2022/08/15 16:33

お盆になると、普段空き家だと思っていた家に明かりが点いていたり、子ども達の遊ぶ声が聞こえてきたりと、平井も随分賑やかになります。僕自身は、帰省するような田舎を持っていなかったので、平井のお爺ちゃんお婆ちゃんの家に遊びに来れる子ども達が羨ましくてなりません。普段よりも集落が賑やかになると、関係無い僕も嬉しくなります。田舎で待っているお爺ちゃんお婆ちゃん達は、こんな気分なんだなぁと実感しました。

ポツンと一軒家

気付かれた方も多いかもしれませんが、昨日のポツンと一軒家は平井が登場していました。和歌山研究林の青い屋根の庁舎も映っています!平井の生活の一端が見れると思うので、興味のある方は是非見逃し配信をご覧ください!


迎え火・送り火用の松明作り

お盆を控えた季節になると、集落の方々が使う迎え火・送り火で使う松明作りが始まります。材は研究林のアカマツです。ちょうど前回、那智大社の60kgの松明をご紹介しましたが、研究林の松明は片手で持てるお手軽サイズです。集めてきたアカマツを、適度なサイズになるように括っていきます。

アカマツなら何でも良いのかというと、そうとも限りません。上の写真は、一方が松明としては最高級で、もう一方は並品です。皆さんはどちらが高級だと思いますか?

勘の良い方ならお分かりかもしれませんが、右側の濃い色をした方が高級品になります。色が濃くなっているのは、油分がぎっしりと詰まっている証拠です。火をつけたときに、それだけ綺麗に燃えることになります。

実際に手で持ってみると、白っぽい方に比べてずっしりと重たく感じます。また、香りも全く異なっていて、白っぽい方はいかにも木材という感じの変哲の無い香りですが、油たっぷりの方は、お香のような良い香りがします。針葉樹の細胞にはテルペン類と呼ばれる揮発性有機化合物が含まれており、この物質が香りの元になっています。

なぜ、木々がこうした化合物を生産しているのかというと、樹体が傷ついたときに、油で埋めて、ばい菌や害虫が入らないようにしたり、空気中に化合物を漂わせて虫よけに使ったりしているわけです。本当は他の生き物を寄せ付けないための物質なのに、それを好んで利用している人間は、やっぱり変な生き物です。


迎え火

こうして作られた松明が、お盆に入り平井で明かりを灯します。去年は撮りそびれてしまった迎え火。今年はしっかり撮ることができました。平井の送り火は、3本の松明を灯します。何で3本なのかは、調べきれませんでした(分かったらお伝えします)。めらめらと良く燃えていますね。さすが、高級アカマツを使っただけあります。

最近、読んだ新聞記事の中で、国立歴史民俗博物館教授の関沢まゆみ先生が、日本のお盆行事の違いについて紹介している面白い記事がありました。

それによると、そもそもお盆の時期すら8月中旬(旧暦7月15日)と統一されているわけではなく、場所によっては新暦7月15日に行っているところもあるそうです。これは、農作業の忙しさと関係があるようです。明治に入って太陽暦に移行する際に、新暦7月15日だと農村部はまだ忙しいので8月15日になり、都市部は関係ないので7月15日になったとか。

もっと面白いのが、ご先祖の霊を迎える様式です。記事によると、近畿ではお盆にお墓参りを行わない地域もあるとのこと。また、同じ近畿地方でメジャーなのは、霊を3つに分類してお迎えする方法だといいます。

こちらは蝋燭で代用

代々のご先祖はお仏壇で、新仏は縁側、さらに先祖の霊にくっついてやって来る餓鬼仏は軒下となっているというのです。個人的には、くっついてくる見知らぬ霊にも一応居場所を作ってあげているのが、優しくて良いなぁと思いました。

一方、中国・四国、東海・関東は庭先にかけた梯子や、盛った砂でご先祖を迎えるのが主流で、さらに足を伸ばして九州や東北に行くと、お墓の前で飲食して、ご先祖と交流する迎え方があるという。墓地で飲食なんて聞いたことなかったのでびっくりしました。

ここで興味深いのは、上記のような異なる文化を共有する地域が、同心円状に広がっていることです。記事によると、このような現象を柳田國男は「周縁論」に基づく「遠方の一致」と唱えたといいます。ある文化的な中心地域があったとき、そこから生み出される文化が、まるで水滴が水面に落ちて出来る波紋のように広がる。新たな文化が生み出されると共に、その波紋は上書きされていく。すると、古い言葉や習慣は、中心部を挟んだ対極にある遠方で共通するというわけです。この理論でいくと、少なくともお盆行事は近畿が発信地だったのかもしれません。

ふと、お隣を見ると、お寺のあたりで何やら賑やかな声がします。ちょっと見に行ってみましょう。

約10年ぶり 平井の夏祭り

表題の写真で、バレていたとは思いますが、お寺では夏祭りをしていました。ただ、この夏まつり、ただのお祭りではありません。実は10数年ぶりに行われた平井の夏祭りです。平井の方々や古座川の地域おこし協力隊の方々が、復活に向けて準備をされて実現しました。

普段は閑静な平井ですが、この日は帰省してきた親戚さん達がたくさんいらっしゃて賑やかでした。3年前に引っ越して以来、こんなに平井に人がいたのを見たことがありません。集落の方々も賑わいが戻って嬉しそうにしていました。

お祭りでは、平井伝統の盆踊りが披露されました。正面に移っている方は、90歳を超えていますが、足並み軽やかに踊っています。練習会にも参加させて頂きましたが、平井の盆踊りは、捻る動作が多く、炭坑節や東京音頭よりも若干難しく感じました。それでも地域の方は、昔踊ったのを体が覚えているようで、あっという間に踊れるようになっていたので驚きです。

ポツンと一軒家に登場された方も、久しぶりのお祭りを見に来ていました。昔は盆踊りの輪が2重にも3重にもなっていたと言います。そんなに人が居たのかと、驚くばかりです。来年以降も継続して実施できると良いですね。


外来種と土壌菌類の地域性

さて、今日は研究に関係する論文を一本紹介したいと思います。紹介するのは2013年にJounal of Ecologyに掲載された『Invasive plants escape from suppressive soil biota at regional scales』という論文です。著者はJohn L. Maron, John Klironomos, Lauren Waller, Ragan M. Callawayです。日本語訳すると、『地域スケールで土壌微生物の抑圧から逃れる外来種植物』となります。一体どういうことなのか、ご説明していきたいと思います。

この論文の大きなテーマは、「外来種がなぜ移入先で大発生してしまうのか?」です。あまり詳しくない方でも、外来種に対して「知らないうちに入ってきて大量発生して、既存の生態系に悪影響を及ぼす」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。この外来種の対策として、とにかく駆除を頑張るというのも一つの手です。一方で、「なんで大量発生するんだ?」と言う部分のメカニズムが分かれば、外来種の拡大を抑え、少ない労力で、外来種対策を行うことが出来るかもしれません。

外来種が大量発生してしまうことについて、大きな仮説が2つほどあります。一つは、原生地には居たはずの天敵が、移入先ではいなくなるため、増殖を抑制するものがいなくなり大量発生するという説です。もう一方は、外来種が他の種が成長しにくくなるような物質を生産することで、群生地を拡大するという仮説です。前者を『天敵解放仮説』。後者を『アレロパシー仮説』と言います。

今回の論文では、この二つの仮説のうち、天敵解放仮説を詳しく見ていくことになります。では、外来種の原生地で天敵としての影響力が大きいものは何だったのでしょうか。筆者はここで、僕の研究にも関わりのある土壌菌類に注目しています。

ある植物が分布している土壌には、その種と共生していたり、その種に対し専門的に感染したりする土壌病原菌が集まってきます。その結果、その周囲の土壌は、次に同じ種が入ってきたときに、無菌状態とは異なる成長や生存パターンを示すことがあります。このようなフィードバックの関係を植物-土壌フィードバック(PSF)と言います。有名なところでは、畑の連作障害などもいい例です。連作障害の場合は、同じ栄養素を使い続けることで、土壌の栄養バランスが崩壊することも一つの要因です。しかし、それだけではなく、害虫や病原菌が蔓延しやすいことも連作を避ける理由になっています。

さて、このPSFは、多くの研究で負の方向に働くことが示されています。つまり、ある種類が生息した土壌は、同じ種類にとっては生き辛い環境になってしまうのです。では、外来種はどうでしょうか?長年生息し続けた原生地を遠く離れ、新たな土地にやってきた外来種。そこには、天敵がいない楽園のような土地が広がっています。つまり、天敵から解放されることで、大繁殖できる環境が整ってしまった!と考えることができそうですよね。

ということで、この論文では、「外来種は本当に天敵から解放されているのか?」を検証していきます。

先行研究

これまで外来種のPSFに関する研究では、移入先における在来種と外来種のPSFの違いを検討するものがありました。それらの研究では、移入先において、在来種が外来種よりも強く負のPSFを受けていることが示されています。日本で例えると、二ホンタンポポの方がセイヨウタンポポよりも、土壌からの負の影響を強く受けているということです(例えなので実際のところは分かりません)。

しかし、こうした研究は、移入先で在来種よりも有利になっていることは示せても、外来種が天敵から解放されていることは示すことが出来ていません。その場合、土壌菌類に抵抗性のある種が外来種として繁茂している可能性を捨てきれないことになります。つまり、天敵解放仮説を支持したいのであれば、原生地と移入地でのPSFの比較が必要になります。しかし、こうした研究は土壌を準備する手間が大変であまり行われてきませんでした。

模範的な例としては、アメリカ原産のPrunus serotina(ブラックチェリー)があります。サクラの仲間です。この種は原産地であるアメリカで、土壌菌類により強く抑制されている一方、移入地では、土壌微生物の効果が正になっていることが明らかになっています。その結果、移入地であるヨーロッパでは、原産地である北米の10倍もの密度で群生しています。このような研究を、多くの種を対象に行っていくというのが、この論文が取り組みたい内容となります。

では、この論文における仮説と、予想をもう一度整理しておきましょう。

仮説は天敵解放仮説。すなわち、「外来種は原生地の負のPSFから逃れることで、移入先で大量繁殖している」です。この仮説に基づく予想としては、原産地ではPSFが負の方向に働き、移入地ではPSFが中立または正の方向へ働く。となります。

方法

方法は詳しくは無そうとすると煩雑なので、めっっっちゃ簡略化してお伝えします。まず、北米を原産地とする草本種を何種類か選びます。次に、原産地である北米と移入先としてのヨーロッパの土壌を持ってきます。その土へ、別途育てておいた外来種の実生を植えて育てます。これが第一段階です。

次に、せっかく育てた実生を引っこ抜きます。なぜならPSFを観測するためには、同じ種類の土壌を育てたときに、どのような反応が生じるか?という観察が必要だなので、次に同じ種を植える必要があるからです。

育てた実生を引っこ抜いたら、半分はγ線で殺菌処理をします。この時点で、原生地・移入地の2種類と殺菌・未殺菌の2種類を掛け合わせた4種類の処理があります。その4種類の土壌でポットを作り、再び選ばれた外来種を植えます。そして、一定期間生育後、地上部と地下部のバイオマスを測定し完了です。

特筆すべき点が二つあります。一つ目は土壌を採取する場所の条件です。ポットを作る際の土壌は、対象となる種にとって生息可能な環境、かつ人為的に管理されていない場所で採取されます。さらに、それらの場所には、対象となる種類(6種類)が生息していないか、もしくは、1種類のみ生息するという条件が加わります。

後者の条件は、原生地と移入地での拡大可能性を比較するための条件です。外来種となる植物が、原生地では拡大できないのに、移入地では拡大できる理由を探るためには、どちらも「新天地」という条件で比較する必要があります。

特筆すべき点の二つ目は、ポットの作り方です。今回の実験で使われるポットには、持ってきた土壌(サンプル土壌)が最低限の量しか用いられていません。プリンに例えると、表面のカラメルぐらいの量です。残りの大部分は、滅菌砂や鹿沼土のようなもので構成されています。

なぜ、このような構成になっているかというと、今回の実験では純粋な土壌菌類の影響を観察したいからです。もし、サンプル土壌の間に、栄養や含水率などの物理化学性が異なっていた場合、出てきた結果が土壌菌類による影響なのか、物理化学性による影響なのか判断できません。そのため、可能な限り条件を揃えているわけです。

結果や考察は次回の続きとします。どうぞお楽しみに。