はじめに

未来に向けたなギフト、“The Moment”。
日本から世界に発信するに値する情報は、ジャーナリズムに限らず、多岐にわたります。

日本の安全な社会や環境、豊かな資源、自然、文化は、世界共通の財産です。これらを次世代につなぐ活動を続けている個人や団体を、紙面やWebを通じて国内外に発信することに加えて、中長期的にその活動を見守り、応援していきたいと言う読者の皆さんからの共感を形にするのが、クラウドファンディング“The Moment”です。

“The Moment”による第1回目の応援プロジェクトの尾畑酒造さん(新潟県佐渡市)に続き、第2回目のプロジェクトに選ばれたのは、三位一体となって日本の漆文化の存続に取り組む、株式会社浄法寺漆産業(岩手県盛岡市)、一般社団法人次世代漆協会(岩手県盛岡市)、そして特定非営利活動法人ウルシネクスト(秋田県秋田市)です。


ウルシネクスト(理事長 柴田幸治氏)は、漆の恩恵をより多くの人に広め、国産漆を増やし、活かし、使い、残していくための啓発活動が高く評価され、第1回The Japan Times Satoyama & ESG Awards 2019のSatoyama部門の優秀賞に輝きました。このアワードは、Satoyama、ESG活動に顕著な取り組みを行った企業・団体・個人にフォーカスし、成功事例を広く国内外に紹介することで社会に貢献するためにThe Japan Timesにより創設されたものです。


第2回”The Moment”プロジェクト、漆を守る3つの団体への期待

一口に「漆を守る」と言っても、その活動は、漆の良さをより多くの人に知ってもらうと同時に、漆を作って販売し、新たな活用法を生み出し、後世に繋いでいくというように、広きにわたります。一般社団法人次世代漆協会が生産を担い、株式会社浄法寺漆産業が販売し、特定非営利活動法人ウルシネクストが啓発活動を行うという役割分担で、一度は消えかけた日本の漆産業の再活性化に取り組む様子をご紹介し、応援したいと思います。


ひとりの岩手県職員から始まった

すべては浄法寺漆産業の代表取締役、松沢卓生さんが、岩手県職員だったころに漆の振興担当者になったことが始まりでした。日本で漆器などに使われている漆の97%が中国やベトナムなどの外国産になっており、国産のものはほんの3%ほどしかないのが現状ですが、そのわずかな国産漆のうち、73%が岩手県で生産されています。この小さな灯を消さないため、行政の担当者として、漆搔きや漆塗りなどの生産、商品化の現場から、漆を使った文化財やアートなどの分野まで、漆のさまざまな側面に関わってきたのが松沢さんです。このようにひとつの産業全体を広く見渡すことができるのは、自治体の職員ならではの利点と言えるでしょう。漆と漆産業、漆の歴史文化についての理解と関係者との交流を深める中、なんとかしてこの環境にもやさしく、日本の用の美にも大きく貢献してきた自然の素材を残していきたいと奮闘した松沢さん。

しかし、公務員という立場上、部署の異動は免れません。漆の振興担当になってから4年、積み上げてきた知識や築いてきた人脈をまさにこれからもっと活かしていくというときに、志半ばで漆の現場から離れることはしたくないという思いがふつふつと沸いてきた松沢さんは、なんと公務員を辞めて、漆の活動を続けるために起業することを決意したのです。

役所の同僚や上司の中には、驚いて引き止める人もいたそうですが、「事業を起こして成功するならば辞めてもいい」という奥さんの言葉に背中を押され、2009年に浄法寺漆産業を立ち上げました。浄法寺は岩手県の地名で、代表的な漆の生産地であり、浄法寺塗と呼ばれる色つやの素晴らしい漆器の産地でもあります。


浄法寺漆産業のあゆみ

会社である以上、国産漆の振興が目的とはいえ、ビジネス的にも持続可能でなければなりません。まず松沢さんが手がけたのは、漆の原液を仕入れて精製・加工し、販売するという事業です。しかし起業当初は、まだまだ漆、ましてや輸入品に比べると高価な国産漆の需要は少なく、新しい売り方、販路を見つけていかなければ売れ残ってしまう状況でした。そこで5グラムや10グラムという少量からでも購入できるようにチューブ入りのものを用意し、さらにオンラインショップでも購入できるようにしました。ガラスとのコラボレーション作品を生み出したり、自動車や電車の内装デザインに漆を活用したりと、漆の新たな需要を開拓したり、国産漆の現状や漆の良さを伝えるための講演活動も手がけました。

数年前からは、金継ぎと呼ばれる、割れたりヒビが入った陶磁器を漆を接着剤にして修復し、金などの金属粉でつなぎ目を装飾して仕上げる技法が日本国内でブームになっただけでなく、海外にも知られるようになったことから、少量ずつ購入可能なチューブ入りの漆がよく売れるようになったそうです。

こうして松沢さんの精力的な活動が少しずつ実を結ぶ中、風向きを大きく変える出来事がありました。2018年度から、文化庁が国宝・重要文化財建造物の保存修理には原則として国産の漆を使用することを決定したのです。国産漆の保護という観点からも非常に意義のある方針ですが、これにより新たな問題に直面しました。そもそも全国的にも、岩手県内でも、漆の産地自体が減ってしまっていたので、今度は生産が追いつかなくなり、漆の原液の入手が困難になってしまったのです。


必要なのは仲間、そして技術

国産漆の自給率を上げ、安定的に供給できるよう、生産量自体を増やす必要が出てきました。しかし、新たに産地をつくるとなると、現在でも3人という規模の会社だけでは到底無理です。たくさんの人の手を借りなければ、苗木を育て、植樹して育てていくという大がかりなプロジェクトを遂行することはできませんが、これを取りまとめるだけでも大変な労力です。

そこで2018年に設立されたのが一般社団法人次世代漆協会です。盛岡市で林業を営む細越確太さんが代表理事を務めるこの団体は、漆の木の生産を担っています。松沢さんと細越さんの出会いは、まさに漆の木が結んだ縁でした。細越さんが森の中での作業中に漆の木を見つけ、どうしたらいいかと松沢さんに相談の電話をしたことから意気投合し、漆の木の生産を進めようという話にまで発展したのです。作業に必要な人手を集めるため、次世代漆協会では植樹イベントなどを企画して参加者を募ったり、全国の苗木業者と提携して漆の木の苗を育ててもらったりといった活動をしています。


こうして高まる文化財修復のための需要に対応していくだけではなく、漆の良さをアピールし、新たな使い道を提案していくことも、人々の暮らしの中に漆を生かし続けるためには忘れてはなりません。その部分を担うのがNPO法人のウルシネクストです。理事長を務めるのは、マーケティングの専門家の柴田幸治さん。松沢さんと柴田さんの出会いの場は、2018年に東京ビッグサイトで開催されたギフトショーでした。漆とはちょっと珍しいな、と浄法寺漆産業のブースで足をとめた柴田さんが、松沢さんの話に耳を傾けたことがはじまりでした。

こうして確実に仲間を増やしていった松沢さんですが、もうひとつ重要なのは、早く、効率的に、しかも安定的に、漆の採取をするための技術です。まずひとつめの問題として、漆の木の種は発芽しにくいため、研究機関や種苗業者の協力を得て種の発芽率を上げ、苗を増産する研究が進められています。ふたつめの問題は、漆の木は成木になるまでに10年以上かかってしまうということ。これを解決するため、国立沖縄工業高等専門学校との共同研究により、漆の木に衝撃波を当てて圧力をかけて漆を採取するという衝撃波破砕技術を活用した採取方法を生み出しました。これにより、樹皮に傷をつけてしみ出た漆をヘラで掻き採るという従来のやり方と比べて倍以上の量が採れ、しかも7〜8年程度の若い木からも採取できるということがわかりました。


コロナ禍でのピンチと新発想

コロナウイルスの流行により、大きな展示会などはすべてキャンセルとなってしまった2020年。ウェブミーティングなどで対応可能なものもある一方で、当然新規の商談は減り、海外展開も足止めになってしまいました。次世代漆協会が手がける漆の木の植樹イベントなども、首都圏からの参加は募集せず、地元を中心に小規模で実施せざるをえませんでした。昨年植えた苗木は3,500本。毎年継続して5000本を植樹していく予定です。

また、昨年の夏には衝撃波破砕技術を活用した機械による初めての漆の採取を行う予定でしたが、これもコロナの影響で先送りとなりました。高電圧の特殊な機械を動かすため、専門家の立ち会いが必要なのですが、協力してくれている研究者はそれぞれ沖縄と熊本が拠点のため、岩手までの長距離移動が叶わなかったのです。漆の液は6月頃から木の中で作られていき、採取は夏場に行われます。人間界の状況がどうあっても、自然は待ってはくれないのです。今年こそはこの新しい技術を使った採取の実施を目指すと同時に、できるだけ将来的には地元の人手で回していけるように方法を模索中です。

実施できなかったこともある一方で、新たにスタートした取り組みもあります。例えば、漆の木のチップを使って染めた、漆染めのマスク。漆には抗菌作用があるため、ヘルスケアの分野とは親和性があるのでは、という発想です。また、抗ウイルス性もありそうだということで、現在研究が進んでいるそうです。

また、浄法寺漆産業では、木で作った消毒液スタンド「クラフトマンスタンド」も製造・販売しており、岩手県軽米町のふるさと納税の返礼品のひとつにもなっています。現在販売中のものは地元産の杉の木が使われていますが、今後漆塗りのものも作っていく予定だそうです。

漆の実を焙煎したうるし茶も作っています。香ばしいかおりが特徴で、現在有効成分を検査中とのこと。木をすみずみまで無駄にせず使い切るという発想も、日本ならではの良さのひとつと言えるでしょう。


もっと知ってほしい漆の良さ

漆には、他にも多くの人にとって初耳かもしれないたくさんの長所があります。漆を塗ったり染み込ませたりすることで素材の強度が上がることから、楽器や釣り道具などに使われることもあります。丈夫でありながら、長い時間を経て紫外線で分解されるため環境に優しい素材です。そして何より、継続的に育てて管理すれば、枯渇することのない、今まさに再注目すべき再生可能な資源なのです。

ウルシネクストでは昨年、漆で作ったSDGs(国連の持続可能な開発目標)バッジを製作しました。サステナブルな天然素材漆を活かしてきた先人の知恵、伝統の技をもっと身近な存在にして、持続可能な社会の実現であるSDGsの達成につなげていきたいとの想いが込められています。SDGsといえば17の目標がそれぞれ異なる色で表されたカラフルなモチーフが印象的ですが、このバッジに使われた17の鮮やかな色はすべて漆なのです。いわゆる「漆器」から連想する色のイメージとはかなり違って、漆にはこんなに豊かな色表現ができるのだということも、あまり知られていないことかもしれません。

「木を植えることでCO2の削減に貢献し、海洋汚染のもととされるプラスチックに代わる自然の素材として利用可能。すみずみまで無駄なく使えて、しかも漆を使い続けることで日本の漆文化を継承していくことができ、漆製品により人々の生活が豊かで安全なものになる。まさにいいことずくめで、こんなに恵みを与えてくれる木は他にありません。これを日本人だけで使うのではなく、世界にもシェアしていきたいと考えています」と松沢さんは言います。

漆というと、木に触れるとかぶれてしまうといったマイナスイメージや、用途としては漆器くらいしか思いつかず、しかも高価で普段使いは難しいといったような先入観が邪魔をしているため、日本では漆の価値を再認識してもらうための新たなきっかけづくりが必要と松沢さんは感じています。一方、海外では、壊れたモノを元通りに修復するのではなく、新たな命を吹き込む金継ぎの思想に感銘を受け、漆の魅力を新鮮に受け入れるファンも増えてきています。ジャパンタイムズの日本国内外への発信力を活かし、松沢さんたちによる国産漆を増やし、活かし、使い、残していく活動を、みなさんと一緒にサポートしたいと思います。たくさんのご参加をお待ちしています。


リターンの紹介

\12,000(ロゴなし) or ¥14,000(ロゴあり)

・白漆塗りお箸
珍しい白色の漆を塗った、シンプルで使いやすいお箸です。毎日のお弁当など持ち歩きにも最適なサイズ。(白地にジャパンタイムズのロゴが映えます)※ロゴマーク採用の場合。



¥26,000(ロゴあり) or ¥24,000(ロゴなし)

・白漆塗りお猪口
日本酒の風味を引き立てる、口当たりの良い漆塗りのお猪口。白漆で仕上げました。
(白地にジャパンタイムズのロゴが映えます)※ロゴマーク採用の場合。


\48,000(ロゴあり) or ¥46,000(ロゴなし)

・白漆塗りお盆

一枚あれば様々なシーンで活躍する白漆のお盆。お菓子とコーヒーを乗せてティータイムを過ごしたり、お客様用のお膳にも。

(白地にジャパンタイムズのロゴが映えます)※ロゴマーク採用の場合。

¥6,000

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