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鎌倉教場の「今」をお伝えします。
今回は「流鏑馬と怪我」についてです。
令和3年10月5日から開始したこのクラウドファンディングも、残すところあと6日となりました。
これまで御支援いただいた方に改めてお礼を申し上げますとともに、今後も引き続きの応援をよろしくお願いいたします。
さて、流鏑馬は神事として天下泰平、五穀豊穣、万民息災を祈念して騎射を行います。
神事にも色々ありますが、俊足馬の多い大日本弓馬会の流鏑馬が持つ勇壮さや迫力、荒々しさは、騎射が武芸、古武道であることを改めて想起させます。
騎射は、全速力で走る馬上から的に向かって矢を放ちます。
当然、手綱から両手を放しますし、射手が馬の反動を受けて体が上下動すると狙いが定まらないため、脚で馬体を挟むことなく鉄製の鐙に全体重を乗せて踏み込んでバランスを取ります。
つまり、乗り手は馬体と直接触れていないのです。
また、馬が走るというと「パカラッ、パカラッ」という姿をイメージする方も多いのですが、大日本弓馬会の流鏑馬では、このような優しい走りではなく、いわゆる襲歩(しゅうほ)で「ドドドドッ」と競馬と同じ走りで騎射を行います。
そのため、初めて大日本弓馬会の流鏑馬を見た人は、決まって「想像していたよりも圧倒的に馬が速かった」という感想をお持ちになります。
このような騎射ですから、お分かりいただけると思いますが、そう簡単にできるものではありません。
確かに、鎌倉時代由来の流鏑馬ですから、小柄で足の速くない馬に乗って騎射をするのが当時の再現という観点からは正しいのかもしれません。
しかし、和式馬術、特に大日本弓馬会で重視している「立ち透かし」は、磨けば現代の大柄で足の速い馬にも適用できる極めて優れた技術です。
そのため、大日本弓馬会では、技術を更に磨いて現代の大柄で速い馬を乗りこなし、より迫力のある流鏑馬を披露するように努めています。
流鏑馬のような伝統文化は、多くの方に「この文化を後世まで残すべき」と思ってもらい、多くの方から支援していただかなければ、維持継承していくことは困難です。
大日本弓馬会では、このような観点から、多くの方に流鏑馬の魅力をより強く訴えかけられるよう、努力しているところです。
このように大日本弓馬会の流鏑馬は、迫力ある見応え十分のものではありますが、それだけに乗り手にとっての難易度も高くなっています。
かといって、これは別稿でも書きましたが、技術が伴ってさえいれば、決して危険なことはありません。
もっとも、その技術の習得が非常に難しく、人によっては何年かけても一定以上の水準に到達しないこともある程です。
この技術の習得は、まさにここ鎌倉教場での稽古によって成し遂げられます。
しかし、その過程が最も危険です。
人は、現在の自分の技量よりも少し難しいことに挑戦し、それを克服することによって上達していくものです。
しかし、この「自分の技量よりも少し難しいこと」の匙加減が非常に難しいのです。
特に流鏑馬は生きた馬に乗るわけですし、人によって技量は千差万別なので、「丁度良い難易度の馬」などそうそういるものではありません。
しかも、馬の体調や機嫌、気候なども影響してくるわけですから、「丁度良い」などあり得ないともいえます。
そして、この匙加減が上手くいかないときや、乗り手がミスをしたときに起こるのが、落馬です。
落馬といっても様々で、落ちる前に体勢を整えて自ら降りて着地する場合、落馬を避けられないことを察知してあえてダメージの少ない落ち方で受け身をとる場合、そして、受け身をとることすらできずに落ちる場合などがあります。
このうち、自ら降りて着地することを特に「離乗」といいますが、これは危機察知能力と運動神経と、少しの諦めの精神があって実現できるものです。
下手に落ちるよりも、あえて離乗した方が安全で、人にとっても馬にとっても良いといえます。
また、馬の速度や状況などにもよりますが、落馬といっても受け身をとれるような落ち方の場合は、特に体へのダメージが残らない場合が多いです。
かくいう筆者は、この受け身をとっての落馬が何回かありますが、腰に差した矢が折れたことすらなく、体へのダメージもほとんど受けたことがありません。
しかし、受け身をとることすらできずに落ちる場合は、そう簡単にはいきません。
必ずといっていい程、体にダメージが残ります。
かくいう筆者は、流鏑馬を始めて10年くらいになりますが、これまでに一度経験があります。
それはトルコで流鏑馬を行ったときのことです。
トルコでは、4日間連続で合計6回の流鏑馬を披露するというハードスケジュールだったのですが、最終日の前日に行われた4回目でアリーシャラダという俊足の馬に乗りました。
そして、減速せずにそのまま馬場末(ゴール地点)に突入した瞬間、馬が躓いて人馬一緒に前転してしまいました。
きれいに一回転して頭や腕などを守ることはできたのですが、遠心力がついた勢いそのままに左下半身を強打し、左の腰骨から足首まで広範囲で内出血を起こし、帰りの飛行機で脚を曲げられずに難儀しました。
幸いにして骨に異常はなく、結果として全治3週間で完治しましたが、このように落ち方を誤ると危険な目に遭うのです。
話は戻りますが、このような流鏑馬ですから、騎射の稽古に落馬はつきものです。
特に鎌倉教場は、流鏑馬の本番も行える超本格的な馬場であるだけに、難易度が高く、ここで稽古する者には、相当以上の技量が求められることになります。
やはり、稽古を積み重ねる以外にありません。
大日本弓馬会では、技量向上のためのギリギリの稽古を続けながら、怪我を防止するという難題に対して、今後も引き続き全力で取り組んでまいります。
このような本気の稽古が毎週繰り広げられている鎌倉教場に対する、皆様の引き続きの御愛顧をよろしくお願いいたします。