“ゼロからの”再スタート、旦過の街に希望を照らす小倉昭和館“復興物語”。

2022年、旦過地区大火災で全焼した北九州市唯一の個人経営映画館「小倉昭和館」。 被災した地区の希望の光となることを使命とし、街の小さな映画館が全国の応援者と掴んだ再建への道と、CAMPFIREアワード2023「みんなで乗り越えた部門」受賞の想いを伺いました。

プロジェクトデータ 

プロジェクト名:【小倉昭和館再建】~まちの小さな映画館、奇跡の復活を夢見て~ 
募集期間:2023年3月20日~2023年4月30日(41日間) 
調達金額:40,276,444円 支援者数:2264人 
プロジェクトURL:https://camp-fire.jp/projects/view/647139 
プロジェクトオーナー:小倉昭和館&昭和館 応援団長 リリー・フランキー 
創業83年、目まぐるしく時代が移り変わる中親子3代で守り抜いた老舗名画座の『小倉昭和館』は、地元はもとより文化人や映画人からも愛され「映画の街・北九州」の“柱”となった存在。 

そんな街のシンボルともなる小倉昭和館は、2022年旦過地区を襲った大きな火災で全焼し、劇場再建は非常に難しいと諦めかけていました。 

しかしその後、全国47都道府県のみならず海外からも合わせ1万7千筆にのぼる「小倉昭和館の再建支援を求める」署名が集まり、多くの声援に背中を押され再建の実現への一歩を踏み出します。 

3代目館長の樋口さんは、昭和館を再建し「復興のシンボル・希望の星」として被災した全ての方に元気を届けることを使命とし、クラウドファンディングへの挑戦を開始。 

再建後は更なる街の“ワクワクする居場所”にすべく、「昭和館を愛する方々と一緒に創り上げる映画館として再スタートを切ろう」と決意し立ち上げた当プロジェクトは、目標金額3,000万円を上回る40,276,444円の支援を獲得。 

今回のCAMPFIREアワード2023「みんなで乗り越えた部門」の受賞に至りました。 

当対談ではCAMPFIRE代表取締役の家入一真と共に、クラウドファンディングに至った原体験からプロジェクトを通して得られたものについて自身の体験をお話いただきました。 

以下、対談形式にてお送りします。 
プロジェクトオーナー:樋口智巳さん(以下樋口さん) 
CAMPFIRE代表取締役:家入(敬称略) 

全国から愛された創業83年の映画館の再建 

家入:この度は、CAMPFIREアワード2023「みんなで乗り越えた部門」受賞おめでとうございます。 
まずは樋口さんの自己紹介と小倉昭和館さんについて簡単にお伺いしてよろしいでしょうか。 

樋口さん:小倉昭和館3代目館主の樋口でございます。よろしくお願いいたします。 

小倉昭和館は戦前の1939年に、私の祖父が芝居小屋兼映画館として創業いたしました。 

当時は娯楽が少なく、祖父は「街の人々を喜ばせたい」という思いで創業し、2代目の父と3代目の私がその思いを継いで家業を続けてまいりました。 
引用:小倉昭和館ホームページ

昭和館は創業83年を目前に、旦過地区の火災で全てを焼失いたしましたが、多くの方々のご支援と応援をいただき、昨年12月には無事再建を果たすことができました。 

全国からの再建を願う声援はもちろん、クラウドファンディングを通じてもたくさんの方々からご支援していただきまして、現在の再建した姿はそうした皆さまの支えがあってこそです。 

そして、今回このような名誉ある賞までいただくことができて本当に夢のようです。ありがとうございます。 

頂いた賞は、映画館の入口に飾ってご来館いただいた皆さまにご報告させていただいております。 

家入:ありがとうございます。 

小倉昭和館さんは、創業から皆さんと一緒に育まれた場所であり、今回のクラウドファンディングも様々な方との交流があったからこそ成功したのではないかと思います。 

昭和館さんは、小倉の地域で本当に皆さんに愛されてる映画館と聞いていますが、再建までの思いをお伺いしてもよろしいでしょうか。 

樋口さん:実は火災に遭った直後は、再建できるなんて思ってもみませんでした。 

他のお店も同じような問題を抱えているかもしれませんが、映画館は特に再建にお金がかかることと昭和館の土地や建物は家主さんの物なので、元の場所に映画館を再建するのは無理だと最初から諦めていました。 

ですが火災後、国内外から1万7000筆を超える再建を求める署名をいただき、皆さまの期待に応えるためにも何とかできないかと思い始めました。 
引用:【小倉昭和館再建】~まちの小さな映画館、奇跡の復活を夢見て~

実は再建の手段として、クラウドファンディングを立ち上げることを皆さまに勧められていましたが、正直に言いますと当初は「クラウドファンディングと一番遠いところにあるのが昭和館ではないか」と思っていました。 

家入:クラウドファンディングが遠いところにあると思われてたのはどういった点ですか。 

樋口さん:昭和館は年配のお客さまが多くいらっしゃることと、直接対面で繋がっている方々に支えられていたので、オンライン上でご支援を募ることは難しいだろうと感じていたんです。 

以前シネマパスポートを発行した際にも、ほとんどの方が直接窓口で現金支払いをされたので、ご支援も現金か郵便局で振り込んでいただく方法しか無理なのではないかと。 

それに、もしご支援が集まった場合リターンを発送する必要がありますが、映画館が無くなった際にスタッフも解散してしまったので、その対応にも不安がありました。 

また、なによりも昭和館が再建するよりまずは旦過地区の復興が先だと思っていましたので、旦過地区全体のクラウドファンディングが終わるまで動かないつもりでいました。 
引用:【小倉昭和館再建】~まちの小さな映画館、奇跡の復活を夢見て~
家入:その様な課題がある中で、最終的にクラウドファンディングをやることになったきっかけは何だったのでしょうか。 

樋口さん:それはやはり、今回応援団長を努めてくださったリリー・フランキーさんに背中を押していただいたことです。
クラウドファンディングの強力なサポーターであるリリーさんやCAMPFIREの吉崎さんに、抱えていた不安を払拭していただいたことで挑戦の決意をいたしました。

夢の入り口であり地域の居場所であり続ける昭和館 

引用:小倉昭和館ホームページ 
家入:お話を聞いていると、小倉昭和館さんが地域の皆さんと深く繋がっていることを強く感じます。 

実際にホームページでも「小倉昭和館は旦過市場さんとともにあり、これから先もより身近でよりワクワクする場所としてここに在り続けたい」と書かれていますよね。 

クラウドファンディングのページにも「旦過地区の希望の光となることは昭和館の使命だと思ってます。」とありますが、改めて旦過地区への想いを伺ってもよろしいですか。 

樋口さん:昭和館はずっと旦過市場さんのそばにあって、旦過市場の皆さまが毎日毎日仕事に励んでいらっしゃる姿を、私たちも励みにして営業してきました。 

お客さまが昭和館で映画を観る前後に、旦過市場で買い物をされて「入り口でお荷物をお預かりします」なんてことは日常茶飯事で、それくらい昭和館と旦過市場の皆さまとの距離は近い物でした。 

実は1960年代の映画館の最盛期には、この街に113館もの映画館があり小さな映画館がたくさんあったんです。 

当時私たちも小倉に4館の映画館を持っていたのですが、映画界の斜陽化とともにほとんどが閉館してしまい、北九州のこの街でも単館系映画館は昭和館が最後になりました。 

それでも、私の祖父や父がこの旦過市場のそばに昭和館を残したということは、やはりこの場所に対する思いが強かったと思うんです。 

ですから、この場所以外での再建というのは考えられませんでした。 
引用:【小倉昭和館再建】~まちの小さな映画館、奇跡の復活を夢見て~*以前の昭和館 
家入:僕の父が小倉の生まれなので、小さい頃は何度か旦過市場も連れて行ってもらったことがあったので、昭和館さんにも手を引かれて行っていたのかもしれないです。 

それと本当に偶然ですが、火災と同じ年の2022年の始めに旦過市場に行っていたので、僕も直後の火災のニュースにとても心を痛めていました。 

ですので、今回こうして地域の居場所となる昭和館さんがクラウドファンディングによって再建したことは本当に嬉しく思いますし、地域にとっても非常に意味があることだと思っています。 

実は僕自身、中学2年生の時に学校に行けなくなりその後家に引きこもるようになった経験から、居場所作りの活動も行っているんです。 

「居場所がない」と感じる若者たちが集まるシェアハウスを作り、今では日本中に約100ヶ所以上展開しています。 

居場所を継続するには資金が必要な一方で、社会的に人口が減っていく現状では居場所の存在も減ってしまう。 

日本の人口減少から始まる地域の様々な課題に対して、僕は『居場所を作る活動』と応援という思いが乗った『お金が巡る仕組み』の、両方を同時に進めていく必要があるのではないかと思っているんです。 

樋口さんまさに“居場所”ということで、昭和館も映画を上映するだけではなく皆さまにとって開かれた場所でありたいと思っているんです。 

実はお客さまから「昭和館の入り口は夢の入り口だ」と言っていただいたことがありまして、その夢の入り口はどなたでも入っていただけるスペースとして開放しています。 

私自身、火災で全てを失った時に改めて居場所の必要性をとても強く感じました。 

ちょうど8月の暑い時期でしたが、あの瓦礫の中では手を洗う場所も暑い日差しを避ける場所もない。 

そういう時に、人にとって“居場所”というものが本当に必要だと感じたんです。 

ですから、これからの昭和館は映画を上映するだけの場所ではなく『皆さまに集まっていただける場所』を作りたいと思いました。 

先ほど不登校のお話も出ましたけれども、次は子供さんたちの居場所にもなりたいと思っていて、例えば学校に行けなくてもここに来て座って気が向けば映画を観ることもできます。 

そして子供食堂などもできればいいなと思いまして、観客以外でも自由に利用できるスペースも作りました。 

先ほど家入さんが「応援という思いが乗ったお金が巡る」と仰っていましたが、まさに今回のクラウドファンディングも、お会いしたことがない方々まで昭和館の再建のために思いを寄せてくださいました。 

それが私たちの大きな力になっています。 

全国からの支援者にまた「お帰りなさい」を伝えたい 

家入:ありがとうございます。昭和館さんの使命達成にクラウドファンディングが一助となっていたことは本当に嬉しいです。 

今のお話の通り地域はもちろんですし、インターネット上のいろいろな方々から様々なご支援があったかと思いますが、何か印象に残っていることはありましたか。 

樋口さん:プロジェクトが始まってから皆さまからたくさんの温かいメッセージをいただいていて、私はそれを読むのが楽しみで毎日クラウドファンディングのメッセージ画面を見ていました。 

それと、映画業界でとても著名な方々や作家の先生などが何も言わずに続々と支援をしてくださってとても感激しました。 

実は本にも書かせていただきましたが、最初は思ったほどなかなか支援が集まらなかったんです。 
参考:映画館を再生します。 小倉昭和館、火災から復活までの477日 
ですのでその後いろいろな方にクラウドファンディングのご相談をさせていただいたり、若手のクリエイターさんたちに集まっていただいたことがあったんです。 

その時に繋がったご縁が映画館を再建した今でも生きていて、若手のクリエイターさんたちが当館のロビーで冊子の展示即売会をしてくださったこともあります。 

また、東京を始め北海道から沖縄の宮古島まで全国からの支援者が実際に何人も昭和館に足を運んでくださって声をかけてくださいます。 

それが嬉しくて嬉しくて、クラウドファンディングを通してこういう形で思いが繋がるのだと感激しております。 

「次にお越しいただくときはぜひまたお声掛けをいただいて、私から『お帰りなさい』って迎えさせていただいてもよろしいでしょうか」ということをお伝えしております。 

家入:今この対談記事を読んでいる方の中には「ぜひ一度小倉昭和館に行って樋口さんとお話をしたい」と思う方も多いのではないでしょうか。 

樋口さん:ぜひお越しください。私自身、ご来館くださった皆さまとお話しすることが何よりも嬉しい時間です。 

これからの映画館は“みんなで創って体験する場所” 

家入:長年様々な時代の変化がありながら、映画館は『文化を継承していくというところ』としていろんな方を支えているのではないかと思います。 

実際に僕は樋口さんから、映画館を通じて文化を繋げていくことへの大きな使命感の様なものを感じているのですが、昭和館を運営していく上で今後の展望など聞かせていただけますか。 

樋口さん私自身は昭和館が文化だとは思っていないので、自分の口から「うちは文化を発信しています」と言ったことは一度もないんです。 

ただ、映画を中心として世界観が広がることがあって、例えば美術館の作品もその作者の生涯を映画で観ることによって、美術館での体験が2倍にも3倍にも楽しくなりますよね。 

そんな風に“映画×美術館”や“映画×文学館”のような形で世界観が広がることは、私にとってもお客さまにとってもすごく楽しいことですし、それを周りの方々が「文化だ」と言ってくださっているのかもしれないですね。 

映画館という場所でまだまだいろんなことができると思っているので、その可能性を私自身が楽しんでいますし、お客さまの「楽しかった」という笑顔が仕事の励みになっています。 

ですから、もっと映画館という場所でいろんな方と繋がっていきたいと思っています。 

家入:ありがとうございます。いろいろな方との繋がりの中で相乗効果が生まれ、コミュニティが形成されていく。 

語弊を恐れずに言うならば『映画を観る』ということだけを切り取ってしまうと、今はデジタルで家に居ながらにして観れてしまうわけですよね。 

その中で映画館のこれからの役割は、まさに昭和館さんがやってこられたような『美術館の展示と連動した企画をやる』や『ライブをやる』、それこそ先ほどの『子ども食堂』など複合的な“体験”と“居場所”なんじゃないかと思いました。 

それがまさに、地域にとってのコミュニティとなる場所なのかなと感じます。 

樋口さん:もともと昭和館は「皆さまに創っていただく皆さまの映画館」だと思っていましたが、今回は文字通り“ゼロから始めたクラウドファンディング”ですので、より一層その思いが強くなりました。 

皆さまに創っていただく皆さまの映画館がこれからどんな形になって、どんな色に染められていくのか私自身も非常に楽しみにしています。 
引用:小倉昭和館ホームページ*再建された昭和館 
一方で、クラウドファンディングでいただいたお金だからこその責任も強く感じています。 

映画館の再建で色々と設備を入れる中で『自分のお金ではなく、皆さまからお預かりしているお金を活用させていただく』という責任がありましたので、選ぶ物全て慎重に取捨選択をいたしました。 

家入:本当に素晴らしいお話で、樋口さんのお人柄も伝わりました。 

そして今回小倉昭和館さんの長く尊い歴史の中に、ほんの少しCAMPFIREも携わることができたことは、僕たちも非常に嬉しく誇らしい思いでいっぱいです。 

本当にありがとうございました。 

樋口さん:こちらこそありがとうございました。この場をお借りしてご支援いただいた皆さまも本当にありがとうございました。 

おかげさまでここまで来ましたが、これからは皆さまに創っていただいた皆さまの映画館を守ってまいります。 

どうぞ全国いろんなとこにいらっしゃる方々にお越しいただいて、本当に「ただいま」と言っていただけるような場所になれればいいなと思っておりますので、これからの昭和館もよろしくお願いいたします。

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