突然、私たちの日常を止めたコロナウィルス。相次ぐ休校や試行錯誤されるオンライン授業のニュースを見ながら、当たり前のように学校に通えていた日々を振り返った人も少なくないでしょう。
しかし、コロナ禍よりも前から学校に通うことが決して当たり前ではなかった子どもたちがいます。その原因のひとつは、小児がん。一般的に、15歳未満の子どもが発症するがんを指します。日本では年間2000〜2500人の子どもが小児がんと診断されており(1)、毎日5〜6人という計算になります。
(1)国立がん研究センターがん情報サービス「小児がんの患者数」
https://ganjoho.jp/public/life_stage/child/patients.html
小児がんの基礎知識
小児がんの種類には、主に白血病、脳腫瘍、リンパ腫、神経芽腫、胚はい細胞腫瘍・性腺腫瘍などがあります。発熱や頭痛、リンパ節の腫れといった風邪のような症状もあれば、しこりや血液細胞の異常など、日常生活では気づきにくいものもあります(2)。
成人がんの主な発生要因が「生活習慣」や「感染」であるのに対して、小児がんの多くはその原因が解明されていません。原因特定のために今も研究が進められています。
医療技術の進歩により、日本では小児がんの7〜8割が治るようになってきました。しかし、その生存率は子どもの住む国や地域によって大きく異なります。日本を含む高所得国では生存率が80%以上とされる一方、低中所得国(LMIC)においては30%未満に留まっています(3)。
(註)サバイバー生存率:診断から一定年数後生存している者(サバイバー)の、その後の生存率。英語では「conditional survival rate」(条件付き生存率)と表現される。例えば1年サバイバーの5年生存率は、診断から1年後に生存している者に限って算出した、その後の5年生存率(診断から合計6年後)。
(2) 国立がん研究センターがん情報サービス「小児がんについて」
https://ganjoho.jp/public/knowledge/about_childhood.html
(3) World Health Organization “Childhood cancer”
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/cancer-in-children
奪われる学びの機会、家族にのし掛かる負担
患者とその家族には、がんの治癒以外にもさまざまな課題が突きつけられます。2019年に小児がん患者の家族等を対象に実施されたアンケート(以下、調査)によると、「がんと診断された時に就学していた」と回答した人の中で「転校・休学・退学を経験した」と回答した人の割合は87.5%に上りました(4)。
そのうち、9割以上の人が復学をしていますが、復学後も体力温存のための短時間登校や体育の見学、行事への不参加など、多くの制限があります。
さらに、小児がんは闘病を支える家族の生活も一変させます。調査では「患者のケアのために仕事や働き方を変えた家族がいた」という回答が65.5%と、半数以上を占めました。その多くは退職や休職、時短勤務を選んでいます。
また、医療費の確保のために生活費を削ったり、付き添いの度に交通費・宿泊費がかかったり、医療費以外の費用も大きな負担となっています。
(4) 国立がん研究センター「小児患者体験調査報告書 令和元年度調査」
https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/health_s/project/pediatric/ped-all.pdf
がん患者と家族へのサポート
「小児がん」という診断の後、さまざまな困難に直面する患者と家族。
それを乗り越えるためには、周囲のサポートが欠かせません。例えば、小児がん拠点病院には病院で学び続けるための特別支援学級の設置が要件とされており、小学生の患者の9割、中学生の7割がこの制度を利用しています(4)。
しかし、調査では、現状のサポートに満足しているのは4割未満という結果が出ています。
■ 闘病中のサポート
小児がんと闘う子どもと家族をサポートする施設のひとつに、「子どもホスピス」があります。子どもホスピスでは、小児がんをはじめとする難病や障がいを抱えた子どもの緩和ケアはもちろんのこと、お家のような部屋で家族と一緒に遊んだり、宿泊したりすることができます。
さらには、患者だけではなく家族全員のサポートを行っているため、日頃の悩みを相談することも可能です。医師や看護師、保育士といった専門スタッフに見守られながら、子どもが子どもらしく、家族が家族らしい時間を過ごせることが大切にされています。
しかし、日本の子どもホスピスは4ヶ所のみ(5)。その拠点も、首都圏や関西圏に限られており、十分ではありません。
自宅から離れた病院に入院する子どもとその家族のために、滞在施設も用意されています(「ドナルド・マクドナルド・ハウス」など)。通院による経済的、精神的な負担を減らし、心から安らげる場所として提供されており、その運営は寄付によって支えられています。
■ 退院後の復学支援
長い入院生活を乗り越えて学校に戻ったあとも、教員やクラスメイトの態度がよそよそしかったり、治療の副作用による脱毛やむくみに対する視線が気になったりと、精神的な負担を訴える声が上がっています(6)。
そこで求められるのが、小児がんを「知る」ことです。小児がん患者に対する知識・理解不足のために、患者への接し方に不安を抱いたり、「小児がんの多くは予後が良くない」と考えたりするケースは少なくありません(7)。小児がんの知識を身につけることで、復学した患者を暖かく迎え入れる環境を整えることができます。
私たち一人ひとりが小児がんについて知ろうとすることが、支援の輪を広げます。
「家族と一緒に過ごしたい」「友達と遊びたい」「学校に行きたい」 GoodMorningは、小児がんと生きる子ども達の願いが1つでも多く叶う社会を目指しています。
(5)(公財)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団『ホスピス・緩和ケア白書2017年版』
https://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/hakusyo_2017/2017-1-1.pdf
(6)日本小児看護学会誌「小児がんを持つ子どもの学校生活の調整に関する意思決定プロセスと決定後の気持ち—活動調整と情報伝達に焦点を当てて」(2017)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jschn/26/0/26_26_51/_pdf/-char/ja
(7)小児保健研究「「一般児童生徒への小児がん啓発授業が小児がん患者に対する知識・関心に与える影響」(2021)
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2021/008001/008/0046-0055.pdf