2017/10/04 01:53
るんびにい美術館(岩手県花巻市)

文・板垣崇志(るんびにい美術館 / アートディレクター)

世の中で流行しているスタイルや、美術史にとらわれず、「いま・ここ」の自分自身の奥深くから湧き出してくる表現。周りのことも、自分のこともすっかり忘れて、ただ一点を深く深く見つめることから生まれた表現。

それはもしかしたら、美術でも、アートでもないかも知れない。でもそんなこと、どうでもいい。

その存在のあるがままが、まっすぐ現れたような。その命の鼓動がそのまま伝わってくるような。そんな表現を、たくさんの方にお伝えしたいと思っています。

型破りだったり、やり過ぎだったり。美しかったり、全てが謎だったり。
誰かのあるがままは、驚きや、時に戸惑いにあふれているかも知れません。
でも同時にそれは、あなたの「あるがまま」をも思い出させてくれる。
本当のあなたは、どんなあなたですか?

くっきり立ち現れた誰かの命の輪郭は、あなたの命の輪郭をも浮かび上がらせる。
誰かの命の音に気付くとき、あなたは自分自身の命の音を聞いている。
それはきっと、幸せな出逢いです。

そんな出逢いになるかもしれない、あらゆる表現を。表現としてあらわれた存在を。
縦横無尽にボーダーレスに、あなたへご紹介したい。
そんな、るんびにい美術館のボーダレス・ギャラリーです。

存在するとは、表現すること。
表現するとは、存在すること。
あらゆる存在は表現しています。

《るんびにい美術館》

http://kourinkai-swc.or.jp/museum-lumbi/index.html

【Necktie+bowtie+bookcover+ball pen】
八重樫道代

ブラシマーカーを用い、躍動に満ちた膨大な形と色彩がひしめく緻密な画面を生み出す。小さな頃から塗り絵が好きだったが、初めて「自分の絵」を描き始めたのは19歳の時。以来、堰を切ったように鮮烈な色彩と精緻な構成からなる作品を次々に生み出していった。その後体調を崩したのをきっかけに、現在は制作をおこなっていない。

 

佐々木早苗

絵のみならず織り物、切り紙、刺繍など、いずれも緻密で色彩と構成の妙に富む様々な表現をおこなって来た。そして現在彼女が打ち込んでいるのは、通販カタログを1ページずつ、ボールペンの不思議な書き込みでじわじわと埋め尽くしていくこと。

彼女は一つの仕事に数か月から数年集中して取り組んだあと、不意にやめて別の仕事に移るのが常。次はいつ、どんな制作が始まるのか。

 

八重樫季良

一見抽象的な幾何学パターンを描いたように見える絵だが、それが独自のアレンジによって描かれた建築物だと知ったら多くの人が驚くだろう。この表現様式を八重樫は子どもの頃、誰に習うことなく独創によって生み出し、以来半世紀余りにわたってこのただ一つのスタイルで創作し続けて来た。その作品数はおそらく数千点に及ぶと思われる。

その制作は、彼と色彩の間で永遠に交わされる睦まじい会話のようだ。

  

【Necktie+bowtie】
小林覚

好きな音楽家はビリー・ジョエル、クイーン、井上陽水、スピッツ、THE BOOM。そして散歩が大好き。小林は養護学校中等部の在学中に、日記も作文もすべての文字を独特の形にアレンジして書くようになった。初め学校の先生も何とか直せないかと苦心したが、やがてこれを魅力的な造形表現ととらえることに切り替える。これを転機に、彼の表現は多くの人に喜びを与えるアートとして羽ばたき始めた。

 

【umbrella】
工藤みどり

ある時はふわふわと、夢見るように周囲の誰かに笑顔で話しかけていたり。またある時は、一人自分の内側の世界に深く意識を沈めていたり。工藤のまなざしは、彼女の心だけに映る何かを追いかけてたゆたう。心を満たす幸福なイメージが浮かぶのか。それとも痛みや悲しみを心に映さないようにするためなのか。それとも。

工藤の制作は、瞑想から生み出されるような果てしなさがある。自分が今なにかを作り出しているという意識はあるのだろうか――。彼女が描く時、縫う時、あるいはよくわからない「なにか」をしている時。ふとそんな疑問を感じさせる、不思議な空気が彼女の制作には漂っている。

 

高橋南

クーピーペンシルやクレヨンを塗り重ねることで作り上げられた作品は、一見すると、素早い鉛筆の動きを要する激しい制作態度を連想させる。

しかし実は、彼女の制作は非常にゆっくりと穏やかである。彼女の描き出すひとつひとつの色は、お互いに交じり合うことなく、それぞれにその美しさを主張しながら画面の上に現れ、激しさと静けさが不思議に同居しており、心を惹きつけられずにはいられない。