プロジェクトデータ
■プロジェクト名「自分のまま」でも名字を変えても結婚できる選択的夫婦別姓を一緒に実現しませんか?
■プロジェクトの目的
選択的夫婦別姓実現に向けた活動の周知、活動費の資金調達
■募集期間
2020年2月14日~4月17日
■調達金額
7,316,500円
■支援者数
1,124人
■プロジェクトURL
https://camp-fire.jp/projects/view/217790
自分の名前で生きる自由を目指す、選択的夫婦別姓・全国陳情アクション
結婚しても希望すれば生まれ持った氏名を変更せずに生きられる「選択的夫婦別姓」。1996年に法制審議会の答申があったものの国会内での議論が進まず、未だ実現していない状況にあり、2014年以降には世界の中で日本だけが「夫婦同姓」となっている。選択的夫婦別姓・全国陳情アクションは、「選択的夫婦別姓」制度を実現すべく国会で陳情するほか、地方議会から意見書を国会に送るという活動をしている団体だ。2018年に事務局長の井田さんと地元の人たちと東京都中野区で陳情アクションをスタートし、同年11月には陳情アクションを全国に拡大するためWEBサイトを設立しSNSなどでメンバーを集め、現在は日本全国にメンバーが在籍している。メンバーそれぞれが地元議会に働きかけ、2020年12月までに全国の地方議会から67件の意見書を国に送っている。
活動開始当初を振り返り「活動費を手弁当で続けてきました」と事務局長の井田さんは話す。活動を持続させるだけでなく、今以上に活動を拡大させていくには、手弁当で続けていくことへ限界を感じていたのだ。そんな中、活動費を得るための一つの選択肢として挙がってきたのがクラウドファンディングだった。
「メンバー一人ひとりが自身の地元議会に働きかける活動をしているのですが、勉強会の資料印刷代、議会への交通費、各地に講師を招いて開催するイベント費など様々な費用がかかります。全てを自分たちで賄い続けるのには限界を感じていました。
今後の活動資金をどうしていこうかと考えたとき、クラウドファンディングという手があることを知りました。そこから、どのサービスが良いかを調査・比較検討し社会問題に特化しているクラウドファンディングサービス『GoodMorning』さんに決めました」。
2020年1月にクラウドファンディング実施を決め、10名ほどのコアメンバーと役割分担をしながら約1ヶ月の準備期間を経て資金調達を開始。目標金額を500万円に設定し開始から39日で達成、最終的にはネクストゴールに設定した700万円を超える支援が集まった。
「プロジェクトページ」と「PR」から“当事者意識”に繋げる
社会問題に関するクラウドファンディングプロジェクトは、問題に対する当事者意識をユーザーに持ってもらう必要がある。「選択的夫婦別姓」は自分自身の名前の問題であるため、潜在的な興味関心を持つ人は多いだろう。一方で、顕在化しづらい問題であるのも事実だ。井田さんも「自分の困り事として抱えない限り、他人事で済んでしまう問題です」と述べた。そこで、本プロジェクトでは「選択的夫婦別姓」に対する潜在的な興味関心を顕在化し支援へ繋げてもらうために「プロジェクトページ」と「PR」それぞれに工夫を施した。
工夫①:知識のない人でも理解できる、プロジェクトページ
度々メディアにも取り上げられる「選択的夫婦別姓」について“何となく”の知識はあれど、ほとんどの人は詳細な知識を持ち合わせてはいないはずだ。そういった人たちに向けて、プロジェクトページでは“基礎知識”から説明するような構成になっている。このプロジェクトページの本文を執筆したのは事務局長である井田さんだった。「これまでも議員の方向けの勉強会で説明をしてきました。議員の方は約9割が男性です。姓を変えることの苦痛が想像できないという方も多くいらっしゃいます。なので、日本が歩んできた姓の歴史や世界から見た日本の現状、そして具体的にどのような人が困っているのかを説いていました。これまで説明してきた内容をさらに誰にでも分かりやすくかみ砕いて表現したのが、今回のプロジェクトページの文章です」
「選択的夫婦別姓」は、どうしても女性たちの権利の主張として見えてしまうこともある。しかし、結婚をする上でパートナーとなる相手の困り事だった場合、相手だけの問題ではなく自分自身の問題にも繋がるはずだ。年齢・性別問わず関係のある問題ということ、多くの人に“自分事化”してもらうために井田さんは思いを綴ったのだ。
さらに文章だけで伝わりづらい内容は図や写真で伝えるという工夫も。陳情アクションのフローや選択的夫婦別姓に対するアンケート調査、支援金の使い方の図などを本文中に盛り込んだ。
資金調達後のフロー図
また、選択的夫婦別姓・全国陳情アクションには約3割の男性メンバーが在籍していることから、男性にも自分事化してもらうためにランチ会の写真を挿入している。「この法案が可決されることで日本にどんな良い影響があるのか、そしてそれは女性だけではなくカップルである二人に影響があることを可視化することを意識しました」
工夫②:興味関心を顕在化し、当事者意識を加速させるPR
プロジェクトページ内の充実度もさることながら、加えてPRの仕方にも工夫があった。本プロジェクトを進行する上で、Twitter、Instagram、note、YouTube、プロジェクトページ内の活動報告を活用。それぞれのターゲットに合わせ、発信するコンテンツの内容も変えている。「映像の仕事をしているメンバーが動画を作り、一般向けに広く伝えたいコンテンツはnote(後にWEBサイトへ移動)やTwitterに発信。その中でも若年層にアピールしたいコンテンツはInstagramに。そして、私たちの活動の動きを直接見せていくのは支援してくださった方に活動報告として発信するという使い分けをしていました」。
普段からInstagramを使用している若年層のメンバーが画像作成から投稿までを担当したり、noteや活動報告の内容はメンバー内でクラウドファンディング実施前に記事の準備をしたり、チーム一丸となってPRのコンテンツをつくり上げていった。
そして中でも特に力を入れていたのが、プロジェクトページ内の活動報告だ。クラウドファンディング開始直後からほぼ毎日、多い日には1日2件も活動報告を投稿していた。
さらに、コンテンツの内容も豊富だ。達成率の報告だけではなく、事前に用意した当事者のケーススタディのインタビュー記事やクラウドファンディング期間中に行った勉強会の様子のレポート記事などを発信。実際に取り組んでいる様子をリアルタイムに発信することにより、自身の支援がどのように活動へ貢献されているかの理解が深まる。当事者意識をさらに加速させることにも繋がった。
また、PRで様々なメディアを活用したことから多くの人の目に留まり、著名人からの応援コメントが続々と寄せられた。選択的夫婦別姓・全国陳情アクションは活動歴がまだ浅いため、知名度が心もとない部分も。しかし、クラウドファンディングの実施が活動が知れ渡る引き金となり、多くの協力者を得ることにも成功した。
お金だけじゃない!クラウドファンディングにおける3つのメリット
クラウドファンディングの実施で得たものは、活動費の資金だけではなかった。井田さんが語るクラウドファンディング実施のメリットは主に3つだ。メリット①:「選択的夫婦別姓」の自分事化に繋がった
これまで潜在的に「選択的夫婦別姓」を望んでいた人たちの思いが、クラウドファンディングの実施によって顕在化される側面もあった。また、「選択的夫婦別姓」を望んでいる当事者だけでなく、改姓当事者のパートナーへの訴求にも繋がったという。「私たちの活動を見て、これまで心に秘めてきた思いを表に出していいんだ、支援・応援する形で意思を示していいんだと気づかれる方がいらっしゃいました。また、パートナーである妻だけが悩んでいると思っていたけど、クラウドファンディングがキッカケで多くの人の困り事だと気づいた方が夫婦で支援してくださった例もあります」クラウドファンディング終了後には議員への説得材料として支援者数を提示することも。選択的夫婦別姓・全国陳情アクションに参加しているメンバー以外にも日本中からこれだけの数の支援が集まったと伝えることで、政治家への理解の促進にも繋がったのだ。
メリット②:「選択的夫婦別姓」への参画意識を高められた
応援・支援のみならず、「自分自身も行動しよう」と多くの人たちの参画意識を高めるという結果にも繋がった。支援者の中には選択的夫婦別姓・全国陳情アクション事務局のメンバーとして活動を始めた人もいる。外からただ応援するだけだった人の意識を変えることができたのだ。「自分も法改正の一部になれるという参画意識を多くの人に持っていただけたのは、とても大きな財産です。法改正にはすでに40年もの長い時間がかっています。その期間、ただ応援するしかできなかった人たちから、『自分も何か行動をしようと思った』『自分たちの下の世代に夫婦同姓制度の苦労を引き継がせたくない』というメッセージを受け取ったとき、心に火をつける大きなキッカケになったと感じました。
細々とWEBサイトやSNSで発信をしているだけでは達成できなかったことが、クラウドファンディングのおかげで達成できたと感じています」。
メリット③:活動範囲の拡大からさらなるリーチに広がった
クラウドファンディングで集まった資金を活用することにより、活動へのさらなる好循環が生まれた。当初、各地に実際に行って勉強会を開くといった活動のために集まった資金を活用すると決めていた。しかし、2020年3月から世界を襲った未曽有の事態、新型コロナウイルス感染症に伴い、リアルの場での勉強会を開催するのは難しい状況に。そこで、クラウドファンディングで得た資金の活用として、6月に愛知新聞社会面への意見広告出稿を実施。また、12月には全国の60歳未満の成人男女7,000人を対象に選択的夫婦別姓についての意識調査を実施した。
議員参加のオンライン勉強会も開いた結果、多くのメディアへ取り上げられることとなる。「クラウドファンディングの活動で得た資金を活用したことにより、さらに多くの人へのリーチを広げられた」と井田さんは話す。
選択的夫婦別姓・全国陳情アクション 事務局長 井田 奈穂さん(© Yuriko Ochiai)
最後に、井田さんから支援者の方たちに向けてメッセージをいただいた。「多くの方に支援をいただき、とても感謝しています。これまで姓の変更に伴う苦痛を感じてきた方、事実婚を選んだことで苦労した方など、多くの方から応援メッセージが寄せられました。『自分で動くことはできないけど、実現してくれるのを心から待っています』という胸に迫るような想いを受け取ることもありました。
私たちと同じように悔しい思い、悲しい思いをしてきた方が日本中にたくさんいると実感できたのはクラウドファンディングを実施したからこそだと思います。みなさんへの感謝とともに法改正という形で恩返しができるよう、今後も頑張って活動していきます。直近では2021年2月14日、国会議員と地元のメンバーがジェンダー平等について語り合うイベントを予定しています。こういった取り組みも全国に広げていきたいですね」。