2022/10/31 18:27
柚子の収穫

今年もこの季節がやって参りました。平井中心部にある自販機のあたりは、柚子の香りで一杯です!今回も、毎度お馴染み種田山頭火の句から、柚子についての句をいくつかご紹介します。

・柚子の香のほのぼの遠い山なみ
・なんといふ空がなごやかな柚子の二つ三つ

これは平井の様子を詠んだ句かな?と思うほど共感できる作品です。朝晩の冷え込みが厳しくなって、澄んだ空の下、少し鼻がツンとするような冷えた空気に、柚子の爽やかな香りが混じっている様子が脳裏に浮かびます。

今年はお手伝いしつつ、写真を撮らせてもらう機会がありました。柚子の木は棘だらけで、手に刺さるわ、頭に刺さるわ、靴は貫通してくるわ、やっかいな木です。平井に来て1年目の際に、痛い思いをしたので、今年はヘルメットを被り二重に服を着て登山靴で挑みました。その結果、だいぶマシになりましたが、手を伸ばしたときに手首が露出して、その部分だけミミズ腫れになっていました。なんだか耳なし芳一みたいですね笑。

収穫作業にはベテランの助っ人も欠かせません。高い位置の実は、枝付きのまま落とすので、後でヘタ取り作業が必要です。写真のお二人はとてつもない速さで、枝を落としていきます。

収穫した柚子は軽トラに載せて、集落中心部にある加工場へ持ち込みます。この日は日曜にでしたが、多くの農家さんが持ち込んだ柚子であふれかえっていました。

買い取られた柚子は、平井にある工場で加工されて、全国へ出荷されます。「古座川ゆず平井の里」で検索すると、オンラインでも購入することができるので、是非買ってみて下さい!ダイレクトマーケティングです笑。

ちなみにオススメは「チューチュー柚香ちゃん」と「ゆずかりんとう」です。ゆずぽんやはちみつは言わずもがななので、それを購入したうえでこの二つを買うと良いでしょう!!平井の方々が喜びます!

オオサンショウウオ

先日、平井の川で地元小学校のオオサンショウウオ観察会が開かれました。未だに全体像を見たことが無いので、折角の機会ということで、一緒に見させていただくことにしました。撮影の許可も頂いたので、プライバシーに影響の出ない範囲で観察会の様子をご紹介いたします。

まずは前日から仕掛けておいたワナを引き上げます。何度見ても、平井の川は本当に綺麗ですね。魚が泳いでいるのもはっきりと見えます。

3カ所にしかけたワナで1匹かかっていました!比較的小型の個体だそうですが、子ども達も僕も大興奮です!

捕獲されたオオサンショウウオは、身体計測を行います。測定項目は身長や体重の他にしっぽの高さなどがあります。先生の話によると、オオサンショウウオは、栄養をしっぽに蓄えるそうで、しっぽがパンパンに膨らんでいるほど、ご飯をたくさん食べている証拠なのだとか。今回の個体も、パンパンにしっぽが膨らんでいたので、食べ物には困っていない様子です。

お腹はこんな感じ。とても可愛らしいですね。オオサンショウウオは、目が衰退していて、「何となく目の前で動いている奴がいたら食べておく」というスタンスとのこと。そのため、ぱっと見は可愛らしいですが、一度噛んだら死ぬまで離さないといわれるほどの力で噛んでくるそうです。

僕の推しポイントは、このつぶらな手足ですね。子ども達も「赤ちゃんみたい」と絶賛していました。全体的にヌメヌメしていますが、手足の裏だけは滑りやすい川底をしっかりと歩けるように、ちょっとだけザラザラしています。

観察が終わると、住処へ帰っていきます。川の中へ入ると、巧みに泳いであっという間に見えなくなってしまいました。大きい個体だと150㎝程度になることもあるそうなので、すくすく育って欲しいですね!

真夜中の昆虫採集

依頼でクスサンという蛾を採集しなければならず、真夜中にトラップをかけにいくというので付いて行ってみました。クスサンは「少年の日の思い出」でお馴染みの、クジャクヤママユの属するヤママユガ属の一種だそうです。

写真は、クスサンでもクジャクヤママユでもありませんが、以前庁舎に止まっていたヤママユの仲間。昆虫とは思えないモフモフな背中と、綺麗な触角。透けている斑点など、非常に美しい虫です。

当日19時過ぎからトラップを設置して待ちますが、3時間ほど待ってみても集まる気配がありません。どうやら、この日は気分じゃなかったようです。

それにしても、この時間に研究林内にいるのは初めてです。やはり満点の星空が非常に綺麗でした。人工的な光が全く届かないので、星の光だけで手がほんのり認識できているのが分かりました。

最近、集落の方の大正琴の演奏会を聞きに行った際に、曲の説明で「森閑」という単語があることを知りました。意味としては、ひっそりと静まり返っている様を指すそうですが、まさに深夜の森の中はその言葉がぴったりだと感じるひと時でした。

毎木調査ついに終焉

2020年から毎年2回行ってきた毎木調査も、10月最終週でついに終わりました。最後の1個体になったのは、葉の形が個人的に好きな種でもあるカクレミノ。人工林の林床で息をひそめて文字通り隠れていました。5年・10年後に彼らがどうなっているか、また来てみたいと思います。

今後は、毎木調査で得られた生存率と成長量のデータをもとに、間伐の効果を評価していく予定です。11月末までには何らかの形で結果が示せると考えています。加えて、この後説明する菌根タイプ別の影響評価もしてみようと思うので、どうぞお楽しみに。

リンボク

この半月の毎木調査でも、新たに入ってきた樹種がありました。それがリンボクです。バラ科サクラ属でサクラの仲間では珍しく常緑樹になっています。

材は、弓や拍子木、薪炭材、薬の材料や染料などに使われていたそうです。

リンボクはちょうど9~10月に花を咲かせます。白い穂状の花が目立っていますね。このくらいの大きさになると、実生のころの葉っぱに見られた鋸歯がなくなっています。

材は作業場や資料室を漁ってみても見当たらなかったのですが、ネットの情報によると赤みがかっており、それが染料に利用されていたようです。サクラもかなり暖色の強い材なので、あんな感じなのでしょうか?

菌根菌のタイプによるPSFの性質の違い

前々回の活動報告で、アカガシとヤマザクラの植物-土壌フィードバックの方向性が異なる結果となったことをご紹介しました。今回は結果が異なった理由について、参考になりそうな論文を見つけたので、なるべく噛み砕いてご紹介していきます。なお、僕の不勉強で誤りがあるかもしれません。その際はご了承いただくと共にご連絡いただければ幸いです。

ご紹介するのは次の論文です。オープンアクセスなので、皆さまもご覧いただけるかと思います。

Kohmei Kadowaki, Satoshi Yamamoto, Hirotoshi Sato, Akifumi S. Tanabe, Amane Hidaka & Hirokazu Toju.  Mycorrhizal fungi mediate the direction and strength of plant–soil feedbacks differently between arbuscular mycorrhizal and ectomycorrhizal communities. Communications Biology 196 (2018) 

タイトルをすごく簡単にしてしまえば、「菌根菌のタイプが違えば植物-土壌フィードバックの性質も異なってくるよ」みたいな感じです。では、菌根菌とは何か?というところから説明を始めていきます。

菌根菌とは

菌根菌とは、キノコとかカビなどと同じ生き物のグループで、その中でも特に植物の根と共生体(菌根)を作るものを指します。共生体の中では、菌根菌が林野水分を供給する代わりに、植物が光合成産物を供給しています。北半球の高等植物のうち7~8割は、この菌根菌と共生関係を築いています。ただ、関係性はかなりドライで、お互いに役に立たなくなれば契約解除されて、浸食されてしまうこともあるようです。

この菌根菌ですが、共生体の形態でいくつかのグループに分けることが出来ます。その中でも、現在確認されているもののうちメジャーな2つのグループが、アーバスキュラー菌根菌と外生菌根菌です。

アーバスキュラー菌根菌(AM)

アーバスキュラー菌根菌は、最もメジャーな菌根菌であると考えられているグループです。根っこの中で樹枝状体と呼ばれる藪みたいな菌糸の塊を形成するのがアーバスキュラー菌根菌です。arbuscularという単語は、低木とか灌木らしいので、名前の通りの構造を作ると言えます。このアーバスキュラー菌根菌は陸上植物の80%と共生関係を築くことが出来ると言われています。

古座川周辺の樹木だと、サクラ※やモミジ、ツバキ、クスノキ、サカキ、ヒサカキ、スギ、ヒノキなどがアーバスキュラー菌根菌と共生しています。

※サクラは外生菌根菌にも感染するが、サクラと共生する外生菌根菌は寄生性を示して樹勢を弱める

外生菌根菌(EM)

対する外生菌根菌は、根っこの周りにまとわりつくように「ハルティヒネット」や「菌鞘」と呼ばれる構造を形成します。以前は外生菌根菌に対し、内生菌根菌が大きな分類としてありましたが、一括りにできないことが分かってきて、外生菌根菌だけが残り内生菌根菌は分裂したそうです。

古座川周辺の樹木だと、アカマツ、コナラ、シイ、アカシデ、モミなどが外生菌根菌と共生しています。どれも群生することを頭の片隅に置いといてください。

余談ですが、「ハルティヒネット」は森林科学科の授業で出てきた用語の中でも、トップクラスの語感の良い単語だと勝手に思っています。他には「Ecological legacies」とか、「Red Queen's Hypothesis」とかも格好良いですね。学部の頃の友達が作っていたバンドは「Dutch elm disease」という名前で、ニレ立ち枯れ病の英名でした。一度も演奏することなく、消えていきましたが良い思い出です。あとは、害虫であるカシノナガキクイムシの背中に空いている穴を指す「mycangia」も、個人的に耳から離れない単語です。

植物土壌フィードバック

次に、植物土壌フィードバックのおさらいです。植物が長年生育していると、その下にある土壌には、その植物と共生する菌類や特異的な病原菌が集まってきます。いわば、植物が土壌菌類を培養しているような状態です。その状態で、母樹の下に実生が生えてくると、実生は母樹によって形成された土壌の影響を受けます。

この際に、母樹と同種の実生と別種の実生で、母樹の培養した土壌が異なる作用を受ける場合、植物-土壌フィードバックは森林動態に大きな影響を及ぼします。例えば、同種の方が強い負の影響を受けるとき、特定の種が優占する作用が抑制され、他種共存を促すことになります。一方で、同種が強い正の影響を受けるとき、特定の種が群生地を作る方向へと、群集構造が動いていくことになります。

菌根菌のタイプがPSFに影響する?(Bunnett et al. 2017)

この植物-土壌フィードバックは、これまで種レベルで議論されることがほとんどでした。つまり、ある一種の母樹について注視し、同種の実生と異種の実生が、どのような作用を受けるか。という点ばかりが注目されてきました。

ところが、2017年にBunnettらが発表した論文によると、そうした一つ一つのフィードバックを多くの種で実験したところ、菌根菌のタイプによって方向性が決まっていることが明らかになりました(詳しくは当該論文のFig. 2 Plant-soil feedbacks for EM and AM species. をご覧ください)。これによると、EMではフィードバックが正の方向、つまり同種の生長を促進する方向。AMでは負の方向、つまり同種の生長を阻害する方向となっているようです。

Bunnettら(2017)は、さらに次の3つの事実も明らかにします。①EM型樹木では菌根菌の感染率が高く、病原菌による病変が少ないこと。②AM型では菌根菌の感染率が低く、病原菌による病変が多いこと。③殺菌して菌根菌の感染を除去した状態で同種母樹の下に植えると実生のパフォーマンスが落ちること。

以上3つの結果から、Bunnettら(2017)は、菌根菌と共生すると競合する種特異的な病原菌の感染を抑制されるので、種特異的な病原菌による同種阻害は常に生じており、菌根菌の感染率の違いがPSFの差として現れると結論付けました。

PSFの2つの階層

ここでPSFに2つの階層があることが分かります。一つは種特異的な病原菌が引き起こす従来研究が議論してきたPSF。もう一つは菌根菌が主導する菌根型で決定されうるPSFです。どちらも共に排他的ではありませんが、森林動態により強い影響を及ぼすのはどちらなのか、つまり森のルールでより根本的なのはどちらなのか、という疑問が生じてきます。

Bunnettら(2017)のスタンスは、病原菌による同種阻害が元にあって、そのうえで正負を左右する要因として菌根菌がある、と言い換えることができます。

Kadowaki et al. 2018の主張

しかし、今回紹介するKadowakiら(2018)では、Bunnettら(2017)の研究が菌根菌の影響を正確に評価できていない可能性があると主張します。その理由の一つが、菌根型の組み合わせを全パターンで比較できていないことです。Bunnettら(2017)は、確かにPSFを菌根型で比較するという点と、異なる菌根型の母樹の下に実生を植えて実験を行ったという点で画期的でした。

しかし、菌根型と種レベルのPSFの強さを比較するのでれば、同菌根型の異種という比較対象も設置しなければ、正確に評価できません。ということで、Kadowakiら(2018)では、すべての組み合わせで結果を求められるような実験デザインが組み立てられました。

具体的には、EM型とAM型の母樹の下に、EM型とAM型の実生を植えます。それぞれの菌根型には、同種と異種が含まれる構造になっています。

結果

では結果です。本当は一つ一つのグラフを見ていきたいのですが、それをやると分からなくなるので、僕が勝手にまとめた樹状図を作りました(PSFの方向性のところは、相対的なプラスとマイナスです。0が付いているのは中立の場合もありうることを意味しています)。不正確な部分や誤りもあるかもしれませんが、ご了承下さい。

Kadowaki et al. 2018 を元に作成

分かりやすいAMについて注目してみて下さい。種が一致しない項目が2つ(同菌根型異種, 異菌根型異種)ありますが、同じ菌根型では中立~正のフィードバックを示すのに対し、異菌根型では中立~負の方向になっています。つまり、種の一致不一致よりも、菌根型の一致・不一致の方が説明として先にくると言えます。

自分の研究への当てはめ

では、Kadowakiら(2018)の結果に僕の研究を当てはめてみると、どうなるでしょうか?僕の研究では実生として、アカガシ(EM型)とヤマザクラ(AM型)を用いています。母樹は人工林はスギ・ヒノキなのでAM型。天然林はブナ科優占林なのでEM型。ヤマザクラはAM型となっています。

以上の組み合わせを先の樹状図に当てはめると、次のようになります。

アカガシの予想と実験結果

上の図のように、Kadowakiら(2018)の結果から次のことが予想できます。

①アカガシを天然林土壌で育てると中立~正のフィードバック
②アカガシを人工林土壌で育てると中立~負のフィードバック

では、この予想を元に結果を見ていきましょう。なお、今回は簡単にするため食害のアリなしについては無視してください。 

縦軸はフィードバックの方向性を示しており、0のラインより上ならば正のフィードバック。下ならば負のフィードバックとなります。箱ひげ図の下にアスタリスクがある場合は、統計的に有意な傾向と言えます。横軸は土壌のサンプリング場所で、人工林・天然林に加え、境界付近の土壌がセットされています。

天然林について見てみると、中立的なフィードバックとなっています。一方人工林では負のフィードバックが観測されました。さらに、それらのフィードバックの方向性と強さに差があるか解析したところ、人工林では天然林よりも有意に負のフィードバックとなっており、中間地点ではちょうと人工林と天然林の中間的性質を示しました。

つまり、Kadowakiら(2018)からできる予想と一致しました。

ヤマザクラの予想と実験結果

同じように以下の予想が可能です。

①天然林土壌では中立~負のフィードバック
②同種母樹の下では中立~負のフィードバック
③人工林土壌では中立~正のフィードバック

では結果を見ていきましょう。

天然林では負のフィードバック。母樹下でも負のフィードバック。人工林では中立的なフィードバックが観測されました。こちらも、それぞれのフィードバックの方向性と強さを比較すると、人工林は他の土壌よりも相対的に正の方向になっており、天然林と母樹下では相対的に負の方向となっていました。また、母樹下と天然林には有意差が見られませんでした。

こちらも、Kadowakiら(2018)からできる予想と一致しました。 

まとめ

以上のことから、僕の研究で見られたPSFの違いは菌根型のタイプの違いによって生じた可能性が大きいと考えられます。次回以降は、僕の研究が今回紹介したような先行研究に、新たにどんな知見を加えることが出来るか見ていきたいと思います。