2020/10/17 02:02

ついに、きのうスタートを切った、〈栞日〉が営む銭湯〈菊の湯〉。オープンの14時を迎える直前まで、これまでこの銭湯を慕って通っていらしたみなさんが、変わらずまた姿を現してくださるのか、不安がよぎることも、正直、ありました。けれど、それは杞憂でした。〈栞日〉がいまの位置(すなわち〈菊の湯〉の斜向かい)に移転してからこの4年間、毎日のように〈菊の湯〉とそこに通うみなさんを(そして、そこに湯屋が在って、常連さんが居て、はじめて生まれる風景を)道を挟んで向かい側から眺めてきましたから、もちろん常連さんの顔は覚えています。そんな(一方的にですが、僕にとっては)馴染みのみなさんのうちおふたりが、リニューアルオープン初日の「営業再開まであと15分!」といった頃に現れて、玄関の前に並んでくださったとき、どれほど嬉しかったことか。変わらずいらしていただけたばかりか、オープンが1時間早まったことまで、しっかり伝わっていたなんて。「よかったぁ」と胸を撫でおろしました。

オープンしたあとも、次々とこれまでの常連さんがやってきては、本当にありがたいことに、みなさんの方から、玄関前でお迎えしていた僕や、番台に座る湯屋チーフのひかるんに、「ありがとう」「よろしく」と、声をかけてくださいました。「ありがとうございます」も「よろしくお願いします」も、僕たちの方の台詞です。感謝があふれ、また、改めて、「しっかり応える仕事をしなくては」と、背筋が伸びる思いでした。

リノベーションが施された場所や、伴いレイアウトが変わった箇所については、やや驚きながらも大らかに受けとめてくださった様子で、その感想や「ここはもっとこうした方がいい」とか「あれもあったらもっといい」といった積極的なアドバイスも、たくさん寄せてくださいました。初日、そして2日目の営業を、平穏に終えたいま、ひかるんがスタッフ間の情報共有のために番台に用意してくれた「番台ノート」は、早くも、常連さんからの有難い助言や、それを受けてのひかるんの気付きのメモで、びっしりです。

経営サイドが変わっても、空間デザインが変わっても、そこにその「湯」がある限り、こうしてみなさん、再び集ってくださることを目の当たりにして、改めて、「銭湯」という場の引力の強さと、これからの時代におけるポテンシャルの高さを、感じずにはいられませんでした。やはり、銭湯にしか生み出すことができない街場の風景が、必ずあります。この時代における、その風景とは、一体どのようなものなのか。考えて、試みて、考えて、試みて。その繰り返しの中で、常にアップデートを続けていく。それが、僕たちの仕事です。

そして今回、〈栞日〉の事業に「銭湯」というコンテンツが加わったことで、最もその価値が高まった既存コンテンツは、間違いなくアパルトメント〈栞日INN〉だと考えています(より正確に云えば、「ポスト・コロナ」時代に移行して、旅の自由度が高まったときに、ではありますが)。

※ 上の絵は、イラストレーターでもある湯屋チーフ、ひかるんが描いてくれました!

毎回1組限定で、1週間から1ヶ月間の中長期滞在を優先的に受け入れる宿〈栞日INN〉は、4年前の〈栞日〉移転に伴い、旧店舗の活用方法を考える中で生まれた宿泊施設です。コンセプトは「暮らすように泊まる」。松本に移住することを検討している誰かにとって、その検討期間を現地で過ごすための基地(ベースキャンプ)のような宿を用意できたら、あるいは、普段はもっと大きな都市で仕事をしているクリエイターが、周囲の環境も気分も変えて仕事に打ち込むための「もうひとつの拠点」(アトリエ)を用意できたら。そんなアイデアから、構想を練りました。そして、そのような妄想をリアルな場として立ち上げるために、必要な改装資金を募るべく、実施したプロジェクトが、前回の(僕にとっては初めての)クラウドファンディングでした(そのときご支援くださったみなさん、改めて、その節は、ありがとうございました!)。

この〈栞日INN〉の建物は、4階建ての小さなペンシルビルで、各階1部屋のシンプルな造りです。1階には食堂〈Alps gohan〉が入っていて、2階から上が〈栞日INN〉。2階にはダイニングキッチンとユニットバスがあり、3階がアトリエ(という名の、大きなテーブル1台と椅子1脚だけのフリースペース)、4階がベッドルームです。

そして、この宿のフロント機能は、5軒東隣に移転した現〈栞日STORE〉の喫茶カウンターが担っています。チェックイン/チェックアウトはもちろんのこと、ご滞在中の街案内(コンシェルジュデスク)も喜んで。宿〈栞日INN〉を起点に考えると、書店兼喫茶〈栞日STORE〉は「ホテルのロビー/ティールーム/ライブラリー」という設定です。と、すれば、今回〈栞日STORE〉の目の前の銭湯〈菊の湯〉が事業に加わったことの、〈栞日INN〉としての意味は、云うに及ばず、「ホテルの大浴場」が追加された、ということ。すなわち、〈栞日INN〉〈栞日STORE〉〈菊の湯〉という3つの場で、ひとつの「宿」を形成している、あるいは、〈栞日INN〉が同じ通り沿いの〈栞日STORE〉と〈菊の湯〉まで「宿」の機能を拡張している、と捉えることができます。

〈栞日INN〉で目覚め、シャワーを浴びたら、〈栞日STORE〉でトーストとコーヒーの朝食をとりながら、その日のプランを考える。街場に繰り出し、散策して、その日1にちを愉しんだら、〈菊の湯〉に浸かって疲れを癒し、のんびり〈栞日INN〉に戻って横になる。そんな松本ステイはいかがでしょう(このような滞在プランを、今回のクラウドファンディングのリターンのひとつにも、「〈栞日〉満喫フルコース」と銘打って、用意しています。2022年末チェックインまで有効です。その頃には自由に旅でいる世の中に戻っていることを願って)。

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まず、愛するこの街に暮らすみなさんに向けて、そして、この街を好いて通ってくださるみなさんに向けて、銭湯〈菊の湯〉というかけがえのないピースが加わったことで、提案できるアイデアの幅も深みも増した〈栞日〉を、怠ることなく日々アップデートし続け、しっかりと前に進めて参ります。

菊地徹 / 栞日代表