2020/07/15 22:51

 Living in Peace 難民プロジェクトは、6/20の「世界難民の日」に合わせて、「世界難民の日に、日本に逃れてきた家族の困難を考える」と題したイベントを開催いたしました。当初想定していた人数よりも大幅に多い、総勢約50名もの方にご参加頂き、大変うれしく思っております。本当にありがとうございました。

 今回の記事では、イベントでお話した内容を掲載しております。当日参加された方で聞き逃してしまった情報などがありましたら、改めてご確認いただけますと幸いです。

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 本イベントの目的は、世界難民の日に際して難民の方々の抱える問題、そして私たちに何ができるのかを考えるきっかけにするべく、開催いたしました。

 第1部では、Living in Peace 難民プロジェクトの代表理事である龔軼群(きょう いぐん)より、世界と日本の難民の現状について話をしました。


 【第1部】


 UNHCRのグローバルトレンドが更新され、2019年は約8000万人もの方々が避難を余儀なくされております。昨年と比較しても、約1000万人増加しており、世界の人口のおよそ1%に当たる方々が危機に直面しています。



  ご存知の方も多いかと思いますが、世界でもっとも難民を排出してしまっているのはシリアで約660万人以上、次にベネズエラ難民で約360万人となっておりますベネズエラは原油埋蔵量も豊かである原油大国としても知られておりますが、近年では財政危機の影響により、多くの難民が発生しております。難民排出国の3位は、アフガニスタンであり、今もタリバンの勢力が広がっております。2000年初めから、アフガニスタンは国際社会から大規模な社会的、経済的、軍事的な支援を受け続けておりますが、今もなお治安は悪化の一途を辿っております。様々なテロリスト(タリバン、IS等)が活動しており、異なる宗派、民族の方々への迫害は続き、2010年頃にはアフガニスタンはシリアに次ぎ2番目に難民を輩出しておりました。アフガニスタン人の方々も今後も政権不安は続くと否定的に考える方が多い状況です。

 その他にも、世界で一番新しい国でもありながら紛争が続く南スーダンやロヒンギャ難民を多く輩出するミャンマーでも今もなお難民は多く輩出されております。



 ドイツのメルケル首相のイメージも強い方も多いかと思われますが、難民排出国の隣国が最も多く難民を受け入れております。トルコでは多くの難民を受け入れておりますが、政府が運営する難民キャンプの定員ははるかに越えている状況です。2位のコロンビアでは、ベネズエラの情勢悪化によって増加する難民を多く受け入れております。このように世界では難民は年々増加しているものの、その受け入れ国は限定的です。

 では、そもそも難民とはどういった方々を呼ぶのでしょうか。



 難民の定義は多義的であり、政治的な迫害のみではなく武力紛争や人権侵害も含めて、広義に難民と定義するものある一方、法的には非常に狭義な意味として解されております。1981年に日本も難民条約に加入しており、その入管法では非常に狭義な意味で定義をしており、迫害を受けたことを証明できる方のみを難民として受け入れているのが実情です。



  ご存知の方も多いでしょうが、日本の難民申請者数は2017年まで増加しておりますが、2018年にその数は半減しております。その背景には、政府が2019年4月から人手不足への対策として建設や農業、介護など5業種を対象に「特定技能ビザ」という新たな在留資格を創設し、これまで就労を目的として難民申請を行っていた人たちが特定技能ビザの取得に流れた為、減少したのではないかと考えられます。

 しかし、依然として難民認定率は低い水準が続いており、2019年は10,375名の申請者数に対し、認定者は44名でした。



 では、実際にどのような方が申請されているのでしょう。

 具体的には南アジアの方の申請が多いのですが、実際に認定を受けているのはアフガニスタンの方が一番多く、他にシリアやアフリカ諸国などで、申請者と認定者で国籍にギャップが生じてしまっているのが今の日本の現状となります。



 難民の方々の多くは観光ビザで来日されます。日本国内での認定者、人道配慮者の数は非常に少なく、殆どの方が難民性を認められず却下となっているそのような状況です。却下となった後、申請者は異議申し立てをすることができ、その間は就労許可のある特定活動ビザ(6ヶ月更新)を取得して申請結果を待つ状態になります。1回目の申請結果が降りるまでは約3年程度かかり、再申請は可能ではありますが、特定活動ビザが継続して出ないことが多いのが現状です。

 来日した難民の内訳については下記の通り、大きく4つに分けることができます。

 ■難民申請者  :来日直後で難民申請中の方、認定却下で再申請中の方

 ■条約難民+α :認定者、人道配慮となった方

 ■政府受入施策 :インドシナ難民、第三国定住者、シリア留学生の方

 ■仮放免/収容者:仮放免、収容者、不法滞在(隠れている方)



 日本政府による難民問題への取り組みについては、年間約6億5000万円の予算を難民事業に取り組む民間団体へ事業委託費として資金提供しています。主な委託先としては、アジア福祉教育財団難民事業本部(RHQ)がその機能を担っており、難民申請者への保護費の提供や宿泊施設の提供、認定者等への定住支援を行なっています。しかし、課題としては、保護費や宿泊施設の利用が非常に少なく、多くの難民申請者は支援が届いていない状況です。



  上記が支援の全体図となります。日本では難民支援を行う民間団体が20団体ほど存在しております。難民申請者数が増加しているなかで、政府や行政の支援が行き届かないところでのサポートを行っております。



 

 法的支援、生活支援などの緊急支援を行う団体は、難民支援協会やCTIC、RAFIQなど十数団体ありますが、定住後の学習支援やコミュニティ支援を担う団体はまだ数団体しかない状況です。他の社会課題を取り扱う非営利団体と比較すると、日本国内で難民支援を行う団体は非常に限られており、より支援の手を増やしていく必要があると言えます。



 私たちLiving in Peaceでは、「難民の方々が日本で自立して暮らせる社会をつくること」を目指して、ひとりひとりが自立し、自ら選んだ仕事・キャリア形成を行うための就労支援や就労に向けたスキルアップの支援を行っております。

 昨年より就労や社会統合に必要なスキルを向上させることを目的とした事業「LIP-Learning」をスタートしました。まずはオンラインでの日本語学習支援からフィジビリティを開始、この2020年8月より本格化をさせ、難民申請者からシリア留学生の家族まで幅広く支援していく予定です。


 【第2部】

 第2部では、これまで関わってきた難民の方々について私たちが感じた課題をご紹介し、また子ども支援の文脈から難民支援のあり方についても議論を深めました。今回は、西成区での子ども支援の事例を紹介いたしました。子ども支援と難民支援で少し異なる様にも思われるかもしれませんが、状況は非常に類似する部分もあり、多くの示唆を与えてくれるものと感じております。



 難民の方々が日本で直面する困難は多様で、来日した難民1世と日本で生まれ育った難民2世、3世とではぶつかる壁が異なります。

 難民1世は母国から身一つで逃れてくるため一時的な財産しかなく、来日まもない頃は日本語が話せないという言語の制約があります。それによって、生活面では病院で意思疎通が図れなかったり、市役所などでの手続きが難しいといった問題に直面し、地域の人たちともつながりがなく、孤立してしまうことが非常に多いです。また、日本語能力が低いことで安定した収入が得られる職につくことが難しく、経済的にも困窮しやすい状況に陥りやすいです。

 また、来日直後だけなく、長く日本で暮らしていくなかでも様々な困難と向き合わなければなりません。

 子どもたち(難民2世、3世)の問題です。難民の子どもたちの多くは、家庭内では親と母国や簡単な日本語を話しており、学校では友達や先生と日本語で話すという環境で育ちます。子どもの言語習得は親よりも早く、普通の日常会話はほぼ問題がないのですが、親との日常のコミュニケーションのなかで、母語もしくは日本語で物事を順序立てて話をしたり、内容を整理して話す経験が少ないために、論理的な思考能力が身に付かず、国語の試験になると日本国籍の子どもよりも点数が低いことも多いです。

 また、親子の関係性でも問題が発生します。親が日本語をうまく話せない場合に、子どもが親の代わりに生活で必要な手続きをしたり、病院の付き添いなど言語面でのサポートをするケースも多くあります。言語面で子どもに依存している親の存在は、時として子どもにとって大きな負荷となり、子離れできない親のために、将来を自由にを描くことができない子どもたちもいます。そして、自我を形成する思春期のころには、「母国でも日本でもない自分自身の居場所はどこにあるんだろう、自分はいったい何者なのか?」というアイデンティティの問題にも直面します。親とも周りの友達とも異なるアイデンティティを持っていることを誰にも相談できず、精神的に孤立してしまう状況は移民・難民ルーツの子どもの多くが経験します。そのような精神状態のまま、進学や就職活動と進んでいくため、途中でドロップアウトしてしまうケースが少なくありません。日本は、進学や就職活動がその先の人生に大きく影響してくる社会であるため、この時期における周囲のサポートが非常に重要となります。



 こういった問題を解決するために、私たちができることは何があるのでしょうか。

 本日はLiving in Peaceこどもプロジェクト代表理事の中里晋三より、子ども支援の文脈から事例をお話しし、その問題に対する支援のあり方を考えていきました。



 子ども支援に携わるなかで、難民の問題と子どもの問題とは共通する部分も多く、子ども支援の実践で参考になる事例も少なくないと感じています。そこで、今回は大阪市西成区での地域支援の取り組みをお伝えしたいと思います。子どもの問題がニュースになることは多いですが、全体像を理解するのはなかなか難しいものです。「地域支援」とは家庭分離の手前で、地域で家族と生活している子どもたちを支える取り組みです。

 子どもの問題といえば、たとえば「子どもの貧困」が良く挙がります。しかし、当たり前ですが子どもがひとりで貧困になるわけではありません。子どもだけではなく、その親も含んだ世帯の問題であり、子どもが抱える困難は親や家族の困難という認識が重要です。生活困窮以外の問題でもこの点は変わりません。

 西成区では、既存の支援への当てはめではなく、課題やニーズ、当事者の思いから出発し、家族を丸ごと支える子ども支援を、地域のネットワークを駆使して行っています。



 大阪市西成区は全国にも生活保護受給率が高い地域です。

 とりわけあいりん地区(通称「釜ヶ崎」)は日雇い労働者の寄せ場という背景から、失業、ホームレス、高齢化などの課題感が顕著な地域ですが、その他の地区でも、様々な背景から多様な困難を抱え生活されている方は多くいらっしゃいます。

 子どもや子育て世帯についてもそうした事情が、たとえば母子世帯率、教育扶助(生活保護世帯)率、虐待相談対応(のべ)率などから見えてきます。

 また西成区は外国籍の子どもの比率も高く、なかには難民のケースもあると聞いたことがあり、移民・難民の問題とともにある地域でもあります。



 子どもが抱える低い自尊感情、愛着障害、学業不振、不規則な生活等の課題は、その背後にある親の課題に目を向けられなければ対処療法を超えられません。親から子への関わりが問題であっても、そこには親の経済的困窮、社会的な孤立、暴力被害、外国ルーツの家庭であれば言葉の壁などの要因が考えられ、そうした絡み合った要因を解きほぐしていく力が支援には不可欠です。

 子どもの問題の個別性と、その背後の親や家族の問題の個別性に目をやるなら、支援においてアプローチすべき課題は徹底して個別的だということがお分かりになるでしょう。最大公約数的な支援を用意して一律に当てはめようとすれば、支援をもっとも必要とする世帯が支援から零れ落ちるということになってしまいます。

 西成区ではこの問題の個別性に支援者が徹底して向き合うなかで、既存の枠組みを超える支援が生まれていきます。子どもを中心に子どもに関わる人々や組織がぐるっと手を結び、個別的な問題も地域全体で抱え、その家族を支えていく体制を作り上げています。

 難民支援はさまざまありますが、日々の暮らしが地域に根差したものである以上、難民の方の生活を地域で支えるという視点は大きな意味を持つと考えています。そしてその場合、西成区における子ども支援の取り組み事例は示唆に富むのではないでしょうか。

 またそのような視点の移行は、「支援者」でなくても難民の方々と同じ地域に生きる私たちには何ができるか、という内省へと繋がっていきます。現在の難民支援は決して十分ではありません。地域市民ひとり一人として、難民の方々が抱えるストーリーの個別性に目を開きつつ関わるなら、むしろ私たちが得ることの方が多いでしょう西成区における取り組みをひとつの参考に、地域で難民の方々を支えるために私たち一人一人に何ができるのか、みなさんと考えてきたいと感じています。


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 参加された皆様から多くのご質問をいただき、私たちも難民制度について改めて考えさせられることも多く、非常に学びの多い時間となりました。

 子ども支援と難民支援を行うLiving in Peaceであるからこそ、その支援のあり方はそれぞれの取り組みから知恵を出し合い、検討していくことができると考えております。今後もLiving in Peaceだからこそできる支援のあり方を考え、実行していきたいと考えております。

 このイベントを通じて、少しでも多くの方にとって、一人一人にできることを考えるきっかけとなることを願っております。

 またこのような機会があるときには、ぜひ皆さんと意見交換を行えれば光栄です。