運びの利便性の最適なバランスを見つけることがチャレンジングな課題ですね。

 

 

「生分解性100%」にしても「濃縮」にしても、技術開発のヒントはどこにあったのでしょうか?

そのものズバリの技術や製品はないのですが、たとえば「濃縮するためにはこの原料とこの原料の組み合わせがいいのでは?」というヒントは世界各国の開発拠点に転がっています。それらの技術を組み合わせては検証する作業を延々と繰り返しながら、構想から数年をかけてだんだんと形にしていきました。自分の頭の中で「生分解性100%」「濃縮」「使い心地」といった解を求める“方程式”を作って、そこにさまざまな変数を代入するイメージでしょうか。

さすが佐野さん、開発者らしい例えですね(笑)。今回の製品開発で、いちばん決め手となった技術やアイデアは何でしょうか?

そうですねぇ……。こういうことを言ってしまっていいのかわかりませんが、今回の製品開発に関しては、「この画期的な技術が発見されたからこそ、この全身ソープは誕生した!」というドキュメンタリー番組で観るようなドラマは、実はないんです(笑)。

それよりも、「100%自然で分解されるような全身ソープなんて使い心地がイマイチなものにしかならないよね」という思い込みから離れてアイデアを発想したこと自体に価値があると思っています。まさにCAERUプロジェクトのコンセプトのとおり、“あたりまえ”を疑ってみたら、特別な技術を使わなくても予想以上におもしろいものを実現できた、ということですね。そういった普段のものの見方や考え方にとらわれない柔軟さこそがいちばんのブレイクスルーだったと思っています。


研究そのものではなく「人」を起点にした研究

これまでもヘアケアやスキンケアなどさまざまな製品の研究開発に携わってきた佐野さん。普段の仕事で意識していること、心がけていることはありますか?

「研究そのものを目的化しない」ということでしょうか。もちろん研究自体が価値を生むケースもありますし、「何に使われるかはわからないけど僕はこの研究をしたいんだ」というスタンスも否定はしません。ただ、何のための研究か?とあらためて考えてみると、それは「その先に使う人がいるから」ですよね。だから、私の場合は「この技術はその人にとってどう役に立つんだろう?」ということを常に念頭に置いて研究に臨むよう心がけています。

私だけでなく、ユニリーバのR&D部門には「製品開発を通して人の役に立ちたい」という思いを持っている人が多いので、そういった研究そのものではなく「人」を起点にした開発をする意識は高いと思いますね。

だからなのか、R&D部門の人たちは皆さん明るいですよね(笑)。一心不乱に研究に没頭するというよりは、コミュニケーションが活発な印象を受けます。

開発というのは一人でできるものではありません。たとえばスキンチームの中にも男性用、女性用、ボディウォッシュ、洗顔フォーム、メイク落とし、ボディクリーム、ローション……とさまざまな製品や技術に関わっているメンバーがいるので、「こういう製品を作ってみたいんだけどどう思う?」と自分が実現したいアイデアを彼らと共有することで、いろんな知見が集まってきます。普段の何気ない会話の中から出てくるアイデアが製品開発のヒントになることもけっこうあります。

R&D部門イメージ

だから、今回のクラウドファンディングは、ユーザーの皆さまとコミュニケーションが取れる貴重な機会だと思っています。このボディソープについて、さまざまなご意見やコメントを頂けるのを楽しみにしています。
皆さまの何気ない疑問や、“あたりまえ”を変えたい思いが集まって、初めてこのボディソープは完成します。クラウドファンディングのコメント欄やnoteのコメント欄でのコメントをぜひお待ちしています!

「新しくない」を理解することで「新しい」にたどり着ける

ところで、このCAERUプロジェクトのコンセプトは「“あたりまえ”を変える」ですが、佐野さんがプライベートで「“あたりまえ”を変えた」というエピソードがあれば……。

いや……プライベートでそんな大層なことは特にしていませんよ(笑)。どちらかというとプライベートでは「世の中の“あたりまえ”がどうして“あたりまえ”として認知されているんだろう?」ということに興味があります。その“あたりまえ”を自分でも実感してみようと人気店の行列に並んでみたり、流行っているドラマを観てみたり。結果、わりと世間に流されているような日常を過ごしています(笑)。

一般のお客様と同じ視点から“あたりまえ”を眺めることで「これって本当は“あたりまえ”じゃないかも……?」ということに気づくのかもしれませんね。

そうなんです!学生の頃から思っているのが、世の中にない新しい技術を考えるには、まず前提として「何が“あたりまえ”として扱われているのか」「何がノーム(基準、規範)なのか」を把握して、自分の中に刷り込むプロセスが大切ということです。「無意識に思いこんでいる“あたりまえ”」とはどういうことかを理解することで「新しいこと」にたどり着けるんです。

このCAERUプロジェクトでは、今後も第二弾、第三弾と「“あたりまえ”を変える」製品を生み出していきたいと思っています。楽しみにしてくれているユーザーの方に、佐野さんからも一言メッセージをお願いします!

私自身は、「環境にやさしいものこそがいいもの」と声高に主張するタイプではありません。まずは、その製品がお客様にとって使いやすい、使い心地がよいことが大前提。それをさらに環境にやさしいものにするために、絶えず努力を続けるべきと考えています。

その点、今回の「生分解性濃縮全身ソープ」に関しては、生分解性100%という機能を満たしながら、全身ソープとしてのパフォーマンスにも妥協しない。なおかつ当社の通常のボディソープポンプと比べ小さく作ることで、一度にたくさん運べてCO2の発生も減らすことができる。そういうバランスのとれた製品に近づけることができたと自信をもって言えます。

これからも「環境にいいことだけをしよう」と肩ひじ張るのでなく「好きなものを使うことが、結果として環境にもやさしい」という製品をお届けしていきたい。それを、これまでの“あたりまえ”とは違うアプローチで生み出せるのが、開発担当としても楽しみですね。