2018/02/22 23:42

国連での意見表明は終わりましたが、目標の金額まで足りない状況です。引き続き、シェアや寄付などのご支援が必要です。

何卒、ご協力、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

では以下、報告をさせていただきます。                              

1 全体の概要

2014年からルールが変わり、事前に一人ひとりの予備審査会議(Pre-session)登録およびパレウィルソンへの立ち入り許可を、大変厳しいフォーマットで別々に行わなければならず、また "Technical issue" で招聘通知が直前まで届かないというハプニング等もあり、大変難儀しましたが、現地での交渉を含めとにかく全員無事に会議に出席できました。予備審査のやり方もこれまでとは異なったものでしたが、まず子ども会議が1時間行われ、次いでおとな会議が2時間半行われました。子ども会議は、CRC日本の子どもたちだけが参加して行われ、おとな会議は日本の6団体が参加して行われました。両方とも日本審査のために4名の委員で構成されたタスクフォースが中心になって、それぞれの会議の質疑応答が行われました。タスクフォース以外の委員の方々も多数質疑に参加されました。それぞれの会議の模様については後述します。

2 CRC日本からの参加者

おとな会議には、過去3回の経験があり、報告書作成の統括責任者であった福田と、英語がきわめて堪能で全領域の翻訳のチェックに参加して報告書の内容にも精通している森本国際部長の2名が出席しました。子ども会議には、報告書を提出した6名の子どもと通訳および付添人の役を担って下さった2名のおとなが参加しました。子どもたちの選出過程は、子ども報告書の序文にも記されているとおり、今回の予備審査のために2015年夏からCRC日本の呼びかけに応じて全国から集まり、膝を交えての何回にもおよぶ学習会や合宿を通して徐々に自らの言葉で語れるようになった、結果的には日本の子どもたちを代表するに相応しい一騎当千の強者に成長した中学1年生から高校3年生までの子どもたちです。残念ながら報告書は書いてくれたのに、2名が学校行事の都合でどうしても現地に赴けず、原稿を代読してもらうことによって間接的に参加しました。

子どもたち派遣の費用は、クラウドファンディングおよびCRC日本に寄せられた寄付金から可能な限りの援助をさせていただきます。ご尽力に心から感謝申し上げます。

3 子ども会議

(1) 子ども会議の雰囲気

2月6日から9日の間の特定日に行われました。子どもたちがどんな状況や気持ちで会議に臨んだか、また委員の方々がどのように反応されたか、会議の雰囲気を、クラウドファンディングに対する感謝の言葉とともに、子ども達の感想文を添え、順次、お伝えしてまいります。

(2) 子どもたちの、見事なプレゼンテーション

(練習、練習。。。うまくいかずへこむこともありましたが、仲間に励まされやり抜くことができました)

予備セッションの子ども会議では、冒頭の子どもたちのプレゼンテーションが全体で15分しかなく、一人あたり2分ちょっとのスピーチという短いものでした。直前になってスピーチ原稿を削りに削っての練習を重ね、本番では6人とも最高のパフォーマンスを披露してくれました。感極まって涙ながらにスピーチをした子ども、ジュネーブへの飛行機の中では英語の発音さえもおぼつかなったのに本番ではネイティブのように流ちょうにやってのけた中学一年生、舞台に立った大女優のように感情を込めてメッセージを伝えた子ども、通訳なしで質問に直接英語で応えた子ども等々、いったいかれらのどこにこんな能力が隠されていたのか、ただただ驚嘆するのみでした。

委員の方々はそんな子どものスピーチに対して、一つひとつうなずき、涙を流している方もおられました。子どもたちのスピーチは委員の方々の心を完全にわしづかみにしたと言っても過言ではありません。

(3) 子どもたちの国連における意見表明のテーマ

(意見表明を行う前に委員の皆さんとお話して、緊張が少しほぐれたところです)

彼らが取り上げたテーマは多様な領域におよんでいました。①東日本大震災で74名の子どもが津波に呑まれた大川小学校事故の話、②福島原発人災による低線量被曝と復興の問題、③ミャンマーからの難民Ⅱ世として体験した日本における学校教育の不可思議、④自分の思っていることを主張すると「発達障害」とレッテルを貼るなどして多様性や個性を認めない日本の学校教育、⑤親に承認されたくて頑張りに頑張って「いい子を演じ」、ついに人間不信に陥った体験談、⑥両親の離婚に際して、子どもである自分をまるで「物」のように取り扱った親や行政や裁判所や学校の問題、⑦児童相談所によって事実を確認することなしに6か月以上も一時保護に付され親子関係を引き裂かれた体験談(これはおとな会議に資料として配付)といったものです。子どもたちは一人ひとり2年以上も考え抜き凝縮した自分の思いを語ってくれました。

 (4) 子どもたちが日本を代表して国連に届けたメッセージとは?

では、子どもたちは全体としてどんなメッセージを国連に届けたのでしょうか。もちろん一人ひとりのメッセージのなかには、個別的に子どもの権利条約に反する子どもの権利の侵害の訴えがたくさん含まれています。

しかし、子どもたちが一人ひとりの体験を踏まえて自分の声で語ったメッセージの重要性は、個別問題を超えて、経済発展を遂げた(あるいはそれをさらに発展させることを最優先する)超先進国日本社会だからこそ新たに生み出されている、現代日本の子どもに共通する根源的な問題を見事に描き出したという点にあると確信します。子どもたちは、一見するとバラバラのことを述べているように見えますが、彼らのメッセージはすべて、結局きわめてシンプルな次の叫びに収斂しているということです。

「経済発展やそのための強い国作りをする前に、どんなことがあってもまず一人ひとりの子どもに無条件で顔を向けてよ」という本能的な叫び。これは「尊厳を持った一人の人間として扱ってよ!」あるいは「無条件で愛してよ!」という叫びと同義です。

新自由主義的経済体制にどっぷり浸され、「お金のための競争と効率と評価」に明け暮れる親、教師、社会、国に対する痛烈なアンチの叫びです。

子どもたちのスピーチにはすべて、たとえば「顔を向けてよ!」「おとなは嘘をつかないで子どもの声を聞いて!」「お母さんに会いたい!」「物のように扱わないで!」「一人ひとりに向き合って!」 「もし日本の子どもがもっと愛されていたなら」といった表現を用いて、先進国ゆえに人間関係を破壊され、尊厳を否定された孤独の中で苦しんでいる子どもの本能的な叫びが綴られています。子どもたちは、超短い時間の中でまさに現代日本社会に生きるすべての子どもの声を代表する圧巻の意見表明をしたのです。

4 おとな会議

(1) おとな会議の概要

子ども会議に引き続いておとな会議が開かれました。日本から報告書を提出した6つの団体が参加し、それぞれの団体が3分間のプレゼンテーションを行ったあと、15分の休憩を挟んで2時間弱の質疑応答が行われました。CRC日本の報告書を3分で報告することは到底不可能であり、プレゼンテーション用のアジェンダペーパーを作成・提出し、CRC日本の重要なトピックとして

       ① 条約12条の新しい解釈の提案

       ② 離婚に際しての面会交流の問題

       ③ いわゆる「児童相談所」問題

       ④ 子どものあらゆる成長過程で人間関係を奪われた日本の現状

の4点を述べることにしました。厳しい時間制約があったとはいえ、CRC日本のプレゼンテーションとして重要なトピックのすべてを十分に取り上げることができなかったことについては、非常に残念であり、また、多大のエネルギーを注いで報告書を作成してくださったみなさんにも、本当に申し訳なく思います。しかし、タスクフォースが当該問題を取り上げる際には、当然CRC日本の報告書も十分に参照されるものと考えられることから、どうかご容赦くださるようお願いします。

(2) CRC日本の意見表明の特徴

上記アジェンダの①と③については、委員の心をわしづかみにした子ども会議での子どもたちの問題提起と連携して、それらを子どもの権利条約を用いてどのように解決すべかについて、条約12条の意見(欲求)表明権を「受容的な応答関係をつくる」子どもの権利として新たに解釈し直すべきであるとの提案を行いました。タスクフォースの1人である委員は、子どもの成長発達にとって「おとなとの人間関係の重要性」が鍵になることを、質疑応答の冒頭でメンションしていましたが、CRC日本が提案した12条の新たな解釈まで理解していただけたかは不明です。前回の第3回最終所見で「親や教師との人間関係が貧困であるために、大多数の日本の子どもは幸せな子ども期を送れないでいる」旨の懸念に基づいて、さまざまな勧告が出されましたが、今回の最終所見にその考え方をさらに発展的に継承して、それを克服する子どもの具体的な権利として12条の意見(欲求)表明権を位置づけてもらえるかは、今のところ不明です。

②の離婚に際しての面会交流については、森本国際部長が極めて説得的なプレゼンテーションと意見表明を行いました。子どもの成長発達にとって親子が分離されることの悲劇を強調してきたCRC日本の基本的な主張とあいまって、今回の最終所見に当該問題が取り上げられる可能性は極めて高いように思われます。タスクフォースの委員もおとな会議の終了後に森本さんに個別的に質問をしていました。

なお、上記①から④のアジェンダについては、帰国後補充意見書を作成して、委員会に届けました。

5 今後の展望

「子どもの権利委員会」は、近いうちに今回の予備審査を踏まえて「質問一覧」(List of issues)を作成し、日本政府に提出することになっています。それに対して日本政府が2ヶ月以内に回答を出すことが予定されています。その回答を見て、不十分と考えられる部分について、CRC日本を含む日本のNGOが、8月末までに補充意見書を委員会に提出することができます。CRC日本もそれに対応すべく準備を進めなければなりません。そして本年9/10月会期に、日本政府報告審査が行われ、その直後に日本政府への最終所見が出されることになります。私達CRC日本の主張が最終所見にどのような形で、どの程度盛り込まれるか楽しみです。

いずれにしても、懸案であったCRC日本の報告書の提出と予備審査が無事に終わり、ご協力くださったみなさまに心か感謝申し上げます。5年後の第6回日本政府報告書の審査に際しても同様に報告書を作成し、子どもたちを国連に派遣できるかどうかは、今のところはっきりしません。もちろん会員みなさまの意思によって決定されることになるでしょうが、その前提条件として、CRC日本が新たな人材の獲得と、CRC日本の大きな目的に向けて全員が心を一つにして動ける体制の確立こそが焦眉の急として求められるのではないかと思います。

最後に私事になりますが、20数年にわたる私の国連との楽しく、有意義な活動に有終の美を飾ってくれた子どもたちに心から感謝するとともに、あなた方を大変誇りに思います。いつの日か再び一緒にレマン湖の辺でフォンジュを食べられるのを楽しみにしつつ。

2018年2月19日

福田雅章CRC日本 代表