2020/02/03 13:40

 日頃からTeach For Japan(以下TFJ)を応援頂き、ありがとうございます。

 TFJで選考、研修、連携を担当しています、平山と申します。私はフェローシップ・プログラムの3期生として北九州市の小学校に2年間赴任しました。その後、北九州市、福岡市で講師を勤め、昨年度からTFJの運営に携わっています。

 私がこのプログラムにエントリーをするきっかけになったのは、大学生の時に参加していた学習支援事業で担当していた中学2年生との出会いです。

 彼が初めて私にかけた言葉は「なんで数学とかせないけんの?」でした。

 私はこれまで、勉強することの目的など考えたことがなく、「勉強することが当たり前」という感覚で勉強してきました。彼がそんな言葉を発している原因は何なのか。とにかくそれが引っかかっていました。5日間のプログラムだったのですが、

「最終日にこの子に少しでも『勉強することが楽しい。』と感じてほしい。」

そんな思いで寝る間を惜しんで教材準備に取り組みました。

 学習支援の期間中に、彼の担任の先生とお話する機会がありました。先生にお話から、彼は母子家庭で一人っ子、母親が夜遅い時間に仕事に行くため、基本的に家には一人でいることを知りました。私に対する彼の発言(「なんで数学とかせないけんの?」)は、本当に勉強の意味が理解できないのではなく、日頃の寂しさから大人の気を引こうとしていたことが分かりました。それを知ったとき、私が今まで生活してきた世界は、とてつもなく小さかったことを知りました。自分が産まれた環境でその子の成長が左右されてしまうような現実がある。日本にも”格差”が存在していることを知ったのは、この時でした。

 そんな背景を持つ彼でしたが、私が必死に教材の準備をし、彼と向き合えば向き合うほど勉強に真剣に取り組んでいました。彼の頑張りもあり、学習支援の最終日、数学の事後テストで満点を取ったのです。

彼は(思春期真っ只中ということも関係しているのかもしれませんが)あまり嬉しそうな素振りは見せませんでした。しかし、帰る前、私に聞こえるか聞こえないかくらいの声で「数学、ちょっと楽しかったよ。」と言って帰っていきました。

 私は、たった5日間でも、大人が真剣に子どもたちと向き合うことで、子どもたちはとてつもない成長を見せるのだと実感しました。それと同時に、学校の先生は1年間子どもたちと向き合うわけで、その大人の存在はとても重要だと思いました。この時の経験から、「子どもたちの成長に関わる仕事がしたい。先生になりたい。」と思うようになりました。


 もちろん、教員採用試験を受けて教員になる道もありました。しかし、ただ先生になるのではなく、自分が先生になることで、何か日本に貢献できるようなことがしたいという想いでフェローシップ・プログラムに参加することを決めました。


 フェローとしての2年間とその後2年間の教員生活を通して、私が感じたことは2つあります。

 1つ目は、フェローシップ・プログラムの赴任前研修の重要性です。一般的に教員は、4月1日から先生になります、講師を経験していても、社会人経験をしていても、新卒でも関係なく、全員、4月1日から先生です。民間企業であれば、4月から何ヶ月間か、研修期間があります。しかし、先生は全くありません。つまり、先生は、実践(子どもたちの前に立つこと)と研修(知識のインプットなど)が同時並行で行われている状況です。もちろん、大学の教職課程で学び、教育実習を経て教員になります。ただ、そこで学んだ全ての内容が学校現場ですぐに使うものではないと感じています。私はこの仕組みが非常に危険なものだと感じています。子どもたちの大切な時間を、大人の勉強時間に使ってしまっていいのかということです。

 私が赴任した学校に、私と同じように新卒で教員採用試験を受けて小学校の先生になられた方がいらっしゃいました。しかし彼女は6月で退職をされてしまいました。学校現場の厳しさと教員になる前の学校に対する自分のイメージがかけ離れていたのだと思います。私も学校に赴任する前にTFJの研修を受けていなければ、様々な出来事に耐えられなくなって、辞めていたかもしれないと思うと、全く他人事ではないと感じました。学校現場に赴任する前に、インプットとアウトプットを継続することで、学校で起きる不測の事態に対応することが出来、このようなギャップに苦しむ先生が減ると思います。

 2つ目は、同じ想いを持った仲間がいることです。先述したように、私は新卒でプログラムに参加したのですが、私の同期には様々な経験を積んでいる方がたくさんいらっしゃいました。旅行会社、IT企業、国境なき医師団、JICA…。私の比にならないような人生の経験をされている方ばかりです。各々、バックグラウンドは異なるものの、全員に共通しているのは「教育に想いがある」ということでした。

 学校に赴任した後も、定期的に集合研修が行われたり、研修以外にも、自分たちで自主的に集まることがありました。その度に、みんなで教育のことについて語り合いました。ただそれは、現場が大変とか、自分が実践していることの共有とかではなく、「それって本当に子どもたちのため?」「自分たちには何ができるか?」を問い直す場でした。多忙な学校現場で日々の業務に忙殺されそうな中、自分たちの出発点を再確認する、初心を思い出すことが出来ました。

「日本全国で同じ想いを持って頑張っている仲間がいる。」

そう思うだけで、大変なことがあっても頑張ろうと思うことが出来ました。

 フェローシップ・プログラムは、8年目になりました。ここに至るまでには、先輩方の現場での努力はもちろん、活動を応援して下さる支援者のみなさま、団体に共感してくださっている連携自治体のみなさま、たくさんの方々のおかげだと思っています。

 私は、このプログラムは今後の教員養成課程のモデルであり、教育から社会を変えるための活動だと信じています。8期生が現場の先生方と協働して課題に取り組んでいくことが出来るよう、ぜひともこの武者修行研修を実現させたいという想いです。

ぜひともみなさまの応援をよろしくお願い致します。