2019/01/28 15:53

「こうち女性起業家応援プロジェクト」は、起業や育児休業後の職場復帰や再就職、移住後のキャリアチェンジ、そして、キャリアアップを目指す女性を幅広く支援するという想いから、各分野で活躍する起業家をゲストに迎えたセミナーや、生活目線から考える事業アイデアの創造に向けた学びの機会を提供し、高知の女性が自分事として取り組むことのできる新たなチャレンジを後押しすることを目指し、開催しております。


第9回目は町田美紀さん(株式会社and.デザイナー)。

『―直感を大切に生きる―“絶対に帰ってきたくなかった高知”に帰ってきた理由

』と題して、上京からUターンまでの経緯や、現在のチャレンジ、そして、目指す未来についてお話いただきました。


町田 美紀 氏(株式会社and.デザイナー)

<プロフィール>

 1975年、高知市生まれ。制作会社数社を経て2001年、フリーランスデザイナーとして活動開始。2007年、一級建築士事務所 株式会社and.として法人化。デザインを軸に、広告、飲食、様々な業界で企画立案や商品開発などに携わっている。デザインに携わるモットーは“現場に足を運ぶ”こと。2011年、高知にUターン。翌年、ひろめ市場にワインバル『BAR VALERIAN』をオープン。3年間運営したのち、自然派ワインに特化し移転リニューアル。2013年、人と土地の力を掛け合わすことをコンセプトにした『SoulSoils』を立ち上げる。“つくる人”のアタッシェ・ドゥ・プレスの役割を持つ展示会ブランドへと成長させ、数年以内に海外進出を視野に入れている。


「絶対東京に出たい!」

 町田さんは高知市上町の生まれ。自然豊かな高知県とはいえ周囲はアスファルトや建物ばかりで、アウトドアも好まなかったため、土や水に触れることなく育ちました。

 小学校時代はクラスのお笑い担当だった町田さん。卒業アルバムに「いつまでもひょうきんで」というメッセージが書かれるほど、面白いと言われることに命を懸けていたそうです。

 しかし家に帰ると思い込みが激しく神経質な一面も。そのセンシティブな部分が出てきたのか、中学・高校では友達と群れるのがとにかく嫌いで、しんどくなるとバスで桂浜に行っては砂浜に寝転んでいたとか。親戚同士の仲も非常に悪く、窮屈で仕方のない人間関係にうんざりした町田さんは、中学1年の時から「東京に絶対出たい!」と心を固めていました。


 その頃、建築に興味を持ち始めた町田さん。高知の大学に建築学科がないこともあり、自己推薦で東京の大学へと進学することに。東京に行くことは決めていましたが、「なぜ高知には建築を学べるところがないのだろう」という純粋な疑問から、高知県知事に直接聞きに行くという大胆な行動に出ます。もちろん事はそうすんなりとは行きませんでしたが、数回のやりとりの後、ついに知事と1時間話すことができたそうです。しかも知事は、町田さんのことをこっそり大学に推薦してくれていました。このことで、「いつかは高知に恩返ししなければ」という責任感も芽生えつつ、町田さんは上京し、建築について学んでいきました。


23歳。夢を失い、暗黒時代へ

 大学卒業後、洞爺湖のほとりにある有名な建築アトリエで修業した町田さん。そこで彼女は気づきます。自分のやりたいことと、仕事として求められることは、必ずしも一致していないのだと―。23歳にしてついに、設計の仕事が自分には合わないことを悟ってしまった町田さん。「今更帰れない…」と東京に残ったものの、そこからは暗黒時代だったといいます。

 早朝にスタバ、昼はおもちゃ屋、夜はゲームのデバック作業。楽しくもない数十種類のアルバイトを経験し、その日その日を何とか食いつないでいく毎日。さすがに見かねた親からの忠告を受け、就活して会社に入ったのち、26歳でWebデザイナーとして独立しました。しかし独立後も苦しい生活は続き、事務所で寝泊まりして必死に仕事をするような、不健康な日々を送っていました。


「高知に帰ろう」

 転機となったのは、33歳での結婚・出産。子供を産むことになり数年ぶりの健康診断に行った際、子宮頸がんであることが判明し、慌てて子供を産む準備をすることになったのですが、妊娠中に体が食品添加物を受け付けなくなり、それをきっかけに食生活を見直すことに。オーガニックに関する知識を集める中で、セミナーなどの集まりにも積極的に参加していた町田さんは、あれだけ嫌だった人とのつながり・コミュニティが素敵なものに感じるようになりました。

 そんな折、父が倒れたとの知らせを受け、実家に帰ることに。今後のことを考え、父の仕事であるマンション経営の実情について改めて調べてみると、部屋の管理が行き届いていなかったり、有効活用されていなかったりという現状を目の当たりにします。「何とかできないか」という思いから、高知で開催されていた人材育成塾に通う中で、高知に面白い人がたくさんいることに気付き、嫌いだった地元に対しても魅力を感じ始めました。

 そんな時に起こった、東日本大震災。住んでいた家は半壊し、引っ越しを余儀なくされました。その引越し準備中、段ボールを詰めていた町田さんはふと、思い立ちます。 


―高知に帰ろう


 旦那さんと、何度も何度も話し合いを重ね、最終的には、「子どものためにどちらがいいか」という観点で合意を引き出し、高知へと戻ることになりました。


人の願いに、デザインで応える

 すべてをリセットして帰ってきた高知。環境の違いに戸惑いながらも、得意なデザインと人との縁が掛け合ったことで、いろいろな事業がスタートしていきました。


 例えば、オーガニックのショウガ農家さんとの出会い。仕事に遊びに一生懸命な彼の力強い生き方に惹かれた町田さんは、彼の「人生まるごと」を詰め込んだような商品を東京や世界へと売り出していきたいと考え、若い女性に受けるショウガパウダーやジンジャーティーの商品開発を行ってきました。「人」と「土地」のエネルギーを掛け合わせるという意味を込め、ブランド名を“SoulSoils”と名付け、想いのこもった様々な商品を展開しています。さらに現在は、農家さんの想いを伝える記事を掲載する“and.message”というwebページも公開しており、言葉の壁があっても伝えられる動画を全世界へと発信する準備をしています。高知、東京のほかにもう一か所、海外にも故郷を増やしたいという町田さんの想いから、広い世界を意識した事業を展開しつつあります。


 また、Uターン当初は高知の人とのつながりをあまり作っていなかったため、自分たちをもっと知ってもらいたいという想いも込め、高知市内の屋台村風商店街「ひろめ市場」の一角でワインバーをオープン(現在は移転)。妊娠期間中に培ったオーガニックに関する知識を生かしながら、おいしい高知の食材と東京で磨いたセンスを存分に楽しんでもらえる場を提供しています。高知に不足しているデザイン思考でのビジネスモデルコンサルティングも、いろいろな場面で重視して取り入れています。


 これらの他にも、デザインの力で人と人との間を取り持ち、多くの事業創造のお手伝いをされている町田さん。人を笑わせることに心血を注いでいた子ども時代のように、必要とされていることを自分の得意分野で応え、喜んだり驚いたりしてもらうことがいまでも大好きだと笑いながらお話してくださりました。

 今までのすべての経験を糧に、デザインの力で人々をサポートし、自分自身もまた大きく羽ばたいていこうと前を見据える町田さんの姿に、参加者も勇気づけられたキーノートスピーチでした。


ライフヒストリーや気づきのシェア

次に参加者2人1組のグループをつくり、自身のライフヒストリーや、町田さんのお話を通して得られた気づきを共有する対話のワークを行いました。

 参加者それぞれが今までの人生をグラフに書き起こし、自分のライフヒストリーや、そこで得た気づき・教訓を紹介し合いました。今回は初めてこのようなセミナーに参加するという方も多いようでしたが、参加者同士が和気あいあいと対話をしている様子が印象的でした。


チェックアウト

最後は、チェックアウトとして、一人ひとり今日の感想を話しました。

参加者からは、「デザインをもとに様々な挑戦をする町田さんから多くのことを学んだ」、「町田さんのお仕事=デザインディレクターの役割がよくわかった」といった感想が出ていました。


総括

 東京で培った経験や感性と、高知で生まれた人とのつながりの両方を大切に、自身の得意分野であるデザインで多くの人を応援している町田さんの生き方・考え方には学ぶ部分が多く、参加者からも感嘆の声が上がっていました。

 本セミナーで得られた気づきをもとに、今後、少しでも一歩が踏み出せる高知の女性が増えればいいなと感じます。ついにオープンしたKochi Startup BASEが、そんな何かを始めてみたい方たちの拠点となるよう、スタッフも努力していきます。


(レポート:陶山智美 )


主催:Kochi Startup BASE設立準備室 

事務局:エイチタス株式会社 高知ブランチ

住所:〒780-0822 高知県高知市はりまや町3丁目3-3 ガイアビル4F

Mail: ksb@htus.jp

Webサイト:http://startup-base.jp/

女性起業家応援プロジェクトHP:https://select-type.com/s/?s=OauI37IZylo