大学スポーツ界の新たな未来を拓く、クラウドファンディング活用の可能性

一般社団法人ユニサカは、早稲田大学と慶応義塾大学の学生が主体となり、大学スポーツに変革を起こすことを目的に活動を続ける、法人格を持つ全国唯一の団体だ。学生が主体となって取り組む革新的な企業活動であるだけに、その分、風当たりも強く、周囲からの猛反発を受けることに。 それでも諦めず、ユニサカのメンバーが前を向いて進むことができたのは、クラウドファンディングを通じて知り得た、応援者たちの心強いメッセージが支えてくれたからだ。
プロジェクトデータ
プロジェクト目的: 資金調達・パトロン(仲間)の募集
募集期間: 2019年6月~7月
資金調達: 151万円
パトロン数: 158人
プロジェクト名: 大学スポーツ界の未来を変える!『早慶クラシコ2019~世界一負けたくない試合~』
プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/174387

■プライドと伝統をかけた熱き戦い「早慶クラシコ」を世界屈指のスポーツイベントに

この時期には珍しい、肌寒い雨天となった7月12日(金)――。あいにくの天候と平日であるにもかかわらず、等々力競技場(神奈川・川崎)には約1万4,000人の観客が詰め掛け、場内は熱気に包まれていた。観客席はチームカラーを表す黄色のTシャツと、えんじ(赤)色のTシャツに彩られる。

この日は、女子部の「第18回早慶女子サッカー定期戦」と70年の歴史を誇る男子部の「第70回早慶サッカー定期戦」の2部制による早慶サッカー定期戦が開催された。早稲田大学ア式蹴球部と慶應義塾体育会ソッカー部が互いのプライドをかけた、伝統の熱き戦いが繰り広げられた。


早慶サッカー定期戦は、最近“早慶クラシコ”の愛称でも親しまれている。この愛称を新たに掲げ、企画・運営を担うのが学生主体で設立された「一般社団法人ユニサカ」だ。ユニサカの語源は“ユニーク・ユニバーシティ・ユナイト×サッカー”。

ユニサカが標榜するのは、“大学スポーツの変革”だ。早慶クラシコのプロジェクトを突破口に、人材の流動性が低く閉鎖的な思考の大学スポーツを、学生主導で変えていく。

慶應義塾体育会ソッカー部マネージャー兼ユニサカ代表理事の奥山大さんは「大学スポーツ界は閉鎖的な状態にあるからこそ、そこに風穴を開けて誰もが参加できる、風通しの良い環境に変えていく。その先には、今盛り上がりを見せる米国のカレッジスポーツの成功モデルが見えてくる。カレッジスポーツは全米大学体育協会(NCAA)主導であるが、僕たちユニサカはそれを学生主体で行う。その意義は大きいと考えてアクションを起こしたのがきっかけです」と話す。

■エンターテインメントを取り込み、大学スポーツを閉鎖から開放へ

大学スポーツの閉鎖性を打破し、できるだけ多くの人に開放したい――。その想いから、早慶クラシコの開催当日はエンターテインメントをキーワードに、絶対に負けられない熱き戦いへつなぐ3つの“導線”を仕掛けている。

1)女子部と男子部によるハーフタイムショーの初開催

早慶クラシコでは、“スポーツ×️音楽”の可能性を追求し、試合の前半と後半の間にハーフタイムショーを実施している。第3回目となる今回は、これまでの男子部の試合に加え女子部の試合にもハーフタイムショーを初開催。

女子部には、オーディションバラエティー番組から誕生した「ラストアイドル」、男子部には元ファンキーモンキーベイベーズの「ファンキー加藤」が登場。その時、場内はライブ会場へと一変し、早慶サッカーの熱き戦いに音楽の華を添えていた。

2)「クラシコパーク」の開催

クラシコパークとは、競技場外の広場で行われるイベントだ。当日は、早稲田大学と慶應義塾大学のチアリーディング部やバンドサークルなどが参加し、一般大学生、さらには近隣地域の人たちにも参加を呼びかけ、さまざまな人たちの“交流の場”ができていた。
奥山さんは「体育会系の学生とそれ以外の学生とは授業以外ではなかなか接点がない。早慶クラシコでその接点をつくり、普段交わることのない人たちが互いを知り視野を広げることで化学反応を起こせたらいい」と期待を寄せる。

3)デジタル衛星放送「スカパー!」との共同制作による3時間無料生放送の実施

早慶サッカーをもっと多くの人に観てほしい、関心を持ってほしいとの想いをきっかけに、学生主体で行う大学スポーツの価値を最大化するには、学生が中心となって企画から番組構成、当日の放映まで参加し発信する必要があると考え、「スカパー!」と3時間無料生放送を実施する共同制作に踏み切っている。

「スカパー!さんには、学生ならではの視点、視聴者に近い感覚で感じた学生の想いを生放送に乗せることで、学生が主体で取り組むことに魅力を感じていただき、さらにその制作プロセス自体にも価値があるとの判断からサポートしていただいています。」と奥山さんは話す。

■ユニサカの取り組みから見る、クラウドファンディングの新たな価値観

早慶クラシコのこうした成功の一因に、クラウドファンディングの活用がある。ユニサカとしては、初代理事の時に活用して以来2回目となる。その理由について、奥山さんは「大学スポーツ界の閉鎖性を解いていくにはどうすればいいか――。この課題を克服する手段として、クラウドファンディングが適しているとの結論に至りました」と説明する。

今回、クラウドファンディングの目的に設定したのは資金調達、そして仲間を増やすことの2つ。仲間を増やすとは、ユニサカの活動に賛同しSNSなどを使って広報・宣伝してくれる“ユニサカファン”を増やすことだ。

エキサイティングで、多くの人を巻き込み感動を与えるエネルギーを持つ大学スポーツの魅力を感じてもらうには、もっと多くの人たちに“自分ごと化”を促す必要があると考えていた奥山さん。「閉鎖的な大学の体育会から開放し、より多くの人に大学スポーツ界の主語を広げていきたい、変革する当事者の一人になってもらいたいと考え、クラウドファンディングの活用を選択したわけです。」

■想定以上に、行き届いたキャンプファイヤーの対応に感謝

キャンプファイヤーへ依頼する決め手となったのは、初代理事の時に依頼実績があったこと、他社に比べプロジェクトの実績が多いことと話す奥山さん。「僕たちは露出の最大化にコミットする必要があったので、より多くの人にプロジェクトを知っていただき、価値を届けられるプラットフォームを選択する必要があり、キャンプファイヤーさんにお願いしました。」

早慶クラシコのプロジェクトをスタートさせるにあたり、奥山さんはクラウドファンディング以外にも、協賛企業への営業活動、広報活動、当日のオペレーションの準備などと同時進行になるため、対応するキャパシティーに限界があることを、事前にキャンプファイヤーのプロジェクト担当者に相談。

実際にプロジェクトが進み出すと、その担当者からプロジェクトページを掲載する上での具体的なアドバイスを受けたり、見落としそうな点や管理しきれなかった部分を先回りしてアラートを出したり、広報活動をサポートしたりするなど、さまざまな形で対応してくれたという。奥山さんは、「僕たちが想定していた以上にサポートしていただき、行き届いたケアをしていただけたことに感謝しています。こうした対応が、僕たちの安心感につながり、無事プロジェクトを完遂できたことに結実しています。」

■リターン品は“試合観戦の促進”“自分ごと化”をテーマに考案

さらに、リターンの設計については、
1)当日観戦しに会場に足を運んでもらうよう促すこと
2)早慶クラシコの“自分ごと化”を推進すること
――の2つをポイントにしたという奥山さん。
「早慶クラシコの価値、ひいては大学スポーツの価値を体験できる、そして当日会場で楽しめるリターン品を選定しました。」

リターン品の1つは当日の観戦チケット。実際に会場に足を運んでみなければ、早慶戦の醍醐味である独特な張り詰めた空気感は実感できないという。「今回のクラウドファンディングの目的で挙げたパトロンの募集は、当日の来場者を募るということでもありました。」さらに“自分ごと化”を促すため、サンクスレター、早慶クラシコの活動報告レポートなどをセットにしたチケットも取り揃えている。

2つめは、Tシャツだ。観客席に両大学のチームカラーが彩る景色は、熱き戦いの盛り上がりを演出する舞台装置となる。
「会場に行った時、自分はどっちを応援するのかという、“自分ごと化”する仕掛けとして、両大学のチームカラーに早慶クラシコのオリジナルロゴを印字したTシャツを制作しました。会場全体の雰囲気づくりを演出してくれる、重要なグッズです。」その他に、クリアボトル(ウォーターボトル)なども取り揃えた、オリジナルグッズは好評のようだ。「イベントとして、早慶クラシコを成功させるのが一番の目標。これらのリターン品(=オリジナルグッズ)が貢献してくれたと思っています。」

■反発を受けてこそ、見えてくるものがある

しかし、その道のりは決して順風満帆ではなかった――。大学スポーツを閉鎖から開放へ方向転換する新たな試みは、周囲から猛反発を受けることとなった。

「学生が主導権をもって改革を進めていくこと、そして大学スポーツをより多くの人が認知してもらえるよう、楽しめるエンターテインメントの要素を加えたことに、周囲から多くの反対意見をいただきました。」と語る奥山さん。

そうした反発に遭いながら、また反対意見に揺らぐ感情と闘いながら、それでも奥山さんはあきらめずに頑張り続けた。それを支えたのが、クラウドファンディングで通じて集まった、数々の応援メッセージだったという。

「僕たちを応援してくれるメッセージが、心の支えとなり、それをエネルギーに変えながら、早慶クラシコのプロジェクトを進めていくことができました。」

■“開かれた大学スポーツ”の先にあるものは

なぜ、このような反発を受けながらも、奥山さんをはじめユニサカのメンバーは“開かれた大学スポーツ”にこだわっているのか――。
その答えとして、大学スポーツには社会貢献のポテンシャルがあるからだという。そのポイントとして3つの視点を挙げている。

1)大学スポーツで学んだことが社会に還元される

アスリートが大学スポーツを通じて学んだことが、社会人になった時にそれが活かされ社会へ還元されて、一つの社会貢献としてつながっていくという。

2)大学の価値向上が国力の強化につながる

日本の大学レベルは、相対的に海外の大学に比べ低下している傾向にある。大学レベルの向上に向けて、大学スポーツで認知向上を図り、マネタイズされる。それが教育機関として投資され、研究機関などさまざまな取り組みへと進展する。その結果、大学のレベルが向上し国力の強化につながるという。こうした考えのベースにあるのが、米国の大学スポーツだ。

 
奥山さんは「こうしたサイクルを循環させることで、新たな可能性、次に見えてくるものが絶対にあると思う。だからこそ、ユニサカはそこを目指そうと考えました」と確信を込めて話す。

3)スポーツを共通言語とした地域貢献

地域を一つにする時、スポーツは共通言語としてわかりやすい。奥山さんは、そうしたアクティビティーを用意することが地域貢献と考える。

■学生の、学生による、学生のためのユニサカ

こうした目標を掲げるユニサカは現在、奥山さんを理事とする3期目に入り、今後の活動について改めて見直しを始めている。
「これまで3年間、早慶クラシコプロジェクトに注力し、やれることはすべてやって達成した成果と、それによって新たに見えてきた状況があります。その2つを鑑みて、今後どのような方向で進んでいくべきか、ユニサカの意義を再定義するフェーズを迎え、見直しを進めています」と語る奥山さん。
早慶クラシコで培ったノウハウを大学スポーツ界全体に広げて展開していくか、あるいは大学サッカーを切り口に大学スポーツの開放、発展に取り組んでいくか――。当時の立ち上げを知るメンバーは、奥山さん一人となった今、ユニサカとして取り組むべき今後の活動についての話し合いに力が入る。

また、ユニサカの組織のあり方についても、検討しているという。「多くの人に親しまれる一つの文化として定着させるためには、法人としてトップの顔が毎年変わることを見直し、早慶クラシコを連続性のあるプロジェクトにしていく必要があることを考えています。」
かつてユニサカで活動したOBは今、実際に社員という形でサポートしたり、社会人としての立場から有意義なアドバイスを受けていたりと、学生主体の組織をサポートしている。

奥山さんは「大学スポーツ界は伝統の上に成り立っている側面があり、その上にさらに積み重ねていく意味でも、短期的と長期的な見方の両輪で進めていく必要がある」と考えている。

とはいえ、これまでのように奥山さんも来年の早慶クラシコプロジェクトのバトン、つまり主導権を後継者に渡すことになる。
奥山さんは、これからユニサカの活動に取り組んでいくメンバーに向けて、常々伝えていることがある。それは、活動を続けていく上で大事なのはビジョンではなくフィロソフィー(哲学)だということ。「先が見えない、上手くいかない、どうしていいか分からず自分たちでビジョンが立てられないという状況でも、自分の中にあるフィロソフィーを軸に、選択するなど状況を判断していけば、自分たちが納得いく未来にたどり着けると伝えています。」

■クラウドファンディングの活用はオープンに応援者を募るのに有効な手段

今回のクラウドファンディングについて、「反発を受けてきた中、158人というパトロンの数では測れない、心のこもったたくさんのメッセージに支えられたことは僕たちにとって大きな財産になりました」と振り返る奥山さん。「体育会だけのものになっている大学スポーツを、より開かれたものにするには応援者をオープンに募ることできる、クラウドファンディングの活用が有効な手段であったと実感しています。」

大学スポーツの振興に学生主体で取り組む法人として、全国唯一の存在であるユニサカ。早慶クラシコを世界のトップイベントにすることを目標とし、大学スポーツを閉鎖から開放へと変えていく――。その活動は、大学関係を中心に注目されている。

現在は、講師としてセミナーに招かれたり、さまざまなプロジェクトに参画したりするなど、その活動の場はますます広がりを見せている。


<企業概要>
・企業名:一般社団法人ユニサカ
・代表者:奥山 大
・事業内容:「早慶クラシコ」プロジェクトや「関東リーグ1000人動員」プロジェクトの企画・運営、等