2018/03/19 10:33

これまでの活動報告は、明るい記事が多いですが、現実はそう明るくもありません。美しくもありません。

高次脳機能障害は、様々な脳の疾患を、しかも「人生のなかばで」患ったために引き起こされる障害です。症状は多様ですが、そのなかでも、次のような特徴がある場合が多いです。

・相手の気持ちがわかりにくい
・感情のコントロールが難しい
・依存的になる
・意欲が低下する

すべての患者さんにこの特徴があるとは限りませんが、他の障害に比べ、高次脳機能障害には、このような「社会的行動障害」が特徴であるとされています。患者さんのことを以前から知っている人であれば、ある日を境に、別人のように、人が変わってしまったように感じるでしょう。たとえ軽度であっても、生活の中で「今までと何か違う」という場面はあり、軽度には、軽度であるがゆえの苦しさがあります。そして、家族はそんな現実を目の当たりにし「こんな人ではなかった」という思いを抱えながら、それからの生活を送ることになります。

 

人間関係の多くは会話によって成り立っています。気持ちがすれ違ったり、言い争いになるも会話によるものですが、それを修復するのも、さらにお互いの理解を深めるのも会話です。その会話のやり取りが難しくなるのが、高次脳機能障害の症状の一つです。

一番話を聞いてほしい人が目の前にいるのに、自分の気持ちを汲んでほしいのに、その人からは「発してほしい言葉」が出てこない。その辛さは、介護している家族にしかわからないもの。仕事で家族さんと接していて、何よりも大変だと感じるのは、当事者から「感謝」の言葉がないことです。当人も、家族に対し、けして感謝していないわけではないのですが、口に出していう必要性を感じていなかったり、人生の中途で障害者となった自分のことでいっぱいだったりするから言えないということもあるでしょう。家族にしてみれば「これだけ尽くしているのに」という気持ちがわいてくるのは当然です。また、そんな家族を、労い、支える公的制度はありません。今後も厳しいでしょう。

 

高次脳機能障害者で、病前過ごしていた普通の生活と、今のうまくいっていない状況を比べて、ストレスを溜める人はとても多いです。また病気が原因で、社会に出ることが少なくなると、毎日接する人は家族だけとなりがちで、感情のはけ口は、家族だけに向かいます。当事者は、わかっていても止められない、やめたいのにまたやってしまったなど、感情を爆発させたあとの後悔は深いものです。そして、病気がさせているとわかっていても、感情のはけ口となっている家族は辛いものです。長年、臨床に携わっているお二人の言葉を紹介します。

橋本圭司先生
「治ったから社会に戻るのではなく、社会に戻ったから治る」
渡邊修先生
「社会的行動障害は対人関係のおける行動だから、人と関わることでしか治らない」

つまり、障害を抱えながらでも、「社会に出ていく」ことがとても重要なのです。当然、最初はトラブルが生じるでしょうし、思うようにいかないことも多いでしょう。そして、それを見ている家族は、不安を募らせ、社会へ参加を諦めたり、躊躇したりすることもあるかと思います。そんな家族の思いに寄り添い、励ます人も必要となります。
当事者がなんらかの形で社会に参加する、家族を支援する、この二つは両輪なのです。そのためには、この障害についての社会の理解が必要なのです。

 

障害のせいで社会的行動が取れない、変な人と思われる、それを感じて社会に出るのをやめる、家に引きこもる、家族に当たる、家族が辛い目に遭う、家族と患者が世の中に背を向け引きこもる。この悪循環を断ち切り、好循環に変える為には、「社会の理解」が重要なカギを握ります。同じ疾患同士の集いの場や、医療福祉の現場は必要ですが、もっとダイナミックに社会に戻る為に、私たちひとりひとりの「理解」が要るのです。

 

高次脳機能障害は、誰にでもなる可能性がある障害です。予防注射もありません。小さい赤ちゃんからお年寄りまで、どんな人でもなる可能性がある障害です。そして、その後の人生をずっと障害と共に歩むのです。まずはこの障害のことを知ることが大切です。人間は、知っているというだけで、姿勢を変えられる生き物です。他者への理解があると、人は、助ける側へと力強く変われるのです。この力強さ、たくましさは、障害者とその家族にとってどれだけ心強いことでしょう。

そしてこの「知る」ということで始まる好循環は、高次脳機能障害に限らず、すべての障害者に通じて言えることだと思います。
私たちReジョブ大阪は、このクラウドファンディングやその他活動を通じ、まずはこの障害について知ってもらうよう、これからも発信し続けます。皆様の強い支援に、感謝しております。

Reジョブ大阪 西村紀子