2020/07/20 10:00

7月12日の活動報告「見えない労働力を正式な労働として認めよう」で掲載しましたバングラデシュの英字新聞デイリースター紙の社説、続編をお伝えします。どうぞ合わせてお読みください(前編はこちら)。
バングラデシュの家事使用人の少女たちがこのコロナ禍で置かれている状況への理解が深められます。
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 住み込みでない家事使用人が抱えるリスクは失業だ。正式な統計はないが、「パートタイム」の家事使用人は簡単にやめさせられるという報告を数多く目にする。運転手や警備員も、住み込みでないという点では同じであるが、家事使用人の方が解雇されやすいのは、コロナ禍においてジェンダー間の格差が顕在化した例と言えよう。人権擁護団体Sunitiがダッカ市内4か所で実施した調査で、失業した後何らかの支援を受けたと答えたのは回答者のわずか35%であった。85%はこの経済食料危機下で、失業したため家庭内暴力を受けたと答えた。 


 「政府指定休日」(注:バングラデシュ政府はコロナ感染拡大を抑えるため3月末から5月末までを「政府指定休日」と定め、人の移動や経済活動を厳しく制限した)は、「パートタイム」の家事使用人には適用されなかったため、家事使用人本人、その家族、雇い主を感染の危機にさらしながら通勤を続けた。自分で決めることのできない一方的な関係ということだ。十分な貯金をもたず月々の給与がなければ生活が成り立たない生活をしている。2019年のILO調査では、家事使用人の3分の1は借金を負っているという結果が出た。給与支払いを受けつつ、自宅待機したいと言いだせる家事使用人はまずいないだろう。それでいながら雇用主が感染したら、真っ先に疑われるのは家事使用人なのだ。 


 このような状況で、家事使用人が主体性を発揮し、権利を求めて交渉できるようになるために何ができるであろう。Charity begins at home(慈愛は家庭から始まる)と言われるが、雇い主の多くは「働いている間は、少なくとも児童婚から守られるのだから」「工場で働くよりは安全だから」と、うわべだけの慈愛の言葉を発する。冒頭に述べたアスマが必要としているのは、慈善ではなく法的・社会的保護であり、私たちの社会・経済における重要な労働力であるという公的な承認なのである。 


 これらを念頭に、政府は2015年に家事使用人の保護福祉政策を決定した。この政策は、家事使用人を職業として認め労働条件や福祉に関するガイドラインを示す一方、最低賃金には触れていない。重労働に従事しないという条件で12歳以上の雇用を認めた。児童労働は複雑な問題で、一晩で解消できるものではない。しかし、中進国入りしようというバングラデシュで、モニタリングが難しく暴力の犠牲になりやすい児童労働労働を許しておくことはできない。 


 「政策」が進むべき方向性を示しているにも関わらず、家事使用人は必要とする保護を受けられていない。労働法(2013年)は家事使用人を排除しているため、法的権利を持てず組合を結成することもできない。結成の権利が認められないため、家事使用人は権利を求める声が挙げられないという悪循環が続く。 


 コロナをきっかけに新しい社会の在り方について議論がされている。ポスト・コロナの時代に、この悪循環を断ち切ることはできないだろうか。アメリカでは、家事使用人の労働者団体がコロナ支援基金を立ち上げた。私たちは、家事使用人が人間らしい仕事と尊厳のある人生を要求できるように、慈善によって家事使用人を助けるのではなく、アメリカのような組織を作ることを全力で支援しなければいけない。 


シュプロバ・タスニーム(Shuprova Tasneem)デイリースター紙編集委員
訳 藤﨑文子(元シャプラニール事務局次長)