脳でエロを楽しむ。「猥談バー」が実現する、持続可能なエロの面白さ

クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」に投稿された、とあるプロジェクトが話題をさらっている。 その内容とは、猥談専用の会員制バーである「猥談バー」をオープンするというもの。プロジェクトは募集開始直後に目標金額を達成。さらには「猥談バー」というワードがTwitterのトレンドに浮上し、テレビでも紹介される事態に。
盛り上がりは止まらず、最終的にはプロジェクト達成度の「1405%」と目標金額を大幅に上回る驚きの結果を生んだ。

そんなプロジェクトの発起人であり、猥談バーの考案者が佐伯ポインティさん。男女楽しめるエロのあるコンテンツをつくる「エロデューサー」として活動する25歳だ。


「ようこそ、猥談バーへ!」と笑顔で迎え入れてくれた彼に、アダルト業界特有の”アンダーグラウンドな匂い”は感じられなかった。

ポインティさんが実現しようとするのは、男女がエロスについて健全に楽しく話せる場だという。

相反するように思える「エロ」と「健全」。彼が提案する「新しいエロ」とは一体なんなのだろうか?

プロフィール
佐伯ポインティ
エロデューサー。1993年、東京生まれ。早稲田大学文化構想学部を卒業後、クリエイターのエージェント会社コルクに漫画編集者として入社。2017年に独立し、男女で楽しめるエロスのあるコンテンツをつくる「エロデューサー」として活動を始める。ポジティブに猥談を楽しむ人が集まる「猥談バー」を企画したり、様々な性癖・性体験の人をインタビューし「猥談タウン回覧板」というメルマガを配信したり、エロい仕事ばかりしている。
Twitter: https://twitter.com/waidanbar

猥談バーは「男女が健全にエロスを共有できる場所」


ーー猥談バーとは「エロい話が好きな人だけが集まってポジティブな猥談をするバー」なのだと聞きました。

そうですね。ただ「エロい話がしたい」という目的一つで、性別も有名かどうかも関係なく集まるバーです。

エロい話って、普通の場ではなかなか話しづらいですよね。それこそ深夜の飲み会くらい。でも、猥談バーでは自由に話すことができるんです。

ーー来店者は話すだけなんですよね? 具体的にどういった話を?

お酒を片手に、自分の体験談や性癖、エロい妄想を自由に話すだけです! とはいっても話しづらい人もいると思うので、初対面の人同士のときは僕やスタッフが話題を振ってサポートします。

猥談バーの様子。中にはお酒を飲むことすら忘れて、猥談に熱中する人もいる。

 


ーー性をキーワードに男女が集まっていると、どうしても性的な空気になりそうです。でも猥談バーはあくまで健全な場で、「楽しい」を目的にしているというのがすごいですね。

男女が健全に楽しくエロスを共有できる場所って、実はなかったんですよね。

今までのエロいコンテンツって、基本的に男の人が実現したい世界と、女の人が実現したい世界で分断されてたんですよ。例えば、AVやエロ漫画、ティーンズコミックも、基本的に男女で別ジャンルになっています。

それって、食べ物で例えたらラーメンかケーキしかないみたいな状況。「もっと刺身とかもあったらいいのに〜」って僕は思ってたんです。エロには幅があるはずだと。


ーーなるほど。猥談バーに来る方は、どういった感情で帰られることが多いんですか? みなさん、スッキリされて帰るとか?

元々エロい話をしたいって人はスッキリして帰るんですけど、僕が来店してくれた人にプレゼントしたいのは「解消」というよりも「渇望」ですね。脳がムラムラしている状態で帰ってほしいんです。

エロスは「脳」で楽しんだ方がいい


ーー「脳がムラムラ」とは、どういうことでしょうか。

エロには身体ベースで楽しむものと、脳で楽しむものの2種類があると思ってて。

身体で楽しむエロは、性的欲求の「解消」を目的にしています。今あるエロいコンテンツのほとんどはこれなんです。

一方、脳で楽しむエロは性的欲求が解消されるわけではない。例えば、いわゆる「腐女子」の人たちは、ボーイズラブ作品を読んで興奮はするけど「尊い関係性最高…いいもん読んだわ〜」で終わって、また次の作品を読む、と聞きます。そんな風にムラムラが充満し続ける状態って、僕はすごくいいと思ってて。

ーー性的欲求が解消されないから、興奮が継続するってことですよね。ポインティさんが猥談を聞いているときも同じような状態なんですか?


たとえば僕がエロい話を聞いてるときって、身体的に興奮することはほとんどないんです。その代わり、脳からドーパミンがドバドバ出ているのがわかります。

初めて猥談のインタビューをしたときに、これを体験して「これなら何歳になっても続けられるわ〜」と思ったんです。

ーー脳で猥談を楽しんでいるんですね。

身体ベースでエロを楽しんでいるだけだと、年老いて性的機能が衰えてしまったら楽しみが終わってしまうじゃないですか?

でも、脳の機能は死ぬまで衰えない。ドーパミンは死ぬ最後の最後まで出続けるらしくて。

つまり、脳でエロを楽しんでいれば、ずっと元気な中学生みたいな状態でいられるんです。だから、僕は脳の方がいいなと思ってて。実際、60〜70歳の腐女子の人もいらっしゃいますし。

ーーたしかに。持続可能性を考えたとき、脳でエロを楽しんだ方が人生の幸福度が上がりそうですね。

男女がフラットに並ぶ「新しいエロ」の世界観


ーーエロと性的欲求の解消をどうしても結びつけてしまう人もいると思うんですけど、ポインティさんはそうではない。なんだか、とても健やかですよね。

僕のモチベーションのほとんどは「楽しい!」とか「面白い!」という感情なので、その状態を「いかに長く続けられるか」が自分の中のテーマなんです。だから、単なる解消ではない、高揚とか興奮を持続できるエロのコンテンツをつくりたいんです。

ーー今までありそうでなかった切り口ですね。

「脳で楽しむエロ」自体は、実は昔からクリエイターが映画や音楽、小説のような「表現」の領域でやっていたことなんです。例えば椎名林檎の曲には、エロスを匂わせる抽象的な表現がある。そういう脳で楽しめるエロスなら、男女共に楽しめるんです。

僕はそういった様々な脳で楽しむエロを、色々なコンテンツの形式でやって、それを統合するコンテンツブランドとして出そうとしています。

ーーなるほど。体験としては今までに存在していたんですね。

あと、性的欲求の解消に向かうコンテンツって、どうしても男尊女卑の性質が強くなってしまう気がしていて。それは「古いエロ」だと思うので、「男尊女卑のエロ=ダサい」という風潮を作りたいと思っています。

ーーポインティさんのエロスの世界観は、いつも男女がフラットに並んでいますよね。

う〜ん。僕が男性優位のマッチョな思想を抱えている人をあんまり面白いと思ったことがないからですかね。片方が優位ということは、もう片方が面白くても、弾かれちゃうことに繋がります。あと、「男女」という性別の区分け自体も、どんどんポップになっていくと思うんです。

猥談バーでは、過度なナンパや身体接触以外に、性的な体験や性癖を否定したり、他の会員からの苦情があったりしても出禁にするとルールを決めています。それも、面白い人を守るためですね。

果てしない「自分好き」がきっかけで独立


ーーそんな猥談バーが、クラウドファンディングで異例の数字を叩き出しましたが、こんなことになると予想してましたか?

いや〜まさかこんなことになるとは……ウケました(笑)。

ーーこれまでイベントとして企画されてきた猥談バーが店舗を持つことになりましたが、最初からこうした構想はあったんですか?

いやいや、本当に何もなかったんです(笑)。

僕がエロデューサーをはじめるとき、「楽しくてエロいもの」と「漫画や映画などのコンテンツ」が好きだったので、それを掛け合わせたものを探していたんですけど、誰もやってなかったんですよね。将来的にも誰もやってくれなさそうだったので「じゃあ、俺がやるか〜」という感じで。

ーー元々クリエイターのエージェント会社「コルク」の漫画編集者だったんですよね。どうして独立を思い立ったんですか?

僕、自分のことがどうしようもなく大好きで、他人から自分の名前を呼ばれるだけで喜んでいたんです。

そしたら、コルク代表の佐渡島庸平さんに「お前の自分好きは本当に果てしないな。だったら、自分で会社を作って社名を『株式会社佐伯』にしたら、社員のみんなが電話をとるときにお前の名前を呼んでくれるぞ」って言われて。


ーー「ガチャ、はい佐伯です」ってことですよね。

自己愛の強さに自覚はあったんですけど、「ここまで言われるほどなんだ」と思って(笑)。「じゃあ、もし自分の会社を立てるなら何の仕事するかなぁ」って考えたときに、「エロだな」って思ったんです。小さい頃から、やっぱりエロが好きだったから。

そこで「エロをテーマにする会社でどんなビジネスをする?」っていう問いを自分の中で立てたら、もうアイデアが止まらなくて。

ストリップは改良の余地があるな〜とか、エッチなお化け屋敷ってないな〜とか、「こういうものがあったらいいのに」と思えるものが意外にあったんです。

ーー今まで猥談バーのような性的欲求の解消を目的としないエロいコンテンツは存在しなかったわけですよね。これがウケるっていう勝算はあったんですか?

勝算っていうよりは、思いついたから超やってみたい!って感じですね。

コルクの先輩だった編集者の柿内芳文さんから聞いたことなんですけど、人間はそんなに違いはないから、1人が純粋に「これ、超好き!」って思ったことが、仮に1000人に1人しか賛成されないとしても、規模が大きくなれば、賛成する人が1万人になったり、100万人になったりする、と。

じゃあ僕が「エロデュース業」にこんなにワクワクしているんだから、同じ気持ちの人はどこかにいるでしょっ!って思って。商売になるかどうかはわからないけど、一人がこんなに強く思っているんだから。

ーー限りなく強い個人の思いは絶対誰かに届く、ということですね。

たまに「めっちゃマーケティング上手いね」とかって言われるんですけど、もし僕がマーケティングの思考で逆算して考えたら、凡庸なものしかできないですよ(笑)。アイデアマンタイプじゃないですから。

その代わり、自分の心に正直でいることはめっちゃ大事にしてます。エロデューサーになる前のいち読者としての「佐伯」が心の中にいて、「面白い」って言ってくれるかどうかですね。コンテンツを考える際は、いつも自分に問いかけています。

エロの優先順位が高い人たちとこのまま老いていきたい


ーー猥談バーの次の構想はあったりするんですか?

エロデュース会社を作りました。「株式会社ポインティ」で、佐伯ではないんですけど(笑)。エロデューサーになってから名乗り始めた「ポインティ」の名前が本名の「佐伯」よりしっくりきてて。これからは猥談バーも展開していくし、新しいプロジェクトをどんどんやっていくつもりです。

ーーどんなプロジェクトですか?

色々ありますが……一つは、猥談バーの楽しさをスマホ上で楽しめるサービスですね。猥談の話し手と、猥談の聞き手がマッチしてルームができて、そのルームをラジオを聞くように楽しむ人もいるような、日本中どこにいても猥談が楽しめるサービスをやります。

あと、性的欲求の解消を目的としない、面白いエロ漫画を作っていきたいですね。今まで僕が聞いてきた猥談を原作に漫画家さんに描いてもらったり。一応、元は漫画編集者だったので。

ーー人生の伏線回収がこんなタイミングで……。


人生のステップに合わせて、エロいコンテンツをオーダーメイドしている感じですね。子供ができたら、楽しく学べる性教育とかやってみたいし。

自分がおじいちゃんになったときは、「猥談老人ホーム」とかもできるんじゃないかな(笑)? エロい話が好きな介護士さんに、最近の若者のエロい話を聞かせてもらえるんです。老人同士で思い出猥談話したり……ヤバ〜!

ーー「猥談老人ホーム」はヤバいですね(笑)。

今まで、人生におけるエロの優先順位が高い人って、その特性の活かし方が少なかったと思うんです。エロの仕事がしたいんだけど、現状のアダルト業界じゃないなーと思ってる人もいるはずで。株式会社ポインティはそんな人たちと楽しく生きてく事業をしていくと思います。

クラウドファンディングを経て、たくさんの人が応援してくれていることを感じられました。みんなと一緒にこのまま老いていって、同じタイミングで猥談老人ホームに入れたら最高ですね。