2022/05/15 18:20

平井の田んぼ

GWもあっという間に過ぎ去って、気が付けば平井の田んぼにも水が張られていました。5月に入ってから雨が多いような気がしますね。早くも梅雨に片足を踏み込んでいるのでしょうか。早めに調査を始めておいて良かったと胸を撫でおろしています。

田辺市 五味集落の田んぼ

所変わってこちらは、平井から山をいくつか越えたところにある、田辺市五味集落の田んぼです。個人的に好きな場所の一つで、僅かな平地を使って田んぼにしている様子が、いかにも山村風景です。ここと比較すると平井は割と平地が多い恵まれた環境かもしれません。

雨が多くなると、そこら中の段差から湧き水が噴き出す平井ですが、集落中央部にはちゃんと井戸もあります。それが、こちらの井戸で、集落の名前の由来もこの井戸だそうです。井戸は全部平らだろうと思うのですが、何と比較しているんでしょうね。深さが浅いのを平らと表現したのでしょうか…。謎です。

天気が続いたときも、この井戸の水だけはたんまりと溜まっているので、生き物の結構棲みついています。ちょっと覗いてみましょう。

まずトタンの下を見ると、カエルが隠れていました。夏になると日差しから逃げてきたカエルでごったかえす人気の場所です。4月以降、彼らの鳴き声が平井の夜を賑わせます。時々窓に張り付いて鳴いていることもあり、小さな体からは想像できない大きな音量に眠れないこともあります。

続いて水の中を見てみましょう。ペットボトルで作った即席観察道具で撮ったので、見にくいですがアカハライモリがいますね。彼らは集落中の側溝をのそのそ歩きまわっています。雨の日や湿気が高い日は、道路まで上がってきて危うく踏んでしまいそうになることもしばしばです。名前の通り、お腹が赤いのが特徴ですが、今回は見せてくれませんでした。

この他にも、普段はカニやヘビがいるのですが、この日は姿が見えず。居るときは山のようにいるのに、どこへ消えるのやら。不思議なものです。

どんぐり経過

実験に使うどんぐりが、いよいよ発芽の最盛期を迎えています。一時は全く芽が出ずどうなることかと心配していたのですが、無事実験を行えそうです。

最初に発芽した個体から実に2か月近く経過しているので、発芽のタイミングはかなり個体差があるようですね。どんぐりの背比べなどと言いますが、結構マイペースで他人は他人というスタンスなのかもしれません。

どんぐりの経過観察

平井の茶摘み

前回、研究林で茶摘みした葉っぱを乾燥させている様子をご紹介しましたが、集落の方々も八十八夜の5月2日の翌日、新芽を摘んでいました。折角なので、新芽を摘んでから茶葉にするまで、お手伝いしながら見学させてもらいました。

まずは摘んできた新芽を煎ります。籠一杯に摘んできた新芽の緑が鮮やかですね。この時点で既にお茶の香りがします。摘んだ手にもお茶の香りが染みついていました。

因みに、この時使った籠はヒノキ製とのこと。軽くて丈夫なので重宝してるんだとか。ただ、今はもう作れる人がいないそうなので貴重な一品です。

結構な強火で煎っていきます。時間は15分弱。中華鍋でチャーハンを作る感じで、茶葉をかき混ぜていきます。

煎り終わったら揉む段階になります。手揉みはかなり疲れるそうなので、写真にある専用の機会を使います。この機会の中に煎ったホカホカの茶葉を入れて、重しを置いて、機械にかき回してもらいます。

揉み終わったら乾燥させて終了です。確かに馴染のある茶葉の形になっています。香りもよりお茶っぽくなっていました。最初に出てきた新芽を使ったお茶を一番茶と言って、高級品とされるらしいのですが、平井の場合は何回も摘んでいる時間が無いので、全て一番茶だそうです。「贅沢や!」と笑いながら教えてくれました。


研究計画②

さて、前々回に紹介した研究計画の続きです。前々回までの内容を振り返りながら進めていきたいと思います。

従来のJ-C仮説を検証する場合の概念図

母樹の近くは母樹と同種の実生がたくさん生えてきて、同種密度が高くなります。そこへ、この樹種を好んで食べる天敵が集まってくると、同種が育ちにくい環境が母樹周辺で発生します。同種が育ちにくい環境では、他種が侵入しやすいことになります。つまり、天敵と実生の関係性が、森林の多種共存メカニズムを作り出しているとするのが、J-C仮説でした。

では、このJ-C仮説の効果(以後J-C効果とする)は、種レベルでしか機能していないのでしょうか?例えば、天然林を生息環境として好む生物が天敵だった場合、実生にとっては人工林の方が成長に適した環境になっていることが予想されます。

実際に、昨年実施した広葉樹実生の生存率を天然林と人工林で調査した結果では、天然林が人工林よりもはるかに高い枯死率を示していることが分かりました。この差が、J-C効果における母樹からの距離(もしくは実生の密度)だけによるものなのか、それとも林相の違いも生存率に影響を及ぼしているのか?それが2つ目の疑問でした。

※図は各プロットの枯死率をデータとして利用した(人工林:16プロット、天然林:8プロット)。枯死率の有意差の確認にはGLMMを使用。各個体の生死データ(0,1データ)を用いて負の二項分布を仮定し、調査プロットをランダム要因とした。結果、有意差が認められた(p=0.0263)。

では、上の図における天然林と人工林の枯死率の差が、従来のJ-C効果だけが原因ではないことを示すためには、どのようにすれば良いでしょうか。そこで、ある母樹が人工林と天然林の中間位置に立っている状態を想定します(下図:この母樹は、周辺に同種の母樹がいない、孤立した個体であり、同種個体のJ-C効果が干渉することはないとします)。

想定する母樹の状況。天然林と人工林の境界部分に孤立して存在する種の母樹を想定し、その周辺の同種実生が人工林と天然林に散布されている。

ここで、もし母樹と同種である実生の生存率の変化パターンが、母樹からの距離or同種実生の密度だけで決まっているならば、上図における①と②において、実生の生存率の変化パターンは同じになるはずです。

しかし、もし①と②で生存率の変化のパターンが同じでなかったら、それは従来のJ-C効果だけでは説明できない現象であると言えます。

この仮説を検証するために一番手っ取り早い方法は、天然林と人工林の中央に孤立して存在する母樹を見つけて、その周辺の実生の生存率を調査。その結果を天然林と人工林で比較するという方法です。孤立して存在する母樹は意外に多く見つけられます。しかし、実生が解析に耐えうるほど分布していることが珍しく、自然条件下での検証は断念することにしました。

代わりに利用するのが、昨年も実施した土壌を持ってきて実生を植える方法です。この方法であれば、別途準備した実生を用いることでサンプル数を稼ぐことができます。詳しく説明すると、孤立して存在する母樹を中心として、天然林と人工林の双方向に30m地点を設定します。次に母樹直下と各30m地点から土壌を採取し、別に育てた実生を植え買えるという手法です。

土壌採取地点の図

もちろん、この方法には欠点もあります。天敵は土壌菌類に限られてしまうことが欠点ですが、先行研究(Seiwa 2008)で、実生の枯死における菌害の強さが大きいことが評価されているため、今回は土壌菌類に限定することとします。また、ポットを用いた温室実験では、実生の枯死が発生するまでに時間がかかることがあるため、生存率ではなく成長量を観察対象とします。

これからやろうとしている実験の仮想図(データはまだとっていません)

一定期間経過後、各地点(人工林、天然林、母樹直下)の土壌で育てた実生の成長量を調査します。成長量は重量を用います。仮説を支持するような結果となった場合、上の図のような結果になると予想できます。

従来のJ-C効果の検証で確かめられていたのは双矢印①の差です。つまり母樹直下と遠方で、実生の枯死率に差があるかどうかという部分が確かめられてきました。一方、本研究の仮説が支持する結果となった場合、双矢印②の部分にも差が認められるはずです。つまり、天然林と人工林の成長量の差が、母樹からの距離ではなく、林相の違いによって生じていることが確かめられます。そして、この差が従来の種レベルのJ-C効果では説明できなかった、現象となると考えています。


以上が二つ目の実験計画でした!次回以降もどうぞお楽しみに!