2020/07/24 09:14

日本に暮らす難民の方々には「健康で文化的な最低限度の生活」を送る権利が保障されていない――。

そう語るのは、貧困問題を解決するため、長年のあいだ現場でさまざまな支援活動をおこなってきた「認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい」理事長の大西連さんです。

COVID-19の流行もあいまり、加速が懸念されている日本の貧困問題。そのさなかで見過ごされがちな、難民の方々が抱える困難について、認定NPO法人Living in Peace共同代表 龔軼群(きょう いぐん)が話を聞きました。

執筆:大沼楽

■「言語の壁」と「つながりの貧困」

龔:現在、わたしたちLiving in Peaceは、国内に暮らす難民の方々を対象に、日本語学習提供をはじめとした就労支援事業(LIP-Learning)をおこなっています。これは、日本にいる難民の方々の少なくない数が、日本語ができないために就労もままならず、生活に困窮しているという課題があるからです。

一方、大西さんはこれまで「もやい」の理事長として、生活に困窮した方々を対象に、住宅支援や食料品配布などの活動を、現場から長年おこなってこられました。そこで今回は、難民を含む外国籍の方々の貧困問題についておうかがいしたいと思います。

直近では、COVID-19の流行にともなう支援金を募るクラウドファンディングが大きく話題となっていましたね。現在のご状況はいかがですか?

もやいが2020年3月から4月にかけて実施したクラウドファンディング

大西:引き続き、厳しい状況が続いています。もともとは週1回の開催だった相談会を、現在は週2回のペースに増やして実施している状況です。

また、1回あたりの相談人数も増えています。たとえば昨年の今頃に実施した新宿都庁下での食料品の配布と生活相談会では、相談にくる方は70人程度でした。しかし、今日実施した相談会には156人が参加しています。倍以上です。

龔:なるほど。人数だけみても事態の深刻さがうかがえますね。参加者層に変化はありますか?

大西:特に年齢層は大きく変わりましたね。若い人が増えたように感じます。なかには10代後半の人などもいました。以前は高齢の方が多かったですが、いまは10代から40代まで多年代にわたっている。

大西連さん 取材はリモートで実施された

また、新宿で開催しているという場所柄もありますが、職種でいえば水商売業界に勤めている方も増えたように感じています。休業要請の影響で寮にいれなくなったなどの理由で、生活困窮に陥る人が増えているようです。

リーマンショックの時は製造業の方がメイン層でした。しかし今回は飲食、旅行、製造業など、多業種にわたって支援が必要な方が増えているのが特徴ですね。

龔:そうした中には、外国籍の方もいらっしゃるのでしょうか?

大西:食料品配布参加者の中には、外国籍の方も多いとは言えませんがいますね。中国系や東南アジア系の方が多い印象です。

とはいえ、参加してくださっている方々も、生活に困窮している外国籍の方全体から見れば、まだごく一部だと思います。外国籍の方のなかには日本語に不自由している人も多い。そもそも支援にたどりつくことができていない人も少なくないのではないでしょうか。

たとえば私たちの場合には、エキタスさんが「やさしい日本語」や英語などで広報に協力してくださっているため、まだ人が集まっています。しかし、そこにもたどりつけず、言語の壁がそのまま「つながりの貧困」におちいっている人、適切な支援がないままに孤立・困窮している人は少なくないはずです。

龔:そうした外国籍の方々のなかに、難民として国外から日本に逃れてきた方はいらっしゃいますか?

大西:私たちの活動ということではなく、一般的なフードバンクなどの食料品配布の活動だと、それなりの数がいらっしゃると思います。なぜなら、難民として日本に逃れてきた方の大半は、就労がままならないだけでなく、生活保護を利用することもできない、支援が圧倒的に足りていないからです。

■難民の多くが生活保護を利用できない理由

龔:いまご指摘のあった、難民の多くは生活保護を利用することができないという点は、非常に大きな問題だと私も考えています。そもそも日本は難民に限らず、外国籍の方の生活保護利用に対して、非常に強硬な姿勢を取っていますよね。

大西:そうですね。日本の生活保護は、外国籍の方の利用について、非常に厳しい条件を設けています。外国籍の方が生活保護を利用するためには、おもに次の4点のいずれかに該当する必要があります。

・特別永住者である(在日韓国・朝鮮・台湾)
・永住者、定住者、日本人もしくは永住者の配偶者等である
・中国残留孤児である
・入管法上の認定難民である

基本的に上記を満たしている場合のみ利用ができる(といっても生活保護法による保護ではなく、行政上の措置として生活保護法を準用する、という形をとっています)。条件は非常に厳しいといえます。

龔:「入管法上の認定難民である」という条件について、もう少し詳しく教えてください。難民認定を申請中の方は、生活保護を利用できないということでしょうか?

大西:現状は無理ですね。あくまで入管法の「認定難民」として、認定がすでに降りていることが条件になります。

龔:なるほど、それは問題ですね。現状、日本に逃れてくる難民の方の多くは、まず観光ビザで入国し、観光ビザが切れるまでの間に難民申請をするというフローを踏みます。しかし、日本は他国と比較して難民認定のハードルが非常に高く、大半の方は難民認定を受けることができていません

出所:法務省「令和元年における難民認定者数等について」を基に作成認定が降りない多くの方々は、先にも述べた通り、言語の壁などを理由に生活困窮に陥りやすい。ただでさえ厳しい環境に置かれているのに、くわえて生活保護を利用することができない。

結果、彼らへの支援は民間に丸投げとなります。実際に、なんみんフォーラム等の非営利団体が運営するシェルターはいずれも満杯。結果として、溢れた難民申請者の方は路上に出るしかありません。

大西:パキスタン人の路上生活者を、みかねた通行人の方が我々のところまで連れてきてくれたことがありました。他にも、アフリカから来た方がいらしたこともあります。しかし、難民申請者の方に対する住宅支援はうまくいかないことが多い。生活保護が利用できていないため家賃を払うあてがないうえ、日本語の話せない方を大家が嫌がる傾向があるからです。

龔:そうした申請が降りない方向けに、(公財)アジア福祉教育財団難民事業本部(通称、RHQ)が保護費と緊急宿泊施設の提供を行うことになっていますが、実際にはこの制度は、ほぼ利用されていません。古いデータですが、2015年度の緊急宿泊施設利用の実績は0件でした。支援はないも同然です。

大西:国の方針はドライすぎるように感じています。日本に暮らす難民申請者の方には「健康で文化的な最低限度の生活」を送る権利が保障されていないんです。

■外国人の権利は、いつになれば認められるのか

龔:おっしゃる通り現在、日本に暮らす難民申請者の方々は、権利がないに等しい状況に置かれています。諸外国の場合、海外から逃れてきた方々を保護する法的な整備がなされています。

しかし日本では度々問題になる通り、出入国在留管理局(通称、入管)が難民を含む外国籍の方々を「管理」するという、多文化共生の視点が抜け落ちた制度が根強く生き残っている。この状況を変えるためには、政治・政策を変えるしかありません。

龔軼群(きょう いぐん)

しかし日本に逃れてきた方々には、当然のごとく選挙権が与えられていませんし、公務員になることもできない。政治を変えていくということへのハードルが、あまりにも高いですよね。

大西:難民の方々を、対等な住民として認めていないですよね。なんで日本はこんなに排外的なんだろうと思います。今の日本には、海外ルーツの方がこれだけ増えているというのに! この状況は絶対に変えていかなければなりません。

大西さんの活動について詳しく知りたい方には、『絶望しないための貧困学』(ポプラ新書)がオススメです

そもそも矛盾していますよね。経済界は外国人労働者を迎え入れたがっているのに、一方で権利は保障しない。与える仕事も単純労働ばかり。ズルいやりかたをしているなと思います。

中には、技能実習生にひどい労働をさせている会社もある。私たちは食糧支援をキッカケに、そういった目にあっている方々のお話を聞くこともあるので、とても悲しみをおぼえています。

龔:まず、社会の意識が変わる必要があるのかもしれませんね。社会がこうした状況に気づき、意識が変われば、政治も変わっていくものなので。

2019年4月から、特定技能による在留資格が認められるようになりました。これにより、外国籍の方と職場を共にする人が徐々に増えていくことが見込まれます。時間はかかるかもしれませんが、身近に外国人が増え、一緒に過ごす時間が増えれば、彼らのために声を上げようとする人が増えるかもしれません。私たちLiving in Peaceが、その後押しをできればと考えています。

大西:ぜひお願いしたいです! おっしゃる通り時間がかかるとは思いますが、我々で少しずつ変えていきたいですね。

また、これこそ時間がかかりますが、時が経てば「両親は海外育ちだけれど、自分は生まれも育ちも日本」みたいな人が増えていくはず。実際に、都心部の公立小学校などでは多様なルーツを持つ子どもが増えています。彼らの世代が、こうした社会の雰囲気を打破してくれることを期待したいですね。

龔:そうですね。冒頭にも述べましたが、現在私たちLiving in Peaceは、国内にいる難民2世や1.5世などの日本語学習支援、就職支援をおこなっています。先日も1名、希望する業界に就職した子をお祝いしたばかりです。

LIP-Learning 2019募集要項

彼らが国内に暮らす難民の方々の希望やロールモデルになってくれれば、それによって社会の意識も変わってくれればと、強く願っています。

大西:とても大事なことですね。身近に外国籍の方が増えれば、それが「差別」の存在に気づくキッカケにもなるし、理解が進むキッカケにもなる。今以上に職場に外国人がいることが当たり前になっていけば、「(外国人は)なんとなく不安で怖い」という人は減るはずです。

顔が見えれば、記号としての「外国人」や「難民」ではなく、「ひとりの人間」としてかかわることができるようになる。そうして社会が変わっていくことが、彼らの「権利」にも繋がっていくのだろうと思います。

Living in Peaceさんは専業従業員を持たずに、全員が本業を持ちながらプロボノとして活動している、めずらしいNPOです。それゆえに大変なことも多いとは思いますが、だからこそ、社会と難民の方々を繋ぐ役割を果たせることもあるはずだと思っています。応援しています!

龔:ありがとうございます! ぜひ引き続き、いろいろとご一緒させていただけると嬉しいです。今日はありがとうございました!

ーお知らせー

認定NPOの法人Living in Peace難民プロジェクトは、日本に住む難民の方々へ日本語学習の機会を提供するためのクラウドファンディングに挑戦中です!

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