2017/03/09 21:54

トランプ政権下の米国で、2年間にわたり、社会的弱者コミュニティ・支援NPO等の変化を調査する本プロジェクトにご関心の皆様、ありがとうございます。
言い出しっぺ・やりだしっぺのライター・みわよしこ、こと三輪佳子です。
しかし、あと22日と期限が迫ってきたのに、目標金額の200万円には遠く届かず、少々、慌てております。

というわけで本日より、私がこれまで米国で何を見てきたかを、皆様に発信しようと思います。

本日のお題は「どんな困り方をしている人にも、必要な食糧を配布する”公平”な方法」です。

フードバンクをはじめ、米国に起源を持つ支援の数々が、近年、日本にも現れています。
しかし、人にモノを差し上げて喜んでいただくのは、本来、容易なことではありません。
特に生活困窮状態にある方々は、たいへん傷つきやすくなっています。お金によって、軽蔑されない服装を整え、何があっても立ち向かえる心身の健康を維持することが難しい状態にあるわけですから。
そういう方々にモノを差し上げるのは、実は通常の贈答よりも、はるかに難しいのです。
米国でも、その事情は変わりません。
このため、長く活動しているNPO等では、さまざまな工夫を凝らしています。

この写真は、米国サンノゼ市にあるNPO「Sacred Heart(聖なる心)」の食糧配布コーナーです。
アウトレットショップのように、棚に物品が陳列されています。配布を受けるカスタマー(と呼ばれています)たちは、ショッピングをするように物品を選びます。本人たちが「選ぶ」ことは、尊厳を高めてエンパワメントするための手段として、重要視されています。

ショッピングと異なるのは、最後に代金を支払うのではなく、前回からの間隔と配布点数をチェックしてもらうことです。
一回あたりの配布点数は、やや少なめに設定されています。また、次の配布は、一週間ほどの間隔をおいて受けられるようになっています。

これらは、足を運ぶ機会が増えるように、来ることが自然な習慣になるように、という意図によって凝らされている工夫です。

でも、たとえば「食糧を必要としている」といっても、ニーズはさまざまです。
本当に、食べるものが何もない人もいます。
住まいに調理器具を持っていない人もいます。
宗教やアレルギーに対応した食糧が必要だけど、高価で買えなくて困っている人もいます。

人それぞれ、程度も内容もさまざまな「必要」に、Sacred Heart はどう対応しているでしょうか?

右側に並んでいる大きな紙袋は、開ければすぐ食べられる食糧の詰め合わせです。
主に想定されているのは、ホームレス状態の人々や、貧困などの問題によって住まいで調理のできない人々のためのニーズです。

この大きな紙袋も、「たとえば1回あたり5点」の配布点数のうち、1点です。
パスタやじゃがいもや人参の大きな袋も、1点です。
清涼飲料水のペットボトルも、やや高級感のある調味料や缶詰も、1点です。

このようにすれば、絶対的貧困状態にある人々と、相対的貧困状態にある人と、「困」はないけれど「貧」はある人と、「貧」は大きく問題になってはいないけれども「困」がある人と、問題Aで困っている人と、問題Zで困っている人と……を識別したり区別したりせずに、誰もに、その人の今のニーズに沿った物資を渡すことが可能になる、というわけです。

日本で生活保護が話題になるとき、また「子ども食堂」などの場が提供されるとき、しばしば「本当に困っている人を見分けて支援しなくては」「本当に困っている人に来て欲しいのだけど」という声が聞かれます。

ニーズをもった誰かを特別な存在として区別して支援することは、生活保護のような公的扶助では、ある程度は必要です。年収1億円の自称・生活困窮者に、公的扶助を行うわけにはいかないでしょう。
しかし地域の、誰もを包摂(インクルージョン)しようという仕組みの中で、「より困っている」「より困っていない」の識別を行うことは、それだけでインクルージョンをぶち壊す可能性があります。
それは「誰かをこの支援から対象外にしても良い」と言っているのと同じことなのです。

その人が本当に困っているかどうかは、他人から容易に計り知れることではありません。
それどころか、本人にも自覚されないことがあります。
だから、多くの国々の公的扶助では、「資力テスト(ミーンズ・テスト)」という仕組みのもと、資産と収入だけを基準に「困っている度」を判定してきたのです。万全ではありませんが、モノサシとして使い物になるのは、事実上、それしかありませんから。

人を包摂する社会、インクルーシブな社会を作りたいと望むなら、適した方法や工夫が必要です。
サンノゼ市でかれこれ50年の歴史を誇る Sacred Heart だけではなく、米国の多くの地域のさまざまな団体に、その地域・その社会に適した方法があり、工夫がなされています。
トランプ政権下でどのように変化していくかを含め、日本の参考になる方法や考え方が、たくさんあるでしょう。

本プロジェクトをより充実させるには、皆様のご寄付の力が必要です。
100万円あれば、規模を少し縮小してでも、2年間にわたる調査が出来るだろうと思います。
まずは100万円を目指して、残り22日、発信を続けたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。