若き起業家による鶏卵ブランド『うるまの平飼い卵』のクラウドファンディング活用。その背景と戦略に迫る

養鶏の現状を変えたいーー。この想いから、大学在学中にEggSmart株式会社を設立した若き起業家・宮崎将明さん。同社が立ち上げたブランド『うるまの平飼い卵』の認知拡大を目的に、2021年3月クラウドファンディングを実施。綿密な準備のもと実施された本プロジェクトは、開始から5日で目標金額の100万円を達成した。 本稿では、プロジェクトを実施した宮崎さんから、本プロジェクト実施の背景と目標達成に向けた戦略について話を伺った。

プロジェクトデータ

■プロジェクト名
養鶏の現状を変えよう! 人にも鶏にも環境にもやさしい「うるまの平飼い卵」

募集期間
2021年3月6日~3月30日

調達金額
1,355,500円

支援者数
202人

プロジェクトURL
https://camp-fire.jp/projects/view/390807

平飼い養鶏場経営の成功モデルをつくる

「鶏と養鶏家をともに幸せにする」という理念のもと、養鶏業界を変革するために立ち上がったEggSmart株式会社。代表取締役の宮崎さんは、現在21歳。2020年7月に同社を設立し、同年9月に地元・神奈川県を離れ、沖縄県うるま市に移住。平飼い卵の養鶏場の経営を始めた日本一若い養鶏経営者だ。

日本にはわずか5%しかないという平飼い卵。「平飼いのリーディングカンパニー」のポジションを目指し、平飼いの養鶏場の経営の成功モデルを作ろうと生まれた記念すべき第一弾の鶏卵ブランドが『うるまの平飼い卵』である。

そして、『うるまの平飼い卵』のブランドを初公開する場に、クラウドファンディングを選んだ。宮崎さんは「養鶏場を立ち上げたときから、大々的に発表する際にはクラウドファンディングを活用しようと考えていました」と話す。

「周囲の起業家のみなさんが、クラウドファンディングを通じてサービス発表や資金調達されているのを見てきました。それらを見てきて感じたのは、クラウドファンディングは“認知拡大”や“ファンの獲得”に最適なツールであること。ただプレスリリースを打つのではなく、クラウドファンディングを活用して周囲の人たちを巻き込むことで、サービスの盛り上がりを演出できると考えました」

目標達成に向け意識した「ビジュアル」と「PR活動」

クラウドファンディングを実施する上で、宮崎さんが特に意識したことは主に以下の二つだ。

① プロジェクトページのビジュアル

一つはビジュアル面だ。文章をじっくり読まなくとも、パッと見てプロジェクトの雰囲気が伝わるようなページ設計を心掛けた。プロジェクトページ内の写真やグラフは全て、宮崎さん自らが用意している。また、『うるまの平飼い卵』のパッケージを制作したデザイナーにアドバイスを求め、プロジェクトページ作成の参考にしたという。

「デザイナーの方からのアドバイスで参考になったのは、主に二つ。一つは写真です。『極力一眼レフカメラで撮影した写真の方が響く』とアドバイスをいただき、iPhoneのカメラで撮影した写真を途中で差し替えました。見る人が見ればどんな機材を使用して撮影しているか分かるため、より写真としてインパクトを残せる方を選びました。

もう一つはグラフです。『文字で書くより、ビジュアル化した方が伝わる』とアドバイスをいただきました。プロジェクトページに訪れる方の中には、流し見される方もいると思います。そういう方でも、ビジュアル化すれば目に留まるため、お金と労力をかけてでもビジュアル化は意識して取り入れました」
宮崎さんが作成したグラフ

② 事前のPR活動

支援集めの初速を上げるため、クラウドファンディング開始の約1ヶ月前から啓蒙活動を実施。SNSでの告知、新聞(琉球新報)への取材記事掲載、イベントの登壇など絶えず話題をつくり続けた。クラウドファンディング開始時には、周囲の認知が高まっている状態が生まれたという。

「ただ『クラウドファンディングを実施します』とお知らせをするだけでなく、できる限り協力いただける媒体を活用。1週間に一度はクラウドファンディングに関連する何かしらの告知を発信しました」加えて、宮崎さん自身の知人へ向けた、直接的な発信も欠かさなかった。

「プロジェクトページを公開したタイミングで、知り合いの方たちに『こういう想いを持ってクラウドファンディングを始めたので、支援お願いします』と一斉にアナウンスをしました。『泥臭くても直接の声掛けはやった方が圧倒的に目標達成の確率が上がる』と、周囲のクラウドファンディング経験者からコンセンサスを取っていたため、実践しました」

「平均単価の引き上げ」「豊富な選択肢」を考えたリターン戦略

ほかに本プロジェクトで一つ注目したのが、リターンのバラエティだ。『うるまの平飼い卵』だけでなく、『卵と沖縄を掛け合わせたお菓子』や『農泊体験』などのリターンを設定している。宮崎さんは「平均単価の引き上げ」と「豊富な選択肢」の観点から、これらのリターンを設定していた。

「最初に考えていたのは『うるまの平飼い卵』と『養鶏体験』に関連するリターンでした。多くても10プラン程度のリターンで、種類が多いとは言い難かったのです。事前に『リターンの選択肢は多い方が前のめりなクラウドファンディングに見える』と話を聞いていたため、このままでは選択の幅の狭さを感じていました。

また、『うるまの平飼い卵』は配送できる卵の最低ロットサイズが24個なので、相当な大口の方でないとそれ以上の卵は購入しません。すると平均単価が上がらず、目標金額の達成が見込めませんでした。そこで入れたのが『お菓子』です。セット内容の組み合わせを変えて、17プランのリターンを用意。さらに、平均単価の底上げを可能にしました」


全ては目標を達成するために……苦労の大きかったリターン戦略

お菓子の制作や養鶏体験の根回しなど、リターンに関わる交渉は全て宮崎さん一人で実施。2021年1月に準備を進め、約2ヶ月でクラウドファンディング実施へ漕ぎつけた。短い期間の中での綿密な準備。だからこその大変さもあったという。

「クラウドファンディングに挑戦しなければ、お菓子の制作や養鶏体験の策定をすることもなかったと思います。業者さんに『こういう条件でお願いできますか?』と依頼をし、打ち合わせを重ねながらリターンを練り上げていくのには苦労もありました」

「クラウドファンディングに挑戦するからには、必ず目標金額を達成しなければならない」この想いを胸に、できる限り綿密な準備をしてきた宮崎さん。「イレギュラーがない限りは100万円の目標達成は固いという気持ちでした」とクラウドファンディング実施時の心境を振り返る。

「一人当たりのリターンの平均単価と支援をお願いした人数を事前に把握して準備を進めていたので、達成したときは予想通り上手くいったという感覚でした。とはいえ、初めての挑戦でしたし、不測の事態が起きるかもしれないと不安な気持ちも。プロジェクト終了時は安堵感がありました」

クラウドファンディングは「認知」「熱狂」を生み出せる

初のクラウドファンディングながら「達成するべくして達成した」宮崎さん。クラウドファンディングのメリットとデメリットを聞くと、次のように語った。

メリット

「認知と熱狂を生み出せる、これに尽きると思います。目標を達成することで成果が明確に可視化される。ただ起業してサービスをローンチする以上に、しっかりと成果を上げて進んでいると周りから見てもらえていると実感しました。また多くの人に参加してもらい、ブランド(卵)の熱狂を生むことができたのも良かったです」

デメリット

「クラウドファンディング終了日まで、支援者情報を得られなかったのが不便でした。本プロジェクトにおいては目標金額を達成しなくても、支援者へ必ずリターンを届けることは決めていて。支援者の方たちにはできる限り早くリターンをお届けしたかったんです。熱の冷めないうちにリターンを届けた方が良いので、そこにタイムラグが生じてしまうのは不便さを感じました」

若い人の挑戦とシナジーのあるツール

そして、メリット・デメリット以外にクラウドファンディングについて宮崎さんは「若い人の挑戦とシナジーがある」とも語った。

「一定の経済的余裕がある40~50代の方から一番支援していただけると思いました。そういった方たちにとって、学生起業家や若くして何かしらの挑戦を考えている人は『応援の対象』になるのではと。特にクラウドファンディングは“想いを重視した”サービスです。綺麗に整え過ぎた非の打ち所のないプロジェクトより、若さゆえに粗削りでも素直な想いが全面に伝わるプロジェクトの方が熱狂を生みやすいのではないかと感じています」


EggSmart株式会社代表取締役 宮崎将明さん

最後に、宮崎さんから支援者の方に向けたメッセージを聞いた。

「支援者のみなさんには本当に感謝しかありません。支援いただいた資金は、養鶏場の拡大や『うるまの平飼い卵』のPRに活用させていただきます。良い養鶏場を作ることが何よりもの恩返しに繋がると思っているので、その姿をぜひ応援してください。

また、今後は沖縄だけでなく、神奈川県でも養鶏場を持つことを考えています。その際には、再度クラウドファンディングの活用も考えているので今後も応援いただけたら嬉しいです」

企業情報
EggSmart株式会社 https://eggsmart.jp
『うるまの平飼い卵』ECサイト https://uruma.eggsmart.jp