2022/04/15 06:16

みなさんこんにちは! 失語症の日発起人、NPO法人Reジョブ大阪の代表理事、(株)イノベーションサービス「言葉の天使」代表、言語聴覚士(ST)の西村紀子です。今日は、私の事業である「オンライン言語リハビリ」についてお話させて下さい。



私は2018年、NPO法人Reジョブ大阪を設立し、生活に戻った失語症や高次脳機能障害の人の支援を始めました。そこでたくさん聞いたのが「言語リハビリをしたいのにできない」という当事者や家族さんの声です。それまで、急性期病院に勤務していた私ですが、そこでも「外来で言語リハビリをしたいな」と思っても、通院が難しいという理由で、あきらめざるを得ない人がたくさんいました。こうした現状をみて、ふと「通えないのなら、オンラインで言語のリハビリをしたらいいのでは?」と思いついたのです。


しかし当時は、そんな話をすると、「は?ふざけてるのか?」とか「オンラインで言語のリハビリなんてできるわけがない!」とか、かなりのお叱りを受けたものです。

「うー、これでは言語聴覚士協会ににらまれるのではないか?」と、ビクビクしていた当時の私。

2019年、それなら、まず、研究して効果を調べたらいいのでは?と思い「テレビ会議システムzoomを用いた失語症向けオンライン言語療法の問題点と効果」というタイトルで、研究計画書なるものを作り、三菱財団・就労研究助成金に申請したわけです。当時は、zoomがこれほど一般的でないため、テレビ会議システムという文言が必要でした(笑)

うーん、この頃は辛かった! なぜなら科研費の審査に落ちまくっていた時なのです。書類づくりは大の苦手なのですが、血を吐く思いで、申請書を提出した思い出があります。

そして、三菱財団の「草の根のような研究を応援する」と言う理念にかなったのか、私の研究は採択され、2019年の秋から研究を始めたわけです。


2019年の年末からコロナウィルスの感染拡大があり、それに伴い、不要不急の外出が制限され、他人との交流の手段として、オンライン利用が当たり前になっていきました。やっとテレビ会議システムなんて説明を付けなくても「zoomで」という言葉が通用する時代に! 時代が私に追いついたんだわっ!と思ったくらいです(笑)

初めは、研究メンバーの言語聴覚士でさえ、zoom操作がおぼつかなく、試行錯誤を繰りかえした研究でしたが、発症して何年も経過している失語症の人にも改善がみられるようになり、オンライン言語リハビリの手ごたえを感じていました。

これはぜひともパッケージングして、希望者に提供したいと思い、自分のブログで告知して、たった1人で事業化を始めました。「くるみの森」という会社をつくり、年末にはビジネスプランコンテストでも入賞しました!

2021年、ビジネスプランコンテストに出るころ、某社長さんからの経営面でのアドバイスがあり、それが「言語聴覚士の育成と○○」だったのです。○○については、もうすぐリリースするので秘密です(笑)

そこでオンライン言語リハビリの担い手となる言語聴覚士さんの募集を始めました。2021年の2月に1期生、6月に2期生で、今は10名でチームを作っています。

この頃、自費リハビリを中心に「コロナ禍で通所ができないなら、オンラインで」という流れが出てきました。でも、私は初めからオンライン1本です。理由は、コストが抑えられますからね。失語症の人は、復職が難しい人が多くて、経済的に余裕がない人も少なくない、でも、回復までに時間がかかるから継続してほしい、こうした理由で、なるべく低価格でリハビリを提供したかったのです。

それに、オンラインは、通所や通院の手間がかからないってことが最大のメリット! お仕事をしても、自宅で継続しやすいですよね。おまけに海外にいる人でもOKです。

質の担保のため、顧問として浮田弘美先生と大塚佳代子先生にもご尽力いただいており、日々、研鑽しております。

2022年、事業名が決定しました。

私は言語リハビリにはすごく熱い思いがあるのですが、経営はど素人です。何をどうしていいのか全くわからず、紆余曲折の日々。アホなこともたくさんして、お金や時間をドブに捨てました(いや、この経験が今に生きているのでドブに捨てたではないかも?だけど)

そこで、以前から面白いなぁと思っていた経営者Aさんに

「あなたの知り合いでオンライン言語リハビリの経営に興味ある人はいらっしゃいませんか? いえ、ぶっちゃけ、あなた、興味ありませんか?」

と、ダイレクト営業をかけたわけです!

いやぁ、ビジネスマナーもなんもあったもんじゃない(笑)
怖いもの知らずとは私のこと。当時、失語症の高校生を担当していて
「あー、こういう未来ある若者が、充分なリハビリを受けられない現場ってどうなんだ!」
と強く思っていたので

「とにかく事業を大きくしたい!そのためには私ではダメなんだ!」

と思ったわけです。まぁ、この勢いに押され、2021年の年末から、A氏の関連会社である、(株)イノベーションサービス社で、オンライン言語リハビリを展開することになりました。A氏の頭に「天使」という言葉がおりてきたようで、そこから検討し、事業名は「ことばの天使」に決めました!


ことばの天使のサイトはこちら!

https://kotobanotenshi.com



もう一つ、お伝えしたいことがあります。A氏からでた条件が「2番手を連れて来ること」だったのです。そこで白羽の矢が当たったのが、今回、YouTubeで話している男性、日比尭正STです。


実は、失語症の日制定実行委員会メンバーの一人である馬淵先生も、今年の失語症の日のイベントに登壇する早野満紀子さんも、かつて日比STが担当していた失語症の方です!

発症時は、名前を言うのにも大変苦労されたお二人が、言葉を取り戻す長い道のりを伴走し続けた熱心な言語聴覚士です。ちなみに、日比STと私の出会いは、その早野さんからのDMでした。

「私を担当していた熱心な言語聴覚士さんが、西村先生の事業に興味があるそうです。いちど話を聞いていただけませんか?」でした。

担当患者さんからの紹介って珍しいですよね !?

そしてオンライン言語リハビリの魅力にすっかりハマった日比STは、大病院を退職し、生活期にいる言語障害の人の支援に乗り出したわけです。

そんな日比STと、馬渕先生、早野さんが、失語症の日に向けて撮影した動画をぜひご覧ください。

動画に登場した日比です。

「STがいないんだよね」というのは、病院を退院する患者さんの支援に必ず直面する悩みで、私を含め同僚のSTたちの大きな壁でした。在宅領域で頑張るSTさんも、もちろんたくさんいるのですが、圧倒的に、ニーズに対して数が少ない。そして、支援のバリエーションも少ない。退院後に、病院でやっていたリハビリと同じことをしていてもあまり進展がないでしょうし、かといって、家庭での生活も社会復帰も、ひとそれぞれ様々な言語環境があるのに対して、どんな支援が必要で、何ができるのかということが、なかなか柔軟に行き届いていないのが現状です。

このままではいけない、と強く感じさせてくれたのが、馬渕さんや早野さんといった、実際に私が担当した患者さんたちとの出会いでした。


馬渕さんも早野さんも、それぞれご自身の苦しい状況や、悔しい現実に必死に向き合い、受け入れ、同時に、一歩ずつ何とか踏み出そうと堪え努力しておられました。そんな様子を見ながら、このまま病院で患者さんが来るのを待っているだけでいいのだろうか?と感じるようになりました。

馬渕さんも、早野さんも、それぞれ主治医は違いましたが、幸いなことに非常に療法士に信頼を寄せてくれる方たちでしたので、病院での治療という枠組みに、比較的じっくりと向き合うことができたように思います。ただ、同時に、主治医の先生をはじめ、急性期のチームが、必死に命をつなぎとめ、回復期のチームが、在宅復帰をサポートし、さあ、ここから次のステージが始まるという段階で、急に先が見えなくなってしまうのです。

退院することがゴールではないんですよ、とは、私たちがよく口にする言葉ですが、それは、私たちにも問われている問題なのではないかと感じます。

退院し、緻密な医療や介護の枠組みから卒業し、いざ復職、いざ復学、いざ社会活動に参加しようというリ・スタートをきった時にこそ必要な支援があるのではないか。


そう思って、病院とはちがう、新たなフィールドで、今度は自分が患者さんの生活の場に赴いてお手伝いしたいと思ったときに出会ったのが、西村先生と、西村先生が主催するオンライン言語リハビリでした。時間と、場所の壁を大きく乗り越えるリハビリのスタイルは、対面では難しかった、さまざまな可能性を感じています。もちろん、対面に比べて不便なこともありますが、私自身は、対面とオンラインは、競合するものではないと考えていて、それぞれの持ち味を活かして、支援に加わることができたら良いと思っています。

仲間に入れてほしいと門をたたいたら、あれよあれよという間に渦の中心近くまでまきこまれている、このスピード感とエネルギーに、毎日目が回りそうではありますが、今までにはない様々な気付きや出会いに満ちあふれています。

私も、オンライン言語リハビリは始めたばかりです。

だからこそ、利用者の皆さんと一緒に、よりよい支援、よりよい企画を送り出していけるのではないかとワクワクしています。


こんな私ですが、日々、たくさんの人々に支えられています。失語症の日、私も登壇しますので、是非、ご覧ください。