「本能寺の変お知らせハガキ」が届く!明智光秀ゆかりのまち・京都府福知山市が挑戦したクラウドファンディング舞台裏に迫る

福知山市が「本能寺の変」をテーマにしたクラウドファンディングを実施した経緯と、目標金額達成に導いた独自の工夫についてお話を伺った。
地方自治体による「ふるさと納税(自治体への寄附)」を活用したクラウドファンディング支援サービス『CAMPFIREふるさと納税』。地方自治体は「叶えたい目標のため」、寄附者は「好きな地域を応援するため」これらの想いを実現するべく生まれたサービスで、現在はふるさと納税サイト「さとふる」の「さとふるクラウドファンディング」と共に取り組みを行っており、より多くの支援者が集まるよう双方に自治体のプロジェクトを掲載し、寄附を募集した。

数多くの地方自治体が活用する中、コロナ禍において注目を集めたプロジェクトがある。京都府福知山市が実施した『【本能寺の変お知らせハガキ】の次なる展開!急募!明智光秀×福知山サポーター!』プロジェクトだ。目標金額の約321万円を大幅に超え、1,100万円以上の支援金額が集まった。

本稿では、本プロジェクト担当者の福知山市役所 秘書広報課 シティプロモーション係・宇都宮萌氏にインタビューを決行。福知山市が「本能寺の変」をテーマにしたクラウドファンディングを実施した経緯と、目標金額達成に導いた独自の工夫についてお話を伺った。

プロジェクトデータ

プロジェクト名: 【本能寺の変お知らせハガキ】の次なる展開!急募!明智光秀×福知山サポーター!
プロジェクトの目的: 明智光秀によって繋がった縁をより深めるため
募集期間: 2020年7月3日~2020年8月31日
支援総額: 11,487,110円
支援者数: 3,449人

※本プロジェクトは『CAMPFIREふるさと納税』と『さとふるクラウドファンディング』に掲載し、寄付を募集しました

京都府福知山市が贈る【本能寺の変プロジェクト】の全貌

本能寺の変で織田信長を討ったとして、日本国民の誰もが知っているであろう戦国武将・明智光秀。2020年1月より、光秀を主人公にした大河ドラマ『麒麟がくる』が放送されている。これを契機に、光秀ゆかりの地である福知山を盛り上げるべく、放送期間中に「福知山光秀ミュージアム」を福知山城のふもとにオープン、福知山城天守閣の展示をすべてリニューアルした。年間来場者目標を10万人に設定し、オープンから2ヵ月で2万人を記録するほど滑り出しは好調。ところが、そこに歯止めをかけたのは、新型コロナウイルス感染症の流行という未曽有の事態だ。3月に福知山城とミュージアムはやむなく臨時休館にーー。

何かできることはないかと考えた福知山市は、ミュージアムに直接来なくとも参加できる企画「おうちで光秀ミュージアム」を5月1日にオープン。そして、本能寺の変の原因といわれている全50説から“推し説”の投票を受け付ける「本能寺の変 原因説50 総選挙(通称:#HNG50)」を立ち上げた。本能寺の変が起こった6月2日に結果発表を設定、約1ヵ月間の投票期間を設けた。

さらに、日本史や昔話のパロディ画像を手掛けるクリエイター・スエヒロ氏が2020年1月にTwitter上にアップし2万リツイート・5万いいねとバズを獲得した「本能寺の変お知らせハガキ」を、実際に圧着ハガキ化。「HNG50の投票者の中から抽選で130名にプレゼント」企画を走らせたところ、全国各地・国内外問わず約3万人が参加し、倍率240倍と大きな盛り上がりを見せた。


当初の事業計画ではクラウドファンディングの実施を考えていなかったそう。しかし、オンライン上での企画の反響と参加者からの「何らかの形でハガキが手に入れられないか」との声を受け、「ここでできたご縁をさらに深めたい」という想いからクラウドファンディングの実施を決めた。

過去の経験で培った「5つの工夫」

福知山市は過去にも複数回ふるさと納税を活用したクラウドファンディングを実施した経験がある。目標金額を超えたプロジェクトもあれば、惜しくも達成に至らなかったプロジェクトまでさまざま。そんな過去のクラウドファンディングから得た知見を、今回の『【本能寺の変お知らせハガキ】の次なる展開!急募!明智光秀×福知山サポーター!』プロジェクトに取り入れたという。本プロジェクトに取り入れた5つの工夫したポイントについて紹介していく。

1. クラウドファンディングを大きな「歴史の一部」にする

400年以上前に明智光秀によって築かれたものの、明治時代に廃城令で解体され、石垣だけになってしまった福知山城。しかし、「天守閣を復元したい!」と昭和時代、市民による瓦1枚=3,000円からの寄附活動「瓦一枚運動」を実施。最終的には5億円以上が集まり、天守閣が蘇った。

本プロジェクトでも多くの人たちのサポートによってコロナ禍を乗り越えていきたいという願いが込められている。昭和の「瓦一枚運動」ならぬ令和の「ハガキ一枚運動」として、福知山城にまつわる大きな歴史の中にクラウドファンディングを位置づけていた。

2. 寄附者を「サポーター」と名づける

「クラウドファンディング型ふるさと納税」は寄附をすることで、お礼品を受け取れることが多い。ところが、本プロジェクトは“お礼品なし”。代わりに、HNG50のプレゼントにもなり話題を集めた「本能寺の変お知らせハガキ」と福知山城天守閣・福知山光秀ミュージアムの「無料入場券」、「福知山の観光パンフレット」を“特典”として送っている。

「寄附をすることは『まちのサポーターになること』と感じてもらえたらうれしい」
この思いから、寄附者を「サポーター」と位置づけ、”お礼品”ではなく“特典”という形でサポートに対する感謝を伝えた。言葉の変換ひとつで、明智光秀が築き上げた福知山の地を支える一員になれたような気持ちに。複数のサポーターからは「初めてふるさと納税をしました」とコメントが寄せられたそう。

3. 全体のムードを「明るく」する

コロナ禍で多くの人たちの生活が変わり、大変の程度は違えど各々が苦境に立たされていただろう。そして、そんな市民を支える立場に自治体がある。宇都宮さんを含め本プロジェクトに携わった福知山市役所のみなさんは、「大変でも大変さを押し出すわけにはいかない」と思ったという。HNG50を開催した際には、企画に楽しんで参加してもらうことが自分たちの役割だと実感。

本プロジェクトでも同様の想いを胸に、タイトルやトップ画像のビジュアル、本文のトーン、特典の無料入場券のデザイン……プロジェクトページ全体のムードをできる限り明るくした。

4. 「未来に繋がる」特典をつくる

「『ハガキ一枚運動』として位置づけた本プロジェクトではあったものの、ただハガキを送るだけで終わりにするのではなく、何か未来に繋げたい」一期一会の出会いではなく何か未来へ残すための策として、福知山城天守閣・福知山光秀ミュージアムの「無料入場券」を特典にした。

福知山城の無料入場券は有効期限なし。コロナ禍ですぐに足を運ぶことが難しくても、「落ち着いたタイミングで行こうかな」「京都に用事があった際に立ち寄ろう」と思える未来へ向けたキッカケを残すために考えられた特典だった。

5. 「細部」にこだわる

本プロジェクトのみならず、HNG50をはじめとした一連の「本能寺の変プロジェクト」は小さなこだわりが仕込まれていた。「HNG50の投票者の中から抽選で130名にプレゼント」の130名にも意味がある。本能寺の変に向かった明智光秀の軍勢は13,000人と言われており、その1/100になるのが130人だ。本能寺の変の出陣日(6月1日)までにハガキを当選者へ届け、本能寺の変が起こった日(6月2日)にHNG50の結果を発表。また、クラウドファンディングは「ハガキの送付枚数が12,870枚に達したら募集を終了する」としていたが、13,000人のうちHNG50で130人にハガキを送っていたため「13,000-130=12,870」にしたそう。

ほかにも、特典の【本能寺の変お知らせハガキ】を「光秀からの信頼の証」として位置づけ。目標金額の語呂合わせもこだわりのポイントだ。目標金額の3,211,000円は「みつひで円(3=み、2=つ、1=ひ、10=テン=で)」、ネクストゴールの5,532,110円は「Go!Go!みつひで円」、ファイナルゴールの11,132,110円は「いいひと!みつひで円」とユニークな語呂合わせとなっている(ファイナルゴールの語呂の由来は、福知山市民は光秀を良君として慕っていることから)。細部のこだわりについて宇都宮さんは次のように話してくれた。

「スエヒロさんがつくってくださったハガキという強力なアイテムがあり、今回のプロジェクトは実現できました。スエヒロさんのハガキには一文一文にこだわりが詰め込まれていて、ユーモアが絶妙で素晴らしかった。そのレベルには至らないまでも、ハガキの素晴らしさをなるべく引き継げられるようにと思い、できる限り細部までこだわりました。また3(全体のムードを明るく)にも通じますが、私たちも楽しく取り組んでいますという部分を、細部のこだわりに表現できたらいいなと考えながら取り組んでいました」

段階を踏みながら進めた独自の「PR戦略」

プロジェクトに力を入れるだけで、目標金額に到達するとは限らない。クラウドファンディング実施前後のPRも目標に到達するための重要な要素だ。福知山市では【目標金額到達】【セカンドゴール到達】【ファイナルゴール到達】とそれぞれ段階を踏みながらPRを仕掛けてきた。

【目標金額達成まで】「スタートダッシュ」を加速させる

前段のHNG50企画の投票者のメールアドレスのデータを取得していた経緯から、クラウドファンディング開始当日にお知らせメールを約23,000人へ送信。このお知らせメールが功を奏し、開始から2日で目標金額を達成した。

またHNG50企画自体が話題になっていたことから、これまでになかったメディアリレーションズを獲得できていた。各メディアへクラウドファンディング紹介のお願いメールを地道に送ったことも効果として表れたそう。スタートダッシュはかなり意識したポイントだった。

【セカンドゴール到達まで】「話題」を止めない

話題を止めないことで継続的に注目されるように、2日で目標金額達成、寄附者1,000人超えなど、何か動きがあるごとに情報を提供し続けていた。

結果、ひとつの媒体が2回、3回と取り上げてくれることもあったそう。地道に記者へ情報提供し続けることで、盛り上がりが消えない。「メディアリレーションズの大切さを実感しました」と宇都宮さんは語る。

【ファイナルゴール到達まで】特典を「早め」に届ける

クラウドファンディングでは「資金調達し終えたあと支援者にリターンを送る」という流れが多い中、福知山市は「サポートしてくれたら随時特典を送る」という流れにしていた。

すると、SNSで特典について投稿するサポーターが次々と現れた。特典に関した感想の投稿からさらに話題が加速。ファイナルゴール達成への心強い追い風となった。

クラウドファンディングのメリット・デメリット


目標金額のみつひで円(3,211,000円)はプロジェクト開始から2日、ネクストゴールのGo!Go!みつひで円(5,532,110円)は5日、ファイナルゴールのいいひと!みつひで円(11,132,110円)はプロジェクト終了日の前日に達成し、支援総額は11,487,110円を突破。3,449人ものサポーターがプロジェクトを支えた。

過去に実施したプロジェクトの経験と今回のプロジェクトの結果を踏まえた上で、クラウドファンディングのメリット・デメリットを宇都宮さんに伺った。

【メリット】事業の根幹を見つめ直すことができる

クラウドファンディングを実施することがキッカケで、「なぜこの事業をやっているのか」「どんなストーリーを紡いできたのか」といった、事業の根幹や原点を見つめ直すことができたと宇都宮さん。

本プロジェクトでは、福知山市の明智光秀を核にしたプロモーションのこれまでの歩み、昭和の「瓦一枚運動」から令和の「ハガキ一枚運動」への歴史の流れを今回のクラウドファンディングで凝縮させることができたそう。

さらに、クラウドファンディングについて「そうしてつくり上げた事業の必要性を実際に社会に問うて、世の中の反応を見ることができるプラットフォームです」とも話してくれた。

【デメリット】目標未達成時のブランドイメージ毀損

宇都宮さん曰く「目標金額に到達しなかった場合、掲げているビジョンやブランドイメージが傷つく恐れがあると感じました」という。

福知山市はプロジェクトページ公開から2日で目標金額を達成してはいるものの、最後に設定した目標金額は当初の目標金額のおよそ3倍だ。そのため、達成しなかった場合の報告内容も考えていた。

「申し訳ないと思いつつ、明智光秀に矢面に立ってもらい、『惜しい、光秀!』といった形で打ち出すことを考えていました」
明智光秀は、本能寺の変(天正10年6月2日)で下克上に成功するも山崎の戦い(天正10年6月13日)で敗れる。2020年には大河ドラマの主人公に抜擢されるも、新型コロナウイルスの影響で放送が一時中断。さまざまな苦悩に直面し、素直に成功までの道のりを歩むことのできない惜しい武将と言えるだろう。そんな明智光秀の力を借り、「それでも七転び八起きで頑張る」といった姿勢を見せることを想定していた。

一方で、ハガキを作成したスエヒロ氏のイメージを毀損させる可能性も考慮しなくてはならない。関わってくれた人への影響を考え、諦めずに目標達成まで力を注ぐことが重要かもしれない。

応援してくれる人を事前にイメージし、協力を得ることが重要

今回集めた寄附金は、福知山の明智光秀事業のために使用する。5月から「本能寺の変プロジェクト」を走らせ続けてきた福知山市は、今後も新しい取り組みを実施していく。このように一気通貫したビジョンを持っていることも、本プロジェクトを成功に導いた一つの理由だと言えるだろう。

宇都宮さんも「クラウドファンディングありきで企画を考えるのは難しい」とコメントしている。

「自治体は事業を進めていく上で、ふるさと納税しかり税外収入の確保は考えなければなりません。しかし、クラウドファンディングは、自分たちのビジョン・目標・想いを世の中に出して、それらに対する賛同者を募ることが根底にあると思います。なので、応援してくれる人たちがどこにどれだけいそうかを事前にイメージすることが大事だなと今回改めて感じました。そういった人たちに参加してもらう手段として、クラウドファンディングを活用した方が良いと思います」


最後に、今回のクラウドファンディングの支援者に向け、宇都宮さんからコメントをいただいた。

「3,449名のサポーターのみなさん、本当にありがとうございます。こんなにご支援いただけると思っておらず、本当に驚いています。毎日プロジェクトページの更新ボタンを押すたびに増えるサポーターの数を見るのが、担当者として一番の楽しみであり、原動力でした。ファイナルゴールは、私たちとしても限界の向こう側の高いゴールを設定したと思っています。プロジェクト終了の前日というギリギリに達成できたのも、サポーターのみなさまが手を差し伸べてくださったおかげだと実感しています。

そんなサポーターのみなさまからの寄附のおかげで、今まさに明智光秀や福知山の魅力発信と感染症対策を両立した事業を始めたり、構想しているところです。引き続き福知山市の活動を見守っていただきたいです。 

また、本能寺の変プロジェクトに参加してくださったみなさま、顔は見えていませんが本当に親しみを感じています。最近、寒くなってきましたので、どうか風邪をひかないようにお体を大切にお過ごしください。いつか福知山でお会いできたらうれしいです」