『高校生にしか語れない俳句がある』

 

世界一短い文学、俳句

そしてこの十七音に魂を込め、言葉でぶつかり合うのが俳句甲子園。

今年で22回目を迎える本大会は全国各地から120チーム以上のエントリーがある一大イベントに成長しました。

高校生5人が1つのチームを作り、俳句と鑑賞の出来ばえを競う団体戦という独自のルールで、選手は限られた時間の中で俳句への思いを伝えます。

時には恋愛、時には挫折、またある時は宇宙の神秘についてまでも語り上げる姿は、異種格闘技戦の様相を呈しているかも知れません。ですが1つの試合で対峙する俳句は、事前に出された同じテーマ(兼題)で詠まれています。同じテーマであっても仕上がる作品は千差万別で、改めて高校生の発想力に驚かされます。

俳句甲子園を毎年楽しみにしているという観客の方から、頂いた感想があります。

「俳句甲子園は何度見ても面白い。その年その年で名句が生まれ、名勝負が生まれる。次第に会場が一つになり、割れんばかりの拍手が響く。これ以上の感動はないと思って涙を流した翌年、また高校生の熱い思いに泣かされる。一つとして同じ試合はなく、同じチームはない。見れば見るほど、俳句と鑑賞の奥深さに気付く特別な大会だ」


まさにこの言葉の通り、会場特有の空気感は何度味わっても飽きることがありません。

この感動が生まれるのは、選手である高校生と顧問の先生方の絶え間ない努力あってこそです。

強豪校がひしめき合う地域では、全国大会が終わるとすぐに来年の大会へ向けて交流試合が行われます。

更なる名句を生み出すため、何百句、何千句と高校生が詠んで先生が添削することも珍しくありません。

それらを地道に続けてきたからこそ、全国大会の大舞台で交わす鑑賞には熱が入り、息を呑む名句が生まれるのかも知れません。

 

今年は6月8日(土)9日(日)15日(土)16日(日)に全国各地で地方大会が開催され、各会場の優勝チームと投句審査で勝ち上がったチームの合計32チームが全国大会への出場権を獲得します。

全国大会は8月17日(土)18日(日)に俳句の都・愛媛県松山市にて開催されます。

ぜひ、FAAVOで俳句甲子園を応援してください。


「五七五の “世界一短い文学” 俳句」

今を精一杯生きる高校生は“小さな俳句”“大きな夢”を託しています。

   

『俳句甲子園の開催趣旨』 

誰でもふと口ずさむことができ、フランス人に「生きる芸術」と呼ばれた俳句。P.ピカソが「広々とした自由」と呼んだ俳句。現在全国の俳句愛好者は500万人を超え、いまや「俳句の時代」といわれるほど、この小さな詩形は、日本人の日々の暮らしに溶け込んでいます。

なかでも愛媛県では、近世から階層を問わず、あらゆる分野の人々が俳諧に親しんできました。中世には、神仏に捧げる邦楽連歌が多く残されており、明治以降には俳句を近代の詩として再生した正岡子規をはじめ、高浜虚子、河東碧梧桐、中村草田男、石田波郷、芝不器男、富沢赤黄男など、さまざまな個性に彩られた俳人を輩出した伝統的風土があります。

俳句は、現代を生きる人々の心を<五・七・五>という十七音に凝縮されたわずかな言葉の空間に解き放ち、またひとつの作品が読者との間にさまざまな読み方の回路を開き、いろいろに読むことができるという自在な活力にも満ちています。各地から俳句に親しむ高校生が一堂に参集し、俳句を楽しみ、交流することは、本来「座」に集う人々の共同の文芸であった俳句にふさわしく、そこから生まれる人間的な交流は、高校生にとって、国語教育の一環としてのみならず、新鮮で貴重な社会的経験となり、豊かな人間性を育むであろうと考えます。また、次代を担う若者たちの新鮮な発想と創造性、しなやかで軽やかな感受性は、この小さな詩の未知の魅力を我々の前に開いてくれるでしょう。

以上のように<俳句甲子園>は、俳句を通じ、地域間、世代間の交流と若者の文化活動の活性化に必ず寄与するものと考えます。

(1997年当時作成)

 

『地方大会結果・最優秀句』

前橋会場第1会場

  優勝 星野高等学校 B       最優秀句  初蝶や四十九日の空青し

                   長野清泉女学院高等学校 2年 千賀しなの

前橋会場第2会場

  優勝 栃木県立宇都宮高等学校          最優秀句  おにぎりの海苔のてっぺん風光る

                   茨城県立結城第二高等学校 3年 大根田健悟

横浜会場

  優勝 神奈川県立津久井高等学校      最優秀句  「青空」にとめはねはらい風光る

                  神奈川県立横浜翠嵐高等学校 3年 長谷川愛奈

大垣会場第1会場

  優勝 高田高等学校 B                       最優秀句  英単語百個書き出し風光る

                    大垣日本大学高等学校 A 2年 鎧屋勇男

大垣会場第2会場

  優勝 高田高等学校 A                       最優秀句  風光る君の毛先にふれにけり

                    大垣日本大学高等学校 B 2年 髙橋佳佑

金沢会場

  優勝 石川県立金沢錦丘高等学校 A  最優秀句  ぶらんこを押して無冠の母なりし

                    石川県立金沢錦丘高等学校 A 2年 山下美桜

福岡会場第1会場

  優勝 福岡県立明善高等学校             最優秀句  ぶらんこの錆付きし手の生命線

                   福岡県立筑紫丘高等学校 2年 三嶋里奈

福岡会場第2会場

  優勝 興南高等学校                           最優秀句  ぶらんこや本音の言えぬ十五歳

                   熊本信愛女学院高等学校 2年 内田京花

東京会場第1会場

  優勝 立教池袋高等学校 B           最優秀句  鞦韆やこの足とどくまでが領

                   立教池袋高等学校 B 1年 坂田治哉

東京会場第2会場

  優勝 開成高等学校                           最優秀句  ネクタイに王家の紋や風光る

                   立教池袋高等学校 A 1年 丹羽隆樹

名古屋会場第1会場

  優勝 愛知県立幸田高等学校 A         最優秀句 女子の輪を外れぶらんこ漕いでゐる

                   愛知県立幸田高等学校 A 3年 大橋愛香

名古屋会場第2会場

  優勝 愛知県立豊橋西高等学校          最優秀句  風光る文芸部員皆眼鏡

                   愛知県立岡崎東高等学校 A 3年 橋口幸樹

彦根会場

  優勝 滋賀県立彦根東高等学校   最優秀句  ピタパンのソースは白し風光る

                   滋賀県立彦根東高等学校 2年 谷澤真依愛

大阪会場

  優勝 灘高等学校                          最優秀句  風光る息の伝はる糸電話  

                   大阪桐蔭高等学校 3年 中村泰

防府会場

  優勝 山口県立徳山高等学校             最優秀句  閉校の椅子を重ねて風光る

                   山口県立徳山高等学校 3年 浅原佑斗

札幌会場

  優勝 北海道小樽潮陵高等学校          最優秀句  タマサイや森を抜け来し風光る

                   北海道旭川東高等学校 A 3年 中井雪乃

秋田会場

  優勝 青森県立弘前高等学校             最優秀句  鞦韆やこげばこぐほどすれちがう

                   秋田県立秋田西高等学校 B 1年 天野玖音

仙台会場

  優勝 岩手県立水沢高等学校 B         最優秀句  風光る世界はきっと君のせい

                   山形県立山形西高等学校 2年 安部美有

和歌山会場

  優勝 和歌山県立向陽高等学校          最優秀句  船頭は櫂を速めて風光る

                   和歌山県立向陽高等学校 2年 深田鈴加

出雲会場

  優勝 島根県立三刀屋高等学校 A  最優秀句  鞦韆や白紙の進路調査票

                   島根県立平田高等学校 3年 原千紗貴

須賀川会場

  優勝 福島県立磐城高等学校 A         最優秀句  怪獣の小さき昼や風光る

                    福島県立須賀川桐陽高等学校 A 3年 大槻千明

岡山会場

  優勝 岡山県立岡山朝日高等学校 A  最優秀句  削り出す芯のやはらか風光る

                    岡山県立岡山朝日高等学校 A 2年 井上大夢

松山会場第1会場

  優勝 愛媛県立今治西高等学校          最優秀句  少女羽化ブランコの揺れ残りたる

                   愛光高等学校 2年 松德優佳

松山会場第2会場

  優勝 愛媛県立今治西高等学校伯方分校 A

                    最優秀句  風光る明日の水を汲むサハラ

                    愛媛県立松山東高等学校 3年 中山寛太

松山会場第3会場

  優勝 愛媛県立宇和島東高等学校      最優秀句  好き嫌い好きの花びら風光る

                     聖カタリナ学園高等学校 2年 羽藤れいな

   投句審査

     立教池袋高等学校A

     愛知県立岡崎東高等学校

     名古屋高等学校A

     名古屋高等学校B

     洛南高等学校A

     大阪桐蔭高等学校

     愛媛県立松山東高等学校A      

 

 

 『第22回俳句甲子園 全国大会日程』

     2019年8月17日(土) 予選

     愛媛県松山市 大街道商店街特設会場

        8:50~ 開会式

  10:10~ 第1試合  兼題 夏の月   

  10:50~ 第2試合  兼題 夏の月

  11:30~ 第3試合  兼題 冷蔵庫

  13:30~ 第4試合  兼題 冷蔵庫

  14:10~ 第5試合  兼題 毛虫

  14:50~ 第6試合  兼題 毛虫

  15:50~ 予選トーナメント  兼題 サルビア

    

     2019年8月18日(日) 準決勝・決勝

     愛媛県松山市 松山市総合コミュニティーセンター

   8:40~ 敗者復活戦

  10:00~ 準決勝リーグ第1試合 兼題 虫籠

  11:00~ 準決勝リーグ第2試合 兼題 霧

  12:50~ 準決勝リーグ第3試合 兼題 玉葱

  14:10~ 決勝戦        兼題 新

     

『全国大会の兼題』

   < 予選リーグ用>

              夏の月 (なつのつき)  【夏 天文】

    冷蔵庫 (れいぞうこ)  【夏 人事】

    毛 虫 (けむし)    【夏 動物】

   <全国大会 予選トーナメント用

    サルビア         【夏 植物】

         <準決勝リーグ>

    虫 籠 (むしかご)   【秋 人事】

     霧  (きり)     【秋 天文】

    玉 葱 (たまねぎ)   【秋 植物】

      <決勝戦>

     

 

 

 

 『OB・OGによる俳句鑑賞コーナー』

第21回俳句甲子園 入選

    滴りに心音ずれてゆく祈り

           (和歌山県立向陽高等学校・磯合竜弥)

 全国各地での自然災害をはじめ、祈らずにはいられない出来事のあった2018年。

「滴りと方舟」から始まった俳句鑑賞も、「滴りと祈り」で終わりを迎えます。

 夏の季語「滴り」に、心を浄化する静かな力を多くの高校生が感じたのではないでしょうか。

 心音のように、優しい音が奏でられる日々を願って止みません。(OBOG)

 

    胡瓜切る音で怒ってると気付く

           (福島県立会津高等学校・秀島由里子)

 普段の言葉が俳句に変身する、という面白さがよく出ている一句です。

「胡瓜」の兼題は身近過ぎて詠み難かったようですが、肩の力の抜き加減が重要だったのだと思います。

「怒っている」ことを「怒ってる」という話し言葉にすることで、十七音のリズムが良くなっています。

                             

    滴りや進路を迷う暇はなく

           (島根県立三刀屋高等学校・糸川修平)

 多忙な高校生の素直な思いもまた、俳句になります。

 森羅万象を受け止める「滴り」という季語は、高校生活にまでしっくり来る懐の深さがあるようです。

 迷う暇がないからこそ、勢いで現れた未来への道が本心に寄り添ったものかも知れません。

 

    滴りに磨かれてゐる化石の歯

           (長野県立屋代高等学校・井狩友吾)

 岩肌の一滴そのものではなく、落ちたその先を見つめること。

 何を詠むか、どうやって詠むか、作者によって着眼点は大きく異なります。

 限りなく澄んだ水に潤された化石の歯は風化することなく、こうして一句の作品になりました。

 

    草笛や祖母はしょっちゅう転ぶ人

           (秋田県立秋田西高等学校・佐藤なつみ)

 前半部分は郷愁を誘う季語ならではの情景ですが、後半の展開に驚かされます。

 身近な存在だからこそ見落とされがちな動作を、素直に俳句の種とすること。

 肩肘を張らず、日常の中で十七音を育てる楽しさを感じます。

 

    日めくりの指に貼りつく残暑かな

           (山口県立徳山高等学校・神足颯人)

 秋の季語「残暑」は身の周りで感じやすいということもあり、良句の目立つ兼題でした。

 高校生一人ひとりが自分ならではの出来事を切り取っており、飽きることがありません。

 日めくりカレンダー独特の、薄くてやや油分のある紙質がすぐに思い浮かびました。

 

    女子だって油そば食う残暑かな

           (宮崎県立宮崎西高等学校・江藤奏子)

 すかっと晴れた青空のような豪快さが魅力的な一句です。

「女子」と「油そば」を繋げる「だって」という言葉、ここに作者の思いが凝縮されています。

 残暑ならばそれもまた潔し、と太鼓判を押したくなります。

 

    山頂の小石の裏の残暑かな

           (岐阜県立飛騨神岡高等学校・濱本蔵人)

 小さな出来事に思いを馳せること、それは句作力がしっかり付いている証だと思います。

 山頂に登ればつい壮大な事象を詠みたくなってしまうものですが、そこをぐっと堪えています。

 小石の裏の質感から残暑を想像する繊細さが光った一句です。

 

    骸なほ翼あたらし草の花

           (海城高等学校・大熊光汰)

 高校生の持つ観察眼はとても鋭く、文学的です。

 鳥の「骸(むくろ)」を目の当たりにした時、翼はまだ空を飛べるように無垢であったことへの気付き。

 そこに秋の季語「草の花」が組み合わさることで、良い具合に生々しさを打ち消しています。

 

    蛇の棲むアトリエ未完のままの作

           (岡山県立岡山朝日高等学校・岡崎匠)

 絵画であっても彫刻であっても、完成していない作品にはどこか引力のようなものがあります。

 時間や技術、情熱、あるいは金銭的な不足があって成し遂げられなかった、芸術の未練。

 ここで詠まれた「蛇(へび)」には作家の魂が寄り添っているかも知れません。

 

    黎明の静けさ蛇の腹白し

           (愛知県立岡崎東高等学校・佐野ひより)

 神の使いとして描かれることもある「蛇(へび)」、荘厳な雰囲気が伝わってきます。

「黎明(れいめい)」とは夜明けを指し、音の響きそのものも美しい言葉です。

 兼題として出会った蛇をじっくり観察することで、腹の白さに気付くことが出来たのでしょう。

 

    野の花や寝巻きで葉書出しにゆく

           (洛南高等学校A・中野葵)

 過度に飾らず、等身大の風景が素直に描かれています。

 これが文章であったなら、誰宛の葉書で、どのような内容が書かれていて…と細かく説明してしまうかも知れません。

 俳句はそれをぐっと堪え、読み手に委ねることで十七音を自由にさせます。

 

   草の花少年兵はよく笑う

           (熊本信愛女学院高等学校・平嶋遥歌)

「草の花」という季語が持つ、やや乾燥したような雰囲気は異国情緒にも通じるものがあります。

 生まれ落ちた国と時代が違うだけで困難な道を歩まなければならない少年兵。

 それでも逆境にめげず笑顔を見せるたくましさに焦点を当てた、国際的な一句です。  

   

   草の花摘むや自涜の手のかたち

           (名古屋高等学校・塩崎達也)

 秋の季語「草の花」は秋に咲く草花のことで、華やかさよりも落ち着いた佇まいを想像させます。

 意外なものとの取り合わせは、俳句そのものだけでなく鑑賞(ディベート)をより面白いものに変えます。

 2対2で迎えた決勝リーグの大将戦,、この句が登場することで会場はとても盛り上がりました。

 

   雨匂う蛇の出てくる下水管

           (神奈川県立横浜翠嵐高等学校・野澤みのり)

 嗅覚と視覚を用いて季語をしっかり写生しており、臨場感があります。

「蛇(へび)」は夏の季語で、春は「蛇穴を出(い)づ」、秋は「蛇穴に入(い)る」など季節ごとによく詠まれる生き物です。

 下水管からうねりつつ這い出る、少し湿り気のある蛇の姿がくっきりと浮かび上がりました。

  

   遺跡より歯の出て来たる鵙日和

           (開成高等学校・横内毅)

 秋の季語「鵙(もず)日和(びより)」とは、鵙(もず)の鳴き声が引き締まるように澄んだ秋の大気のことです。

 凛とした秋ならではの空気感の中、土と砂にまみれた発掘作業を経て現れる過去の歯。

 しっかり地に足を付けて詠まれた、季語と適度に距離感を保った良句です。 

 

   草笛を背中合はせに吹き交はす

           (洛南高等学校A・茶屋梓)

 俳句の魅力の一つに、情景を思い描く「余白」の多さがあります。

 直接的な言葉を使わないからこそ、登場人物がどのような関係性なのか想像しても構わないのです。

 交互に奏でる草笛がまるで甘酸っぱい会話のように聴こえてきます。 

 

   傘立てに鍵落としたる残暑かな

           (福岡県立筑紫丘高等学校・平田萌夏)

 日常の小さな出来事を十七音に紡ぎ上げる細やかさが光っています。

 つい壮大な景色や強烈な言葉などに注目してしまいますが、「共感」という優しさも忘れずにいたいものです。

 ちょっとした不注意も一句になるとしたら、句作の視点は毎日を豊かなものに変えていくでしょう。

 

  ありをりはべりいまそがり秋暑し

           (茨城県立結城第二高等学校・馬場毬乃)

 古文の授業で欠かせない活用動詞「ありをりはべりいまそがり」、一息に覚えた記憶がよみがえります。

 言葉自体ではなく、その言葉を学んだ時の空気感の方がこの句にとっては大切なのかも知れません。

「秋暑し」が五番目の動詞になったかのように、しっくり来ています。

 

    清拭の後を祭の音が来る

           (名古屋高等学校・牛田大貴)

 想像の幅が広い言葉には、わずかな音数であっても大きな物語を感じます。

「清拭(せいしき)」とは主に病人の体を拭いて清めることで、つまり祭には行けない状態であるということが読み取れます。

 不自由ながらもすっとした肌で、祭の賑やかな音を受け取る皮膚感覚が秀逸です。

 

第21回俳句甲子園 優秀賞

    滴りの那由多を産みて孤峰なり

           (山形県立山形南高等学校・岸多問)

 雄大な自然を詠むためには、言葉選びも慎重になります。

「那由多」とは極めて大きい数を表す言葉で、万や億より遥かに大きい数の単位にもなっています。

 それだけの滴りをたたえて、「孤峰」というただ一つそびえ立つ峰……ひどく圧倒される風景です。

 

    張りつめてゐる滴の宇宙かな

           (愛媛県立今治西高等学校・矢野玲)

 目の前のひとしずくに、宇宙まで発見してしまう高校生の研ぎ澄まされた感性。

 それは季語「滴り」が張りつめているだけではなく、作者自身も息を押し殺して集中しているのだと思います。

 正に「神は細部に宿る」という言葉を思い起こさせる一句です。

 

    草笛の青々として息熱し

           (興南高等学校・上里匠)

 季語に触れた時、ありのままの姿を詠む素直さは強さにもなります。

 草葉の持つ生命感は確かに「青々と」しており、匂いも色味も手触りまでも想像出来ます。

 そして吹く時の息の温度まで伝えられたら、心動かさずにはいられません。

 

    噛み砕く胡瓜頭蓋に海のある

           (済美平成中等教育学校・田原匠)

 独創的な感覚で夏の季語「胡瓜(きゅうり)」を詠んでおり、驚きました。

 胡瓜の咀嚼音は「ポリポリ」と単純に表されがちですが、噛んでいくと水分が出てきて音が変わります。

 身の内に起こる、その言い表されない感覚を「頭蓋に海」と描いているのでしょう。 

 

   油絵の黄に黒迫る残暑かな

           (済美平成中等教育学校・古田龍之介)

 俳句はよく「一瞬を切り取る写真のようだ」と言われますが、この句は更に文学的で絵画的です。

 とても細やかな目線で描かれながらも、この絵画の全体像は作者の手から離れています。

 ひまわりを想像しても、夕焼けを想像しても良いという寛大さが伺えます。

 

    滴りは自傷のやうで瞬きぬ

           (愛媛県立宇和島東高等学校・板尾真奈美)

 今大会は夏の季語『滴り』に良句が多かったと思いますが、文豪のように我が身を削りながら生み出した俳句のひとつではないでしょうか。

 下五「瞬(またた)きぬ」という終わり方に、長々とした言葉には表せない高校生の内なる思いや儚いきらめきを感じました。

 たった十七音だからこそ完成される世界にゆっくり浸りたくなります。

 

    オルゴールに臓器ありけり月清か

           (愛光高等学校・荻野登理)

「月清(さや)か」は月がさえて明るいことを指す秋の季語で、「月」だけでも「さやか(さやけし・さわやか)」だけでも秋の季語として詠まれます。

 この清々しい季語とは裏腹に、精密なオルゴールの姿を「臓器」と言い切った意外性が光っています。

 それが出来るのはオルゴールと季語、それぞれの言葉が持つ力を確信しているからなのでしょう。 

 

    腸柔し鵙に裂かるるものはみな

           (愛光高等学校・中井望賀)

 秋の季語「鵙(もず)」は高い音で鳴く小鳥のことで、可愛らしい姿に似合わず肉食という特徴があります。

 小さなくちばしで営む食物連鎖の様子を「腸(はら)柔(やわ)し」と表現したことに驚きました。

 鳥が見下ろすように、高い位置から命の循環を写し取った一句です。

 

    平成の残暑真つ只中に俺

           (愛媛県立今治西高等学校・藤原豪士)

 豪快で清々しい、正にこれこそ青春俳句。

 改元の際に自分が何歳であったか、というのは元号への受け取り方を大きく変えると思います。

 きっと令和の時代もたくましく生きてくれる、そう確信させる作者の笑顔が見えてきます。

 

    千人と座る辺野古や鵙猛る

           (福岡県立筑紫丘高等学校・摂津梨央)

 今を真剣に生き、学ぼうとしている高校生だからこそ詠める俳句があります。

 沖縄・辺野古の基地問題について、言葉が持つ力を疑わずに十七音で詠み切った姿は圧巻です。

 そして「鵙(もず)が猛っている」という熱量の大きい季語がよく合っています。

 

    草笛を吹けぬ大人になつてゐた

           (愛媛県立宇和島東高等学校・高橋恵美彩)

 草の葉や木の葉、麦の葉などを吹いて音を鳴らす「草笛」は夏の季語。

 幼い頃を思い出し、懐かしく感じる人も多いのではないでしょうか。

 出来ていたことが出来なくなる、という「成長」の切なさを感じる一句に仕上がっています。

 

    自転車のひからびてゐる残暑かな

            (立教池袋高等学校・加藤瑠)

「残暑」は立秋を過ぎても残っている暑さのことで、秋の季語となります。

 暑さについての季語は何種類もあるため、「残暑」にぴったりと合う情景を探すのは簡単ではありません。

 屋外の自転車をじっくり観察したからこそ「ひからびてゐる」という表現に説得力が備わっているのだと思います。

 

    滴りや億の微生物の祈り

             (岩手県立水沢高等学校B・軍司彩里)

 肉眼では見ることの出来ない小さな命、微生物。

 億という遥かな単位、祈りという澄み切った行為。

 季語「滴り」の包容力を信じ、これらの壮大な言葉を託した姿に好感が持てます。

 

第21回俳句甲子園 最優秀賞

    滴りや方舟に似てあなたの手

             (興南高等学校・桃原康平)

  優しい眼差しを感じさせる一句です。

「滴り」とは岩肌や苔を伝う水の雫で、夏の季語となっています。

 そっと受けるように差し出された手。

 それは救いの象徴でもある方舟のよう、と見立てた作者の発想力に驚かされます。(OBOG)

    

『第21回俳句甲子園 大会成績』

  優 勝   山口県立徳山高等学校

  準優勝   開成高等学校

  最優秀句  滴りや方舟に似てあなたの手

                 興南高等学校  桃原康平

    大街道商店街に設置しました

 

『ボランティア募集しています』

 

22回目を迎える俳句甲子園のボランティアを募集しています。

俳句甲子園の意義に賛同し、当日の大会の運営、並びに高校生たちのサポートをして頂ける方を広く募集します。

 

 下記より俳句甲子園ホームページ ボランティア募集のページにアクセスできます

    第22回俳句甲子園ボランティア募集要項

       

『支援金使用用途』

 俳句甲子園は、以下の目的で支援を募集しています。

 ①全国大会・地方大会開催のため

 ②高校生の負担を少なく全国大会に参加していただくため

 ③多くの地域で俳句文化が振興するため

 

 俳句に青春をかける高校生の応援・ご支援をよろしくお願いいたします。

 

『リターン品のTシャツデザイン』

    

  色は白と黒の2種類あります、備考欄にサイズと色を記入して下さい

 

 『お問い合わせ先』

    NPO法人俳句甲子園実行委員会     

     愛媛県松山市味酒町1-10-2

     電話 089(943)1512

        e-mail: info@haikukoushien.com

 

  詳細は俳句甲子園ホームページ

  http://www.haikukoushien.com

  ホームページのブログ内で、活動内容等載せておりますので是非ご覧ください

  

商品協力いただいております企業のリンクです

   忽那醸造株式会社                
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