こんばんは。国際交流シェアハウスやどかり代表の中野です。
いよいよクラウドファンディングも残り3日となりました。ここまで応援してくださったことを心からお礼申し上げます。ありがとうございます。
二次選考の「留学生版トライやるウィーク」が進むにしたがって、活動報告を楽しみにしてくださっている方や「留学生の本気が見えた」と2回目、3回目の御支援を頂いた方もいらっしゃいます。改めて「選考過程の見える化」にこだわってきて良かったと感じる瞬間でした。
さて「留学生の本気が見えた」というお言葉を頂きましたので、本日は番外編として、ある留学生のことを御紹介したいと思います。
とある理由で日本語学校の3年生となったOくん。学校では皆勤賞をもらい、日本語能力試験もN2に合格しました。しかし、Oくんには決定的に足りないものがありました。それは「コミュニケーション力」です。
母国語でも決しておしゃべりではない彼は、日本語でのおしゃべりが大の苦手でした。日本語は聞き取れているのに何と返せばいいのかわからない。「はい」「ああ」「いいえ」ほとんどのコミュニケーションをこの3つで終わらせてしまうのです。
国際交流シェアハウスやどかりのスタッフは彼に何度も話しかけ「日本語を使わないと!」と言ってきましたが「ダメだ」という顔で首を横に振ります。
「このまま終わるのか?」そう思いながらスタッフは黙って彼を見てきました。
そして2年生になり進学するために受験を始めるのですが、想像していた通り結果は不合格ばかりが続きます。さらに話す気力を失い、ついにはスタッフに会釈をして通り過ぎるだけに。「あれではあかん」「帰国するんちゃうか」スタッフも徐々に諦めモードになりました。
結局、進学先が決まらず皆勤賞でN2を持っているにも関わらず、3年生を迎えることになりました。
6月、「留学生版トライやるウィーク」が兵庫区みらい会議のお力添えを頂き実施できることになり、私はOくんを呼び出しました。
「やってみる?どうする?」期待半分でOくんに尋ねると、Oくんは「やる」と言いました。「今のままではだめだと思うよ」「はい、そう思います」短いやりとりでしたが、「自分はダメ」だと常に挑戦しようとしなかったOくんが「やる」と口にしたことはスタッフの中では「成長した」と思える場面でした。
緊急事態宣言で「留学生版トライやるウィーク」が中断・中止になる中、Oくんのやる気を奪わないか心配をしていましたが、先日の兵庫図書館の活動にOくんも参加しました。彼は奨学金のためではなく「自分はダメだ」と思ってきた自分を変えるために参加をしています。
私がふと一瞬顔を見たとき、マスクの下で真っ赤な顔のOくんと目があいました。「大丈夫?」と声をかけると「難しい…」と一言。「がんばれ」そう声をかけ離れました。
普段のアルバイトは工場。そして荷物の仕分け。日本語を話すことはありません。漢字圏の学生とはいえ、普段見慣れない言葉が飛び交い、初対面の方ばかりの中での就業体験。
3つの言葉でコミュニケーションを完結させてきたOくんにとって、私たちが想像するよりも緊張し、力が入っていたはずです。
2時間の活動を終え、図書館を離れてからOくんが足早に私を追いかけてきました。「どうだった?」と声をかけると「難しかった。私は上手じゃないから、ダメだった」と。
「図書館の人もダメだと言いましたか」「・・・わからない」「じゃあ来週また頑張ればいいよ」「はい。この活動はとても良かったです」
「ダメだった」と言いながら「良かった」と口にするOくんを見て、何かが変わったかな。いやこれから変わるかな。そんな風に思います。
器用な子ばかりではない。それは国籍を問わずどこの国でも当たり前だと思います。
もしかしたらOくんにとっては大きな大きな一歩だったかもしれません。そのきっかけを与えてくださった兵庫図書館はOくんにとって忘れられない場所になると思います。
奨学金メンバーのように明るく前向きで、何でも積極的に参加する子だけではなく、「ダメだ」「できない」そんな風に思う留学生もまた私たちの近くにいるのです。
Oくんのゴールはどこでしょうか。やどかりスタッフの見守りはまだまだ続きます。