2023/01/15 22:09
図書館に歴史資料 

 江北図書館には、明治時代以来の図書のみでなく、古文書や古絵図などの歴史資料も多く所蔵している。図書館は図書を所蔵する施設、歴史資料は博物館や公文書館が収蔵するというのが、世間の常識。しかし、全国的にみても歴史が古い図書館は、古文書や古絵図などの歴史資料を沢山収蔵している所もある。

 例えば、大正5年(1916)創立の彦根市立図書館。藩政時代以来の史料を持つと、ホームページにうたっているが、実はさらに古い石田三成の書状を収蔵している。失礼な言い方だが、もちろん三成のサインがある本物だ。私が長浜城歴史博物館の学芸員員時代、お借りして展示したこともある。


 江北図書館は明治40年(1907)創立。彦根よりも9年ほど兄貴分だけあって、その歴史資料はバラエティーに富んでいる。明治から大正まであった伊香郡役所の文書。伊香郡における明治・大正・昭和の相互扶助組織「伊香相救社」の史料。北国街道に彦根藩が設けた柳ヶ瀬の関所の関係資料。戦後昭和27年(1952)に、本館が編集・出版した『近江伊香郡志』の収集資料などである。


江北図書館の国絵図

 そのなかで、近江国絵図は興味深いものだ。昭和59年(1984)に、木之本町飯浦の個人から江北図書館へ寄贈された絵図である。藤田宗七さんの著書『復興と探索と慰霊』(昭和38年9月10日刊)によれば、浅井郡の寺院が旧蔵者だったとある。その寺院は幕府の代官なども勤めていた模様で、その公務を果たすために使用したものと推定できる。その大きさは、縦270.0㎝×横179.2㎝で、天井が高い本館2階のホールにやっと掛けられる大きな絵図なのだ。

 江戸幕府は全国60余州(近江国と越前国とかの旧国)に対して、慶長・正保・元禄・天保と4回にわたって、それぞれの国の全図製作を命じるが、これを「国絵図」といった。本館蔵の国絵図は、この内の元禄近江国絵図の写しだ。元禄9年(1696)に、江戸幕府が全国へ製作を命じたもので、彦根藩等で作成した幕府提出図の写を、さらに縦横半分の長さにして浅したものになる。したがって、幕府に提出したものは、縦(南北方向)約540㎝×横(東西方向)約340㎝とさらに巨大なものだった。


絵図に描かれていること

 絵図には郡界、琵琶湖、島、水路距離、主な河川、村(俵型の表記)、山名、名所、城郭、街道、一里塚が書かれている。さらに、国境の峠部分には、隣国への距離などが記される。また、近世村の中に含まれた枝郷(例えば伊香郡黒田村の枝郷・穴師)を詳細に記していることが特徴でで、枝郷については幕府提出図にもない記載が多い。本図を所持した代官が独自の調査により記入したと思われる。


 本館蔵のこの絵図には、余呉湖の北に「本山 天神」とある。ここには、木之本地蔵や菅山寺などの大寺社は記載があるが、この「天神」は覚えがなく、最初どんなお堂か分からなった。後で地元の方に聞くと、現在も余呉町中之郷に跡地が残る「西天神宮」のことと分かった。

 この「西天神宮」は菅原道真を祀り、余呉町中之郷の一番西の端、同町八戸との境界に近くに鎮座したが、平成30年9月に中之郷の鉛錬比古神社に合祀された。跡地には祠の基壇のみが残る。伊香郡には寺社が多いなか、特に国絵図にその名を記すということは、江戸時代には参拝者が多かったからだろう。かつては、集落から「天神道」が伸びていたという。


地域の歴史資料を守り続けるために

 このように、この国絵図には、江戸時代の近江国へタイムスリップするランドマークが沢山詰まっている。他の史料も同様である。郷土史研究には欠かせない本館所蔵の歴史資料群。それらを末永く守るためにも、今回の建物修繕は、何としても成し遂げる必要がある。多くの方の善意を期待してやまない。


公益財団法人 江北図書館 副理事長
淡海歴史文化研究所 所長 
太田浩司