2022/11/15 21:21

今晩は。だいぶ日が沈むのが早くなってきましたね。平井は山に囲まれているので、太陽が山に隠れるのが早く、3時ごろには既に日陰となっています。札幌も冬場は一日中夕方みたいな気分でしたが、平井も午後はほとんど夕方か夜です。太陽光を遮る山が近いぶん、陰もくっきりしていて、すぐそこに山の影が迫っているのが見えるので、時間が可視化されているようで面白みもあります。

ちょっと話がそれますが、東京都の最西部にある小河内ダムには、かつて小河内村という村がありました。この村がダムに沈むことになる過程を描いたドキュメンタリー小説は、題名が「日蔭の村」となっています(石川達三『日蔭の村』 昭和12年 )。中学生の頃、初めてこの本の名前を知ったときは、ダムに沈む斜陽的な村の雰囲気を、タイトルに反映したのかなぁ、とばかり思っていました。しかし、山間の集落の日常風景と掛け合わさっているということを、山間部に住んで初めて知ることになりました。実に10余年越しの発見です。

和歌山は晴天続きで、柚子とりも捗っています。加工の段階も進んだのか、皮の匂いと共に、最近はほのかにポン酢の香りが漂っています。どちらにせよ、良い香りが集落を包んでいて、心地よい季節です。筋トレも捗ります。

僕も、収穫のお手伝いを続けているのですが、慣れていないので鋏を握る手に豆が出来てしまいました。ベテランの方々は何ともなさそうに、何日も黙々と作業を進めているので流石です。

お昼は、ベテランのおばあちゃん達と頂いたお弁当を食べています。拡大造林期の生の体験談を聞くことができるので、貴重な聞き取りタイムです。昔は架線集材の線に吊るされた木の上に乗って、山から山へ移動していた人もいたとか、何百本もの苗木を担いで山へ上に行ったとか、木馬道の事故で亡くなった人がいたとか、凄い世界です。一番印象に残ったのは、期待して植えたスギ・ヒノキが大根より安く買われるのは阿保らしい、という話。何とか、期待にこたえられるように国産材の価値を上げたいところです…。

研究林でも、去年から柚子の収穫を少しだけ行っています。ちょうどこの日は、取ってきた柚子を使って、柚子塩を作っているところでした。一つ一つ包丁で皮を剥いていきます。

塩を混ぜ込んで、何度も何度もレンジでチンして完成だそうです。この繰り返しが結構手間なのだとか。生産現場は何かと手がかかることが多いということを感じることが、都市部にいた頃より段違いに多い気がします。

集落の広場では、柚子収穫お疲れ様という意味で、炊き出しが行われていました。豚汁は、ほんのり柚子風味がする気がしましたが、聞けば柚子は入れていないとのこと。しかし、後からやってきた職員さんも、口をそろえて「柚子の風味がする!」と言っていたので、みんなキツネにつままれたような気分になっていました笑。


火振り漁

さて、先日買い物に山を下った帰り、川で何やら明るい光がゆらゆらと揺れていました。夏場は旅行客が河原でキャンプをしているのですが、結構寒くなってきているのでキャンプでは無さそうです。気になったので近づいてみることにしました。

すると、船に乗った方が松明で水面を照らしているではありませんか。どうやら噂に聞いていた、古座川名物の”火振り漁”というやつのようです。

火振り漁は秋になって、産卵するために川を下る鮎を狙って行う漁のことで、特徴は何といっても松明。この松明を、左右に大きく振ることで魚を驚かせて網へ誘い込むとのこと。ちょっとネットで調べたところ、全国ニュースでも古座川の火振り漁が取り上げられていたのでびっくりしました。

どうやら火振り漁というものがあるらしい、ということは聞いていたので、見てみたいなぁと思っていましたが、最後の最後で叶って満足です。夜の暗い川の中で、船に揺られた松明の光がめらめらと燃えるさまは、幻想的という言葉が非常に似合っていました。

何でも、現在この火振り漁をやっているのは、3組の方だけだそうで、遭遇できたのはかなりラッキーでした。なかなか、風情のある風景なので、この先も長く残っていくと良いですね!

河口のお祭り

さらに川を下って河口に近づくと、何やら人だかりができています。この日は、互盟社と呼ばれる地域の青年団が、伝統の獅子舞をして町内を回る日だったようです。

この趣ある建物が、互盟社の集会所です。大正時代の建築物なので、装飾などにおいて、どこか和歌山研究林の庁舎と通じる、モダンな雰囲気があります。

まずはお囃子を奏でながら、町内を練り歩きます。昔、笛を吹いていたという方にお話しを伺うと、楽譜などはなく、代々覚えて伝えてきた音楽だそうで、とても驚きました。この話を聞いて思い出したのは、アイヌの口承文芸です。アイヌは世界の多くの民族と同じように、文字を持たない民族でした。そのため、ユーカラのような物語も、何人もの先人が聞いて覚えるということを繰り返して、現代まで伝わってきました。

ここからは僕の推測ですが、恐らく人伝いに受けづがれる物語は、伝言ゲームのように変化が生じるはずです。それは、文字で伝えることを当たり前に感じている我々からすると、正確な情報伝達の不可能を意味し、欠陥として感じてしまうかもしれません。ただ僕は、人伝いで受け継がれるからこそ生じる「揺らぎ」のようなものに、生命的な面白さを感じます。代々の人々のちょっとしたこだわりが積み重なっている方が、人間らしいなぁと思うわけです。そういう意味で、このお祭りの音からも、人間臭い歴史を感じました。

お囃子の一行は、とてつもなく細い路地にも入っていきます。こういう細い路地って良いですよね。用もないのに歩きたくなります。

提灯も引っかかってしまうので、倒すまでして練り歩きます。…と、急に進行が止まり、一軒のお宅へ入っていきました。

(許可を得て)付いて行ってみると、軒先で獅子舞を披露していました。どうやら、互盟社の親方の家だったようです。2社のテレビ局と2つの新聞社も来ていて、所狭しと人が見物しています。

町を歩き終わると、神社の境内に帰ってきて、ご神木の前で獅子舞を披露します。

超巨大な焚火も上がっていて、ちょっと肌寒い夜でしたが汗をかきました。薪も丸太を輪切りにしたままの特大サイズ。地域の子ども達が薪をくべる役を買って出ていて、一生懸命放り投げていたのが可愛らしかったです。

獅子舞もまじまじと見たのは久しぶりですが、足の運び方が実に流麗でした。僕は基本的に運動神経が悪いので、綺麗な体の運び方を見ると、それだけで感動してしまいます笑。

途中から、側で遊んでいた子供たちが獅子舞の体の中に入っていきました。神事なので怒られないかなぁと心配しましたが、大人たちは寛大で、構わず続行。みるみるうちに獅子舞が肥大化し、最後の方は何本もの足が生えて、さながら猫バス状態です。これも笑って見ていられるゆる~く、かつ神聖なお祭りの雰囲気が、とても好みでした。

山の神

平井に戻ります。

研究林でも毎年恒例の山の神への参拝を行いました。3年間の急傾斜地での毎木調査を無事終えられたので、報告を兼ねて僕も参列しました。

思えば、この活動報告が始まったころ、山の神は男か?女か?という話をテーマにした記憶があります。あれから、あっっという間に2年も経ってしまいました。何はともあれ、本当に無事に終わって良かったです。

ただ、林道整備と山の管理自体は、まだ続くのでこれからの安全もお祈りしておきました。

それにしても、今年は林内の紅葉が綺麗な気がします。いつもは、何だか「色づいた?」と思ったら、黒くなってきて気付いたら散ってる。というような様子でしたが、今年ははっきりと紅葉しています。しっかりと冷え込んだのが良かったのですかね。

気付いたら椿も咲いていました。椿は漢字の通り、春の季語になっていますが、季節感の若干のずれのせいで、現代の感覚からすると冬の花ですね。じゃあ柊にすればよいかと言えば、こっちはヒイラギに取られているので、仕方なく楸 にするかと思えば、こっちも中国原産のヒサギが押さえています。榎はエノキが確保済みなので、もう椿から変更できませんね。誠に遺憾です。

花をつける木もあるかと思えば、こちらは既に全ての葉っぱを落葉済みのホオノキ。大きな冬芽が遠目から見ても分かりますね。それぞれのやり方で、冬への準備をしている様子が分かります。

以上、今回の活動報告でした!

研究の解析は順調に進んでおります。自分の中では結構面白いと思えるような結果が出てきていますので、皆さまにも楽しんでいただける形にするために、現在試行錯誤中です。見やすい形になりましたら、活動報告にてお伝えいたします!どうぞお楽しみに。