2022/07/26 17:13

アートプロジェクトから少し離れますが、「春日山原始林を未来へつなぐ会」の活動を少し紹介します。

「具体的にどんな保全活動をおこなっているのか?」というところがよくわからないと思います。春日山原始林は、伐採は基本的にはNGになっていますし、動物の捕獲も原則できないとなると、「放っておく」ということしかできないのでは?と思われる方も多いでしょうし、「原始林」なんだから手を入れたらダメだ!なんて考える人もいるかもしれません。

この辺りの背景について書き出すとまた長くなってしまいますので(笑)今日は保全活動のことを中心にします。

春日山原始林の保全活動は奈良県の「春日山原始林保全計画」に則って行われています。
私(杉山)の所属する「春日山原始林を未来へつなぐ会(以下つなぐ会)」の活動も基本的にはこの計画が実行されるために市民でできる関わり方をしているのが現状です。

春日山原始林保全計画は、目標と10の方策を掲げていますが、この辺りはちょっと難しい内容になるので、気になる方は上記リンク先から計画書を確認してください。

で、この計画で行われている具体的な保全の取り組みは以下です。

・原始林内にシカの入れない柵(植生保護柵)を作って植生の回復を図っている。
・原始林を形作っている主な木々(シイ・カシ類)の実(どんぐり)を採取して苗木を育てる。
・数が極端に増えている(増えていく可能性が高い)外来種の繁殖を抑えている(駆除・伐採)
・原始林を形作る木々を枯らしてしまう病気(ナラ枯れ)の対策

これらは、奈良県が予算を使って進めていることです。じゃあ、つなぐ会は何してんの?というところですよね。それをこれから紹介します。

1.植生保護柵の巡視と簡易の補修

私たちが一番重要だと思っているのが、柵の点検です。春日山原始林の森を具体的に再生させるには、シカの影響を抑えて植生を回復させる柵の設置が最も効果的です。特に春日山は標高が低く、温暖な地域にあるため、日光の条件がよければ植生はぐんぐん回復します。
ただ、設置当初は、動物による破損が発生するほか(もともと生活していたところに急にできるから仕方ない)倒木などによる倒壊なども起こります。
柵が壊れてしまうと、せっかく育ってきた植生もあっという間にシカの餌食に(汗)。できるだけ破損があったら早めに対処することが重要です。そのため、つなぐ会では、定期的に保護柵を見回って、破損がないか、周辺に倒れそうな木がないかなどを点検しています。
また、破損があった際には可能な範囲の補修をおこなって、奈良県へ報告し、業者による補修を依頼しています。

なあんだたいしたことないじゃん。と思った方は大間違いです。春日山は標高は低いものの尾根谷が深く、設置場所の斜度はなかなかのモノ。スパイク付きの地下足袋を履いているとは言え、平均年齢65歳以上のメンバーが活動するのはなかなか大変。原始林には36ヶ所の保護柵が設けられていますが、一部急峻な場所については、選抜メンバーで見回りをしています。

柵内の大木の枝が斜面をすべり柵を圧迫して壊してしまう恐れがある

地面の杭を抜いて枝を柵外に引き摺り出している。

2.ナラ枯れ対策として原因となる昆虫の捕獲をおこなっている。

つなぐ会は2014年に立ち上げがあり、具体的には2015年から活動をスタートしています。この時期に春日山だけでなく周辺で被害が拡大していたのが「ナラ枯れ」という病気です。
活動当初は、奈良県が原始林内の大木にネットやビニールを巻いて虫の侵入を防ぐという対応を行なっていましたが、被害は止まりません。その後、取った方策が「カシナガトラップによる捕獲」です。奈良県ではかなり広範囲にトラップを設置して捕獲を試みました。ただ、この方法だと、森の中にいる虫がどの程度いるかの把握にはなりませんし、ヘタをすると虫を呼び込んでしまう恐れもあります。現在では、必要に応じて薬剤の注入で予防する方策がとられています。
つなぐ会では、上記の懸念はあるものの、トラップを設置後に、設置木が枯れたことがなかったため、一定の効果があると判断し、トラップ設置を現在も実施しています。
ただし、2018年以降は、被害が一段落したため防除とモニタリングを兼ねて実施しているところです。


3.外来種の駆除・伐採をおこなっている。

3つめが、外来種の駆除です。ここで言う外来種は主に「ナンキンハゼ」という奈良公園で街路樹として植えられた木です。数年前から奈良公園でもナンキンハゼの伐採が始まっていますが、元々は紅葉がとても綺麗であったこともあり、人気のある街路樹でもあります。ただ、シカが食べない。と言う理由で原始林に限らず奈良公園周辺に大繁殖していることから、春日山でも駆除をおこなっています。
春日山原始林にはシカの影響でこのナンキンハゼのほか、シカが嫌いな植物しか生えていません(これは奈良公園も同じです)
ナンキンハゼは明るいところが好きな木なので、大木が倒れた後の光の差す場所などによく発生しています。つなぐ会ではそういった場所に生えているナンキンハゼを引き抜く活動をしています。

原始林の林内少し明るい緑の葉がナンキンハゼ

駆除後の写真

ただ、個人的にこの活動には問題があると考えています。というのも、何も生えない地面に外来種とは言え生えてきてくれた植物を駆除することで、また地面は裸地化してしまう恐れがあるからです。本来こうした場所では、駆除したのち柵で囲うなどの対策が必要だと考えています。

4.原始林内の温度・湿度を計測している

保全計画には直接関係がない活動として実施しているのが原始林内の温湿度調査です。
保全活動のメンバーの中でも有志で構成されて、原始林内に3ヶ所、温湿度計を設置して、年間を通じた温度・湿度のデータを取っています。ただ、設置していても破損やトラブルなどもありなかなか一筋縄にはいきません。
一旦収集したデータをもとに過去の記録との比較などを試みています。調査に関する報告に関心のある方は以下をご覧ください。
https://kasugatsunagu.com/news/1191.html

保護柵に設置したデータロガーを確認します。

他にも考えられる保全活動はあるものの…。

これまで取り組んでいる保全活動以外にももっとやってみたいことは沢山あります。つなぐ会独自の保護柵の設置や、どんぐりの苗木をいろいろな方に育ててもらうこと、哺乳類など生き物の生息に関する調査など。ただ、シニア中心の団体で予算的にも厳しい中、現状以上の活動を展開するには、マンパワーもお金も必要になります。

こうした活動の仲間を増やしていくためにも、知ってもらうことがとても重要だと思っています。春日山原始林アートプロジェクト「知ってもらうこと」「寄付を増やすこと」のふたつを叶えるプロジェクトとなっています。そして、賛同して見に来ていただいた方には、作品の面白さを感じてもらったり、寄付によって作品を手に入れることができることでメリットを感じてもらえば「三方よし」のプロジェクトになっています。

おかげさまで支援も50%にほど近いところまで伸びてきました。
さらに支援の輪が、春日山原始林を知って、何かしたいと思ってくださる人の輪が広がっていけば嬉しいです。