『放課後ミッドナイターズ』監督が信じる“笑いとフィクション”の力 – 資金調達を超えたクラウドファンディングの役割とは

2012年に劇場公開されたCGアニメーション長編映画『放課後ミッドナイターズ』。アジア5カ国での同時公開をはじめ、2013年にはフランス、2014年にはイタリアで250館規模の公開と、日本のみならず世界で展開された。その人気を受け、2017年には新作ショートムービー制作のためのクラウドファンディングを実施。結果として1500万円近い資金調達に成功した。
そして、日本での上映から4年の月日が流れた2016年、映画のPR用に制作されていたショートムービーが、突如SNS上で関係者も驚くブレイクを果たす。



しかし、監督の竹清氏は「クラウドファンディングには支援金以上に得られるものがある」と話す。果たしてそれは何なのだろう?
クラウドファンディングがもたらしてくれた成果について、竹清氏に伺った。



『放課後ミッドナイターズ』
2012年8月25日の日本公開を皮切りに、世界7カ国で上映された長編アニメ映画。夜な夜な動き出す理科室の人体模型とガイコツを主人公に、真夜中の学校で巻き起こる一夜の大騒動を描く。キャストには、山寺宏一などの豪華声優、俳優陣も参加した。

クラウドファンディングでファンのニーズが見えた


茅島
今回のCAMPFIREでのプロジェクトは、『放課後ミッドナイターズ』のショートムービーを新しく作るというものですよね。なぜクラウドファンディングを活用しようと思ったんですか?

竹清
まず、2016年の秋頃からSNSで突然ショートムービーが盛り上がって、色んなところから反響がありました。また新作シリーズを、と思ったんですが、モンブラン・ピクチャーズは、設立5年目の福岡の弱小スタジオ。自力ですべての制作資金を賄う力はありません。そこで、放課後ミッドナイターズの世界を好きだと言ってくださるファンの皆さんと一緒に作っていけたらと思い、プロジェクトを立ち上げました。

茅島
いざクラウドファンディングをやってみて、どうでしたか?

竹清
やっぱり、ファンのみなさんの反応をダイレクトに見ることが出来て素直に嬉しかったですね。

茅島
正直、支援が集まらなかったらどうしよう、みたいな不安とかないんですか? CAMPFIREの人間である僕が言うのもアレですが。

竹清
(笑)。そうですね、最初はクラウドファンディングって、資金集め以外の役割が見出せなかったんですよ。でも、実はそうじゃなかった。作品が本当に必要とされているかが、すごくわかりやすい手法だと思いました。これ、支援金が全然集まらなかったら、人気がないとかニーズがないとかっていうのが目に見える形でわかりやすく出ますからね(笑)。

茅島
そうですね。プロジェクトを一回、二回と経て成功させる人もいますが。

竹清
そうなんですね。作品作りは資金調達が大変なんですけど、今はクラウドファンディングがありますから、作品制作における選択肢が広がったのを感じます。『放課後ミッドナイターズ』の劇場版第二弾の構想もあるので、今後も使っていきたいと思いました。

茅島
第二弾も! ありがとうございます! またCAMPFIREの人間である僕が言うのも変ですが……海外のプラットフォームを使う選択肢もあったと思うんです。そもそもの前身の作品が海外でも展開していることもありますし。それでも日本のCAMPFIREを使った理由はありますか?

竹清
海外と日本、両方の反応を見たとき、やっぱり日本人のほうが反応はよかったんです。とくに去年、ショートムービーが国内のSNSでバズったのをみて、やはり日本なんだな、と。



誰も傷つかない笑いにこだわる

シリーズを制作するスタジオ「モンブラン・ピクチャーズ」
茅島『放課後ミッドナイターズ』の前に、自主制作版として『放課後MIDNIGHT』がありますよね。本格的に映画の世界に入ったのはいつからでしょう?

竹清
大学を出て新卒で東映に入りました。そこから映像の世界でキャリアを積み始め、その後広告映像のジャンルへ移ったんですけど、やっぱり映画を作りたいなと思い、短編『放課後MIDNIGHT』を制作しました。それが、国内外数多くの映画祭で賞を頂き、さらにフランスのテレビ局でも放送されました。


『放課後MIDNIGHT』より

 

茅島
なるほど、そこから長編の劇場版として『放課後ミッドナイターズ』を作る事になったんですね。

竹清
はい。『放課後MIDNIGT』は最初の小さな一歩だったけど、作ってよかったなって。

茅島
現在では海外でも評価される作品になっていますが、最初から海外を意識していたわけではないんですか?

竹清
最初から、世界中の人に喜んでもらえるような作品を作ろうと思ってました。一方で、笑いっていうのは普遍的なものであると思うんですが、日本人の僕が作るとやはり日本人寄りの笑いになるのかな……とも考えてたんです。でも、『放課後ミッドナイターズ』が公開されてみると、いわゆるオタクではなくディズニー作品のようなファミリー向けのアニメ映画を普段観ている海外の人にも喜んでもらえました。

茅島
作品におけるこだわりって、やはり笑いですか?

竹清
そうですね。特に、ドリフターズのような笑いを意識しています。

茅島
ドリフターズですか?

竹清
ドリフの笑いって、子供から大人まで笑いを楽しめるということに加えて、誰かを貶めたりにしたり、素人をいじったりする笑いじゃないんですよね。最近のバラエティ番組によくある傾向だと思うんですが、僕、そういうのがちょっと苦手でして。放課後ミッドナイターズの動画がバズったときも、SNSの反応を見てると、仕事で疲れてたけど元気出たとか、癒されたっていう感想が多かったんですよね。それを見て、僕も気づかされたというか、僕の作りたいものにピントが合ったんです。コメディ映画って大体ダメなキャラばかりが出るんですけど、最終的にはみんなダメでいいじゃない、人間なんだから!っていうおおらかさが好きなんですよね。



茅島
そういえば、放課後ミッドナイターズには声優の山寺宏一さんが参加されてますよね。あの、すいません。よく出てくれましたね?

竹清
そうですよね(笑)。いや、最初は断られたんです。でも、制作中の映像をダメ元で渡しておいたら、後日山寺さんから連絡があって引き受けていただけることになりました。

茅島
映像が決め手になったと。

竹清
ええ、『なるほど、わかった。これは俺がやりたいやつだ』って言っていただきました。僕のやりたい事に、賛同して貰えたんじゃないかと。

茅島
おお、それは嬉しいですね。しかし、山寺さんをはじめ、豪華声優陣を揃えたりすると予算が……。

竹清
それで、劇場版の予告的な位置づけで制作したショートムービーはサイレントにしたんです。全12作のショートムービーに声優さんをお願いしたら大変なので(笑)。

茅島
そうしたら、そのショートムービーが5年後にバズって、今回の企画になったんですね。

竹清
そうなんです。本当に何が起こるかわからないですね(笑)。

コンプライアンスと戦い、そこから生まれたもの

茅島
お笑い以外の要素で、作品づくりに影響を受けたものはありますか? アニメ業界、という枠ではないとは思いますが、影響を受けた昔のアニメとか。

竹清
映画で言えば、『スター・ウォーズ』ですね。アニメでは『銀河鉄道999』でした。僕ら世代の人たちは、みんなが好きだったんじゃないかな。あとはロボットアニメとかも好きでしたよ。

茅島
僕も好きです。昔のアニメって、意外と内容が過激ですよね。今だったら絶対にできないんだろうなぁと思って見てます。

竹清
あの頃のクリエイターは、子供にとって多少内容が難しくても「人間を描くこと」を真剣にやってたと思うんですよね。何ていうのかな、保険をかけてない感じ。自分の信じてるものでしっかり勝負してたといいますか。

茅島
昔より、今の時代の方がクリエイターとして作品作りが難しいというのは感じますか? いわゆる、コンプライアンス的なところで。

竹清
そうですね、コメディにも通ずるんですが、昔と比べて他人を許容する範囲が狭くなったかな、とは感じます。

茅島
でも、『放課後ミッドナイターズ』はコンプライアンスと戦ってますよね。




竹清
コメディで一番面白いのは、「やっちゃいけないことをやること」だと思うんです。昔はその様子を見てストレスを発散してたハズなんですよね。だから、それをコンプライアンスで押さえつけるのは本末転倒だと思います。フィクションはフィクションとして楽しまないと。アニメに限らず、エンターテイメントに社会貢献的な側面があるとすれば、それは作品を通じていろんな価値観を表現することで、観る人の想像力を広げていけることだと思うんです。人の心を豊かにしていく、という形で世の中に貢献するのがエンターテイメントの役割だとすると、むしろ常識から外れた人間を描く方がいい。

茅島
なるほど、そういった意味でコンプライアンスはあまり気にしたくないと。

やり辛さを感じたのは13年前くらい、インターネットが普及し始めてくらいだったそうだ

竹清

そういえば、ちょうどインターネットが普及した時期に、ある音楽チャンネルで人体模型を動かす映像を制作してました。そのシリーズでは忍者とドラキュラ、それにキリストを動かしてて、今思えばどれもやっちゃいけない事をやってましたね(笑)。

茅島
そうですね。多分今やったら怒られるところもあるかも。

竹清
でも内容は痛快で面白かったんですよね。地上波じゃないし。

茅島
じゃあ、コンプライアンスと戦ってた中で『放課後ミッドナイターズ』の前身が生まれたんですね。

竹清
そうですね、言われてみればそうかもしれないです(笑)


最後に、世の中の若いクリエイターに向けたメッセージを求めたところ、「大事なのは打席に立ち続ける事」と語った竹清監督。

作品を創り、世に出すという事を続けなければ、世の中にニーズがあるかどうかもわからずに終わってしまう。

今、放課後ミッドナイターズで再び打席に立つことを決めた監督の言葉が胸に響いた。

プロフィール
竹清仁
1967年、福岡県生まれ。九州芸術工科大学(現・九州大学)画像設計学科を卒業。株式会社東映、神戸芸術工科大学勤務を経て、空気モーショングラフィックス(現・KOO-KI)の設立に参加。短編アニメ、CM、イベント用映像などの演出を数多く手がける。2012年、モンブラン・ピクチャーズ株式会社を設立。

【放課後ミッドナイターズ】ショートムービーをたくさん作っていろんな所で流したい!
支援総額/目標 14,928,795円/10,000,000円(目標の149%・1918人が支援)
内容 「放課後ミッドナイターズ」の新作ショートムービーをできるだけたくさん作って、いろんなところで流したい! そして、たくさんの人に知ってもらいたい!!!
プロジェクトURL https://camp-fire.jp/projects/view/22578