2022/04/30 23:32

こんにちは!研究林ではお茶の収穫が始まりました!研究林庁舎では葉っぱが広げられ、お茶の香りが漂っています。爽やかな良い香りです!

さて、今回は2022年春の実生追跡調査について書いていきたいと思います(なお前回予告していました研究内容については、都合上、次回以降へと延期させて頂きます)。


実生追跡調査 2022春開始!

2020年から始めた、春と秋の実生追跡調査。その2022年春の調査を開始しました!この調査では、広葉樹実生の生存率や成長量を、天然林や人工林、そして間伐強度別に比較するために行っています。今回の調査で間伐後1年経過後の様子が分かることになります。

新しく調査地に入っていたヤマザクラの実生

昨年の春は、ヤマザクラをはじめカラスザンショウやアカメガシワ、タラノキといった先駆種(台風などの撹乱によって生じた裸地に真っ先に入ってくる種のこと)が発芽しているのが確認されました。今年の春はどのような種が発芽しているでしょうか?

昨年の調査でよく出現したカラスザンショウ(左)とアカメガシワ(右)

現在までに1/4の調査を終えたところですが、今のところの肌感覚では、昨年の春と出現種に違いがあります。例えば、昨年たくさん生えてきたカラスザンショウやアカメガシワは、今年はほとんど新規個体が確認できません。また、昨年発芽が確認され既に大きく成長していた、カラスザンショウの個体も、枯死した個体がほとんどでした。一方、サクラの実生は、今年も新規個体が多く入って来ていました。

大きく成長したカラスザンショウ(しかしこの春には枯死していた)

カラスザンショウやアカメガシワと、サクラの違いはどうして生じたのでしょうか。僕は、種子の由来が異なるためではないかと考えています。カラスザンショウやアカメガシワは、何年も前に存在した母樹から散布された種子が、土壌中で「今か今か」と発芽のタイミングを待っていたところ、間伐という絶好の機会が到来し、昨年の春に種子が一斉に発芽。一方で、サクラは毎年、動物たちがせっせと種子を運んでくれるので、この1年間でも新しい種子が散布されたのではないでしょうか。

そうであれば、カラスザンショウやアカメガシワは、間伐直後でのみ実生がよく観察され、サクラは毎年一定の新規個体が見られるというパターンを、説明できると考えられます。

その証拠ともいえる場所があったので、ご紹介します。

タヌキが広げるサクラの森

タヌキの溜め糞に含まれるサクラの種

こちらは、昨年の活動報告で紹介した、タヌキの溜め糞に交じっていたサクラの種子です。タヌキは雑食なので、昆虫や動物の死体から木の実まで様々なものを食べています。そうした食べ物の中に、サクラの実が含まれていたようで、種子の部分だけ消化されずに糞と一緒に散布されていました。この種子がどれくらい発芽するのか気になった僕は、この場所に目印を立てておき経過を観察することにしました。

1年後見事に発芽したサクラ(赤丸)


そして1年後、様子を見に行くと、なんと30個近い実生が発芽しているのが確認できました。固まっていた種子は、風雨の影響でやや拡散していましたが、確かに溜め糞の周囲で密集して発芽している様子が確認できました(写真・赤丸)。動物が森を広げている姿を実際に見ることができたので、非常に興奮しました!教科書で動物散布型の種子があるとは知っていても、それを実体験として見ることができる機会は滅多にないと思いません。研究林ならではの体験かもしれませんね。

別の場所でもサクラが密生していた

同じく、密生するサクラの実生

他の調査地内でも、密生するサクラの実生が何カ所か確認されました。これらの実生を発見した場所も、風雨で偶然種子が集まるような地形でもないため、動物が食べた種子が糞と一緒に集積された結果生じたパターンだと推測されます。動物と植物の関係は、動物が植物を利用してばかりというイメージを抱く人も多いかもしれませんが、こうした光景を見ると、植物も動物を何とか利用できるように進化を遂げてきたのだなあと実感します。

虫に食われているサクラの実生

さて、こうしてめでたく芽が出てきたサクラたちですが、早速新たな敵と戦っている個体もありました。それが上の写真です。虫にお手本のような虫食い穴を開けられています。昨年1年間の観察結果では、春に発芽した実生の多くが秋までに枯死していることが分かりました。枯死因は不明なことが多かったのですが、この食害のように天敵の影響によって枯死してしまった個体も多かったのではないでしょうか。

調査中に見つけたもの

ここからは調査中に見つけたものをご紹介します。まず一つ目が、トチノキの実生です。トチノキは栃木の栃で、手のひらを広げたような大きな掌状複葉が特徴の木です。母樹レベルにもなると、両手がいっぱいになるほど葉が大きくなる種ですが、実生はまるで赤ちゃんの手のようにミニサイズで可愛らしいです。

この個体もあと数mズレていれば、プロット内に出現した新規個体として記録できたのですが、残念ながら今回は調査対象外になってしまいました。トチノキの実生は、私の調査地では非常に珍しいので、頑張って欲しいです!

トチノキの実生

続いてはヒメシャラの巨木です。ヒメシャラと言えば、温かみ溢れる良い色の材が思い浮かびますね。材の美しさと同様、ヒメシャラは樹皮の美しさでも日本の森のトップ層に入っていることは間違いないでしょう。どんなに薄暗い森でも、ヒメシャラだけは一瞬で判別できます。サルスベリの木肌にも似ていますが、ヒメシャラはツバキ科、サルスベリはミソハギ科で異なります。名前の由来は、ナツツバキの別名であるシャラの木の花よりも、一回り小さい花を咲かせるためだそうです。

調査中に見つけたヒメシャラの巨木

そんなヒメシャラの巨木を調査中に見つけました。あまりの太さに周りの木が細く見えてしまいますが、周りの木も胸高直径30㎝程度はある立派な木です。あいにく、直径メーターを持っていなかったので、計測することができなかったのですが、大人二人でようやく一周できるぐらいの幹の太さでした。もはや、ヒメと言うよりも皇帝と呼んだ方がしっくりくるサイズですね。

ナンテンの展葉

続いてナンテンの展葉です。ナンテンは以前お話したように、奇数羽状複葉という一見複数枚に見える葉っぱの全体が、実は一つの葉っぱであるという特徴を持っています。そんな大きな葉っぱが春先に生えてくる場面は、どのようになっているのでしょうか?非常に気になりますよね!そう思って観察してみたところ、写真のようになっていました。確かに、枝のような部分も葉っぱのような部分(小葉)と一緒に大きくなっている過程が分かりますね。

林道の進捗状況

さて、林道の状況はと言いますと、職員さんのご協力のおかげで、調査プロットの一歩手前まで順調に進んでいました!雨が降るたびにぬかるんでいた部分も、段々と固まりはじめて道らしくなっていました。日の当たる時間に行けば、木漏れ日が適度に当たり気持ちの良い散策路のような雰囲気です!

林道

道が固まってくれば、空転したり滑ったりするリスクが減って、重機でなくても林道まで入りやすくなります。車が入ってこれるようになれば、より多くの人が簡単に研究林の調査地にアクセスできるようになります。職員さん方と皆様のご協力によって作られているこの道を通じて、より多くの人に研究林の活動を知ってもらえればうれしい限りです。

地面が固まって車が入れるようになった林道

どんぐりの状況

さて、先月からぼちぼち生え始めていたどんぐりは、いよいよ本格的に展葉する個体も出てきました。子どものころから大人に引けをとらない、アカガシらしさを身にまとった実生ですね!

1000個ほど播いて、4月末現在で発芽している個体は150個程度です。実験では240個ほど必要という計画にしているので、もうすこし発芽を待ってから実験に移りたいと思います。万が一、発芽率が悪く実生が足りない場合は、実験の反復数を調整するなどして対応していきたいと考えています。続きをどうぞお楽しみに!

今回、どんぐりを播いてみると、個体によって発芽のタイミングがかなり違うことが分かりました。最初は、3個体ぐらいしか発芽してこなかったので、かなり焦っていたのですが、あとからあとから次々と発芽してきます。

同時期に撮影したどんぐり実生の別個体

「どんぐりの背比べ」なんて言葉がありますが、どんぐりの大きさにはそれほど違いがなくても、播いてみれば意外と違いがあるのかもしれません…?