2021/03/31 23:14
リターンの発送

木工品のリターンを選択された支援者の皆様には、返礼品が届いた頃だと思いますがいかがでしたでしょうか?「木の良い香りがした!」や「手触りが滑らか!」といった体験の中で、和歌山研究林の雰囲気を少しでも感じ取っていただければと思います!

間伐作業終了!

リターンの制作と同時に進めていた間伐作業ですが、3月中旬に無事終了致しました!急傾斜地が多く、思った方向に倒すセンスが問われるような立地で、スタッフの方が驚くようなスピードで進めてくださいました。下の写真は最後の一本を切り倒すところです。水平に歯を入れる様子など、緊張感が伝わってきてとてもカッコよく見えました。

最後の一本を伐倒しているところ
とてもかっこよかったです!

倒す方向をより正確に操作するためにロープを使っている様子が下の写真です。ロープを輪にして幹の上の方まで移動させるのですが、その様子もどこかスポーツのように見えます。間伐した場所を見てみると、今まで見えていなかった向いの山が見えるようになっていました。あの山では現在、地拵えと呼ばれる林業の施業が行われています。

左:ロープを使って倒す方向を操作しているところ 
右:間伐が終了したところ

地拵え地へ移動

僕の研究とは直接関係ありませんが、この日は地拵え地も見学させて頂きました。施業地にはモノレールで向かいます。このモノレールは急斜面の移動手段として、林業やミカン農家に重宝されているものです。他にも東京都檜原村では道路の付設が難しい集落への公共交通路として、住民用簡易モノレールが付設された例もあります。実習の際には研究林の見どころの一つにもなっています。実際に乗ってみると思っている以上の傾斜で、ちょっとしたジェットコースターよりは迫力がありました笑

谷を挟んで向いの山にモノレールで移動(左)
シカ対策用の網も運びます(右)

モノレールに揺られること5分ほど、地拵え地につきました。地拵えとは、植林作業に向けて皆伐時に生じた枝条を整理する作業です。植林作業の安全性や効率を上昇させる目的のほか、段々を作ることで土壌流出を抑える目的で行われることもあります。この地拵え地も急傾斜地のため、伐採した枝葉を段々で置いて土壌の保全を図っているそうです。この場所は今後行われる実習で、植栽の体験を行うために利用されるとのことでした。

地拵え地(画面下)

左の写真は既に地拵えを終え、僕が大学4年生のときに実習で植林した場所です。当時はこんな急傾斜地をひょいひょい歩き回る職員さんを超人のように思っていましたが、今では「登れない斜面は無い」と洗脳されてしまいました。それでも職員さんのスピードに付いていくのは大変ですが、慣れとは恐ろしいものですね…

地拵え中の区域(左)と向かいの間伐地のある山(右)

栃木で発生した山火事

さて、前置きがかなり長くなってしまいましたが、今回は先月栃木県足利市で発生した山火事についてご紹介したいと思います。

県の調査によると、2~3月にかけて続いていたこの森林火災では、焼失面積は167ヘクタール(北大の札幌キャンパスおよそ2個分に相当する面積)で、被害額は3200万円に上ったそうです。避難勧告も出されてしまった今回の山火事ですが、日本では普段どれくらい山火事が起きているのでしょうか?

林野庁によると平成27年から令和元年までの5年間では、年平均1234件、661haの延焼、3億5,700万円の損失が発生しているそうです。これを一日の平均にすると、毎日どこかで3件の山火事が発生しており、2haが燃え100万円の損失が発生していることになります。予想よりも多かったのではないでしょうか?これでも昭和49年以降長期的に山火事は減少傾向にあります。昭和49年には年間8000件を超す山火事が発生しており、1日におよそ22件も発生していたといいます。

このように毎日どこかしらで発生している山火事ですが、出火原因はどんなものが多いのでしょうか?足利市の山火事は30日の市の発表で、たばこが原因と推察されていましたが、全国的に見ても人為的な出火原因は非常に高い割合を占めています。林野庁のまとめでは過去5年間の出火原因の60%以上をたき火や火の不始末などの人為的要因が占めていました。このように発生する山火事は、確かに近隣の住民への悪影響を及ぼし、資産としての山林の価値を下げてしまうため防ぐ必要があります。また、気候変動の影響で異常気象が続けば、昨年オーストラリアで発生したような大規模な森林火災が多発し、それがさらに温室効果ガスとなり悪循環へ陥るといったことが言われています。そのようなイメージがあるため、我々は山火事に対して負のイメージを持ちがちです。ところがそんなイメージとは裏腹に、世界では山火事を利用した生態系の保全が行われている例があると言います。一体どのような場所なのでしょうか?

山火事を利用した森林管理

山火事を利用した生態系の保全が行われているのは、アメリカのイエローストーン国立公園です。火山地帯やクマ、バイソンといった野生動物が人気の観光地で、東京都の4倍もの面積があります。この国立公園では1970年代ごろからアメリカ公園局(NPS)が、山火事を自然に発生する事象として受け入れ、消火活動などで人間が過度に干渉しない保全方法を取り入れていました。山火事のほとんどが人為的な今の日本に住んでいると想像しづらいかもしれませんが、この地域は元来、落雷などによって山火事が頻繁に自然発生する地域だったのです。そのため、普通の環境に適した植物だけではなく、「山火事のある環境」に適した植物が定着していました。

例えば、山火事では土壌の表面が高温になるので、比較的温度変化が少ない地下の根からの萌芽能力が強い種や、土壌中での種子の保存機能が高い種、樹皮の耐火性が高い種などがそれにあたります。ほかにも、普通の環境では他種との競争に勝てないような種が、「山火事」というイベントにより競争相手が排除されることで、生存が可能になるような種も存在します。また、植物に限らず、焼けて立ち枯れの状態で残った木々は、野鳥や小動物の住処にもなります。そのような種を考慮すると、山火事は意外にも、生物多様性や生態系の保全に寄与していることが伺えます。このように、山火事も自然の維持・保全に欠かせない要素だという考えを取り入れたのが、イエローストーン国立公園の保全方法です。

日本でも?

ここまでの話を聞いて、日本の野焼きを思い浮かべた方も多いかもしれません。実はご想像の通り、野焼きでも似たような例が報告されています。長野県で行われた実験により、野焼きを行うことでオオルリシジミという蝶の幼虫に寄生する蜂の発生を抑制していることが明らかになっており、計画的な火入れを利用した保全が注目されています。

また、瀬戸内海の直島というところでは野生のツツジと山火事の関係が研究されています。この島は乾燥した気候のため山火事の頻発地帯となっており、周期的に島内では火事による撹乱が発生していました。その環境が野生のツツジの生息に適しており、貴重な大群が残っている場所として注目を集めています。濱本(2011)らは山火事の頻度や、山火事からの経過年数などと、開花時の景観に関係性があることを示しています(詳しく読みたい方はこちら)。



森林火災は確かに、人間の生活に悪影響を及ぼしますが、視点を変えてみたり利用方法に注意すると、よりよい森との関係性を築いてくれるかもしれませんね。しかし、従来はあり得なかった規模の森林火災は、やはり生態系の劣化を招きます。そのため、メリットとデメリットを知ったうえでバランスの取れた対策を講じることが必要とされています。


参考文献

山火事多発が示す悪循環 林業重視の森林政策、転機に 日経2020/3/9
豪森林火災、温暖化で将来は「当たり前」に=英研究チーム BBCNEWS 2020/1/16
林野庁ホームページ 山火事予防!! 林野庁 閲覧日2021年3月20日
【人類世の地球環境】山火事が保全するイエローストーンの大自然 キャノングローバル戦略研究所
濱本 菜央, 森本 淳子, 水本 絵夢, 森本 幸裕. 2011. 山火事の履歴が野生ツツジ類二種の開花景観に与える影響. 日本緑化工学会誌/37 巻 1 号.
オオルリシジミと野焼きの関係 日本自然保護協会 閲覧日2021年3月20日