「初めて目標が形になった」北海道江別市を世界一おいしいとうもろこしの産地にプロジェクト、成功の秘訣に迫る

「北海道で生まれた美味しいとうもろこしを100年後も継承し続けたい」という思いからクラウドファンディングに挑戦した。プロジェクトページに込められたとうもろこしへの熱い思いが多くの支援者を呼び寄せ、目標達成率は731%、3,500,000円を超える支援総額という結果に。目標金額の7倍の支援が集まった2つの理由とは?
日本で一番の「とうもろこし」の生産量を誇る北海道。多くの農家がとうもろこしをつくる中、口コミだけで年間約80,000本も売れる甘くて美味しいと評判の「しろみつとろきび」もまた北海道生まれだ。
この「しろみつとろきび」を“生産”する『滝農園』を中心とした地域グループCorn Land
HOKKAIDOと“販売”する『HOKKAIDO SNOW JEWELS』がタッグを組み、「北海道で生まれた美味しいとうもろこしを100年後も継承し続けたい」という思いからクラウドファンディングに挑戦した。プロジェクトページに込められたとうもろこしへの熱い思いが多くの支援者を呼び寄せ、目標達成率は731%、3,500,000円を超える支援総額という結果に。

成功の秘訣に迫るべく、本プロジェクトの発起人であり、プロジェクトページに熱い思いを綴った張本人『HOKKAIDO SNOW JEWELS』を運営する意食充株式会社(以下、意食充)・代表の上山琢矢氏にインタビューを決行。プロジェクト実施に至るまでの“不安”や“苦労”を伺うとともに、クラウドファンディングを実施したからこそ得られた“成果”についてお話を聞いた。


農作物で、“つくる人”と“食べる人”を繋ぎたい

意食充は、『雪国暮らしを召し上がれ、明日の「お・い・し・い」を共に。』のコンセプトのもと北海道で生産されたこだわりの農作物を取り扱った事業を展開している。同社が運営する農作物販売ECサイト『HOKKAIDO SNOW JEWELS』では、コンセプトに則った7つのブランド基準を設定。



「こんな想いのある生産者がこの場所でこんな風に育てたから、この味がして、こうして食べると美味しい」とユーザーが農作物を食べたとき、北海道の暮らし、農作物が生まれた背景が感じられる基準だ。農作物で、つくる人(生産者)と食べる人(消費者)を繋ぐ役割を担うべく活動を続けてきた。

「世界一とうもろこしがおいしい地域・Corn Land HOKKAIDO」発起人プロジェクト

そして、今回初の試みとしてクラウドファンディングを実施することとなる。北海道江別市で130年農業を営み続けている地域の生産者たちとタッグを組み、「世界一とうもろこしがおいしい地域・Corn Land HOKKAIDO」の支援者を募集した。

「『滝農園』の主である滝一芳さんがつくり上げた稀少品種のとうもろこし「しろみつとろきび」を通じて『滝農園』を初めとする地域の取り組みを伝えたい、「しろみつとろきび」を食べて美味しいと喜んでもらいたい。この取り組みが江別市の未来に繋がり、世界中から注目されるコーンの生産地になれると信じて、クラウドファンディングに踏み切りました」


北海道江別市の若手農家さんたち

 

『HOKKAIDO SNOW JEWELS』のほかにも、生産者となる農家や事業者に対し、さまざまな支援を実施してきた意食充。中にはクラウドファンディングを裏側からサポートするような活動もあったという。

しかし、同社が主体となってプロジェクトを実施するのは今回が初。「自分たちの発信するメッセージがちゃんと届くか、心配でした」と上山氏は、クラウドファンディング実施前の心境を語った。

「クラウドファンディング実施において、僕たちの一番大きな目的は資金調達ではなく“プロモーション”。活動をもっと広く知ってほしいという思いがありました。そのため、資金が集まらない=活動が評価されないことにも繋がります。僕たちも正解が見えているわけではなく、日々手探りしながら活動を続けています。評価されなければ、世の中のニーズに合っていない、時代に合っていない、表現が伝わっていない、そもそも今やるべきことではない…そういったことが可視化されてしまうので、非常に不安がありました」

7月下旬に「Corn Land HOKKAIDO キックオフイベント」が決定していたこともあり、不安に苛まれながらも準備を着実に進めた。社内メンバーや『Corn Land HOKKAIDO』に関わる生産者とチームを組み、2020年6月19日のプロジェクトページ公開に何とかこぎつけたそう。「僕一人では絶対に不可能でした。みなさんの協力があったこそです」と当時を振り返った。

目標金額の7倍の支援が集まった理由とは

クラウドファンディング実施前の不安を払拭するかのように、プロジェクトページ公開の1週間後に目標金額を達成。7月31日の支援終了時には前述した通り、目標を大幅に超える支援者と支援金額が集まった。

身近な人から支援者を募った前半、自然と支援者が増えた後半

ところが、実はプロジェクトページ公開後の支援スピードは遅く、2~3日は思ったような支援が集まっていなかった。「もしかすると誰も支援してくれないのでは……」と焦りを感じたことで、上山氏自身やプロジェクトチームメンバーのFacebookや個別連絡で家族・友人・知人に宣伝した。

「僕が支援する立場を想定したとき、集まっている支援金額があまりにも低いと『このプロジェクト大丈夫かな?』と心配になり、支援しにくいだろうなと。そこで、少しでも支援が入っていることを演出していかないとと考え、周りの人たちに『支援してほしい!』と頼みました」

そこから徐々に資金が集まっていくのだが、不思議なことに周囲の人たちへの宣伝以外、本プロジェクトは大きな宣伝をしていないのだ。にも関わらず、全体の約80%は本プロジェクトで初めて『HOKKAIDO SNOW JEWELS』の取り組みを知った人たちだった。

支援者からは「すごくメッセージ性を感じた」「つい応援したくなった」といった内容のコメントが多く届いたという。


「ストーリー性のある構成」と「メッセージ性の強い想い」が支援者を集めた

本プロジェクトの注目すべきポイントは、まさにプロジェクトページに綴られた文章そのもののように感じる。「しろみつとろきび」生産の歴史から『Corn Land HOKKAIDO』立ち上げ経緯が丁寧に語られた「ストーリー性のある構成」と、プロジェクトにこもった「メッセージ性の強い思い」。この二つが多くの支援者を集めたのだろう。上山氏自身、こだわり抜いた点だと話した。

「これまでずっと想いを持ちながらECサイトや催事での販売をしてきました。ただ、そういった場であまり熱く語れないじゃないですか。このプロジェクトでずっと秘めていたミッション、抱えていた背景をようやく伝えられる、と。そう思う一方、どこまで伝えるべきなのか、絶対に伝えたいことは何なのか、といった部分にはかなり時間を費やしました」

最初に仕上がった文章は、プロジェクトページ公開時のなんと10倍の文量があった。全てを伝えたいという強い気持ちが先行しての結果だったのだろう、『滝農園』や滝氏の人物像、『HOKKAIDO SNOW JEWELS』と『滝農園』の歴史、伝えたいことは山ほどあった。しかし、そういったメッセージは活動報告や動画で伝える方針に転換した。

「深いコンテンツこそ、この世界に来てくれた支援者のみなさんが理解するメッセージかなと思い、社内チームのみんなにも添削をしてもらいながらバッサリ削りました。」


その中でも、「これだけは譲れない」と残したのは、コンセプトである『雪国暮らしを召し上がれ、明日の「お・い・し・い」を共に。』だった。

「美味しくて安全な農作物をお届けするのは当たり前のこと。とうもろこしが生まれる経緯や、生まれた場所の暮らしを食べる人に共感してもらいたかった。『なぜ美味しさや安全が実現できているのか』『なぜ美味しい安全なとうもろこしをつくろうと思ったのか』といった食べる方に是非知ってほしい取り組みの部分を主軸として書きました」

多くの人へ伝えるべき思いを精査したことが相まって、上山氏、そして『Corn Land HOKKAIDO』に関わる人たちの思いがしっかり届く結果となった。顔の見えない支援者に届いたことはもちろん、最初に支援を募った家族や友人など身近な人たちへも想いを届けることができたと上山氏。

「面と向かってなかなか伝えてこられなかった自分の取り組みへの思いが、クラウドファンディングを通じて『支援してほしい』という形で伝えられました。とても良かったと思います」

2つの反省点と大きな成果

こうして成功に収まった本プロジェクトだが、インタビュー中には反省点を吐露する場面も。語られた反省点は主に2つ。「リターンの設定」と「コミュニケーションのスキームづくり」だ。

反省点① リターンの設定

ECサイトで販売されている農作物の価格と近しいリターンの支援金額を設定した。悩みに悩んだ末の金額設定だったそうだが、上山氏は「悩むくらいならプランの幅を持たせるべきだった」と言う。

「利益率よりも普段販売している金額とかけ離れた設定にしないようリターンを設定しました。ただ、それを考えるくらいであれば、支援者の方がもっと支援したくなるようなリターンの内容を考えて、物だけではない価値をプランとして組み込めばよかったと思っています。

一人でも多くの方に応援して頂きたいというのが目標だったので、お金のことばかり考えるのは違うなぁと思っていました。ただ、手元に残る活動資金が多ければ、今後の事業展開を加速させることができ、応援してくださったみなさんによりよい形の報告が早くできるのではないかと。商品以外の価値を提供できるのではないかと。なので、今後クラウドファンディングの実施を検討されている方は、集める資金の活用方法を加味しながら、リターンやリターン金額の設定を意識してみてはいかがでしょうか」

反省点② コミュニケーションの時間投資

本プロジェクトでは、支援者の全員に「お礼メッセージ」を送ることを目標設定していた。想像以上の支援者が集まったことで、支援者とのコミュニケーションに時間がかかり過ぎてしまったそう。

「ここまで集まると思わず、しっかりとしたコミュニケーションのスキームを準備していませんでした。1対700以上の人を対応することになり、せっかくコミュニケーションが取れる機会でありながら、一部の方には大変申し訳ないことですが作業のような形に……。事前に準備をしておけば、作業にならずによりファンになって頂けるような質の高いコミュニケーションが取れたのではないかと悔やまれます」


(左:上山さん、右:滝さん)

 

同時に、コミュニケーションへ時間を投資したからこそ得られた喜びもあった。

「商品の売買をする関係だけではなく、『応援しています』の言葉に感謝の気持ちを返すことができます。約700人の方ととても濃い会話ができました。また記事を見て『こんなことをしているなんて知らなかった!是非このCorn Land HOKKAIDOのプロジェクトに参画したい!』という生産者や地域の方々からも反響を頂くこともできました。

農作物なので、その時々の環境の変化から完璧な物をつくるのは難しいです。完璧なリターンをお送りできる保証はありません。しかし、通常のECサイトや催事などの販売ではクレームや交換・返金が多い中、プロジェクト支援者のみなさんは生産過程を踏まえた上でリターンをお受け取りいただいていることから、『仕方のないこと。来年良いものができるように応援しています』と仰ってくださる方もいて。僕らが目指している、つくる人(生産者)と食べる人(消費者)の関係性が、クラウドファンディングで初めて形にできたな、と感じています。」