2022/02/15 19:37

北海道での豪雪だけでなく関東でも何回か雪が降ったようですが、お変わりなくお過ごしでしょうか。今冬は雪が多い平井ですが、2月になってからも再び雪が積もりました。今度は溶ける前に積雪に気付いたので、しっかり俯瞰写真を撮ることが出来ました!

今月前半は、所用が重なってしまい研究面での進捗があまりなかったので、今回は梅特集ということで進めていきたいと思います。ご容赦頂ければ幸いです。

雪が積もって寒々とした装いですが、庁舎の周りにある梅の木には、ちらちらと花が咲き始めました。 松尾芭蕉の弟子である服部嵐雪は、丁度この頃の様子を「梅一輪 一輪ほどの 暖かさ」と詠んだそうです。冬に梅が一輪咲いている様子に、かすかな春の温もりを感じた様子が良く伝わって深い共感を覚えますね!

梅の花

梅は、いかにも「日本原産ですよ~」というような佇まいですが、実は中国原産で大昔に日本へ連れられてきました。とはいえ、梅は古代から文化に深く関わってきました。中でも和歌に詠まれた梅の描写からは、古代の人々も現代人と同じように梅の花を楽しんでいたことが活き活きと伝わってきます。同じく春に咲く花として日本に住む人々に大人気なのが桜ですが、梅は香りが豊かな点が桜と異なります。目いっぱいに楽しむ桜と、鼻でも楽しめる梅といったところでしょうか。その様子が良く描かれているのが古今和歌集です。特に気に入った2つを紹介したいと思います。


春の夜の やみはあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やはかくるる 

古今和歌集 詠み人:凡河内躬恒

訳(たぶんこんな感じ):春の夜は闇の意味をなさないよね。梅の花は色が見えなくても香りでわかるもん。


折りつれば 袖こそにほへ 梅の花 有りやここに うぐいすのなく

古今和歌集 詠み人知らず

訳(たぶんこんな感じ ):さっき梅の枝折ったから袖から梅の花の良い香りがするわ~。勘違いした鶯が鳴いてんだけど(笑)※写真はメジロ 凡河内躬恒 とかいう人は、元々香りに敏感な人のようで、他にも色々な香りにまつわる和歌を詠んでいるそうです。春の夜のまったりとした空気感が良く伝わってきますよね。一方の詠み人知らずの和歌は、(流石に鳥は来ないだろ…と思ってしまいますが)春の訪れを鳥も喜んでいるような、童話的な世界が素敵です。

万葉集まで遡ると、嗅覚よりも視覚的な表現が多くなるようです。興味のある方は、和歌山の梅干し専門店のHPに面白いページがあるので、是非ご覧ください。このページによりますと、万葉集の時代はまだ大陸から梅が渡ってきたばかりで、「何この花、めっちゃ綺麗じゃん!」的な若々しさが感じ取れるようです。現代日本でチューリップが”趣き”とは別の楽しみ方をされているような感じでしょうか。

このように梅は古くから親しまれてきたので、言葉の中にも梅という漢字が入っています。例えば梅雨。何気なく使っていますが、何で「梅」が入っているのでしょうか。 

1. 梅雨

そもそも梅雨は中国の「ばいう」が伝わった言葉とされているそうです。この「ばいう」の由来には2つの説があります。一つは中国の長江下流域で、梅の実が熟す頃に丁度長い雨が降ることが由来とする説です。もう一つは共通の音を持つ漢字がシフトしたという説です。元々、長雨が続く季節はカビ(黴)が生えやすい季節だったので、「黴雨(ばいう)」と呼んでいたのが、同じ読みの「梅」にシフトしたという説。

ストーリー性があるのは前者の由来ですが、より生活感にあふれているのは「黴雨」ですね…。皆さんはどちらの説が好きでしょうか。因みに僕は古座川に引っ越してきた一年目、ここの湿度を舐めきっていたので梅雨時も押し入れを閉めっぱなしでした。久しぶりに開けたときの衝撃は今でも鮮明に思い出します。

参考:tenki.jp  梅雨の漢字はどうして「梅」と「雨」?意外な理由を解説

梅雨時のコアジサイ

2. 良い塩梅

塩梅という言葉にも「梅」が入っていますね。数年前からサントリーが売り出している「梅とソルティ」は個人的に大好きですが、関係あるのでしょうか。

調べてみると、「あんばい」には元々「塩梅」と「按排」の二つがあったようです。「塩梅」の方は、元来「えんばい」と呼ばれ、字面通り塩と梅酢を丁度よく使って料理の味を調えることを意味したそうです。

一方の按排は「あんばい」と読み、私達が普段使ている意味と同じで、丁度良く処理していくことを示す言葉だったそうです。この二つの言葉は、似たような音と意味を持っていたので、いつからか混同されるようになりました。その結果、塩梅が現在のような意味になったようです。

3. 松竹梅

そういえば、縁起の良いとされる「松竹梅」にも梅が入っていますね。これらの3つが選ばれた理由は次の通りです。

松は力強い樹形と、冬も葉を落とさない様子が長寿の象徴とされたようです。竹も冬でも青々と立っていることに加え、真っ直ぐ伸びることが縁起良いとされていました。梅は、松や竹のように、冬に緑を付けることはありません。しかしまだ寒い時期に、他のどの植物よりも早く開花する様子が、生命力や華やかさの象徴となったようです。

飲食店で特上や並を表現するのに、代替表現として松竹梅が使われるようになったので、この3種類にランクがあるように勘違いしやすいですが、この順番は中国からの伝来順という説があるそうです。

参考:住友林業グループ きこりんの森

梅干しでおにぎり条

ところで梅と言えば梅干し、梅干しと言えば紀州梅ということで、和歌山県の名産品の一つに梅干しがあります。農林水産省によると、日本の梅干しの58%が和歌山で生産されているそうです(2020)。その中でもみなべ町と田辺市で県内生産量の77%を占めています。

そのみなべ町には一風変わった条例があるそうです。それが通称「梅干しでおにぎり条例」。若年層の梅干し離れが生産地でも進んでいたため、制定されたそうです。制定後、毎年6月6日の梅の日には、生徒が梅干しおにぎりを作るほか、月に一回給食に梅干しが提供されるといいます。そういえば、給食で梅干しが出ることは無かったなと思い出しました。

梅干しと言えばもう一つ、「梅干しを見るだけで唾液が湧いてくる」という話があります。この現象は古典的条件付けと呼ばれる現象です。これは、ロシアの生理学者イワン・パブロフが犬にベルをならしてから餌をやるという行為を続けていると、ベルの音が聞こえただけで唾液が出るようになることを見て立てた理論です。梅干しを食べたことが無い外国の方は、条件付けがされていないので、唾が湧いてくることはないそうです。

参考:みなべ町


梅の材

梅はくねくねしているので大きな材は取れません。そのため、そろばんの珠や数珠、根付のほか、高級茶道具など小物に使われることが多いようです。樹皮はサクラっぽく平滑な部分とごつごつした部分があります。

乾燥によるひび割れが生じやすいことも特徴の一つで、研究林のサンプルも沢山のひびが入っていました。これも流通量が少ない原因のようです。色は心材で特に暖色が強く出ており温もりがあります。

梅の特性を表わすのに面白い諺があります。それが「桜折る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」です。意味は、桜は切ったり折ったりすると、そこから普及が広がってしまうため折ってはいけない。一方で、梅は枝を切れば新芽が伸び実のなりがよくなるので、適宜切りましょう。ということです。同じサクラ属ですが、それぞれの特徴を持っているようです。


クロウメモドキ 以前紹介したクロウメモドキは、漢字で書くと黒梅擬。この木は由来が非常にややこくなっています。

まず最初に梅がありました。次に葉や枝が梅によく似たモチノキ科の樹木があったので、「ウメモドキ」と命名しました。その次にウメモドキになる実によく似た形の黒い実をつける樹木が見つかり、クロウメモドキとなりました。クロウメモドキ自体はバラ科サクラ属でもなく、モチノキ科でもなく、クロウメモドキ科となっています。同科にはケンポナシやナツメなどがあります。武田製材さん一押しの材だけあって、板面が虹色に輝いて美しい材でしたね。

今回は少々短いですがこれで終わりにしたいと思います。今後暫くの間、研究以外の用事が続くので、進捗が紹介できないこともあるかと思いますが、ご容赦頂ければ幸いです。なるべく、平井の様子なども絡めながら紹介してまいりますので、次回もご期待して頂ければと思います!