プロジェクトデータ プロジェクト名: なめこ4コマ「なめよん」単行本未収録エピソード 書籍化プロジェクト プロジェクト目的: 「なめよん」の書籍化 募集期間: 2019年3月22日~5月10日 調達金額: 12,325,104円 プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/139018
『なめよん』第二巻をつくりたい!願いを叶える手段がクラウドファンディングだった
「なめこ」コンテンツの一つに、『なめよん』という4コマ漫画がある。2011年から公式サイトで連載が始まり、2014年にはKADOKAWAから単行本が発売。現在も続いている人気コンテンツだ。『なめよん』は、原作・作画はともに株式会社ビーワークスで内製。原作は広報の「ダンボールなめこ」、作画は「なめこ」のキャラクターデザイナーである河合真吾さんがそれぞれ担当している。
単行本発売から約5年、週一で公式サイト『なめこぱらだいす』、月一でフリーペーパー『毎菌新聞』の連載を続けた結果、単行本未収録エピソードが300話を超えたのだ。(単行本収録数は180話)
そして、なめこファンからは「なめよんの第二巻を出してほしい」そんな声が上がっていた。なめこプロジェクト全体のプロデュースを行う伴さんも単行本第二弾を希望していたが、簡単にはいかなかったようで――。
伴:単行本をつくれば、きっと買ってくださる方はいるだろうと思っていました。ただ、さまざまな事情でなかなか単行本化を外にお願いするのも難しい状況で……自費出版も考えたのですが、製作コスト、在庫リスク、販売ルートの手配など考えることが多岐にわたり、ハードルの高さを感じていました
ビーワークスはこれまで、メーカー企業や出版社などにライセンスを提供し、その提供先ごとに製造・販売を行っていた。製造数の設定や販売ルートについては各社に任せていたため、自社にノウハウがなかったのだ。ハードルが高いのも頷ける。
ところが、伴さんが頭を抱えていた2018年の夏、たまたま見かけたテレビ番組が転機となった。
伴:ちょうどクラウドファンディングの話題がやっていて。『そっか、クラウドファンディングがあるじゃん』と。僕自身、個人的に以前クラウドファンディングの支援をしたこともあり、これならいけるんじゃないかと考えました。
そこから色々調べて、“All-or-Nothing方式”なら会社にも通せるかもと思ったんです
クラウドファンディングには2種類の募集方式が存在する。
・All-or-Nothing方式…目標金額を達成した場合のみ支援金を受け取れる方式
・All-in方式…目標金額を達成せずに終了した場合でも集まった分だけ支援金を受け取れる方式
All-or-Nothing方式を活用すれば、受注生産になるため在庫のリスクがなく、販売ルートの手配をせず直接商品を支援者に届けることが可能だ。自社企画商品へのハードルが下がり、『なめよん』単行本化に踏み切れる形となった。
クラウドファンディングを社内で説得させる三種の神器
そして、伴さんはまず初めに「社内交渉」の準備へ取り組んだ。伴:マーケティング目的でクラウドファンディングを利用する会社もあると思います。しかし、弊社の場合、赤字前提で進められるプロジェクトは一つもありません。実施するには結果を伴うことが大前提だったため、まずは説得材料を集めました
社内交渉の説得材料としたのは、「事例」「収支」「リスク」の3つ。
1)実事例
社内には、クラウドファンディングに馴染みのないメンバーも多くいたそうだ。そこで、ビーワークスにとって身近な企業のクラウドファンディング事例を提示。事例に関する情報をCAMPFIREから事前に集めた。「代理店が入らず、すべて自社で進めているんですと社内にかけ合いました」と伴さんは語る。2)想定収支
会社として一番気になるであろう、収支の問題。伴さんは事前に印刷会社へ見積もり作成を依頼したという。見積もりと照らし合わせ、赤字にならないラインの目標金額の説明を行った。また、All-or-Nothing方式であるため、目標金額に達成しなければ商品化しない、支援者からお金をもらわないという話も事前に伝えたそうだ。3)想定リスク
クラウドファンディングを実施するにあたり、想定されるリスクも提示したという。支援が成立しなかった場合、「なめこ」のブランド毀損になる可能性があった。「せっかく支援したのにプロジェクトが成立しなかった…」とネガティブな印象を与えてしまう場合もある。伴:リスクを提示したうえで、それよりも実施するメリットの方が多いとも伝え、やらせてほしいと説得しました
そして、無事に社内からクラウドファンディング実施へのGOが出た。
目標達成のカギは「プロジェクト開始前」「プロジェクト開始後」それぞれのPR
2019年3月に『なめこ4コマ「なめよん」単行本未収録エピソード 書籍化プロジェクト』を公開。目標金額を300万円と設定し、わずか3時間で達成。最終的な支援総額は12,325,104円。達成率410%と見事な数字を叩き出した。取材を進めていく中で、プロジェクト成功に最も貢献していると感じたのが、綿密な“PR活動”だ。「プロジェクト開始前」と「プロジェクト開始後」それぞれで、さまざまなPRを行っていた。そこで、ビーワークスがクラウドファンディングのために行ったPRを紹介していく。
プロジェクト開始前
Twitterで意識づけ2018年夏。クラウドファンディングの実施を検討していたタイミングに、原作者である『ダンボールなめこ』のアカウントで「『なめよん』二巻の書籍化に向けてクラウドファンディングを実施したら?」というアンケートを取った。
・絶対支援者になる(お金出す)
・見守る(お金出すかはわからん、でも欲しい)
・いらない、興味ない
・その他(リプください)
上記の質問を設け、737もの票が集まった。
伴:ビーワークス側が単行本化のために動いていることが分かれば、実際に動いたとき理解してもらいやすいのではと。絶対支援者になるの票数が一番ではなく焦りましたが(笑)、意識づけは先にできたかなと思いました
また、Twitterで「なめよんの書籍化まだかな…」と呟いている人には、「今計画中です!」とリプライを送る取り組みをおこなっていたという。
リアルの場で告知
SNSだけでなく、リアルの場でも単行本化のために動いているという意識づけをおこなったそうだ。
なめこのイベントがあるタイミングや、ダンボールなめこさんが個人的に出展した2018年冬季のコミックマーケットで伝えるなど、直接伝える場も設けていた。
伴:4コマのネームの没ネタを集めて、ネーム本を定期的にコミックマーケットで出ることがありました。没ネタが貯まってきたこともあり、久しぶりに出展してもらって。現地にきてくれる方は熱量が高く応援してくださる方だと思うので、直接伝える機会をつくることができて良かったです
専用Twitterアカウントを作成
プロジェクト開始のタイミングが決定した2018年2月頃、クラウドファンディング専用Twitterアカウントをひっそりと開設した。
プロジェクトページやリターンの進捗状況を逐一共有。そして、毎日過去の4コマのツイートも行った。また、それらのツイートをなめこ公式アカウントやダンボールなめこのアカウントで拡散。少しずつフォロワーを増やし、プロジェクト開始時には500人ほどのフォロワーが集まったという。そして、プロジェクト開始のタイミングで集まったフォロワー全員にDMを送った。
伴:専用アカウントにしたのは、純度の高い情報を伝えたかったのと、応援してくれる人を見やすくしたかったからです。結果、目標金額達成に貢献してくださった人のほとんどが、クラウドファンディング専用アカウントのフォロワーの方たちでした
いきなり「クラウドファンディングを始めます」と知らせるのではなく、上記の取り組みで少しずつ布石を置いたことで、見事に初動の速さを演出できた。
さらに、プロジェクト開始後には別のPRを仕込んでいた。
プロジェクト開始後
スマホアプリ内でお知らせプロジェクト開始のタイミングから、なめこのスマホアプリ内でクラウドファンディングに関する広告を表示させた。アプリ起動時の「お知らせ」や、「フッターバナー」に表示させ、アプリを利用する人からの支援を募った。
プロジェクト開始前ではなく、開始のタイミングで表示させたのにも理由がある。
伴:支援を後回しにされないために、広告を出すタイミングは意識しました。最初に情報を知ったとき、すぐに支援できるページがないと、『まだ始まってないからいいや』と思われてしまうかもしれません。そういった取りこぼしの可能性は極力排除したいと考え、支援したいと思ったタイミングで支援できるようにしました
ストレッチゴールと追加リターンで話題づくり
プロジェクト開始から3時間で目標金額を達成したため、追加でストレッチゴールを設け、さらなる目標を設定していった。ストレッチゴールを達成するごとに、支援者へのリターンが豪華になる仕組みをつくっていった。
ストレッチゴール[目標400万円]…「単行本カバーの仕様を豪華にする」
ストレッチゴール[目標500万円]…「特製ステッカーを全てのリターンに追加」
ストレッチゴール[目標600万円]…「4コマ拡張しおりを全てのリターンに追加」
ストレッチゴール[目標740万円]…「描き下ろし4コマをデザインした特製カバー追加」
ストレッチゴール[パトロン目標1500人]…「特製4コマノートを全てのリターンに追加」
これらストレッチゴールの影響もあり、プロジェクト開始から3日間で500~600万円ほどの支援が集まったという。しかし、ここから徐々に支援のスピードが遅くなってきたそうだ。そこで、ストレッチゴールとは別に、新しいリターンのプランを設けた。この追加リターンも良い話題づくりになった。
伴:プロジェクト公開期間が2019年4月だったので、ちょうど元号の発表があったタイミングで。新元号発表ネタに絡ませたリターンにしようと考えました。4コマの方でも新元号発表ネタの漫画を描いたので、そのイラストをプリントしたTシャツとトートバックの『新元号なめよんプラン』を追加リターンに設定。少し話題になりました
ストレッチゴール達成や追加リターンを発表したタイミングを活用して、SNSなどでも定期的にプロジェクトが動いているのを見せる。すると、興味のなかったユーザーの目に留まったり、追加支援の後押しになる可能性があるかもしれない。
プロジェクト公開前からの草の根運動を経て、初動の速さを演出。その後も地道なPR取り組みが功を奏し、支援総額は12,325,104円と1,200万円を超え、達成率410%にもなった。
なめこファンに合わせたプロジェクトページの作成
また、PRの部分だけでなく、プロジェクトページ作成の部分で意識した点についても教えてもらった。基本的には、単行本化のクラウドファンディングで成功を収めた『世界をもっとポジティブ&ピースフルに!「マムアンちゃん」単行本化プロジェクト!』を参考にページ作成した。
淵上さんは、前述のプロジェクトページにおける「読み進めやすさ」というポイントを研究し、自身のプロジェクトに取り入れたという。
「4コマのプロジェクトということもあり、間に4コマのカットを入れて、読み進めやすさを演出しました。説明などが入るとどうしても長くなってしまうプロジェクトページですが、『4コマのカットが入ることで気づいたら最後まで読めていた』といった読みやすいリズムができたと思います」
淵上:支援していただく人の大半は、なめこファンの方たちだと思っていました。なめこファンのコア層は30代以上の女性です。実は、あまりITや新しいサービスに親和性のある方たちではないんです。コンサバティブな人が多いため、いきなり『クラウドファンディングします!』と言っても、理解されないだろうと考えました。
なので、弊社がなぜクラウドファンディングを始めたのか、ファンの皆さんにとってどんなメリットがあるのか、の部分をできる限り優しく伝えるように工夫していました。私は、そのような伝えるべきポイントをページコンセプトやマーケティング視点でのデザイン、レイアウト、リターンの企画に落とし込み、伴はページの具体的な文章作成、といった形で分業しました。
その結果「読み進めやすさ」というポイントをしっかり押さえつつ、「なめこ」らしいページが作成できたのではないかと思います。
次回予告
クラウドファンディングが成功し、無事に『なめよん』の単行本化を果たしたビーワークス。この良い流れを活用すべく、クラウドファンディングプロジェクト第二弾を試みることに。しかし、そこには想像以上の苦労が待っていたそうで――。後編では、ビーワークスのクラウドファンディングプロジェクト第二弾となる『リアルなめこ 初めてのグッズ化プロジェクト』実施の裏話をメインに、今後のクラウドファンディング活用の展望についても紹介する。