クラウドファンディングで飛騨牛“困窮”のピンチをチャンスに! ―1万人の支援と1億1,000万円を集めたプロジェクトの全貌に迫る―

コロナ禍の影響を受け、観光地には客足が途絶え、日本経済は停滞を余儀なくされた。岐阜の飛騨・高山地域も例外ではなく、客足は激減し、なかでもブランド和牛「飛騨牛」は行き場を失い、生産者や小売店は大打撃を受けることに。そこで、「飛騨牛」を救済すべく立ち上がったのが”ALL飛騨”だ。「飛騨牛」の行き場を創り出すため、クラウドファンディングに挑戦。その結果、支援者1万人、資金1億1,000万円を集め、当初の目標金額をはるかに凌ぐ快挙となった。なぜこのような快挙を成し遂げることができたのか。その秘訣に迫る。
コロナ禍の影響を受け、レストランや居酒屋などの飲食店、観光地には客足が途絶え、人が大勢集まるイベントはことごとく中止に追い込まれ、日本経済は停滞を余儀なくされた。

観光地で知られる岐阜の飛騨・高山地域も例外ではなく、2020年3月以降客足は激減し、なかでもブランド和牛「飛騨牛」は行き場を失い、生産者や小売店は大打撃を受けることに。そこで、「飛騨牛」を救済すべく立ち上がったのがJAひだ、十六銀行、飛騨信用組合の金融機関を中心に、ネット通販・ECコンサルティング会社、畜産農家、精肉店が集結した”ALL飛騨”だ。「飛騨牛」の行き場を創り出すため、CAMPFIRE(キャンプファイヤー)のクラウドファンディングに挑戦。

その結果、ゴールデンウイークを含む12日間で 支援者1万人、資金1億1,000万円を集め、当初の目標金額1,000万円をはるかに凌ぐ快挙となった。 これにより、2020年の優れた挑戦をたたえる「CAMPFIRE クラウドファンディングアワード」では、最高位となる総合賞1位を受賞。本アワードが開始した2017年以来、食品部門での最高位受賞は初となる。さらには、“アフタークラウドファンディング”として新たな“飛騨牛のファン”の獲得にもつなげている。

では、なぜこのような快挙を成し遂げることができたのか――その秘訣に迫る。

プロジェクトデータ

■プロジェクト名
#おうちで飛騨牛 みんなで大切に育てた飛騨牛を「今」美味しく食べてほしい!!

■プロジェクトの目的
新たな販売チャネルの創出、資金調達(発送費の確保)、PR

募集期間
2020年4月29日~2020年5月10日

調達金額
114,370,014円

支援者数
10,002人

プロジェクトURL
https://camp-fire.jp/projects/view/265287

「#おうちで飛騨牛」プロジェクトが1億円調達の快挙達成

「私たちもびっくりしました。募集がスタートして2時間ほどで目標の1,000万円を突破して、最終的に1万人の方から1億1,000万円を集めることになろうとは想像すらしていませんでしたから。支援していただいた方々には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。」そう語るのは、JAひだ販売戦略課課長の橋本直幸さん。

JAひだ販売戦略課課長 橋本直幸さん

2020年4月に「#おうちで飛騨牛」プロジェクトを立ち上げ、キャンプファイヤーのクラウドファンディングに挑戦し、1億円以上の資金を調達する“金字塔”を打ち立てる結果となった。

とはいえ、ここに至るまでの過程は、決して平たんな道のりではなかった。なぜなら、JAひだ、十六銀行、飛騨信用組合という主要金融機関が連携した異例の体制でクラウドファンディングに挑む初の試みであり、1万人の支援者数と1億1,000万円の資金はクラウドファンディングで対応できるキャパシティを優に超えていたからだ。

飛騨牛を救済したい――その想いで集結した“ALL飛騨”

コロナ禍の影響が出てきたのは、2020年3月に入った頃。観光客の客足が鈍り始め、飲食店や小売店の売上は低迷し、これに伴いブランド和牛「飛騨牛」の枝肉※の競り価格は、2019年12月に比べ4割以上下落し、生産者の収入も減少。精肉店では在庫が余剰し、新たに仕入れができなくなり、飛騨牛の肉は市場で徐々に滞留し始める。

骨が付いたままの肉の状態

JAひだの橋本さんは、畜産農家の方や精肉店の方のもとへ足を運んだり、連絡を取ったりして現状の把握に努めた。こうした現状を基に、JAひだはこの厳しい状況の打開に乗り出すため、十六銀行へ相談。同銀行シンクタンクの十六総合研究所主任研究員の田代達生さんが中心となり、クラウドファンディングを活用した打開策を提案することとなった。

そこにメンバーとして呼ばれたのが、クラウドファンディングを活用したオンライン物産展の開催実績がある株式会社ヒダカラ代表取締役の舩坂康祐さん、さらには飛騨・高山地域に特化したクラウドファンディングサイト「FAAVO(ファーボ)飛騨・高山」の運営を担う飛騨信用組合ブランド戦略課の岡本竜太さんであった。

ヒダカラの舩坂さんは、その時の様子を振り返る。「2020年4月14日に、ウチ(ヒダカラ)で作成した簡単な提案書をもって十六総研の田代さんに同行し、ひだしん(飛騨信用組合)の岡本さんにも加わっていただいて初めてJAさんを訪れました。そこで、『畜産農家さんや街の精肉店さんに協力をお願いして、クラウドファンディングを使った精肉のネット販売をしてみませんか』と提案し、JAさんにご賛同いただき進めることになったわけです」。


ヒダカラ 舩坂さん

このミーティングが行われた3日後の4月17日には、JAひだでこの提案に関する稟議が承認され、すぐに関係者を集めたキックオフミーティングを開くことに。ここで、「飛騨牛を救済したい」との想いを共有した“ALL飛騨”が集結した。

今回のプロジェクトは、「肉の日」に合わせて4月29日より募集を開始することに決定。それゆえに、約10日という限られた期間内で、役割をそれぞれ分担し生産者の畜産農家に協力を求めたり、テレビ局など各メディアに連絡を取ったり、クラウドファンディングのWebページを作成したりと急ピッチで準備を進めていった。こうした努力が結実し、1万人の支援者から1億1,000万円の資金を集めるという快挙を成し遂げている。

なお、今回のクラウドファンディングは、キャンプファイヤーが提供する「新型コロナウイルス(COVID-19)サポートプログラム」を活用。これは、2014年からキャンプファイヤーと契約を結ぶ飛騨信用組合が、「ファーボ飛騨・高山」を通じて実施されている。「ファーボ飛騨・高山」は、ヒダカラと連携してクラウドファンディングを活用したオンライン物産展を行うなど数多くのプロジェクトを手掛けてきた実績を持つ。

快挙を成し遂げた秘訣は、“共感”にあり

では、このような快挙を成し遂げた秘訣は、どこにあるのだろか――。
その秘訣として、

①“ALL飛騨”による強みの結集
②プロジェクトの方向性
③リターン品の設計
④Webページの構成
⑤メディアを生かしたPR

――の5つのポイントが挙げられる。

①“ALL飛騨”による強みの結集

今回の快挙において、大きな原動力となった“ALL飛騨”。このことについて、飛騨信用組合の岡本さんは、次のように語っている。「JAさんは畜産や出荷の流れ、各業者さんとの関係性などに強みがあり、ヒダカラさんはネット販売やWebサイトの作成・運営などのノウハウがあり、ひだしんはクラウドファンディングの経験や知見があるなど、今回のプロジェクトではそれぞれが持つ強みを発揮し、いい形で連動できた成果と見ています」。

②プロジェクトの方向性

今回のプロジェクトの方向性を決めるにあたり、“ALL飛騨”の中で議論を重ねたという。焦点となったのは、「コロナ禍で困っているので助けてください」というメッセージを前面に押し出すか否か――。

「それはもちろん背景にはありますが、皆で協議して決めた方向性としてはあまり後ろ向きにならず、『飛騨牛を食べて元気になってもらいたい』という前向きなメッセージを込めるようにしました」。こう話すヒダカラの舩坂さんに呼応し、飛騨信用組合の岡本さんがその背景について説明してくれた。

「ちょうど3月の終わりから4月にかけて、『助けてください』という趣旨のクラウドファンディングのプロジェクトが増える中で、どう違いを見せるかがポイントになると。

それに、過去のプロジェクトを鑑みると、悲観的な面を押し出すことで、かえってリピートにつながらなくなったり、ディスカウントして提供せざるを得ない状況になったりと負の側面が出ていたので、できるだけ前向きな印象をもってもらえるように、プロジェト名を『#おうちで飛騨牛みんなで大切に育てた飛騨牛を「今」美味しく食べてほしい!!』としています」。


飛騨信用組合 岡本さん

③リターン品の設計

リターン品の設計についてはそのベースづくりを、ネット通販を得意とするヒダカラが担当。舩坂さんは、これまで培ったノウハウを活かし、できるだけ多くの購買意欲を促せるよう、そして複数回のリピート支援をいただけるように、リターン品を多彩に取り揃えたという。そこで、2つのポイントを重視している。

1,松竹梅の法則に基づき価格帯の異なるリターン品を設計

できるだけ多くの支援を集めるために、松竹梅の法則に基づき肉質や量により価格帯が異なるリターン品を数多く取り揃え、選択肢の幅を広げている。

2,ギフト用のリターン品も用意

同じ支援者からのリピート支援を促すため、ギフト用のリターン品も用意。コロナ禍で4月・5月の連休中に帰省できないなどの状況も後押しし、ギフト用を求めるリピート支援を募ることができたという。

④Webページの構成

サシ(脂身)が細かく入った、きめ細やかでやわらかい霜降り肉により、口の中でとろけ芳醇な香りと味わいが堪能できるという飛騨牛。クラウドファンディングのWebページは、こうした肉質の魅力が伝わるように構成されている。


最初に赤身の霜降り肉の画像を掲載し、ページをスクロールしていくと最後に美味しそうに調理されたステーキやしゃぶしゃぶの画像が登場する。Webページを読み進めていくにつれ、食べてみたいと思わせる内容となっている。


⑤メディアリレーションを活用したPR

今回のプロジェクトの中核を担うJAひだ、十六銀行、飛騨信用組合、ヒダカラがそれぞれ強みを持つメディアリレーションを有効に活用したPRを展開したことが奏功している。

1,参加機関・企業がそれぞれの強みを活かしたPRを展開

クラウドファンディングの期間中、JAひだ、十六銀行、飛騨信用組合、ヒダカラはそれぞれ関係性のある地元メディアを中心にプレスリリースを4回ずつ、計16回配信している。 ヒダカラの舩坂さんは、「JAさんなら農業系の新聞社、十六銀行さんであれば名古屋圏のテレビ局とそれぞれが関係性の強いメディアに向けて積極的にアプローチできたことが奏功したと見ています」と説明する。

2,メディアに向けたストーリー性の訴求

こうしたプレスリリースの配信により、4月28日に開かれたJAひだ本店での記者会見には地元メディアから多くの参加申し込みがあった。そこで、記者会見の前に、メディア関係者を飛騨牛の牧場へ招き、畜産農家の声や飛騨牛の様子を取材してもらうようセッティングし、テレビ局では取材した内容が報道された。



これを企画した舩坂さんは、「飛騨牛の生き生きとした様子、流通できずに困っている畜産農家さんの様子をカメラ越しに映し出し伝えることで、それを見た人たちに『こういったことに応援するんだ』と共感してもらえたことが、このプロジェクトにとってとても大きかったですね」とにこやかに答えてくれた。

その他には、Twitter上で効果的に情報を拡散できたことが挙げられる。舩坂さん曰く、クラウドファンディングを開始した直後に、偶然Twitterを見ていると、ある支援者の一人が「♯おうちで飛騨牛」プロジェクトに支援したとつぶやいているのを発見。そこで、すぐに「♯おうちで飛騨牛」のアカウントを作り、つぶやいた支援者にリツイートし、お礼や支援状況を報告しているうちに、支援の輪が瞬く間に広がっていったという。

「支援がどんどん集まるにつれ、『3,000万円に到達した!』、最後は『1億円まであと〇〇〇万円』『1万人まであと〇〇人』など多くのメッセージでカウントダウンが始まり、最終日は大変な盛り上がりを見せることに。気が付くと、“見守ってくれている人がたくさんいた”という感じでした」。

手厚い“アフタークラウドファンディング”で新たな“飛騨牛ファン”の獲得へ

こうした盛り上がりを見せたクラウドファンディングが終了すると、1万人の支援者に向けてリターン品の発送準備に取り掛かった。それを指揮したのは、JAひだの橋本さん。「各精肉店の1日当たりの出荷能力を事前に確認し、それを基に1万件のリターン品を割り振りして、発送時は各精肉店がどの部位をどれだけ発送したかを証明する写真をJAで取りまとめ、常に状況を把握できるよう徹底して管理に努めました」。これにより、精肉店では1万人分の発送を、ほとんど滞りなく迅速に対応した結果、支援した人たちに好印象を残せたという。

発送後は、「届きました」「食べました」と数多くの報告メッセージがTwitter上に寄せられることに。そこには、ヒダカラが企画したアイデアが随所に散りばめられていた。リターン品には、精肉のほかに畜産農家や精肉店の人たちが手書きした寄せ書きを同梱し、精肉のパッケージに共通のオリジナルステッカーを貼付するなど、思わずSNSに上げたくなる仕掛けを施している。

また、リターン品には、各精肉店が選定した「肉福袋」を作って発送している。この効果について、橋本さんは「『肉福袋』の中身は各精肉店が選定するので、焼き肉用やすき焼用、さらに部位も肩ロースやモモなどさまざまな精肉が楽しめるように工夫されています。

これを受け取った支援者の方からは『この店からはこんな肉が来た』というつぶやきが次々にTwitterに上げられ、最終的にはクラウドファンディングの期間中よりも終わった後の反応が大きかったと思います」とうれしそうに語る。こうしたTwitterでの反応が、さらに話題を呼ぶことになり、新たな“飛騨牛ファン”の獲得につながっているという。

今回のプロジェクトで実感したクラウドファンディングのメリット

最後に、橋本さん、岡本さん、舩坂さんにそれぞれ今回のプロジェクトを通じて実感したクラウドファンディングのメリットについて伺ってみた。今回クラウドファンディング初挑戦となった橋本さんは「挑戦する前は“何かを支援する手段”という認識しかありませんでしたが、今回クラウドファンディングを経験してみて、人を共感させる素晴らしい仕組みであることを知りました」と語ってくれた。

これまでファーボ飛騨・高山を通じて、数々のプロジェクトを手掛けてきた岡本さんは「通常のネット販売とは違って、今話題になっているから、価格が安いから、日常生活で必要だからといったニーズに向けた売買とは一線を画す軸で、共感や支援を得ることで売買できる仕組みが大きなメリットであると感じています」。

ネット販売やECコンサルティングに知見を持つ舩坂さんは、「ネット通販では、10日間でオープンして12日間で1億円を売り上げることなんてありません。今回初めて、一つのメディアと言ってもいいキャンプファイヤーにプロジェクトを出展したことで、そこに支援してくださる方が大勢いることを実感できたことです。

また、ネット通販と比較して、クラウドファンディングは困っている状況を理解した上で支援するという仕組みによりまったく異なる購買体験ができることも理解できました。この体験を通じて、その後のリピートにつながる確率がネット通販に比べ高くなるのではないかと感じています」とクラウドファンディングのメリットについて言及しています。

岡本さんと舩坂さんはクラウドファンディングの有効性を感じつつも、その一方で今後のあり方についても言及している。岡本さんは、ネット通販との特徴の差が見えにくくなっていると指摘する。「最近のネット通販では、単に商品を販売するだけではなく、商品が誕生した背景などを伝えてその魅力を訴求して販売するケースもどんどん増えてきています。

こうした動きを踏まえると、今後は対象となるモノ・コトを吟味し、その上でどれを選定するか考えることが必要になるでしょう。その意味で、クラウドファンディングでも今後どのような進化を見せていくのか注目しています」。

また、舩坂さんは今回の1万件の支援者への発送対応を通じて、現在のクラウドファンディングのシステムではキャパシティの限界を痛感したという。「ネット通販と違い、クラウドファンディングは本来、1万人に対応するような物量出荷を想定したシステムではないと考えます。これほど多くの支援者の方が集まって大変うれしいと思う反面、その発送対応を指揮したJAさん、そして精肉店さんの人たちの負担は大きかったと思います。その上で滞りなく対応していただき感謝しています」。

快挙を成し遂げた本当の立役者は、“1万人の支援者の皆さん”

快挙を成し遂げた本当の立役者は、“1万人の支援者の皆さん”コロナ禍により、市場で流通できずピンチに陥ったブランド和牛の飛騨牛。それを打開する手段としてクラウドファンディングを選択し、さまざまな分野で経験や知見のあるメンバーが集結した“ALL飛騨”が一丸となって挑戦。みごとに起死回生の成果を収めた。こうした「#おうちで飛騨牛」プロジェクトを振り返る時、橋本さん、岡本さん、舩坂さんの口から出てくるのが、支援者への感謝の言葉であった。クラウドファンディングの期間中に、支援者から寄せられたメールやTwitterの言葉に勇気づけられ、励まされたという。今回のプロジェクトで快挙を成し遂げた、本当の立役者は間違いなく“1万人の支援者の皆さん”といえるだろう。

<本プロジェクト参加団体一覧>
〈生産・販売チーム〉
・飛騨肉牛生産協議会(加盟生産者 60名)
・飛騨地域の精肉店 ・JAひだ 〈企画・広報チーム〉
・飛騨信用組合
・株式会社ヒダカラ
・十六銀行/十六総合研究所

〈後援〉
・高山市
・飛騨市
・下呂市
・白川村