2021/11/15 23:47

こんにちは!

紅葉が見ごろの地域も増えてきた頃かと思いますが、いかがお過ごしでしょうか?平井では柚子の収穫が最盛期を迎えています。この時期は車で集落内を通るだけでも柚子の香りが香ってきて、秋の澄んだ空気と共に非常に清々しい空気が漂っています。

森のちからⅫ

今日はまず宣伝があります。和歌山研究林内でNPO 和歌山芸術文化支援協会(wacss) 主催の芸術イベントが行われます!今回は現代美術家の大矢りか様がいらっしゃって、研究林内の木を使った作品作りを行います!大矢様はある場に元々存在する素材を使い、その環境の中で製作することを流儀としています。そうすることで、その場にあることの意味を探ることをテーマとしている作家さんです。その場にある意味を探ると言う点では、木々の分布の原因を調べている本研究に通じるところがあるかもしれません⁈

◎公開制作
2021年11月15日(月)〜22日(月)
場所:北海道大学和歌山研究林
時間:10時〜15時
(変更する場合もあります。)

◎学校訪問アート・ワークショップ
2021 年11月22日(月)
対象:古座川町内の児童生徒

◎アート・ツアー
2021 年11月20日(土)
対象:地域住民の子どもから一般成人まで
場所:北海道大学和歌山研究林の森の中、本館
参加費:100円

◎聞いてみたい・語ってみたい「語りば」&アートワークショップ
2021 年11月23日(祝・火)13時〜15時30分
対象:子どもから一般成人まで
場所:田並劇場
参加費:100円
ゲスト講師:大矢りか、南条嘉毅、ほか

【アートツアーお申し込み先】
NPO法人和歌山芸術文化協会(wacss)
073-454-5858

【現地お問い合わせ先】
0735-66-0557(林)

活動の様子などはFacebookのページからご覧いただけるようです。是非一度ご覧ください!


今日のトピック

さて、今日のトピックは以下の通りです!

・平井の柚子
・運材モノレール
・研究進捗
・COP26

平井の柚子

今年は研究林でも柚子の収穫をすることになったようです。折角なので作業の様子を見学させていただくことにしました。

このように剪定ばさみを用いてとにかく収穫していきます。柚子の木は鋭い棘が付いているので、柚子畑の中でうっかり頭を上げてしまうと頭がツンツン刺激されます。

去年お手伝いで初めてこの作業をやったときは、枝から切り離す際に柚子が地面へ落ちてしまうことが多かったのですが、地元の上手い方たちは全く落とす気配がありません。やはり何かコツがあるようです。

運材モノレール

今回収穫するのは下の写真の区画です。柚子畑は急斜面のところが多い中、ここは段々畑が綺麗に整備されていたので比較的作業しやすい場所だったみたいです。写真左下から蛇行しながら左上まで続いている線はモノレールの軌道で、収穫した柚子を運ぶのに活躍します。モノレールがなければ道路までの高低差を歩いて荷下ろししなければならず、労力軽減に多大な貢献をしている機械です。急傾斜地の運材と言えば、林業でも似たような話をきいたことがあるような…と思いますよね。

僕もそう思って林業用運材モノレールが無いのか調べてみたところ、岐阜県の森林総研が2006年に開発を進めようとしていた報告がありました。報告によると運材でモノレールを利用する利点として、次の2点があるそうです。一つは設置の簡単さです。モノレールは支柱となる杭を地面に打ち込みレールを乗っけるだけで完成します。この手軽さ故、急傾斜地においては林道を敷設するよりも簡単に高密度路網が付けられることが利点になります。もう一つは、地面から浮いているという特性が地面の撹乱を最小限に抑えることです。こうした利点がありながら、報告が2006年以降に見られないことを見ると、実現に向けての課題が大きかったことが予想されます。

和歌山研究林で活躍するモノレール

2006年の報告で運材モノレールの実用化に向けた障壁として挙げられていたのは、一度設置するとレールが簡単に動かせないことでした。この欠点により折角設置した軌道も、その林分で作業がなければ数年間使われない期間が発生し、投資した分のコストを回収するのに長い時間がかかって効率的ではありません。では、使いたい場所にレールを敷き直そうとなった際、設置は簡単でも撤去には時間がかかるそうなので、折角のコスト効率を活かしきれません。そうなると、架線集材の方が良いという話になってしまうようです。

上記の理由から普及しなかった林業用運材モノレールですが、使い方によってはまだ可能性が残っているのではないかな?と個人的に思います。和歌山研究林の実習で目玉となっているものの一つに林業用モノレールの試乗体験があります。やや不安になるようなひょろひょろの軌道で急傾斜地を登り、森林を駆け抜ける様子はなかなか迫力があり人気があるのも納得できます。そこで、林業で使うことの無い期間は、地域の観光資源として活用するという手もあるのではないでしょうか?

実際、徳島県の祖谷では全長4600㎞の観光用モノレールが大人気の観光スポットになっています。普段は観光資源として使い、森林施業の時は貨物用として活躍する。といった使い道があっても良いかもしれません。もちろん全ての地域の路線での応用は不可能ですが、こういった林業モノレールの可能性もあるのではないでしょうか?

エコツーリズム×林業

モノレールに限らず、環境意識が高まる昨今、林業の作業そのものが観光資源としての可能性を秘めたものとして注目されてもおかしくありません。例えば、林業で栄えてきた歴史ある街に観光した際に、森の植樹体験や自身で間伐した木材で木工体験を行うなどのプログラムです。

植林体験の様子

観光に環境教育や持続可能性の教育を取り入れたこうした取り組みは、エコツーリズムと呼ばれここ10年程で広がった観光様式です。このエコツーリズムと林業を合わせることは、林業の作業に木材生産以外の新たな経済的価値を生み出すことにつながります。その結果、効率や生産量だけを重視するような粗悪な森林管理を抑えることになり、労災等の改善にもつながるのではないでしょうか?

以前見学した吉野杉で出来たお宿。まさに地域の歴史や文化と林業、さらに観光を複合させたような宿泊施設でした!

研究進捗

9月から10月にかけて行っていた秋の毎木調査の結果がまとまってきたので、少しずつまた解説していきたいと思います。今日はまず広葉樹実生の枯死率からご紹介します。

今年の春の調査から秋の調査までに枯死した広葉樹の実生の割合を比較したところ、有意に天然林で実生の枯死率が高いことが分かりました。このことは母樹の周囲で天敵が集まることによって、母樹と同種の実生の更新が困難になるというJ-C仮説を支持する結果となります。しかしこれまでJ-C仮説をテーマにした先行研究が、個体レベルで検証してきたのに対し、僕の結果は天然林を母樹集団とし群集レベルで検証したものです。そのため、個体レベルの事象として唱えられた仮説が、より広い群集レベルで適応できる可能性を示しています。

この枯死率の差は、成長にも影響を及ぼします。天然林内では新しい個体が侵入してもすぐに枯死するというサイクルを繰り返していると考えられます。その結果、天然林内では常に小さい個体しかないのに対し、母樹集団から離れた人工林内では安定して成長できるため比較的大きい個体も多いことが予想されます。

こちらの図は、調査地内で出現した広葉樹を樹高区分ごとに区分けし、それぞれの個体数が全体に占める割合をグラフにしたものです。母樹をカウントしないよう、2m以上の個体は解析から除外しています。この結果を確認すると、先ほどの結果から予想されるように、母樹集団から離れた人工林ほど、樹高の高い広葉樹が占める割合が多いことが分かります。

ではこうした差を創出している”天敵”は何なのでしょうか?そこで温室で行った土壌実験の結果を見てみます。土壌処理実験では天然林と人工林の土壌を、殺菌した場合としなかった場合で、広葉樹実生の成長量がどのように変わるか観察していました。用いた樹種はアセビ、マンリョウ、ヤマグルマで、アセビは頻出樹種、マンリョウは希出樹種、ヤマグルマは群集内にいない種です。

殺菌処理の有無による葉の増加量の差を見てみると、調査地内で出現したマンリョウとアセビでは、殺菌処理により葉の増加量が有意に上昇していることが分かります。(この比較は人工林、天然林両方の結果を混合しています。)一方、ヤマグルマではそのような傾向が見られませんでした。このことは、群集に特異的な土壌菌類が実生の成長を阻害していることを示唆しています。そして、この特異的な土壌菌類の影響が母樹集団である天然林内で強い時、先に見たような樹高分布が形成されると考えられます。

しかし今回の実験では人工林と天然林の土壌で、実生の成長に差が見られませんでした。これは今回実験に用いた樹種が最も分布している地域が、天然林内ではなく、その林縁付近に最もよく出現するためだと考えられます。今後行うアカガシやカクレミノといった樹種は、天然林内で最もよく出現するため、距離依存的な葉の増加量の変化もみられると考えられます。来年にかけて行う実験の中でさらに検証していきたいと考えています。

間伐の効果などは未だ解析中なので分かり次第またご報告したいと思います。


COP26閉幕

さて10月31日から第26回気候変動枠組み条約締約国会議が英グラスゴーで行われ会期の延期を経て、つい先日閉幕しました。1995年ベルリンで始まった同会議は、1997年COP3で京都議定書をまとめましたが、先進国のみに排出削減が課せられ米国が離脱。その後2015年のCOP21に200ヵ国が合意したパリ協定が採択されました。パリ協定では工業化前からの気温上昇を2度未満にし、1.5度以下に収まるよう努力するという目標が設定され、各国がその目標の下で排出量削減へ向けた取り組みを行っています。

そんな締約国会議ですが、今回の会議で2030年までに森林破壊を止め、回復へ向かわせるという目標で130ヵ国以上が宣言を行いました。気候変動リスクの把握と、それに対する森林の価値認識が広がっている証拠とも言えます。

ただし課題も多く残っています。人口増加はまだしばらく続くため、農地拡大のための森林破壊も続くことが予想されているのです。さらに、国連によると食糧生産の過程で排出される温室効果ガスは、過去30年で17%増加しているといいます。全排出量に占める割合は31%で(2019年)、見逃せない排出源といえるでしょう。環境負荷の低い生産方法、小面積でも高収量が得られる農法の開発など農法面での技術開発が各国で重要になると考えられます。

食料は生死に直結する重要な問題であるため、環境問題との関連性においてやっかいな問題となります。しかし「持続可能」の真価が問われるのは、こうした局面のように思います。ただ自然環境に優しいだけが持続可能性なのではなく、どのように人の生活を両立していくか。そのバランスが求められているようです。人も自然も無理のない暮らしの実現へ向けて、最も難しい局面を迎えているのかもしれません。