プロジェクトデータ クラウドファンディングの目的: 認知度向上(「c7h8n4o2」ファンの拡大)・資金調達 募集期間: 2019年8月~10月 調達資金: 629万円 支援者数: 931人 プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/186415
渋谷駅直結の「渋谷スクランブルスクエア ショップ&レストラン1階 東急フードショーエッジ」にチョコのセレクトショップを出店
1階の渋谷ヒカリエ側出入り口から入っていくと、真っ先に目に飛び込んでくる、デコレーションケーキのようなデザインのディスプレイ――。天井から吊るされた「c7h8n4o2」のサインが目印だ。そこにはイディリオ・オリジン(スイス)やクレール・マリ(フランス)をはじめ、厳選された約70種類の希少なチョコレートが陳列され、それぞれにスタッフが作成した商品のストーリーを伝えるPOPを置き、商品情報を分かりやすく発信している。「c7h8n4o2」を運営するのは、オーナーであるアーモンド株式会社代表の児玉寿瑞奈(こだま すずな)さん。2015年6月に、チョコレートのオンラインセレクトショップ「c7h8n4o2」としてスタートし、今回のリアルショップのオープンに至る。
ちなみに、c7h8n4o2とはカカオ豆に含まれるテオブロミン成分の化学式に由来する。ただし、これまで明確な呼び名がなかったため、オープンを機に「チョコ係(がかり)」としている。オンラインショップは開始以来、チョコレートマニアを中心に話題となる。その秘密は、児玉さん自らが世界を飛び回り、“売れそうなもの”ではなく、味覚と視覚を使って自分自身が“食べたい!と思えるもの”を取り揃えている点にある。その後、知り合いからの紹介により、都内の有名百貨店でポップアップストアを年に数回開くことに。そうした中で、今回の「渋谷スクランブルスクエア」出店の引き合いがあったという。
「初めてその話を伺った時は、突然のこともあり現実味のない話と感じて、『そんなこと、絶対に無理ですよ』と思っていましたが、徐々に自分の中で真実味を帯びてきて真剣に考えるようになりました」
リアルショップは初期費用や当座の運転資金を用意する必要があり、リスクも大きいとの考えから、オンラインショップを始めた児玉さんにとって、こうした対応になったのは無理もないこと。しかし、幾度となく出店の話を聞いているうちに、気持ちが次第に変化していったという。「青山学院大学に在学していたこともあり、私にとって渋谷は通い慣れた、親しみのある街。その渋谷駅と直結する大きなビルに私の店を出せるなんて、一生に一度あるかないかの話であり、これ以上の立地条件はないだろうと思うようになっていきました」。
児玉さんは、ポップアップストアで店舗運営の経験を地道に積み上げていた時期とも重なり、リアルショップのオープンを決意。「自己資金もほとんどない中で、出店するってことだけは決めちゃって(笑)。ただ、お店をすでに開いている人から、『開店当初は自己資金がなくても事業計画をきちんと作って金融機関に融資を依頼すれば開店はできる』と聞いて少し安心しました」。
“多くの人に知ってもらえる機会になる”とクラウドファンディングを活用
児玉さんは、資金調達先について信頼できる周りの人に相談する中、キャンプファイヤーのクラウドファンディングを知ることに。検討し始めたのは、オープンからわずか数ヵ月前のことだった。「当初は、店舗の運転資金を調達することを目的に考えていました。ところが、クラウドファンディングサイトでチョコ係について取り上げてもらえると知り、まだ私の店を知らない人にも知ってもらえるいい機会になると考え、クラウドファンディングの実施に踏み切りました」。
そして、2019年8月から2ヵ月間、クラウドファンディングを実施。その結果、629万円の調達資金が集まり、支援者数は931人にのぼった。また、そのうち約4割が新規の支援者という結果に。
「私にとってクラウドファンディングは、今回が初めてでした。キャンプファイヤーの担当の方から的確なアドバイスがあり、それに沿って対応できたことがこのような好結果に結びついたと思っています」
こう控えめに語る児玉さんだが、この好結果の要因として3つのポイントが浮かび上がってくる。
新たな“c7h8n4o2ファン”づくりを目指し、Webページは分かりやすく伝わるように
「c7h8n4o2」がどのような店であるか、児玉さんがどのような考えで店を運営しているかを知ってもらうことが大事と考え、できるだけ分かりやすくより伝わるようにWebページを作成したという。“チョコ好き”には堪らない! 魅力あふれるリターン品の数々
クラウドファンディングでしか味わえない希少商品を用意。例えば、クレール・マリのカルパントラ産サクランボのコンフィチュール。百貨店のポップアップストアでは、整理券を配らなければならないほどの人気商品。クラウドファンディングで買えるとなれば、“チョコ好き”の人には喜んでくれるはずとの理由で選定。フランスのショコラブランド「クレール・マリ」との関係は、児玉さんがTwitterで見つけた焼き菓子を通販で購入したことがきっかけ。その焼き菓子の美味しさに魅了されて、Twitterを通じたやり取りが始まり、結果、マントン産レモンピールをつかったチョコレートを作ってもらったのが最初だ。これが大変な人気になり、そこからコンフィシチュールを作ってもらうようになったという。
またイベント「チョコ会」も実施。これまでも、その魅力を知ってもらうためにさまざまなチョコレートを味わうことを目的に少人数で開いてきたイベント。時には、チョコレートに限らず、海外からおみやげに買ってきたものを、少しずつシェアしてみんなで楽しむこともある。今回のリターン品では、支援者の好みに合わせたチョコ会を設計。児玉さんが当日までに、参加者に話を聞きながら嗜好をくみとり、ブランドや味覚を基に選定し提供している。
“チョコ愛”あるからこそがなせる、随所に光るセンスの良さ
Webページに掲載された、チョコレートの魅力をあますことなく表現した写真の数々は、すべて児玉さんの友人が撮影したものだ。児玉さん曰く、この友人は、“チョコレート好き”が高じてこうしたチョコレートの魅力を引き出す写真が撮れるようになったという。また、百貨店で開いてきたポップアップショップでは、児玉さんが自宅の家具を使ってセンス良くレイアウトを施している。
“チョコ人生”の原点は有楽製菓の「デラックスミルクチョコレート」
児玉さんのチョコレート愛に満ちた“チョコ人生”は、幼い頃よく口にしていた有楽製菓株式会社の「デラックスミルクチョコレート」が原点のようだ。児玉さんの祖母は、東京工場直営店の近所に住んでいたこともあり、孫娘のためにいつも買い置きしてくれていたという。このミルクチョコレートが、児玉さんの“チョコ人生”の原点になる。「子どもの頃に、あの大きな板チョコは食べ応えがあり、それが自宅に常備されていたというのは不思議な家庭環境だったのかもしれません(笑)。でも、そのおかげで“チョコレート好き”になれたのかなと思いますし、私にとってチョコレートが重要な存在になった大きなきっかけともいえますね」と嬉しそうに振り返る。
幼い頃に焼き付いたチョコレートの記憶は、やがて大学生になった時に“チョコレート愛”を呼び覚ますことに。「その頃、ジャン=ポール・エヴァンやピエール・マルコリーニなどに代表される、海外の高級ショコラティエブームが到来し、日本に一粒何百円の高級チョコレートの市場が一気に確立されてしまった。当時稼いだバイト代で、高級チョコレートを口にするようになり、私のチョコレートの世界は大きく広がりました」。
この頃から、自分の好きなチョコレートを集め、その作り手の想いを伝えるセレクトショップを開きたいという気持ちが芽生えていた児玉さん。大学卒業後は、一般大手企業でOL生活を送る傍ら、チョコレートについて知識を習得したり、知人の紹介を通じてチョコレートショップでアルバイトしたりするなど“チョコレート愛”はますます高まっていった。そんなある時、ポルトガルを訪れた際に食品展示会を見学。たまたま宿泊したホテルの近くに、児玉さんが好きなチョコレートを扱うショップを発見。そこのオーナーからの一言が、セレクトショップを始めるきっかけになったという。
「会話の中で、『いつかはチョコレートのセレクトショップをしたいと思っている』と話すと、そのオーナーは『今始めたらいいんじゃないの?』と。その一言に背中を押され、帰国してすぐにオンラインショップを開設するために必要な手続きを一気に始めました」
このポルトガルのチョコレートショップが、取引先第一号となる。これをきっかけに、チョコレートのセレクトショップを始めたいとの想いが明確になり、これまで縁のあったショップや、当時まだ輸入されていないチョコレートショップに声をかけ、オンラインショップのスタート時にはポルトガル、スイス、イタリアの3ブランドというバラエティに富んだラインナップを実現している。
“美味しいチョコ体験”ができる、チョコレートの選定基準とは
セレクトショップをスタートして以来、児玉さんは世界中を飛び回り、“自分が食べたいもの”の収集に余念がない。その選択基準には3つのポイントがある。1 また食べたくなるもの
2 常備したくなるような美味しさ
3 何も難しく考えずに美味しいもの
新しさばかりを追い求めるのではなく、伝統的なものを大事にしたり、季節ごとの旬のものを美味しく食べられる幸せを感じたりする“美味しいチョコ体験”を、多くの人にもっと知ってほしいという想いがベースにある。チョコレートの美味しさだけでなく、それを取り巻くヨーロッパのチョコレート文化について紹介していきたいと話す児玉さん。
「ヨーロッパでは、自分の好きなチョコを買ってティータイムや夕食後に食べたり、プレゼントにちょっと添えたりとチョコレートが日常に溶け込んでいる。そうしたヨーロッパの文化を伝え、日本にも根付かせていきたい」
また、季節を感じられるチョコレートも提供していきたいという。
「季節ごとの旬のフルーツを使ったものをはじめ、クリスマスにはスパイスを使ったもの、イースターには卵を使ったものなど、1年を通じて楽しんでもらえるチョコレートを提供し、それにまつわる情報も合わせて発信していければと思っています」
現在、チョコレートの供給先はポルトガル、スイス、南イタリア・シチリア、フランス・ニース、イギリスなどのヨーロッパ地域や、フィリピンなど多岐に広がっている。
“チョコ愛”が取り持つ縁がもたらしたリアルセレクトショップ
前述した、Webページに掲載のチョコレートの写真を撮影する友人のカメラマンをはじめ、海外のチョコレートショップのオーナーとのやり取りを代わりに対応してくれる現地の友人、さらにはポップアップストアの話を持ち掛けてくれた百貨店とのつながりを持つ知り合いなど、児玉さんの周りにいる人たちが随所にサポートしている様子がうかがえる。「気が付けば、私の周りには“チョコ好き”で、親切な方が多く集まっていました(笑)。今振り返って考えると、これまでチョコレートや菓子を介して知り合ってきた人たちとのつながりがずっと続いてきたことが、今回のリアルショップのオープンに結実したと考えることもできますね」。
当面は、このリアルショップを軌道に乗せ、店舗運営を続けていくことが最優先の目標と話す児玉さん。「将来的には、日本にヨーロッパ由来のチョコレート文化を根付かせて、チョコがいつも身近にある“豊かなチョコライフ”を実現していければと思っています」
そう明るい笑顔で楽しそうに話す姿が印象的であった。
「c7h8n4o2」オンラインショップ:http://www.c7h8n4o2.com/