2017/08/12 23:16

【anocado 世界に挑戦 2017 】
ー palla era あなたの為に ー 本場のパエリャを体験 (食べる編)


奥深いパエリャに感動している私をさておき、女性陣は食事の準備で大忙し。
まずは、テーブルクロス。
なんにせよ、テーブルクロス第一主義。
普段の作業台の時は作業台。
食事の時は、テーブルクロスなのだ。
テーブルクロスを敷くことは食事に対する礼儀なのか、皆のテーブルクロスへの執着はお伝えするのが難しいくらい、テーブルクロス主義なのだ。
テラステーブルにクロスを敷き、食器を並べ、ビールにワイン。レモンソーダにコカコーラ。


ここスペインでは、事あるごとにレモンソーダである。
実際にとてもキャッチーなお味のレモンソーダ。ファンタのレモン味なのだが、日本ではあまり見かけない。
暑い昼下がり、ビールをレモンソーダで割って飲む”クラーラ”は格別。

なくてはならないほどである。

 

テーブルの準備が整ったら、いざ実食!!

突然、ミゲール先生が汗を拭きながら、意見を聞く。
「お皿で食べる」or「鍋ごと食べる」かの選択である。
半数がお皿を選択した。半数がお鍋を選ぶことに。

 

テラスのテーブルにパエリャ鍋がやってきた。やはり70cmのお鍋は豪快である。
黒い鍋に、黄色のパエリャ。青い空に白い壁。緑が揺れる最高のコントラストである。
お皿組は、ややお鍋の遠いところに、そして、お鍋組である。
ミゲール先生がお鍋組に意見を聞く。
「どこに座るのか?」
私は、何のこっちゃ分からなかったが、数名がパエリャ鍋を見ながら、席を指差していた。
順調にお鍋組も席次が決まり、念願のパエリャバレンシアーナ実食。

 

「ペシっ!」
スプーンをお鍋に向けた私の右手は、ミゲール先生に撃沈された。
「ゆーき。ダメダメ。」
あっ。”いただきます”を言わずに食欲という欲に包まれた私の心を、流石の先生はご察しになられたのか。
はしたない私。
気持ちを正して”合唱”そして”いただきます”。
「ペシっ!」
「ゆーき。ダメ。ダメ。ダメ。」
もはや、食欲に侵食された私の右手と、アミラーゼたっぷりの唾液が溢れかけていたが、先生のストップは絶対である。一時停止を余儀なくされた私は、交通ルールに則り、右を見て、左を見て、さらに右を見て確認をした。皆、美味しそうにスプーンを進めているではないか。

もちろん、ミゲール先生もモグモグとパエリャを食している。私だけが、お預けくらっているのか?
”ははーん。”軽いジョークと認識した私。
懲りずに、スプーンアッタクを仕掛ける。
「ペシっ!」
いやもう一度、この手のジョークは、繰り返すことにより実るタイプである。
「ペシっ!」
「ペシっ!」
意外と、ミゲール先生も突っ込み好きである。

この茶番を繰り返すうちに、私のロックオンしていた、食べたいお肉はタカシの口の中に。
タカシの胃の中に、タカシの腸に向けて旅立って行ったのである。
”シェーン。カムバーック”
届かぬ願いと、悲痛。

一目惚れしたあの子は、まさか仲間のタカシに取られ、私はここに一人残されたのである。

早朝の遭難劇の罪をここに感じればよいのか、数々犯してきた人間の煩悩をここに思いはせば良いのか?自問自答を繰り返す。戻らぬシェーン。戻っても困るシェーン。いやむしろ違う子を探した方が良いのでは?
なんて自分勝手な男である。

と、ハルコさんが「バレンシアスタイルなのよ。」
スペイン版三蔵法師のお告げである。
”???”
ナンノコッチャのパンナコッタのアナコンダである。
「ほら、さっき席次を決めたでしょ」 ”うんうん”
「座った場所からお鍋にの中心に向かった三角州のエリア」 ”うんうん”
「この部分が君の領域」 うんうん”
「君がスプーンを向けた先は、タカシくんの領域ということ」”うんうん”
と、三蔵法師と野猿のやりとり。


野猿がミゲール先生の顔を見つめると、ニコニコと頷いている。
野猿は、スプーンを進ませた。
野猿は、感動した。
まず、どこまでもひらがるチキンのコクと余韻。こんな表情のチキンの旨味は初めてである。
国内でも銘柄鶏や地鶏では追いつかない旨味である。その鶏は少し黄色味があって個体の大きい。ちょっと値段のはる種類。格別な美味しさだ。そしてふっくらなお豆。スープを吸ったお豆の繊維がねっとり舌を覆う。
鼻に抜けるサフランとローズマリーの香り。それでいて、トマトやニンニクパプリカの個性は感じない。
しかし厚みがあるお味。ピアノはチキン。ヴァイオリンにお豆。チェロをお米の三重奏のハーモニー。
さらに、ヴィオラのニンニク・トマト・サフラン・ローズマリー、コントラバスに兎の五重奏。
この楽団をまとめた指揮者はミゲール先生なのだ。
出るとこは出る、引くとこはひく、探せば見つかるし、探さなくても存在する。邪魔もしないし、主張もしない。
ってつまり「どんな味?」


ズバリ。「パエリャバレンシアーナ味」なのだ。


日本式に答えるなら、塩味であるが、そういうことでは片付けられない。
つまり、こうである。
”お蕎麦”は何味?
そう、蕎麦の味である。
そばつゆは、何味?
日本式には、醤油味である。
野猿的には、カツオと昆布とカエシの味である。
ナポリタン”は何味?
そう、ケチャップ味である。
ケチャップは、何味?
日本式には、トマト味である。
野猿的には、焼いたトマトと、ナツメグと炒めた玉ねぎの味である
あるおっちゃんが言った。釣りばっかしてるおっちゃんが。
”ヘラに始まりヘラに終わる”
あるおっちゃんが言った。麻雀ばっかしてるおっちゃんが。
”ピンフに始まりピンフに終わる”
ある野猿は悟った。パエリャ馬鹿の野猿が。
”バレンシアーナに始まりバレンシアーナに終わる”

ここまでで十分に”パエリャバレンシアーナ”の魅力が溢れ出してしまっている訳だが、さらに恐れ多い事実が待っている。
その名は”ソカロッ”という存在だ。
この”ソカロッ”はパエリャバレンシアーナの森を抜け行き着いた”テンジク-天国-“。
パエリャ鍋の底に生息する神秘的な存在である。
色は、茶褐色の飴色で、香ばしさと程よい粘りを持っている。
「ソカロッがなくてはパエリャであらず」これがバレンシアでの鉄則なのだ。
この”ソカロッ”をコントロールできれば立派なパエリャ職人の証。
ここを目指し日々研究を重ねる日々が始まっていくのである。

 

 

続く。。。