2020/02/26 17:18

飯舘村の北に位置する宮城県丸森町ひっぽ(筆甫)。
福島との県境にあり、2019年の台風19号による豪雨被害のあった集落である。
ここに手間と愛情をかけてこだわりの味噌づくりをする「みそ工房SOYA」(通称「ひっぽの味噌」)がある。
取材の途中で立ち寄り、太田一家には、泊めていただいたことが何度もある。

ある朝、みそ工房前に仕掛けた檻の罠に、イノシシが掛かっていた。鉄柵を倒す勢いで暴れるイノシシを前に、太田家の子どもたちも立ちすくんでいる。

原発事故後、人間が避難した地域には野生動物が増え、イノシシや猿の楽園になった。
避難区域で増殖した野生動物は、やがて阿武隈山系に広がり、周辺地域でもイノシシや猿が急増した。
土を掘り起こし、木の実やミミズなどを食べるイノシシは、体内から1000ベクレルを超えるセシウムが検出されることも多く、中には数万ベクレルと驚くほど高い数値が出ることもある。汚染された地域を移動するうちに、高濃度のセシウムを体内に蓄積しているのだろう。

福島第一原発に近い浪江町で捕獲し耳標を付けて放したイノシシが、60km以上離れた宮城県に隣接する梁川町で発見されたというから、行動範囲は広い。またイノシシとブタの交配種であるイノブタも増えている。イノブタは体も大きく、繁殖力はイノシシの5倍と言われている。

事故前であれば、地元の人たちは喜んで猪肉を分け合っていたが、被曝して生まれ育った野生のイノシシを食べるのは危険だ。
この日捕まった3歳の雄イノシシは、その場で撃たれて、穴に埋められた。

人間の都合ばかりでかわいそうだが、放射能汚染物質として処理されたのだ。

野田雅也(共同監督)